日が暮れて夜の気配が濃くなる前の時間、ふと部屋の外から線香花火の匂い。
煙たい、ちりちりと火が移っていく時の匂いがする。
気になってベランダに出てみたけれど、あたりを見渡してもそのような人影は見当たらない。
でも。やっぱりどこからかあの匂いがする。
今日も暑かった。日中も夜になってからも。
でも、エアコンより生ぬるい風を扇風機でかき回し、汗をかきながらそれにあたるのが好き、これは本当。
とにかく今夜もそういうふうにしていた。
そのおかげで、懐かしい匂いを感じることができた。
夏の匂いだ。
今週末は近くで夏祭りがあるらしい。
浴衣を着た親子連れがたくさん歩いて行った。普段見ないけれど、子どもが意外に多いことに気がつく。
そういえば、ふるさと京都は祇園祭。宵山だ。
懐かしいコンコンチキチンのお囃子の音や宵山の人の波や喧騒を思い出す。
明日の山鉾巡行が終わると、京都は本格的な夏を迎える。
私が住んでいた頃はそうだった。今は?今も変わらず?
それがわからないほど、京都は年に1回行ければいいくらい、遠いものになってしまっている。
真夏日の夜に、部屋に流れてきた線香花火の匂い。
線香花火の明かりが消えるその時は、いのちの火が消えゆく時のようでいつもちょっとさみしい。
それでも、その瞬間を見逃さないようにとじっと見つめていた幼い頃を思い出す。
夏の終わりを迎えるまでに、また流れてきたらうれしい。その日までさあ夏本番。