安田峰俊『中国ぎらいのための中国史』についてはこちらにレビューを書きました。
紫禁城の至宝を救え: 日中戦争惨禍から美術品を守った学芸員たちの感想日中戦争を承けての北京から上海、そこから更に武漢、重慶、楽山、宝鶏などへの故宮の文物の疎開作業と関係者について。特に当時の故宮博物院院長にして古文字学者としても著名な馬衡や、後に台湾に渡ることになる荘厳、那志良らの生涯について詳述している。日本軍の爆撃以外にも現地での思わぬトラブル、船や自動車などの運搬上の問題、関係人員や文物を避難させた土地の地元民による問題、避難所での湿気や害虫の存在、火災の危険性、日本軍に見つかりやすい目立つ屋根といった、関係者が見舞われた様々な苦難を描き出す。読了日:09月01日 著者:アダム・ブルックス
出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書)の感想日本近代文学に見える男と女のすれ違い。『三四郎』『金色夜叉』『友情』『野菊の墓』『不如帰』『真珠夫人』など有名作品が中心。印象づけられるのは身勝手さや鈍感さにより、女性と向き合わない近代の男たちの姿、そしてそんな男たちと作者の都合により翻弄される女性たちの姿である。山本有三は時代が変わったということで戦後は『路傍の石』の続きを書こうとしなかったということだが、こちらも取り上げられてる小説の男たちには感情移入できそうにない。と言いつつ『真珠夫人』など、読んでみたい気にさせられる作品もあったが。読了日:09月02日 著者:斎藤 美奈子
笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで (星海社新書 306)の感想「笑い」を基調とした歴史学雑誌で有名になった著者による歴史学本。タイトルにある「笑い」による歴史学よりは、大学教員の仕事、学会の業務、学会誌の査読など、その前提となるアカデミズムとしての歴史学回りの話が読みどころ。アマチュアが歴史家として活動する方法も紹介されているので、歴史学に限らず人文系の分野で何かしら学術に関することで関わりたいアマチュアは参考になることが多いのではないかと思う。「笑い」については、決して賛同はしないが、著者の「やじ」に対する偏愛ぶりは伝わる。読了日:09月04日 著者:池田 さなえ
成瀬は信じた道をいくの感想大学生となり、地元の観光大使にもなった成瀬。ノリは前作と変わらず楽しいが、前作の登場人物が島崎以外はあまり絡んでこず、寂しい気も。観光大使の相方篠原は母世代と同じく成瀬と長い付き合いになるんだろうか?成瀬の話は今回でひとまず幕ということになりそうだが、彼女が就職(あるいは進学後)どうマイペースを保ちながら地元愛を貫徹していくのか気になる。読了日:09月05日 著者:宮島 未奈
増補 日本霊異記の世界 (角川ソフィア文庫)の感想記紀神話と『今昔物語集』など中世説話をつなぐ存在として『日本霊異記』を読み解く。一連の動物報恩譚から、動物の恩返しを語る説話が日本人の心の優しさを示すというような言説を否定し、そういったものが現れてくるのは仏教の伝来や流布によるものであると再三にわたって論じている。また、討債鬼説話など、中国の説話の影響を受けたものも結構存在するようだ。『今昔物語集』なんかと比べると影が薄い文献だが、手軽な形での訳本が読みたくなってくる。読了日:09月07日 著者:三浦 佑之
ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う (集英社新書)の感想特に国語科の学習指導要領の改定と大学入試改革を承けての東大文学部の教員による議論。ネットでもよく取り沙汰される読解力の定義の問題、『論語』から孔子の対人配慮が読み取れるという議論、昨今流行りの古典の複合問題が、複合的な材料を用いるということ自体が目的化しているという批判、文学とそうでないものとを区別したがる人は文学が怖いのではないかという指摘など、話題は多岐に渡っている。一時期話題になった古典不要論とも通じそうな議論もある。論理や実用にこだわる向きには一読されたい。読了日:09月08日 著者:阿部 公彦,沼野 充義,納富 信留,大西 克也,安藤 宏,東京大学文学部広報委員会
沖縄について私たちが知っておきたいこと (ちくまプリマー新書 457)の感想沖縄の近現代史や基地問題など、「構造的差別」につながるトピックをわかりやすく簡潔にまとめている。沖縄が米軍基地に経済的に依存しているといったよまあるデマについても反論がなされている。明治期には尖閣諸島も含めた宮古・八重島が切り離し可能な領土とされていたこと、終戦交渉時には沖縄全体が日本の「固有本土」とされていなかったことについてや、最後の対談では沖縄好きの本土人によるコロニアリズムの問題についても言及されている。読了日:09月09日 著者:高橋 哲哉
歴史学はこう考える (ちくま新書 1815)の感想著者の専門である日本近代史を中心として、著者の論文、あるいは政治史・経済史・社会史の一定の定評のある論文を素材に、論文の書かれ方、読み方を解説することで、歴史研究とはどういう営みなのかを説く。それに付随して史料批判の実際、時代区分の問題などについても言及している。とにかく具体的なので、従来の歴史学入門や史学概論が雲を掴むような話でよくわからないという人にも有用かもしれない。歴史はともすると「使えてしまう」危険な存在、文書館を利用するのは研究者だけではないという話が印象に残った。読了日:09月12日 著者:松沢 裕作
中国文学の歴史 元明清の白話文学 (東方選書63)の感想金元の曲や元の雑劇から元明の白話小説が生まれ、四大奇書が白話を用いつつも知識人によって洗練され、『紅楼夢』の段階で近代文学を受け入れる素地が整うまでの展開を描く。小説などの文章の引用を織り交ぜつつ、四大奇書をはじめとする当時の代表的な作品の新しさと魅力、そしてその時々の出版文化などについても解説している。『三国』『水滸伝』や『金瓶梅』の背景にある政治性の話が面白い。読了日:09月15日 著者:小松謙
張騫 シルクロードの開拓者 (講談社学術文庫)の感想張騫の生涯だけでなく、広くその後人たちの事跡や漢の西域経営についてまとめる。著者がNHKの『シルクロード』のチーフディレクターということで、所々で現地の体験についても触れられるが、本編よりそちらの方がおもしろい。後人たちについては烏孫公主、解憂公主など女性たちの活躍についても紹介されている。
読了日:09月20日 著者:田川 純三
『韓非子』入門の感想入門書として面白みもないかわりにそう変なことも書いていない。割とオーソドックスな概説だと思う。著者の特色が現れているのは終章の秦以後の法思想の展開、中国の律令が儒家思想を法源とするに至るまでを述べた部分ということになるか。読了日:09月21日 著者:渡邉義浩
レコンキスタ―「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和 (中公新書, 2820)の感想実は19世紀にスペインの国民統合のために創られた神話だというレコンキスタ。その実情はといえば、キリスト教徒、ムスリムといった宗教勢力ごとにまとまっているわけでもなく、それぞれ内部で対立を繰り返し、ムスリム勢力がキリスト教勢力と同盟を結び、エル・シッドのようにキリスト教徒がムスリム勢力に仕えるというのもしばしば見られた。よく言われるこの地域での信仰の寛容さはといえば、これも寛容とも言えるし不寛容とも言えるといった具合。期待した大航海時代に絡めた記述はないこともないという程度。読了日:09月23日 著者:黒田 祐我
女の氏名誕生 ――人名へのこだわりはいかにして生まれたのか (ちくま新書 1818)の感想『氏名の誕生』の姉妹編で、前著で描ききれなかった女性の氏名について。「お」のつく名前と近代の「~子」との関係、表記の揺れ社会的身分の変化に伴う改名、苗字をつけないものとされていた女性の名前、そして近代以後の氏名政策と氏名の混乱のはじまりといった話題を扱う。しかし実際のところ、本書は女性の氏名にとどまらず、男性の氏名も含めた印鑑の問題、近代以後の漢字表記の問題、姓名判断の流行など、幅広い内容を扱っている。漢字表記の問題に関心のある向きも読んで損はないだろう。読了日:09月28日 著者:尾脇 秀和
紫禁城の至宝を救え: 日中戦争惨禍から美術品を守った学芸員たちの感想日中戦争を承けての北京から上海、そこから更に武漢、重慶、楽山、宝鶏などへの故宮の文物の疎開作業と関係者について。特に当時の故宮博物院院長にして古文字学者としても著名な馬衡や、後に台湾に渡ることになる荘厳、那志良らの生涯について詳述している。日本軍の爆撃以外にも現地での思わぬトラブル、船や自動車などの運搬上の問題、関係人員や文物を避難させた土地の地元民による問題、避難所での湿気や害虫の存在、火災の危険性、日本軍に見つかりやすい目立つ屋根といった、関係者が見舞われた様々な苦難を描き出す。読了日:09月01日 著者:アダム・ブルックス
出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書)の感想日本近代文学に見える男と女のすれ違い。『三四郎』『金色夜叉』『友情』『野菊の墓』『不如帰』『真珠夫人』など有名作品が中心。印象づけられるのは身勝手さや鈍感さにより、女性と向き合わない近代の男たちの姿、そしてそんな男たちと作者の都合により翻弄される女性たちの姿である。山本有三は時代が変わったということで戦後は『路傍の石』の続きを書こうとしなかったということだが、こちらも取り上げられてる小説の男たちには感情移入できそうにない。と言いつつ『真珠夫人』など、読んでみたい気にさせられる作品もあったが。読了日:09月02日 著者:斎藤 美奈子
笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで (星海社新書 306)の感想「笑い」を基調とした歴史学雑誌で有名になった著者による歴史学本。タイトルにある「笑い」による歴史学よりは、大学教員の仕事、学会の業務、学会誌の査読など、その前提となるアカデミズムとしての歴史学回りの話が読みどころ。アマチュアが歴史家として活動する方法も紹介されているので、歴史学に限らず人文系の分野で何かしら学術に関することで関わりたいアマチュアは参考になることが多いのではないかと思う。「笑い」については、決して賛同はしないが、著者の「やじ」に対する偏愛ぶりは伝わる。読了日:09月04日 著者:池田 さなえ
成瀬は信じた道をいくの感想大学生となり、地元の観光大使にもなった成瀬。ノリは前作と変わらず楽しいが、前作の登場人物が島崎以外はあまり絡んでこず、寂しい気も。観光大使の相方篠原は母世代と同じく成瀬と長い付き合いになるんだろうか?成瀬の話は今回でひとまず幕ということになりそうだが、彼女が就職(あるいは進学後)どうマイペースを保ちながら地元愛を貫徹していくのか気になる。読了日:09月05日 著者:宮島 未奈
増補 日本霊異記の世界 (角川ソフィア文庫)の感想記紀神話と『今昔物語集』など中世説話をつなぐ存在として『日本霊異記』を読み解く。一連の動物報恩譚から、動物の恩返しを語る説話が日本人の心の優しさを示すというような言説を否定し、そういったものが現れてくるのは仏教の伝来や流布によるものであると再三にわたって論じている。また、討債鬼説話など、中国の説話の影響を受けたものも結構存在するようだ。『今昔物語集』なんかと比べると影が薄い文献だが、手軽な形での訳本が読みたくなってくる。読了日:09月07日 著者:三浦 佑之
ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う (集英社新書)の感想特に国語科の学習指導要領の改定と大学入試改革を承けての東大文学部の教員による議論。ネットでもよく取り沙汰される読解力の定義の問題、『論語』から孔子の対人配慮が読み取れるという議論、昨今流行りの古典の複合問題が、複合的な材料を用いるということ自体が目的化しているという批判、文学とそうでないものとを区別したがる人は文学が怖いのではないかという指摘など、話題は多岐に渡っている。一時期話題になった古典不要論とも通じそうな議論もある。論理や実用にこだわる向きには一読されたい。読了日:09月08日 著者:阿部 公彦,沼野 充義,納富 信留,大西 克也,安藤 宏,東京大学文学部広報委員会
沖縄について私たちが知っておきたいこと (ちくまプリマー新書 457)の感想沖縄の近現代史や基地問題など、「構造的差別」につながるトピックをわかりやすく簡潔にまとめている。沖縄が米軍基地に経済的に依存しているといったよまあるデマについても反論がなされている。明治期には尖閣諸島も含めた宮古・八重島が切り離し可能な領土とされていたこと、終戦交渉時には沖縄全体が日本の「固有本土」とされていなかったことについてや、最後の対談では沖縄好きの本土人によるコロニアリズムの問題についても言及されている。読了日:09月09日 著者:高橋 哲哉
歴史学はこう考える (ちくま新書 1815)の感想著者の専門である日本近代史を中心として、著者の論文、あるいは政治史・経済史・社会史の一定の定評のある論文を素材に、論文の書かれ方、読み方を解説することで、歴史研究とはどういう営みなのかを説く。それに付随して史料批判の実際、時代区分の問題などについても言及している。とにかく具体的なので、従来の歴史学入門や史学概論が雲を掴むような話でよくわからないという人にも有用かもしれない。歴史はともすると「使えてしまう」危険な存在、文書館を利用するのは研究者だけではないという話が印象に残った。読了日:09月12日 著者:松沢 裕作
中国文学の歴史 元明清の白話文学 (東方選書63)の感想金元の曲や元の雑劇から元明の白話小説が生まれ、四大奇書が白話を用いつつも知識人によって洗練され、『紅楼夢』の段階で近代文学を受け入れる素地が整うまでの展開を描く。小説などの文章の引用を織り交ぜつつ、四大奇書をはじめとする当時の代表的な作品の新しさと魅力、そしてその時々の出版文化などについても解説している。『三国』『水滸伝』や『金瓶梅』の背景にある政治性の話が面白い。読了日:09月15日 著者:小松謙
張騫 シルクロードの開拓者 (講談社学術文庫)の感想張騫の生涯だけでなく、広くその後人たちの事跡や漢の西域経営についてまとめる。著者がNHKの『シルクロード』のチーフディレクターということで、所々で現地の体験についても触れられるが、本編よりそちらの方がおもしろい。後人たちについては烏孫公主、解憂公主など女性たちの活躍についても紹介されている。
読了日:09月20日 著者:田川 純三
『韓非子』入門の感想入門書として面白みもないかわりにそう変なことも書いていない。割とオーソドックスな概説だと思う。著者の特色が現れているのは終章の秦以後の法思想の展開、中国の律令が儒家思想を法源とするに至るまでを述べた部分ということになるか。読了日:09月21日 著者:渡邉義浩
レコンキスタ―「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和 (中公新書, 2820)の感想実は19世紀にスペインの国民統合のために創られた神話だというレコンキスタ。その実情はといえば、キリスト教徒、ムスリムといった宗教勢力ごとにまとまっているわけでもなく、それぞれ内部で対立を繰り返し、ムスリム勢力がキリスト教勢力と同盟を結び、エル・シッドのようにキリスト教徒がムスリム勢力に仕えるというのもしばしば見られた。よく言われるこの地域での信仰の寛容さはといえば、これも寛容とも言えるし不寛容とも言えるといった具合。期待した大航海時代に絡めた記述はないこともないという程度。読了日:09月23日 著者:黒田 祐我
女の氏名誕生 ――人名へのこだわりはいかにして生まれたのか (ちくま新書 1818)の感想『氏名の誕生』の姉妹編で、前著で描ききれなかった女性の氏名について。「お」のつく名前と近代の「~子」との関係、表記の揺れ社会的身分の変化に伴う改名、苗字をつけないものとされていた女性の名前、そして近代以後の氏名政策と氏名の混乱のはじまりといった話題を扱う。しかし実際のところ、本書は女性の氏名にとどまらず、男性の氏名も含めた印鑑の問題、近代以後の漢字表記の問題、姓名判断の流行など、幅広い内容を扱っている。漢字表記の問題に関心のある向きも読んで損はないだろう。読了日:09月28日 著者:尾脇 秀和