黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

ハロウィンの家

2014年04月01日 11時05分39秒 | ファンタジー

 昨年の暮、雪がそろそろ降り始めるころ、我が家からサント・ヴィクトワールの山並へ向かう方角の空き地に、コンクリートの丸い基礎が出現した。こんな住宅街に、鉄塔でも建つのだろうかとひやひやしていたら、変な家の形が積み上がってきた。こりゃスカスカの鉄塔の方が景観が保護されたのにとがっくり。ようやく本格的な降雪になった今年、ニョッキリ出現したのはサイロのような円筒型の家。陽が沈むころになると、その家は、我が家の一番大きな窓にくっきりと影を投じる位置にある。つまり、手稲山の一部に引っかかっていた寺院の姿をほぼすっぽり隠してくれた。
 あたりが薄暗くなり、円筒の家に初めて灯がともる。トタンをつぎはぎして作った丸屋根には、四個の三角窓がくり抜かれていた。目じりをつり上げた道化の目ようなぼんやり明るい三角窓に、ついつい引き付けられるうちに、あることに気がついた。丸屋根全体が、例のカボチャのランタンの雰囲気なのだ。
 ハロウィンという西洋の祭りの淵源には、古代人たちの宗教的な儀式が存在したという。しかし、宗教的文化的に異なる環境に住む我々には、大人から子供まで仮装して騒ぐとか、カボチャなどをくり抜いて遊ぶといった、表面的な事象しか見えない。クリスマスに抱くイメージと同じだ。
 その晩、眠りにつく直前のこと。私の脳裏に浮かんだ三角窓のひとつが、ギイーと萎びた音を立てて開いた。その奥から何か古びた顔がぬっと出てこようとするのが見える。そのイメージを抑えられなくなった私は、布団から飛び起きて、魔法よ解けろと大声で叫んでいた。(2014.4.1)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする