博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2025年1月に読んだ本

2025年02月01日 | 読書メーター
近代日本の中国学: その光と影 (アジア遊学 299)近代日本の中国学: その光と影 (アジア遊学 299)感想
近代中国と関わった漢学者ないしは「支那学」者、画家、探検家、ジャーナリストと五つの区分に分けた論集で、「支那通」に割かれた部分は最後の第Ⅴ部ぐらいであるが、その実全編を通して当時の中国学の裏面とともに学者と「支那通」との相克がテーマになっているように思う。2000年代からこの方、中国学では研究者も専門に引きこもっているのではなく現実の中国を知らなければという空気が強くなっているが、戦前から同じようなことを繰り返しているのかもしれない。
読了日:01月02日 著者:朱琳,渡辺健哉

世界は説話にみちている 東アジア説話文学論世界は説話にみちている 東アジア説話文学論感想
説話学というより説話を題材にした図像に対する図像学的な議論が多い。対象とする地域も東アジアに限らず、特に第Ⅲ部は釈迦の母の摩耶の授乳とマリアの授乳を比較したりイソップ物語の東アジアへの伝来を扱ったりと世界規模になっている。第6章の鬼に関する議論は『怪異から妖怪へ』の鬼の章と併せ読むと面白い。こちらは仏教医学へと思わぬ方向への展望が示されている。『三国志平話』冒頭の裁判説話と本邦の幸若舞曲などとの距離が近いという指摘も面白い。
読了日:01月04日 著者:小峯 和明

824人の四次元事件簿 : 「清明上河図」密碼(なぞとき)第1冊824人の四次元事件簿 : 「清明上河図」密碼(なぞとき)第1冊感想
ドラマ版が良かったので取り敢えず第1巻をと思って手に取ったが、ドラマ版が原作のエッセンスを汲み取ってうまく話を組み立てているのがわかった。原作もミステリーとしての面白さはあるものの、ドラマ版の方に軍配を揚げたい。翻訳としては台詞の文体などに問題があり、AIに翻訳させたのかと思ってしまう。はっきり言って商業出版できたのが不思議なレベル。物語の方はぶつ切りで終わってます。原作は全6巻構成のようなので、2巻でワンセットということかもしれないが。
読了日:01月07日 著者:冶 文彪

新編 書論の文化史新編 書論の文化史感想
書作品自体ではなく歴代の書論でたどる、少し変わったアプローチ(だと思う)の書道史。関連する書作品の図版やその訳文が豊富なのも良い。第14章の、「菩薩処胎経」が六朝の墨跡を伝える資料として近代の日中の文人たちから珍重され、高く評価されながらも、六朝の資料も含んだ敦煌文献が発見された途端に顧みられなくなったという話を興味深く読んだ。ただ、著者には申し訳ないが第一部の内容は同意できない部分が多く、ない方がよいのではないかと思う。
読了日:01月09日 著者:松宮貴之

西遊記事変 (ハヤカワ・ミステリ)西遊記事変 (ハヤカワ・ミステリ)感想
西天取経の旅に出た玄奘一行に八十一難が課されることになり、李長庚こと太白金星は道門代表として釈門代表の観音菩薩とともにその企画立案を担当することになるが、諸方面の横槍もあり計画通りに事が運ばず、次から次へと予想外のトラブルに見舞われることに…… 『西遊記』の舞台裏というか八百長西遊記、「八百長三国志」こと陳舜臣『秘本三国志』の西遊記版という趣き。著者の『西遊記』の読み込みぶりが伝わってきて『西遊記』ファンも大満足なのではないか。それとともに官界や大企業で生きていく機微、世知辛さも伝わってくる。
読了日:01月11日 著者:馬伯庸

近代日本の中国認識 ――徳川期儒学から東亜協同体論まで (ちくま学芸文庫マ-58-1)近代日本の中国認識 ――徳川期儒学から東亜協同体論まで (ちくま学芸文庫マ-58-1)感想
江戸中期から日中戦争期までの中国認識の変遷を概観する。中国認識はアジア認識、西洋認識、ひいては自国認識の問題とも深く関係することに気付かされる。本書で指摘されている、日清戦争以来の中国を軽蔑することで中国を理解したつもりになるというのは、現在まで引き継がれている悪弊であろう。山東出兵を背景に、吉野作造によるもし日本が中国から自国民の保護を口実に攻め込まれたらどう思うか?という問いかけや、日本の民族主義を誇るなら中国の民族主義も正当に評価せよという三木清の言葉も、現在の中国理解に通じる考え方である。
読了日:01月15日 著者:松本 三之介

遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ)遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ)感想
遊牧のはじまり、騎乗の開始から匈奴の民族構成(西ユーラシア人も含まれていたとのこと)、遊牧民と鉄、近年「天子単于~」の銘文を有する瓦当が出土したことで話題になった龍城、これまた最近話題になった鐙の使用開始等々、著者の専門の(だと思う)モンゴル時代のことよりも古い時代に関する内容を興味深く読んだ。柔然、ウイグルなど類書であまり取り上げられていない勢力についても紙幅を割いている。考古学の視点から探る遊牧王朝史の良書。
読了日:01月19日 著者:白石典之

孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)感想
新書にありがちなサブタイトルとメインタイトルを逆にすべき例。『孝経』を中心にして見る儒学学術史であり、儒学経典史といった趣。最後の章で鄭注に沿った経文全文の翻訳があるほかは『孝経』の内容そのものはあまり問題にしていないが面白い。今文・古文の対立の図式は清末の政治・学術状況を漢代に投影したものであるとか、鄭玄と王粛の学術上の位置づけの話、特に王粛の議論が意外と穏当であり、だからこそ漢代以来の礼制を受け継ぐ南朝で受け入れられたとか、孔伝が実は『管子』を多く利用しているといった指摘が刺激的。

読了日:01月21日 著者:橋本 秀美

恋する仏教 アジア諸国の文学を育てた教え (集英社新書)恋する仏教 アジア諸国の文学を育てた教え (集英社新書)感想
アジアの文学と仏教の関係に注目。日本と中国はともかくインド、韓国、ベトナムも取り上げているのは珍しいのではないか。作品と仏教、あるいは出典とされるものの結びつけが強引かなという箇所があるのが玉に瑕。しかし日本人の本来の心情が反映されているとされがちな『万葉集』にも仏教的な要素が見て取れるという指摘は面白い。また、インドの説話で最後を仏教的な教訓で締めくくっていればどんなことを語っても許されるというのは、中国で抗日ドラマの体裁を取っていれば多少の無茶は許されるというのを連想させる。
読了日:01月22日 著者:石井 公成

歴史的に考えること──過去と対話し、未来をつくる (岩波ジュニア新書 994)歴史的に考えること──過去と対話し、未来をつくる (岩波ジュニア新書 994)感想
中国・韓国との徴用工・従軍慰安婦問題など歴史認識に関わる問題、あるいは「処理水」問題など現代の問題、沖縄の置かれた立場、ウクライナ戦争などを、「さかのぼる」「比較する」「往還する」の3つの手法により歴史的経緯や事実を概観しつつ、日本政府の対応や我々日本人の態度が適切なものであったのかを検討する。こういうのも「役に立つ」歴史学のひとつのあり方だろう。本書では昨今話題の「台湾有事」については触れられていないが、これは本書の手法を踏まえたうえでの読者に残された宿題ということだろう。
読了日:01月24日 著者:宇田川 幸大

ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで (中公新書)ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで (中公新書)感想
高校世界史では古代と近代のシオニズム以降しか取り上げられないユダヤ人の歴史を通史として提示する。著者は近現代史専門ということだが、「選民思想」「一神教」の解説など、その他の時代についてもしっかりした内容となっている。ユダヤ人が常に組み合わさる相手を求めていたこと、そしてそのことが時としてユダヤ人に対する偏見や迫害につながるという構造、ユダヤ人が宗教集団などではなく「ネーション」として意識されるようになったのはシオニズム以降であるといったことを興味深く読んだ。
読了日:01月27日 著者:鶴見太郎

東アジア現代史 (ちくま新書 1839)東アジア現代史 (ちくま新書 1839)感想
「現代史」とあるが、19世紀の「西洋の衝撃」以後の近代史の内容も扱う。個別の内容には食い足りない部分もあるが、触れなければいけない事項は一通り揃っており、日本も含めた東アジア地域の近現代史を概観し、歴史認識問題、台湾問題などについて考えるうえでの土台とするには充分だろう。歴史認識問題は通史部分で経過を押さえるほか、終盤で改めて議論されている。各国の人口問題や格差問題にも紙幅を割いているのが特徴か。
読了日:01月28日 著者:家近 亮子

コメント
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