博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2020年10月に読んだ本

2020年11月01日 | 読書メーター
震雷の人震雷の人感想
安史の乱を描いた作品で、地方の民や軍人の目から戦乱の様子を描き出している。ヒロイン采春や、彼女が触れ合うことになる架空のキャラクターたちもさることながら、安禄山の子の安慶緒のような実在の人物の置かれた立場、心情も描き方がなかなか面白い。出来れば上下巻ぐらいの分量で読みたかった作品。
読了日:10月01日 著者:千葉 ともこ

番号を創る権力: 日本における番号制度の成立と展開番号を創る権力: 日本における番号制度の成立と展開感想
日本の国民総背番号制「失敗の本質」的な研究。諸外国の事例を参照しつつ、日本の場合は戸籍制度の存在とその強さが大きな壁となっていること、総背番号制を阻む大きな理由として挙げられがちな日本人のプライバシー意識の強さも、単なる反対のための方便にすぎないことなどを指摘している。各国の制度について歴史的な概略をまとめており、参照価値がある。本書の末尾の言を踏まえると、政府が真に福祉国家の質的向上をもたらすために番号制度を導入すれば、こうした構造的問題や国民の反対を乗り越えることができるということになりそうだが…
読了日:10月03日 著者:羅 芝賢

最強の男――三国志を知るために最強の男――三国志を知るために感想
三国志ファンから打ち棄てられてきた演義を読み込む面白さを、呂布をめぐる議論を中心に語っていく。「最強の男」という評価は演義の作為によって結果論的に生じたものであること、李粛との関係から、呂布が物語世界の中で薛仁貴と対になる存在とされていたのではないかという指摘は面白い。呂布の位置づけ、付章で問題にされる「四大奇書」概念や毛本の評価など、「虚偽」が本書を貫くテーマである。
読了日:10月05日 著者:竹内真彦

天才 富永仲基 独創の町人学者 (新潮新書)天才 富永仲基 独創の町人学者 (新潮新書)感想
『出定後語』など富永仲基の著書を読み解き、加上説、大乗非仏説といった彼の学説・思想、特に加上説について詳しく解説するとともに、彼の学説・思想がどう受容されてきたかを振り返る。富永が「発見感」のある人物という評価は面白い。個人的には内藤湖南によって見出され、顧頡剛の所説とも結びつけられたという印象が強かったが、江戸期には「排仏論」と受け取られ、国学者に仏教非難のために持ち上げられたり、学僧から批判されたとのこと。
読了日:10月10日 著者:釈 徹宗

中国の歴史1 神話から歴史へ 神話時代 夏王朝 (講談社学術文庫)中国の歴史1 神話から歴史へ 神話時代 夏王朝 (講談社学術文庫)感想
神話あるいは文献の記述と考古学との関係から始まり、中国発掘史、そして多元的に発生した文化が、地域間交流と社会統合を経て初期国家へと収斂していく過程をまとめており、現在でも参考価値が高い。巻末に注目の石峁遺跡など、近年の主要な発掘・研究成果をまとめてくれている。ハードカバー版を読んだ時にも思ったが、初期国家ということであれば殷の次の西周も扱って貰えるとなお良かった。
読了日:10月11日 著者:宮本 一夫

中国の歴史2 都市国家から中華へ 殷周 春秋戦国 (講談社学術文庫)中国の歴史2 都市国家から中華へ 殷周 春秋戦国 (講談社学術文庫)感想
著者の世界観を受け入れないと引用が難しいという点で汎用性に乏しい概説。本シリーズに求められているのは、どちらかと言うと本書に書かれていることを理解するうえでの前提となる知識ではないだろうか。巻末の文庫版のあとがきも、最新の研究成果一般の紹介というよりは、著者の近年の研究成果の紹介である。これも『繋年』や『楚居』がどういう文献なのかという説明がまず必要なのではないかと思うが…
読了日:10月14日 著者:平勢 隆郎

元号戦記 近代日本、改元の深層 (角川新書)元号戦記 近代日本、改元の深層 (角川新書)感想
宇野哲人以来の宇野家及び宇野家人脈を中心に据えて振り返る元号制定記。お馴染みの名前が多数登場するので、中国学に関心がある読者はそれだけで楽しめる。欧米メディアが「令和」の「令」を「命令」と訳したのは、実は先例に沿っていたと評価できるのではないかなど、面白い指摘も盛り込まれている。ただ、個人的には、元号に関しては(おそらく著者の意図とは逆に)戸川芳郎の考え方に共感を覚えてしまうが……
読了日:10月15日 著者:野口 武則

「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄 (講談社学術文庫)「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄 (講談社学術文庫)感想
大阪を「帝都」東京に対する「民都」と位置づけて見る近代関西「私鉄王国」史。その大阪も一枚岩ではなく、長らく歴史上の空白地帯であったキタに対し、ミナミは古代以来の王権を中心とする歴史に彩られていた。そしてクロス問題での阪急の敗北と昭和天皇の大阪行幸を機に、大阪は「帝都」の様相に取り込まれていく。その歴史は昨今の大阪都構想でも幾ばくか尾を引いているようである。都構想がキタ中心に展開されているのは歴史の皮肉を感じるが…
読了日:10月17日 著者:原 武史

暴君――シェイクスピアの政治学 (岩波新書)暴君――シェイクスピアの政治学 (岩波新書)感想
『リチャード三世』『マクベス』『リア王』等々シェイクスピアの作品から読み解く暴君論。暴君の作られ方、その内面、末路、更には『コリオレイナス』などから暴君になり損ねた者をも読み解いていく。シェイクスピアの時代のイギリスではさほど馴染みがなかったであろうの選挙の儀式性について描き出しているというのが面白い。
読了日:10月19日 著者:スティーブン・グリーンブラット

民主主義とは何か (講談社現代新書)民主主義とは何か (講談社現代新書)感想
現代の日本人がイメージする民主主義観はどのように形成されてきたのかを古代ギリシアから辿る政治思想史。民主主義と共和政、議会制、自由主義、選挙、官僚制との関係を、対立関係も含めてまとめている。(著者は否定的かもしれないが)中国の特色ある民主も含めて、民主主義には多様なあり方を認めてよいのではないかと感じさせる。
読了日:10月23日 著者:宇野 重規

藤原定家 『明月記』の世界 (岩波新書, 新赤版 1851)藤原定家 『明月記』の世界 (岩波新書, 新赤版 1851)感想
『明月記』から読み解く藤原定家の生涯、日常、人間関係。有名な「紅旗征戎非吾事」が承久の乱の頃の書写である『後撰和歌集』の奥書にもあり、同じ文言でも治承の頃とは異なる感慨があったのではないかという話、当時にあっても違和感があるという庶子光家の扱い、始祖長家の時代の家格復興への願い、意外な所から生じた鎌倉との縁などを面白く読んだ。
読了日:10月24日 著者:村井 康彦

日中の「戦後」とは何であったか-戦後処理、友好と離反、歴史の記憶 (単行本)日中の「戦後」とは何であったか-戦後処理、友好と離反、歴史の記憶 (単行本)感想
日中戦争が終結した1945年から天皇訪中の1992年までの日中関係に関する論集。この時期は日中関係の「黄金期」を含む。戦後処理、人の移動、歴史記憶などのテーマについて日中双方の研究者が寄稿するという構成。日中国交正常化と平和友好条約、そして天皇訪中の際の「お言葉」が、本来は日中和解の起点であったはずが、日本側が終点として扱ったという指摘が印象的。そして当たり前のことながら、日中関係と言っても台湾・米国・ソ連といった他国との関わり抜きにしては論じられないということを認識させられた。
読了日:10月27日 著者:波多野 澄雄,中村 元哉

アメリカの政党政治-建国から250年の軌跡 (中公新書, 2611)アメリカの政党政治-建国から250年の軌跡 (中公新書, 2611)感想
『民主主義とは何か』で共和党・民主党のあり方が気になったので読んでみることに。党派の形成自体に否定的で政党政治を想定していなかった建国当初から、両党の成立、挫折し続ける第三党の形成、そして保守とリベラルによる両党のイデオロギー分極化とその固定までの道のりを辿る。党員制度がなく、党の存在が公式の制度の一部になっているというアメリカの二大政党制、「普通の国」のあり方とは異なるが、それだけに面白い。
読了日:10月28日 著者:岡山 裕
コメント
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