活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

「米欧回覧実記」のヴァチカン・ヴェネッィア

2009-03-09 16:51:30 | 活版印刷のふるさと紀行
日本に活版印刷をもたらした天正少年使節がマドリッドでフェリーペ2世(肖像画)に会い、ヴァチカンでグレゴリヨ十三世やシクスト五世の謁見を受けたことを
岩倉使節団はまったく知らなかったのでしょうか。

 たしかに、287年もの歳月が経過しています。特命全権大使の一行でありながら時の法王ピオ9世には会えず、当然、所蔵されていたに違いない天正少年使節ゆかりの品にも対面していません。

 ヴァチカン訪問の前に、ヴェネッィアの文書館で日本文字の署名があるラテン語の書簡を見せられて「大友氏が遣わした使節の書簡」と断じています。しかし、これは伊達政宗の命を受けて、天正少年使節におくれること30年にローマ教皇パウルス5世に謁見した慶長遣欧使節の支倉常長のものと取り違えています。

 このことから政府高官になるような当時としては知識人といえども、キリシタンがらみのことはまったく知ろうとしていなかったし、わきまえてはいなかったのでしょう。印刷関連記事の少なさとともに、このことでもなんとなく物足りない感じを受けたわたくしです。
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活字は卑金属の解説がおもしろい

2009-03-09 13:38:22 | 活版印刷のふるさと紀行
 「米欧回覧実記」に出てくる訪問国にはポルトガルとスペインがありません。
日本がグーテンベルク式の活版印刷術 を最初に学んだのはポルトガルのリスボンであったし、天正少年使節の足跡がたくさん残っているはずのスペインが政情不安からネグられているのは誠に残念。

 使節団の一行が訪ねた印刷所は1.アメリカ編の第12章のワシントンの印刷局で、書籍印刷を見学しています。そのくだりでおもしろい記述を見つけました。
 活字を「銅版」と呼ぶのは日本の俗称である―と、決めつけておいて、事実は鉛とアンチモニーあるいはビスマス(蒼鉛)を使う。そのふたつは、金や銀のたぐいの貴金属に対して卑金属だと解説しています。

 なるほど、安いから卑金属かと妙な感心をしたわけですが、印刷の発明はコロンブスのアメリカ発見にも匹敵するもので、アメリカでは、建国以来書籍の印刷に力をいれ、それが一般的な学問を民衆に普及させる原因になっているという指摘は印刷の持つ力を正当に評価してくれていました。

 3.ヨーロッパ大陸編上のベルリン市の項では、王立印刷所を訪ねています。
国債、証券、紙幣、郵便切手など。かなり、精巧な凹版印刷を見学しています。
使節団が出発したのは明治4年11月でしたが、当時、日本の印刷界は本木昌造から平野富二が長崎の活版製造所の経営を引き受けた直後で、一般の人は印刷に対してまだ、ほとんど知識がないときだけに、工程をよく理解しているのにはおどろかされます。

 

 

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水澤 周が現代語訳した『米欧回覧実記』

2009-03-09 11:11:52 | 活版印刷のふるさと紀行
 いま、手元に現代語訳 特命全権大使『米欧回覧実記』(全5巻)があります。
2005年に慶応義塾大学出版会から出たものですが、底本は明治11年、久米邦武の編著で 刊行されたものです。
 この本や全権大使岩倉具視を団長とする使節団の二年近い米欧視察の旅はあまりにも有名ですから説明の必要はありません。

 それじゃなぜ、私がこの『米欧回覧実記』を引っ張り出したかですが、理由は二つあります。
一つは、岩波文庫に入っている原著は、漢文調でとても私の手に負えませんでした。現代語訳でなら、使節団が見た海外印刷事情などがよくわかるのではないかという期待がありました。
 もう一つは、この本の現代語訳と注に全力を傾注した水澤 周が学友で、発刊時、早々に買い求めたというイワクがあるからでもあります。残念なことに、彼はこの仕事を最後に病没してしまいました。

 前置きが長くなってしまいました。誕生したての日本の明治政府から総勢五十人近い人たちが、米欧を駆け巡ったことで日本のその後に大きな影響を与えたことは
よく知られております。
 次回、岩倉使節団が見た海外印刷事情について述べることにして、今回は現代語訳 特命全権大使「米欧回覧実記」と水澤 周の紹介にとどめます。


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