三国志の考古学 出土資料からみた三国志と三国時代 (東方選書 52)の感想
長らく出土資料に恵まれてこなかった後漢・三国時代史研究だが、近年走馬楼呉簡や曹操墓など目立った発見があったことを承けて、それらを使用した研究の成果を紹介。ただ、本書の異図とは逆に研究の広がりよりは限界を示すものになっているような気もする。数量、あるいは性質が限られた資料を最大限有効に活用して読み取れるだけのことを読み取っていこうとする試みとしては面白い。
読了日:07月01日 著者:関尾史郎
日米安保体制史 (岩波新書)の感想
文字通り安保条約の成立から現在までの状況を追った通史。安保体制の日米同盟化、グローバル化など、内実は少しずつ変化しつつも、日米双方の「非対称性」と「片務性」が問題にされ続けるという構造と、米軍機の墜落事故などの事故・事件が多発するというのは何ら変わっていないのだなと思った。
読了日:07月03日 著者:吉次 公介
楊貴妃 大唐帝国の栄華と滅亡 (講談社学術文庫)の感想
楊貴妃の生涯は割とあっさりめで、当時の文化的・歴史的背景が読みどころ。後世に作られた関連の伝説や文学作品についてかなり紙幅を割いているのも特徴。
読了日:07月05日 著者:村山 吉廣
三体の感想
第一部は文革文学というか傷痕文学のSF版という印象。欧米や日本のSFだと汪淼、丁儀のような人物だけで話が完結し、史強のような人物は出てこないか、出てきても本作のような重要な役割を担うことはないように思う。欧米のSFの猿まねではない中国ならではの要素が盛り込まれていると思う。老百姓の力は地球の人類を救うのか。第二部以降も注目したい。
読了日:07月07日 著者:劉 慈欣
キリスト教と日本人 (ちくま新書)の感想
日本キリスト教布教史を取っかかりにした著者なりの信仰論。キリスト教布教史の部分は先行する著作のまとめという感じだが、「かくれキリシタン」が実は16~17世紀の当初の段階からそれほど変容していなかったのではないかという議論が面白い。ただ、日本にキリスト教が根付かなかった事情について、本書で挙げられているような背景は大体中国や朝鮮半島でも当てはまるのではないかと思う。大胆に言えば、宣教する側や信者の側ではなく、逆に宣教される側の我々の問題点にもっと注目すべきではないかと思う。
読了日:07月09日 著者:石川 明人
二十七日間の皇帝 劉賀 (埋もれた中国古代の海昏侯国)の感想
1巻が海昏侯劉賀の生涯と当時の歴史的背景、2巻が海昏侯墓出土文物について、3巻が海昏侯及び海昏侯墓に関するQ&Aとなる。海昏侯墓に関する知識が手軽に得られる図録集となっているが、1巻に内容と直接関係せず、かつ後の巻と重複する図版が多いのと、「監訳者あとがき」に触れられている通り3巻の内容に既刊分との重複が多いのが難点か。一般書としてはかなり高価なのだから、思い切って編訳にしてもよかったのではないかと思う。
読了日:07月10日 著者:盧 星,方 志遠
流罪の日本史 (ちくま新書)の感想
古代から江戸時代までの流罪を通覧。死罪に次ぐ重罪、あるいは死罪を回避するためのものから、権力者の威を示すためのものに変化するなど、位置づけの変遷がうかがえるのが面白い。戦国時代において死罪にするか流罪にするか、流刑者の帰国を許すかは明確な基準が認められないというのは、前近代の刑罰とはどういうものかを暗示するかのようである。終盤の八丈島の宇喜多氏の話も面白く読んだ。
読了日:07月16日 著者:渡邊 大門
歴史的に考えるとはどういうことかの感想
様々な方向から「歴史的に考える」歴史教育について議論したものだが、小中高の教育現場での取り組みに関係する報告が面白い。特に第6章で紹介されている、小学校での国風文化の成立についてのグループ討論で、塾であらかじめ学習していた生徒が、その内容をなぞる形でグループ内での議論を押し切っていたという話がかなり示唆的になっているように思う。この種の本としては取っつきやすい切り口の話題が多い。
読了日:07月19日 著者:
世界史とつなげて学ぶ 中国全史の感想
世界史とつなげるというよりは、グローバルヒストリー的手法でとらえ直した中国史という感じ。全般的にかなりざっくりした解説になっているが、宋・契丹・西夏などの並立の状況にウェストファリア体制のようなものが成立し得た可能性を見出したり、朝貢一元体制は明朝のみが打ち出したシステムで、全時代的に存在していたものではなかったという指摘は注目すべき。
読了日:07月21日 著者:岡本 隆司
曹操: 奸雄に秘められた「時代の変革者」の実像の感想
関係の専門家による論考14本からなる「曹操研究の最前線」的なアプローチ。家門としての曹氏の再評価、王陵・皇帝陵としての曹操高陵の位置づけ、屯田制の施行や税制改革といった政策面での評価など面白く読んだが、日本の戦国時代などの「研究の最前線」シリーズと比べるとやや物足りない印象も受ける。更に学術性を高めた続編に期待したい。
読了日:07月22日 著者:
日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)の感想
何を学んだかが重要でない学歴(学校歴)重視、一つの組織での勤続年数の重視(年功序列)、日本企業におけるこの二つの特徴が歴史的にどのように形成されてきたのか、アメリカとドイツを比較対象にして論じていく。大企業型・地元型・残余型の日本の雇用・労働の三類型のうち、大企業型が締める割合は実はバブル崩壊を経てもそれほど変化していない、団塊二世の就職難は一九八五年の時点で予測されていたなど、ロスジェネ世代にとっては辛い指摘が多い。
読了日:07月26日 著者:小熊 英二
独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)の感想
独ソ戦を通常戦争・収奪戦争・絶滅戦争という三種類の性格が複合した「複合戦争」と位置づけ、戦局の悪化とともに絶滅戦争としての性質が濃厚となっていったので、軍事的合理性を逸脱した虐殺が行われるようになったこと、また収奪・絶滅戦争を志向するヒトラーと、独ソ戦を通常戦争と認識する国内の軍人や外国との齟齬が合理性なき戦争指導と和平の拒絶につながったさまを描き出す。戦争観の違いへの着目は、他の戦争を考えるうえでも応用が利きそう。
読了日:07月29日 著者:大木 毅
長らく出土資料に恵まれてこなかった後漢・三国時代史研究だが、近年走馬楼呉簡や曹操墓など目立った発見があったことを承けて、それらを使用した研究の成果を紹介。ただ、本書の異図とは逆に研究の広がりよりは限界を示すものになっているような気もする。数量、あるいは性質が限られた資料を最大限有効に活用して読み取れるだけのことを読み取っていこうとする試みとしては面白い。
読了日:07月01日 著者:関尾史郎
日米安保体制史 (岩波新書)の感想
文字通り安保条約の成立から現在までの状況を追った通史。安保体制の日米同盟化、グローバル化など、内実は少しずつ変化しつつも、日米双方の「非対称性」と「片務性」が問題にされ続けるという構造と、米軍機の墜落事故などの事故・事件が多発するというのは何ら変わっていないのだなと思った。
読了日:07月03日 著者:吉次 公介
楊貴妃 大唐帝国の栄華と滅亡 (講談社学術文庫)の感想
楊貴妃の生涯は割とあっさりめで、当時の文化的・歴史的背景が読みどころ。後世に作られた関連の伝説や文学作品についてかなり紙幅を割いているのも特徴。
読了日:07月05日 著者:村山 吉廣
三体の感想
第一部は文革文学というか傷痕文学のSF版という印象。欧米や日本のSFだと汪淼、丁儀のような人物だけで話が完結し、史強のような人物は出てこないか、出てきても本作のような重要な役割を担うことはないように思う。欧米のSFの猿まねではない中国ならではの要素が盛り込まれていると思う。老百姓の力は地球の人類を救うのか。第二部以降も注目したい。
読了日:07月07日 著者:劉 慈欣
キリスト教と日本人 (ちくま新書)の感想
日本キリスト教布教史を取っかかりにした著者なりの信仰論。キリスト教布教史の部分は先行する著作のまとめという感じだが、「かくれキリシタン」が実は16~17世紀の当初の段階からそれほど変容していなかったのではないかという議論が面白い。ただ、日本にキリスト教が根付かなかった事情について、本書で挙げられているような背景は大体中国や朝鮮半島でも当てはまるのではないかと思う。大胆に言えば、宣教する側や信者の側ではなく、逆に宣教される側の我々の問題点にもっと注目すべきではないかと思う。
読了日:07月09日 著者:石川 明人
二十七日間の皇帝 劉賀 (埋もれた中国古代の海昏侯国)の感想
1巻が海昏侯劉賀の生涯と当時の歴史的背景、2巻が海昏侯墓出土文物について、3巻が海昏侯及び海昏侯墓に関するQ&Aとなる。海昏侯墓に関する知識が手軽に得られる図録集となっているが、1巻に内容と直接関係せず、かつ後の巻と重複する図版が多いのと、「監訳者あとがき」に触れられている通り3巻の内容に既刊分との重複が多いのが難点か。一般書としてはかなり高価なのだから、思い切って編訳にしてもよかったのではないかと思う。
読了日:07月10日 著者:盧 星,方 志遠
流罪の日本史 (ちくま新書)の感想
古代から江戸時代までの流罪を通覧。死罪に次ぐ重罪、あるいは死罪を回避するためのものから、権力者の威を示すためのものに変化するなど、位置づけの変遷がうかがえるのが面白い。戦国時代において死罪にするか流罪にするか、流刑者の帰国を許すかは明確な基準が認められないというのは、前近代の刑罰とはどういうものかを暗示するかのようである。終盤の八丈島の宇喜多氏の話も面白く読んだ。
読了日:07月16日 著者:渡邊 大門
歴史的に考えるとはどういうことかの感想
様々な方向から「歴史的に考える」歴史教育について議論したものだが、小中高の教育現場での取り組みに関係する報告が面白い。特に第6章で紹介されている、小学校での国風文化の成立についてのグループ討論で、塾であらかじめ学習していた生徒が、その内容をなぞる形でグループ内での議論を押し切っていたという話がかなり示唆的になっているように思う。この種の本としては取っつきやすい切り口の話題が多い。
読了日:07月19日 著者:
世界史とつなげて学ぶ 中国全史の感想
世界史とつなげるというよりは、グローバルヒストリー的手法でとらえ直した中国史という感じ。全般的にかなりざっくりした解説になっているが、宋・契丹・西夏などの並立の状況にウェストファリア体制のようなものが成立し得た可能性を見出したり、朝貢一元体制は明朝のみが打ち出したシステムで、全時代的に存在していたものではなかったという指摘は注目すべき。
読了日:07月21日 著者:岡本 隆司
曹操: 奸雄に秘められた「時代の変革者」の実像の感想
関係の専門家による論考14本からなる「曹操研究の最前線」的なアプローチ。家門としての曹氏の再評価、王陵・皇帝陵としての曹操高陵の位置づけ、屯田制の施行や税制改革といった政策面での評価など面白く読んだが、日本の戦国時代などの「研究の最前線」シリーズと比べるとやや物足りない印象も受ける。更に学術性を高めた続編に期待したい。
読了日:07月22日 著者:
日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)の感想
何を学んだかが重要でない学歴(学校歴)重視、一つの組織での勤続年数の重視(年功序列)、日本企業におけるこの二つの特徴が歴史的にどのように形成されてきたのか、アメリカとドイツを比較対象にして論じていく。大企業型・地元型・残余型の日本の雇用・労働の三類型のうち、大企業型が締める割合は実はバブル崩壊を経てもそれほど変化していない、団塊二世の就職難は一九八五年の時点で予測されていたなど、ロスジェネ世代にとっては辛い指摘が多い。
読了日:07月26日 著者:小熊 英二
独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)の感想
独ソ戦を通常戦争・収奪戦争・絶滅戦争という三種類の性格が複合した「複合戦争」と位置づけ、戦局の悪化とともに絶滅戦争としての性質が濃厚となっていったので、軍事的合理性を逸脱した虐殺が行われるようになったこと、また収奪・絶滅戦争を志向するヒトラーと、独ソ戦を通常戦争と認識する国内の軍人や外国との齟齬が合理性なき戦争指導と和平の拒絶につながったさまを描き出す。戦争観の違いへの着目は、他の戦争を考えるうえでも応用が利きそう。
読了日:07月29日 著者:大木 毅
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