旬刊商事法務2020年10月5日・15日合併号(商事法務研究会)に,実務問答会社法第45回「簡易合併に関する諸問題」が掲載されており,「簡易合併において任意に株主総会を開催した場合の株式買取請求」について論じられている。筆者は,邉英基弁護士・元法務省民事局付。
【要旨】
簡易合併の要件を満たす場合において吸収合併存続会社が任意に株主総会を開催したときは,当該株主総会において反対をした株主(会社法第797条第2項第1号イの要件を満たした株主)は,株式買取請求をすることができる。
私は,簡易組織再編の要件を満たす以上,株式買取請求が行使可能となる余地はないと理解していた。
例えば,
「平成26年改正後は,797条1項ただし書が「796条第2項本文に規定する場合」(=簡易組織再編の基準に該当する場合)を明示的に反対株主が買取請求をできる場合から除いていることから,そのような場合に株式買取請求を適法に認める余地はないことになる」(小出篤「組織再編等における株式買取請求」(旬刊商事法務2015年4月15日号(商事法務研究会)12頁)
平成26年改正前会社法下においても,
「簡易吸収分割・簡易新設分割を行う分割会社の株主について,任意の株主総会を行ったからといって株式買取請求が行使可能になるわけではないと解されている」(藤原総一郎ほか「株式買取請求の法務と税務」(中央経済社)18頁)。
であった。
また,小松岳志「株式買取請求権が発生する組織再編の範囲」(岩原紳作・小松岳志編「Jurist増刊 会社法施行5年 理論と実務の現状と課題」(有斐閣)130頁以下においても,「存続会社等の簡易組織再編では株式買取請求権が発生しないとされた場合の実務的な観点からの留意点」と題する項において,上掲邉英基論文と同様の問題意識から,
「現行法の「株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合(会社法797条2項1号)という文言について,任意に株主総会決議を得た場合を明確に含む形に改正し,法定か任意かを問わず株主総会が行われた場合には会社法797条2項1号の「反対株主」には株式買取請求権が与えられるという規律であると明示されるか,又は,簡易組織再編の要件を満たす以上は,任意の株主総会によって株式買取請求権が与えられることはないという規律であるのかが法文上明確であることが,少なくとも実務的には望ましい」(135頁)
と述べられており,平成26年改正前から問題点として指摘されていたところである。
そもそも会社法第797条の見出しは,「反対株主の株式買取請求」とあるが,同条の通知(第3項)又は公告(第4項)には,
(1)吸収合併存続会社において株主総会の決議を要する場合に,その株主が反対することによる買取請求権を保障するための通知又は公告
(2)吸収合併存続会社において簡易合併の要件を満たす場合(会社法第796条第2項本文に規定する場合)に,一定数の株主が反対することによる株主総会の承認手続を保障するための通知又は公告
の双方が含まれており,本来,この二つの手続を区別して規定を置くべきであったと考える。
ところで,上記実務問答の設例は,上場会社間の吸収合併であるが,株式買取請求に係る株式の買取りは,効力発生日に,その効力を生ずる(会社法第798条第6項)ものとされており,振替株式にあっては,振替口座簿に記録されることとなるから,簡易合併 or not は,早期に明確である必要がある。
すなわち,簡易合併の要件該当性と,請求株主の「反対株主」の要件該当性について,早期に確認する必要がある。上場会社において,念のため株主総会の承認を得るとしても,効力発生日の直前においても「簡易合併の要件該当性」に関して判断がつかないようであれば,さすがに手続を回避すべきではないか。
とまれ,簡易合併の要件該当性について判断が難しいことから任意の株主総会を開催する場合に,会社法第797条第3項の通知又は第4項の公告を行うときは,株式会社の実務対応としては,その旨及び吸収合併に反対であれば会社法第796条第3項の定める期間内に反対の意思表示が必要である旨を明らかにしてすべきであろう。
そうであれば,同項が定める一定数の株主の反対がなく,そして簡易合併の要件を充足していることが明らかになったときは,仮に一部の株主から反対があり,買取請求がされたとしても,買取請求権は存しないものとして対応することができると考えられる。
というわけで,疑問を呈しておく。
なお,会社法第797条第2項第2号の「前号に規定する場合以外の場合」とは,如何なる場合であろうか?
そもそも同号は,株主総会の決議を要する場合以外の場合(簡易合併や略式合併等)の手当であるから,これらの場合に反対株主の買取請求が認められない以上,抜け殻(空振りの規定)となっているように思われるのだが。
存置の必要があるのだろうか?
【要旨】
簡易合併の要件を満たす場合において吸収合併存続会社が任意に株主総会を開催したときは,当該株主総会において反対をした株主(会社法第797条第2項第1号イの要件を満たした株主)は,株式買取請求をすることができる。
私は,簡易組織再編の要件を満たす以上,株式買取請求が行使可能となる余地はないと理解していた。
例えば,
「平成26年改正後は,797条1項ただし書が「796条第2項本文に規定する場合」(=簡易組織再編の基準に該当する場合)を明示的に反対株主が買取請求をできる場合から除いていることから,そのような場合に株式買取請求を適法に認める余地はないことになる」(小出篤「組織再編等における株式買取請求」(旬刊商事法務2015年4月15日号(商事法務研究会)12頁)
平成26年改正前会社法下においても,
「簡易吸収分割・簡易新設分割を行う分割会社の株主について,任意の株主総会を行ったからといって株式買取請求が行使可能になるわけではないと解されている」(藤原総一郎ほか「株式買取請求の法務と税務」(中央経済社)18頁)。
であった。
また,小松岳志「株式買取請求権が発生する組織再編の範囲」(岩原紳作・小松岳志編「Jurist増刊 会社法施行5年 理論と実務の現状と課題」(有斐閣)130頁以下においても,「存続会社等の簡易組織再編では株式買取請求権が発生しないとされた場合の実務的な観点からの留意点」と題する項において,上掲邉英基論文と同様の問題意識から,
「現行法の「株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合(会社法797条2項1号)という文言について,任意に株主総会決議を得た場合を明確に含む形に改正し,法定か任意かを問わず株主総会が行われた場合には会社法797条2項1号の「反対株主」には株式買取請求権が与えられるという規律であると明示されるか,又は,簡易組織再編の要件を満たす以上は,任意の株主総会によって株式買取請求権が与えられることはないという規律であるのかが法文上明確であることが,少なくとも実務的には望ましい」(135頁)
と述べられており,平成26年改正前から問題点として指摘されていたところである。
そもそも会社法第797条の見出しは,「反対株主の株式買取請求」とあるが,同条の通知(第3項)又は公告(第4項)には,
(1)吸収合併存続会社において株主総会の決議を要する場合に,その株主が反対することによる買取請求権を保障するための通知又は公告
(2)吸収合併存続会社において簡易合併の要件を満たす場合(会社法第796条第2項本文に規定する場合)に,一定数の株主が反対することによる株主総会の承認手続を保障するための通知又は公告
の双方が含まれており,本来,この二つの手続を区別して規定を置くべきであったと考える。
ところで,上記実務問答の設例は,上場会社間の吸収合併であるが,株式買取請求に係る株式の買取りは,効力発生日に,その効力を生ずる(会社法第798条第6項)ものとされており,振替株式にあっては,振替口座簿に記録されることとなるから,簡易合併 or not は,早期に明確である必要がある。
すなわち,簡易合併の要件該当性と,請求株主の「反対株主」の要件該当性について,早期に確認する必要がある。上場会社において,念のため株主総会の承認を得るとしても,効力発生日の直前においても「簡易合併の要件該当性」に関して判断がつかないようであれば,さすがに手続を回避すべきではないか。
とまれ,簡易合併の要件該当性について判断が難しいことから任意の株主総会を開催する場合に,会社法第797条第3項の通知又は第4項の公告を行うときは,株式会社の実務対応としては,その旨及び吸収合併に反対であれば会社法第796条第3項の定める期間内に反対の意思表示が必要である旨を明らかにしてすべきであろう。
そうであれば,同項が定める一定数の株主の反対がなく,そして簡易合併の要件を充足していることが明らかになったときは,仮に一部の株主から反対があり,買取請求がされたとしても,買取請求権は存しないものとして対応することができると考えられる。
というわけで,疑問を呈しておく。
なお,会社法第797条第2項第2号の「前号に規定する場合以外の場合」とは,如何なる場合であろうか?
そもそも同号は,株主総会の決議を要する場合以外の場合(簡易合併や略式合併等)の手当であるから,これらの場合に反対株主の買取請求が認められない以上,抜け殻(空振りの規定)となっているように思われるのだが。
存置の必要があるのだろうか?