平成19年(ワ)第1 7 9 3号更新料返還等請求事件
判決要旨
京都地方裁判所第4民事部
第1 結論・・・請求棄却
第2 事案の概要
被告との間で賃貸借契約を締結し、被告の所有する物件に居住していた原告が、更新料支払の約定が消費者契約法10条又は民法9 0条に反し無効であると主張して、既払いの更新料の返還等を求めた事案
第3 判決理由の要旨
1 更新料の法的性質について
(1)更新拒絶権放棄の対価(紛争解決金)・賃借権強化の対価の性質について
ア 更新料が授受され合意更新が行われる場合、賃貸人は、更新拒絶の通知をしないで、契約を更新するのであるから、更新料は、更新拒絶権放棄の対価の性質を有する。
また、法定更新の場合(更新後は、期間の定めのない賃貸借となり、賃貸人からいつでも解約申入れが可能となる。)とは異なり、合意更新により更新後も期間の定めのある賃貸借となる場合には、賃借人は、期間満了まで明渡しを求められることがない上、賃貸人が将来、更新を拒絶した場合の正当事由の存否の判断にあたり、従前の更新料の授受が考慮されるものと考えられるから、更新料は、賃借権強化の性質を有する。
イ もっとも、常に更新拒絶や解約申入れの正当事由があると認められるものではなく、特に、本件のように専ら賃貸目的で建築された居住用物件の賃貸借契約においては、正当事由が認められる場合は多くはないと考えられるし、本件賃貸借契約の期間は1年間と比較的短期間であり賃借権が強化される程度は限られたものであるから、本件更新料の有する、更新拒絶権放棄の対価・賃借権強化の対価としての性質は希薄である。
(2) 賃料の補充の性質について
ア 上記のとおり、本件更新料の有する、更新拒絶権放棄の対価及び賃借権強化の対価としての性質は希薄であるにもかかわらず、原告と被告は、更新料支払の約定のある本件賃貸借契約を締結している。
このような契約当事者の意思を合理的に解釈すると、賃貸人は、1年目は、礼金と家賃を加算した金額の売り上げを、2年目以降は、更新料と家賃を加算した金額の売り上げを期待しているものと考えられ、他方、賃借人は、更新料を含む経済的な出指を比較検討した上で、物件を選択しているとみることができる。そして、原告又は被告が、これと異なる意思を有していたことを認めるに足りる証拠はない。
イ このように、本件更新料は、本件物件の賃貸借に伴い約束された経済的な出損であり、本件約定は、1年間の賃料の一部を更新時に支払うこと(いわば賃料の前払い)を取り決めたものであるというべきである。
2 本件約定が民法9 0条により無効といえるか
本件更新料は、その金額,契約期間や月払いの賃料の金額に照らし、直ちに相当性を欠くとまではいえないから、本件約定が民法9 0条により無効であるということはできない。
3 本件約定が,消費者契約法10条により無効といえるか。
(1) 消費者契約法10条前段の要件(「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の義務を加重する消費者契約の条項」)を満たすか。
本件更新料が、主とじて賃料の補充(賃料の前払い)としての性質を有していることからすると、本件約定は、「賃料は、建物については毎月末に支払わなければならない」と定める民法614条本文と比べ、賃借人の義務を加重しているものと考えられるから、本件約定は、上記要件を満たす。
(2) 消費者契約法10条後段の要件(「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」)を満たすか。
① 本件更新料の金額は、契約期間や賃料の月額に照らし、過大なものではないこと
② 本件更新料約定の内容は明確である上,その存在及び更新料の金額について原告は説明を受けていることからすると、本件約定が原告に不測の損害、不利益をもたらすものではないこと
等を併せ考慮すると、本件約定が上記要件を満たすものとはいえない。
(3) 結論
以上より、本件約定が消費者契約法10条により無効であるということはできない。
以上