待ちに待った飲み会付き札幌行の前日、「チㇿンヌㇷ゚カムイ イオマンテ(日川善次郎エカシの伝承による)」という映画が上映中だと、ネット記事で知った。この映画は、今から36年前の1986年、道東の美幌峠(屈斜路湖を北から見下ろす位置にある峠・絶景)で行われた、キタキツネのイオマンテ(霊送り)の模様を映像化したもの。
このイオマンテの執行を依頼された日川善次郎翁(故人)は釧路に住んでいたアイヌ神事の伝承者で、出身地の沙流地方(日高)のほか、全道各地に呼ばれて祭祀を司った。映画では、彼が若き日に放蕩の限りを尽くし、妻子を路頭に迷わせたことさえも詳しく語られる。存命だったら映さないでくれと彼は言っただろうか。きっと黙ったままで照れくさそうに笑っているような飾らない人柄だったのでは。映像は、日川翁の動きと儀式の進行を淡々と追っていくのだが、見終わったとき何とも言えない切ない気持ちがわき上がってきた。美しい映画だ。
映画の次は本屋探訪。あれもこれもほしいと広い店内を探し回ったが、買ったのはたったの4冊。「トニオ・クレエゲル」「方丈記」「戦後政治史 第四版」と、最近出た「新釈全訳 日本書紀(上)」(編訳・金沢英之ほか3名、講談社)。
書籍リストにあった「倭国の古代学」「予告された殺人の記録」「第2次世界大戦秘史」「岩波講座世界歴史・第6巻中華世界の再編」「ソ連のおばさん」は品切れで、「海の民の日本神話ー古代ヤポネシア表通りをゆく」「デビッド・ボウイー無を歌った男」「柳田国男随行記」などはページをめくったが、今回買わないことにした。「古代ヤポネシア」は5世紀の関東から東北への人流の意味を考えるうえでやはり読むべきかと、帰宅してから思った。岩波世界歴史第6巻もぜひ取り寄せたい。
そのほかに、「魚にも自分がわかるー動物認知研究の最先端」(ちくま新書)、「酒の肴 抱樽酒話」(青木兒、岩波文庫・古書を探すしかない)、「藤原定家『明月記』の世界」(岩波新書)、「石川淳評論集」(ちくま文庫)を探したが、いずれも書棚に並んでいなかった。
ところで、「新釈全訳 日本書紀(上)」は税込みで5,000円もする本。なぜ買ったかというと、編訳の一人で日本文学者の金沢英之氏(北大教授)は私にとって身近な人なのだ。5年くらい前、ある社会人講座の彼の講義を受講したし、彼が日本のプルースト研究の草分けの井上究一郎氏の令孫であることも知っている。「義経の冒険」も読んだし、昨年のS大の科目履修の際、H先生の講義の中で、アイヌ語を瞬く間に習得した天才的人物としても登場した。そんなわけで衝動買いしてしまった。ちなみに私のブログにも彼の記事がある。しかし、彼は私のことをまったく知らない。(2022.6.8)