盗墓筆記1 地下迷宮と七つの棺/怒れる海に眠る墓の感想
帛書の拓本をとるなど一部意味のわからない記述が出てくる(翻訳ではなく原著自体に問題があるらしい)のがたまに瑕だが、伝説上の人物汪蔵海など独自の考古的世界観による冒険小説と思えば楽しめる。本巻収録の第1部、第2部の両方ともあとを引くような締め方になっているのも映画なんかではよくあるといえばよくあるパターン。
読了日:11月03日 著者:南派 三叔
現代を生きる日本史 (岩波現代文庫 学術457)の感想
縄文時代の歴史は「日本史」なのか?という問いからはじまり、日本史の中の暴力を問題にしたり、民衆のふるまいや鉄火起請、闘茶などの風俗習慣を取り上げたりと少し変わった日本史講座。本書を読むと武士という存在がかなり異様に見えてくる。また闘茶の席で参加者が平等な立場で楽しめるように工夫がこらされたという話も面白い。「現代」の視点で歴史を見るとはこういうことなのかと気付かされる本。
読了日:11月04日 著者:須田 努,清水 克行
若草物語 (新潮文庫 オ 1-1)の感想
今回の新訳で改めて読み直してみて本当に美しい物語だなと思った。比べるのはナンだが、同じ時期の南部を舞台にした『風と共に去りぬ』と落差がありすぎる。ジョーがプラムフィールドを「お墓みたいに陽気な場所」と評しているのには笑ってしまったが。
読了日:11月07日 著者:ルイーザ・メイ・オルコット
中国ミステリー探訪 千年の事件簿から (潮文庫)の感想
六朝志怪小説から唐代伝奇、三言二拍、公案小説などを経て新中国成立あたりまでの中国のミステリーの系譜を辿る。ミステリーもほかの伝統文芸と同様、先行作品による典故の積み重ねで成立している。近代になると西洋のミステリーの翻訳も行われるが、ホームズの翻訳などは日本よりも早かったという。しかし武侠小説まで扱ったなら現代の古龍作品も扱ってほしかった。末尾の21世紀の程小青・孫了紅誕生の予言は実現しているが、著者は亡くなる前にそれを知っていたのだろうか?
読了日:11月09日 著者:井波 律子
南北戦争英雄伝-分断のアメリカを戦った男たち (中公新書ラクレ, 825)の感想
南北戦争対比列伝、ないしは南北戦争名将珍将列伝といった趣。もともと軍人ではなく民間で発明家稼業をしていたバーンサイドなど、個々の将軍・提督たちの列伝はもちろん面白いのだが、リンカーンが当時周囲からどのような大統領だと思われていたのかとか、アメリカ連合国が成り立ちからして分権的であったとか、歴史的な意義についてもちゃんと解説しているのがよい。しかしシャーマンが配下に食糧の現地調達をさせ、民間人からの略奪も辞さなかったというのは中国史でもよく見るやり方で、こういうのを果たして「総力戦」と呼ぶのかという疑問も。
読了日:11月11日 著者:小川 寛大
日本漢字全史 (ちくま新書 1825)の感想
漢字伝来からJIS漢字まで、漢字の字形、字音、(特に日本での)字義、漢語、漢文等の文体、訓読、部首、仮名、印刷、辞書等々の変化や展開をたどる。通常あまり詳しく触れられない唐音や唐話についても詳しい。教科書・便覧的な使い方もできそう。近現代、特に戦後の状況が駆け足気味なのは少々残念だが、それでも要点はちゃんと押さえてある。
読了日:11月14日 著者:沖森 卓也
『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力 (講談社学術文庫)の感想
第Ⅰ部では銀雀山漢簡本の位置づけ、伝統中国や日本での『孫子』の扱いの変化、西洋での翻訳の問題と『孫子』に対する問題意識の変化等々読みどころとなる論点が多い。本書によって『孫子』だけでなく漢籍そのものに対する理解も深まるだろう。第Ⅱ部の「作品世界を読む」でも『群書治要』での摘録や西夏語訳など、ほかの『孫子』本ではまず取り上げられないテキストを紹介している。
読了日:11月20日 著者:平田 昌司
ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版 (ちくま文庫う-48-1)の感想
世界中のカルト団体が進出し、受け入れられているアフリカ諸国の実相を描き出す。宗教に対する我々とアフリカ人(こうまとめると主語が大きすぎるかもしれないが)との感覚の違いに驚かされる。真摯な態度で真理を求めるかと思えば団体から支給される奨学金目当てで入信するなど、ただ現世利益を求めるだけという態度も見られる。また、統一協会にしても国の経済水準が違えば対応が異なり、霊感商法や多額の献金など日本で起こるようなトラブルは起こらないというのも印象的だった。
読了日:11月22日 著者:上野 庸平
ロベスピエール:民主主義を信じた「独裁者」の感想
ロベスピエールの生涯と思想。どちらかというと彼の事跡よりは著述や演説などからその思想をたどることの方が主となっている。ルソーに対する思い入れや女性の権利に対する見方などはなかなか面白い。副題にもあるようなロベスピエールが独裁者だったかという問いには本書は否定的である。サン・ジュストのようなシンパが存在しなければ政治家としてかなり違った生涯を送ったのではないかと思わせられる。また、時代背景としてフランス革命期には様々な陰謀論やデマが飛び交いっていたというのは、何やら昨今の政治状況とも重なるように思われる。
読了日:11月26日 著者:髙山 裕二
赤毛のアン論 八つの扉 (文春新書)の感想
少女小説と思われがちだが、実はその範疇を超えるものであるという『赤毛のアン』。日本初という全訳者による『赤毛のアン』の文化的、文学的、歴史的、政治的背景に関する解説。正直『赤毛のアン』を読んでないとしんどい内容で、これを読んでアンに興味を持つというものではないように思う。最終章で触れられている翻訳の経緯や苦労は、デジタルデータベース黎明期の話もあったりしてなかなか面白い。
読了日:11月28日 著者:松本 侑子
帛書の拓本をとるなど一部意味のわからない記述が出てくる(翻訳ではなく原著自体に問題があるらしい)のがたまに瑕だが、伝説上の人物汪蔵海など独自の考古的世界観による冒険小説と思えば楽しめる。本巻収録の第1部、第2部の両方ともあとを引くような締め方になっているのも映画なんかではよくあるといえばよくあるパターン。
読了日:11月03日 著者:南派 三叔
現代を生きる日本史 (岩波現代文庫 学術457)の感想
縄文時代の歴史は「日本史」なのか?という問いからはじまり、日本史の中の暴力を問題にしたり、民衆のふるまいや鉄火起請、闘茶などの風俗習慣を取り上げたりと少し変わった日本史講座。本書を読むと武士という存在がかなり異様に見えてくる。また闘茶の席で参加者が平等な立場で楽しめるように工夫がこらされたという話も面白い。「現代」の視点で歴史を見るとはこういうことなのかと気付かされる本。
読了日:11月04日 著者:須田 努,清水 克行
若草物語 (新潮文庫 オ 1-1)の感想
今回の新訳で改めて読み直してみて本当に美しい物語だなと思った。比べるのはナンだが、同じ時期の南部を舞台にした『風と共に去りぬ』と落差がありすぎる。ジョーがプラムフィールドを「お墓みたいに陽気な場所」と評しているのには笑ってしまったが。
読了日:11月07日 著者:ルイーザ・メイ・オルコット
中国ミステリー探訪 千年の事件簿から (潮文庫)の感想
六朝志怪小説から唐代伝奇、三言二拍、公案小説などを経て新中国成立あたりまでの中国のミステリーの系譜を辿る。ミステリーもほかの伝統文芸と同様、先行作品による典故の積み重ねで成立している。近代になると西洋のミステリーの翻訳も行われるが、ホームズの翻訳などは日本よりも早かったという。しかし武侠小説まで扱ったなら現代の古龍作品も扱ってほしかった。末尾の21世紀の程小青・孫了紅誕生の予言は実現しているが、著者は亡くなる前にそれを知っていたのだろうか?
読了日:11月09日 著者:井波 律子
南北戦争英雄伝-分断のアメリカを戦った男たち (中公新書ラクレ, 825)の感想
南北戦争対比列伝、ないしは南北戦争名将珍将列伝といった趣。もともと軍人ではなく民間で発明家稼業をしていたバーンサイドなど、個々の将軍・提督たちの列伝はもちろん面白いのだが、リンカーンが当時周囲からどのような大統領だと思われていたのかとか、アメリカ連合国が成り立ちからして分権的であったとか、歴史的な意義についてもちゃんと解説しているのがよい。しかしシャーマンが配下に食糧の現地調達をさせ、民間人からの略奪も辞さなかったというのは中国史でもよく見るやり方で、こういうのを果たして「総力戦」と呼ぶのかという疑問も。
読了日:11月11日 著者:小川 寛大
日本漢字全史 (ちくま新書 1825)の感想
漢字伝来からJIS漢字まで、漢字の字形、字音、(特に日本での)字義、漢語、漢文等の文体、訓読、部首、仮名、印刷、辞書等々の変化や展開をたどる。通常あまり詳しく触れられない唐音や唐話についても詳しい。教科書・便覧的な使い方もできそう。近現代、特に戦後の状況が駆け足気味なのは少々残念だが、それでも要点はちゃんと押さえてある。
読了日:11月14日 著者:沖森 卓也
『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力 (講談社学術文庫)の感想
第Ⅰ部では銀雀山漢簡本の位置づけ、伝統中国や日本での『孫子』の扱いの変化、西洋での翻訳の問題と『孫子』に対する問題意識の変化等々読みどころとなる論点が多い。本書によって『孫子』だけでなく漢籍そのものに対する理解も深まるだろう。第Ⅱ部の「作品世界を読む」でも『群書治要』での摘録や西夏語訳など、ほかの『孫子』本ではまず取り上げられないテキストを紹介している。
読了日:11月20日 著者:平田 昌司
ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版 (ちくま文庫う-48-1)の感想
世界中のカルト団体が進出し、受け入れられているアフリカ諸国の実相を描き出す。宗教に対する我々とアフリカ人(こうまとめると主語が大きすぎるかもしれないが)との感覚の違いに驚かされる。真摯な態度で真理を求めるかと思えば団体から支給される奨学金目当てで入信するなど、ただ現世利益を求めるだけという態度も見られる。また、統一協会にしても国の経済水準が違えば対応が異なり、霊感商法や多額の献金など日本で起こるようなトラブルは起こらないというのも印象的だった。
読了日:11月22日 著者:上野 庸平
ロベスピエール:民主主義を信じた「独裁者」の感想
ロベスピエールの生涯と思想。どちらかというと彼の事跡よりは著述や演説などからその思想をたどることの方が主となっている。ルソーに対する思い入れや女性の権利に対する見方などはなかなか面白い。副題にもあるようなロベスピエールが独裁者だったかという問いには本書は否定的である。サン・ジュストのようなシンパが存在しなければ政治家としてかなり違った生涯を送ったのではないかと思わせられる。また、時代背景としてフランス革命期には様々な陰謀論やデマが飛び交いっていたというのは、何やら昨今の政治状況とも重なるように思われる。
読了日:11月26日 著者:髙山 裕二
赤毛のアン論 八つの扉 (文春新書)の感想
少女小説と思われがちだが、実はその範疇を超えるものであるという『赤毛のアン』。日本初という全訳者による『赤毛のアン』の文化的、文学的、歴史的、政治的背景に関する解説。正直『赤毛のアン』を読んでないとしんどい内容で、これを読んでアンに興味を持つというものではないように思う。最終章で触れられている翻訳の経緯や苦労は、デジタルデータベース黎明期の話もあったりしてなかなか面白い。
読了日:11月28日 著者:松本 侑子