司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

簡易合併において任意に株主総会を開催した場合の株式買取請求

2020-10-19 22:54:39 | 会社法(改正商法等)
 旬刊商事法務2020年10月5日・15日合併号(商事法務研究会)に,実務問答会社法第45回「簡易合併に関する諸問題」が掲載されており,「簡易合併において任意に株主総会を開催した場合の株式買取請求」について論じられている。筆者は,邉英基弁護士・元法務省民事局付。

【要旨】
 簡易合併の要件を満たす場合において吸収合併存続会社が任意に株主総会を開催したときは,当該株主総会において反対をした株主(会社法第797条第2項第1号イの要件を満たした株主)は,株式買取請求をすることができる。

 私は,簡易組織再編の要件を満たす以上,株式買取請求が行使可能となる余地はないと理解していた。

 例えば,

「平成26年改正後は,797条1項ただし書が「796条第2項本文に規定する場合」(=簡易組織再編の基準に該当する場合)を明示的に反対株主が買取請求をできる場合から除いていることから,そのような場合に株式買取請求を適法に認める余地はないことになる」(小出篤「組織再編等における株式買取請求」(旬刊商事法務2015年4月15日号(商事法務研究会)12頁)

 平成26年改正前会社法下においても,

「簡易吸収分割・簡易新設分割を行う分割会社の株主について,任意の株主総会を行ったからといって株式買取請求が行使可能になるわけではないと解されている」(藤原総一郎ほか「株式買取請求の法務と税務」(中央経済社)18頁)。

であった。

 また,小松岳志「株式買取請求権が発生する組織再編の範囲」(岩原紳作・小松岳志編「Jurist増刊  会社法施行5年 理論と実務の現状と課題」(有斐閣)130頁以下においても,「存続会社等の簡易組織再編では株式買取請求権が発生しないとされた場合の実務的な観点からの留意点」と題する項において,上掲邉英基論文と同様の問題意識から,

「現行法の「株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合(会社法797条2項1号)という文言について,任意に株主総会決議を得た場合を明確に含む形に改正し,法定か任意かを問わず株主総会が行われた場合には会社法797条2項1号の「反対株主」には株式買取請求権が与えられるという規律であると明示されるか,又は,簡易組織再編の要件を満たす以上は,任意の株主総会によって株式買取請求権が与えられることはないという規律であるのかが法文上明確であることが,少なくとも実務的には望ましい」(135頁)

と述べられており,平成26年改正前から問題点として指摘されていたところである。

 そもそも会社法第797条の見出しは,「反対株主の株式買取請求」とあるが,同条の通知(第3項)又は公告(第4項)には,

(1)吸収合併存続会社において株主総会の決議を要する場合に,その株主が反対することによる買取請求権を保障するための通知又は公告

(2)吸収合併存続会社において簡易合併の要件を満たす場合(会社法第796条第2項本文に規定する場合)に,一定数の株主が反対することによる株主総会の承認手続を保障するための通知又は公告

の双方が含まれており,本来,この二つの手続を区別して規定を置くべきであったと考える。

 ところで,上記実務問答の設例は,上場会社間の吸収合併であるが,株式買取請求に係る株式の買取りは,効力発生日に,その効力を生ずる(会社法第798条第6項)ものとされており,振替株式にあっては,振替口座簿に記録されることとなるから,簡易合併 or not は,早期に明確である必要がある。

 すなわち,簡易合併の要件該当性と,請求株主の「反対株主」の要件該当性について,早期に確認する必要がある。上場会社において,念のため株主総会の承認を得るとしても,効力発生日の直前においても「簡易合併の要件該当性」に関して判断がつかないようであれば,さすがに手続を回避すべきではないか。

 とまれ,簡易合併の要件該当性について判断が難しいことから任意の株主総会を開催する場合に,会社法第797条第3項の通知又は第4項の公告を行うときは,株式会社の実務対応としては,その旨及び吸収合併に反対であれば会社法第796条第3項の定める期間内に反対の意思表示が必要である旨を明らかにしてすべきであろう。

 そうであれば,同項が定める一定数の株主の反対がなく,そして簡易合併の要件を充足していることが明らかになったときは,仮に一部の株主から反対があり,買取請求がされたとしても,買取請求権は存しないものとして対応することができると考えられる。

 というわけで,疑問を呈しておく。

 なお,会社法第797条第2項第2号の「前号に規定する場合以外の場合」とは,如何なる場合であろうか?

 そもそも同号は,株主総会の決議を要する場合以外の場合(簡易合併や略式合併等)の手当であるから,これらの場合に反対株主の買取請求が認められない以上,抜け殻(空振りの規定)となっているように思われるのだが。

 存置の必要があるのだろうか?
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会社法等の研修会

2020-10-19 17:17:40 | 会社法(改正商法等)
今後の講師等の予定。

2020年
11月19日(木)京都司法書士会会社法研究会(Webinar)※会社法
11月20日(金)京都司法書士会洛北支部研修会(京都市)※会社法
12月 4日(金)京都司法書士会洛西支部研修会(京都市)※相続法
12月22日(火)某会会員セミナー(Webinar)※会社法
実施日未定    某市相談員研修(Webinar)※民法改正
         某会某支部研修会(某市)※会社法

2021年
 1月16日(土)某会会員研修会(Webinar)※会社法
 2月20日(土)某会会員研修会(某市)※会社法
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「配偶者居住権の被保険利益と損害保険契約」

2020-10-19 15:22:20 | 民法改正
 旬刊商事法務2020年10月5日・15日合併号(商事法務研究会)9頁以下に,竹濵修「民法改正の保険契約への影響」があり,同論文において,「配偶者居住権の被保険利益と損害保険契約」が論じられている。

 気付かなかった論点であるが,重要な視点である。

「配偶者居住権は,居住建物の所有者を債務者としてその権利を主張でき,金銭的に評価可能な経済的利益として把握され,遺産分割等においてその評価額が算定されるものであるから,配偶者を被保険者として被保険利益となる適格性があると考えられる」

「配偶者居住権の設定によって建物所有権の内容が,利用権と価値権としての所有権に区分され,異なる権利者に分属する形となっていると理解できよう。そうすると,これら両方を全体として火災保険契約で補償しようとすると,配偶者と所有者の両者を保険契約者・被保険者として,いわば共有者のような形で火災保険契約を締結し,通常の建物(配偶者居住権がない状態)の価額で被保険利益を評価して保険価額を算定する方法が考えられる。この場合は,共有者の持分割合を定めるようにして,保険事故発生時にはその割合に従って保険金を支払うことにする。この方法は,配偶者と所有者が共同することができることが前提になる。配偶者が単独で配偶者居住権のみを保険の目的として火災保険契約を締結することは,現在の保険商品の考え方からすると,難しいのではないかと思われる」

 相続開始後,保険契約者及び被保険者を変更する際には,上記を失念しないようにである。
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自筆証書遺言書制度の利用状況について(令和2年9月まで)

2020-10-19 10:09:04 | 民法改正
自筆証書遺言書制度の利用状況について by 法務省
http://www.moj.go.jp/content/001327091.pdf

 令和2年9月の遺言書の保管申請件数は,やや減であるが,遺言書情報証明書の交付請求件数は,一気に13件。

 遺言書保管所に出頭して遺言書の保管申請を行ったのに,たちまち(2か月前後で)亡くなったということ?
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