活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

山本隆太郎さんとの思い出2

2010-03-06 10:38:14 | 活版印刷のふるさと紀行
 私の書斎にあなたにいただいた小額に入った水彩画が2点
架かっております。ブラジルのリオとフランスのボルドーの
風景がさりげない滲みやぼけ技法を使って実に軽妙に描かれて
おります。

 思い出してみると印刷業界の国際会議であちこちご一緒し
ましたね。ヴェネツィア、マドリッド、アントワープ、マインツ
…いちばん忘れられないのは、ローテンブルグであなたが私に
しかけた小さないたずらです。公開ははばかりますが。

 銀座のあるお店でしばしば合流しましたが、お酒が得意で
ないあなたは、ママのピアノにあわせてギターを弾くのがなに
より楽しみと見ました
 何曲か合奏を終えて、比較的早い時間に帰って行かれるのが
常でしたが、あのときの仕事の場では見ることのない満ち足り
たお顔が私は好きでした。

 十数年まえのことです。あるシャンソニエを紹介しましたら、
気に入っていただいて随分足繁く通ってくださいました。
 あるとき、お気に入りの歌姫の舞台のとき、つかつかとステージ
に近寄って行って海外でわざわざ買い求められたカンカン帽をプレ
ゼントされました。めずらしいことでした。
私は当然、彼女がそれををかぶって投げキッスのポーズぐらいする
ものと見守っていました。ところが、彼女、かたわらのピアノの上
に帽子を置いたまま歌い終えてしまったのです。

 以来、あなたはプッツリそこを訪ねなくなりました。理由は口に
されませんでしたが私にはわかります。プロならプロらしく、なに
ごとでも繊細な気遣いが出来ない人は許せない真面目な人柄でした。
 本当は彼女の方が気を遣ったのかもしれないのに。

 一つだけ、はたせなかった「約束」があります。それは、千葉の
久留里にごいっしょできなかったことです。「子供のとき行ったまま
で一度行きたいのだ」
 桜の咲くころ、久留里城あたりを歩くことを想像しておりましたの
に残念です。心からご冥福をお祈りいたします。



 
コメント
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