今川氏親と伊勢宗瑞:戦国大名誕生の条件 (中世から近世へ)の感想
こちらは戦国大名としての今川氏の始祖氏親と、北条氏の始祖伊勢宗瑞との関係を軸に、一体であった両者がそれぞれ東西への進出を目指す別個の大名として分立していくまでを描く。伊勢宗瑞の動向や北条氏の成立を知るには、彼が後見した今川氏親と今川氏の動向と切り離しては考えられないというのには同意。今川氏親が元服、結婚、任官と人生の重要なステップのすべてにおいて時期が遅れたという点に興味を覚える。一応著者なりの解釈は示されているが、今後の研究に期待したい。
読了日:05月03日 著者:黒田 基樹
アジア近現代史-「世界史の誕生」以後の800年 (中公新書)の感想
アジアと言っても中央アジアや西アジアは除外されているのだが、東アジア・東南アジア・南アジアの諸国は意外に共通性が見出せるのだなと思った。印象に残ったのは、多くの国が単一民族型社会から出発したということと、諸国がモンゴル、ヨーロッパ、日本、アメリカの支配を受けながらも常に政治的な「自律」を追求してきたことを踏まえ、今後中国に対しても同様のスタンスを取るのではないか、すなわち経済援助と引き替えに政治的な「自律」を手放すことはないのではないかという見通しを示している点である。
読了日:05月06日 著者:岩崎 育夫
書と思想 歴史上の人物から見る日中書法文化 (東方選書 51)の感想
時代順に中国と日本の書家を並べることで、同時代の空気や日本が受けた影響を意識しやすいつくりになっている。そして影響を受ける一方だった日本が、近代に至って日下部鳴鶴あたりから台湾を含めた中華圏へと影響を与える側にもなっていく。また唐宋の古文運動が新しい書法の運動でもあったこと、王陽明が王羲之の後裔として、その思想が書法にも現れていると見ることができる点など、タイトル通り書法と思想との関係にも注目したものとなっている。
読了日:05月12日 著者:松宮 貴之
源氏長者: 武家政権の系譜の感想
『源氏と日本国王』の復刊ないしは続稿かと思ったら、改稿版であるとのよし。源氏をたどることは王氏全体をたどることにつながり、更には日本の氏そのものや日本の統治者のあり方をたどることにもつながる。原著の面白さやスケールの大きさは健在である。特に村上源氏が摂関家と対立する存在ではなく、逆に摂関家に取り込まれた存在であること、そしてその村上源氏の一流の久我家と「宇宙」印の話を面白く読んだ。
読了日:05月12日 著者:岡野 友彦
考古学講義 (ちくま新書)の感想
縄文の農耕、縄文文化とアイヌ文化の関係、弥生時代の開始年代、海から見た古代史など、今の考古学の問題意識が詰め込まれている。騎馬民族説については、学説の問題点の存在にも関わらず、古墳時代中期以後に日本列島に急速に騎馬の風習が定着していったという事実をあぶり出したという学史的意義があるという評価が面白い。また前方後円墳の造営にあたって大規模な都市空間が出現したに違いないとしつつも、その掘り下げを省略しているのが惜しまれる。中国古代の陵邑との比較からもむしろこの話題が気になった。
読了日:05月15日 著者:
万葉集の発明 新装版の感想
「万葉集は天皇から庶民まであらゆる階層の歌を収めた日本の国民歌集であり、その歌風は素朴で雄渾である」という一般的理解に対し、そうした理解や認識がどのように形成、というよりはどのような背景から「発明」されたかを追う。本書の議論によれば、万葉集、あるいは古典文学は、古典のカバーをかぶせた近代文学ということになるだろうか。最後に古典教育不要論に関する文章が引かれているが、現代に古典を学ぶ意義は近代文学であるという点にありそうである。
読了日:05月17日 著者:品田悦一
院政 天皇と上皇の日本史 (講談社現代新書)の感想
どちらかと言えば副題の「天皇と上皇の日本史」の方が本書の内容を的確に言い表している。女院や法親王の役割、天皇家のあり方と藤原氏や武家とのそれとの比較、宮家(親王家)の制度化、南北朝期や近代のように、天皇が政治・軍事を差配しようとすれば、特に軍事方面で役割を果たす多くの親王を必要とする(逆にそうでなければ天皇家のメンバーの絞り込みが必要となる)といった話を面白く読んだ。
読了日:05月20日 著者:本郷 恵子
漢帝国―400年の興亡 (中公新書 (2542))の感想
思想史方面からと言うか、著者が取り組んできた「儒教国家」「古典中国」論からの漢帝国史。漢帝国の通史としても読めるようになっているが、著者の研究の総まとめという性質の方が強い。『漢書』は『春秋』ではなく『尚書』を継承したものであるという議論や、魏晋以後の漢の古典化の話を面白く読んだ。前漢前期の天下観についてはもう少し掘り下げができたかもしれない。
読了日:05月24日 著者:渡邉 義浩
安彦良和の戦争と平和-ガンダム、マンガ、日本 (中公新書ラクレ 646)の感想
ガンダムと安彦氏のマンガをめぐる対談集だが、作品に対する杉田氏の読みや解釈が逐一否定されるのが面白い(読者としては杉田氏の指摘の方が当たっているように思える)。『ナムジ』など古代史シリーズの読者として、このシリーズが原田常治の本に触発されたものであったこと、安彦氏的には『天の血脈』の終わり方が気に入っていることなど、気になっていた点が確認できたのが収穫。
読了日:05月26日 著者:杉田 俊介
日中の失敗の本質-新時代の中国との付き合い方 (中公新書ラクレ)の感想
日中関係について国際政治学の視点から議論する。日中と言いつつトランプ外交について相当の紙幅を割いているのは、現在のファーウェイ問題などを見ても納得。中国をグローバル経済の中で全面的に孤立させることは不可能であるということ、中国が現在の国際秩序を擁護する立場を示しており、「普遍的価値」を否定しているわけではないという指摘に注目すべき。
読了日:05月28日 著者:宮本 雄二
マキァヴェッリ: 『君主論』をよむ (岩波新書 新赤版 1779)の感想
『君主論』の主張にはどの程度普遍性があるのか?これまでの読みやイメージには誤解が含まれていたのではないか?という取っかかりから、『君主論』がロレンツォ、あるいはジュリアーノといったメディチ家の人間に献呈するために書かれたものであるとし、当時のメディチ家やフィレンツェを取り巻く歴史的背景を念頭に置いたうえで、どのように読み解くべきかを議論する。特定の文脈で書かれた文献が普遍的な古典と見なされるに至った経緯も議論されているとなお良かったかもしれない。
読了日:05月30日 著者:鹿子生 浩輝
こちらは戦国大名としての今川氏の始祖氏親と、北条氏の始祖伊勢宗瑞との関係を軸に、一体であった両者がそれぞれ東西への進出を目指す別個の大名として分立していくまでを描く。伊勢宗瑞の動向や北条氏の成立を知るには、彼が後見した今川氏親と今川氏の動向と切り離しては考えられないというのには同意。今川氏親が元服、結婚、任官と人生の重要なステップのすべてにおいて時期が遅れたという点に興味を覚える。一応著者なりの解釈は示されているが、今後の研究に期待したい。
読了日:05月03日 著者:黒田 基樹
アジア近現代史-「世界史の誕生」以後の800年 (中公新書)の感想
アジアと言っても中央アジアや西アジアは除外されているのだが、東アジア・東南アジア・南アジアの諸国は意外に共通性が見出せるのだなと思った。印象に残ったのは、多くの国が単一民族型社会から出発したということと、諸国がモンゴル、ヨーロッパ、日本、アメリカの支配を受けながらも常に政治的な「自律」を追求してきたことを踏まえ、今後中国に対しても同様のスタンスを取るのではないか、すなわち経済援助と引き替えに政治的な「自律」を手放すことはないのではないかという見通しを示している点である。
読了日:05月06日 著者:岩崎 育夫
書と思想 歴史上の人物から見る日中書法文化 (東方選書 51)の感想
時代順に中国と日本の書家を並べることで、同時代の空気や日本が受けた影響を意識しやすいつくりになっている。そして影響を受ける一方だった日本が、近代に至って日下部鳴鶴あたりから台湾を含めた中華圏へと影響を与える側にもなっていく。また唐宋の古文運動が新しい書法の運動でもあったこと、王陽明が王羲之の後裔として、その思想が書法にも現れていると見ることができる点など、タイトル通り書法と思想との関係にも注目したものとなっている。
読了日:05月12日 著者:松宮 貴之
源氏長者: 武家政権の系譜の感想
『源氏と日本国王』の復刊ないしは続稿かと思ったら、改稿版であるとのよし。源氏をたどることは王氏全体をたどることにつながり、更には日本の氏そのものや日本の統治者のあり方をたどることにもつながる。原著の面白さやスケールの大きさは健在である。特に村上源氏が摂関家と対立する存在ではなく、逆に摂関家に取り込まれた存在であること、そしてその村上源氏の一流の久我家と「宇宙」印の話を面白く読んだ。
読了日:05月12日 著者:岡野 友彦
考古学講義 (ちくま新書)の感想
縄文の農耕、縄文文化とアイヌ文化の関係、弥生時代の開始年代、海から見た古代史など、今の考古学の問題意識が詰め込まれている。騎馬民族説については、学説の問題点の存在にも関わらず、古墳時代中期以後に日本列島に急速に騎馬の風習が定着していったという事実をあぶり出したという学史的意義があるという評価が面白い。また前方後円墳の造営にあたって大規模な都市空間が出現したに違いないとしつつも、その掘り下げを省略しているのが惜しまれる。中国古代の陵邑との比較からもむしろこの話題が気になった。
読了日:05月15日 著者:
万葉集の発明 新装版の感想
「万葉集は天皇から庶民まであらゆる階層の歌を収めた日本の国民歌集であり、その歌風は素朴で雄渾である」という一般的理解に対し、そうした理解や認識がどのように形成、というよりはどのような背景から「発明」されたかを追う。本書の議論によれば、万葉集、あるいは古典文学は、古典のカバーをかぶせた近代文学ということになるだろうか。最後に古典教育不要論に関する文章が引かれているが、現代に古典を学ぶ意義は近代文学であるという点にありそうである。
読了日:05月17日 著者:品田悦一
院政 天皇と上皇の日本史 (講談社現代新書)の感想
どちらかと言えば副題の「天皇と上皇の日本史」の方が本書の内容を的確に言い表している。女院や法親王の役割、天皇家のあり方と藤原氏や武家とのそれとの比較、宮家(親王家)の制度化、南北朝期や近代のように、天皇が政治・軍事を差配しようとすれば、特に軍事方面で役割を果たす多くの親王を必要とする(逆にそうでなければ天皇家のメンバーの絞り込みが必要となる)といった話を面白く読んだ。
読了日:05月20日 著者:本郷 恵子
漢帝国―400年の興亡 (中公新書 (2542))の感想
思想史方面からと言うか、著者が取り組んできた「儒教国家」「古典中国」論からの漢帝国史。漢帝国の通史としても読めるようになっているが、著者の研究の総まとめという性質の方が強い。『漢書』は『春秋』ではなく『尚書』を継承したものであるという議論や、魏晋以後の漢の古典化の話を面白く読んだ。前漢前期の天下観についてはもう少し掘り下げができたかもしれない。
読了日:05月24日 著者:渡邉 義浩
安彦良和の戦争と平和-ガンダム、マンガ、日本 (中公新書ラクレ 646)の感想
ガンダムと安彦氏のマンガをめぐる対談集だが、作品に対する杉田氏の読みや解釈が逐一否定されるのが面白い(読者としては杉田氏の指摘の方が当たっているように思える)。『ナムジ』など古代史シリーズの読者として、このシリーズが原田常治の本に触発されたものであったこと、安彦氏的には『天の血脈』の終わり方が気に入っていることなど、気になっていた点が確認できたのが収穫。
読了日:05月26日 著者:杉田 俊介
日中の失敗の本質-新時代の中国との付き合い方 (中公新書ラクレ)の感想
日中関係について国際政治学の視点から議論する。日中と言いつつトランプ外交について相当の紙幅を割いているのは、現在のファーウェイ問題などを見ても納得。中国をグローバル経済の中で全面的に孤立させることは不可能であるということ、中国が現在の国際秩序を擁護する立場を示しており、「普遍的価値」を否定しているわけではないという指摘に注目すべき。
読了日:05月28日 著者:宮本 雄二
マキァヴェッリ: 『君主論』をよむ (岩波新書 新赤版 1779)の感想
『君主論』の主張にはどの程度普遍性があるのか?これまでの読みやイメージには誤解が含まれていたのではないか?という取っかかりから、『君主論』がロレンツォ、あるいはジュリアーノといったメディチ家の人間に献呈するために書かれたものであるとし、当時のメディチ家やフィレンツェを取り巻く歴史的背景を念頭に置いたうえで、どのように読み解くべきかを議論する。特定の文脈で書かれた文献が普遍的な古典と見なされるに至った経緯も議論されているとなお良かったかもしれない。
読了日:05月30日 著者:鹿子生 浩輝