acc-j茨城 山岳会日記

acc-j茨城
山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

中ノ岐川・巻倉沢~兎岳~岩魚止沢下降

2023年10月17日 20時19分50秒 | 山行速報(沢)

2023/10/3-4 中ノ岐川・巻倉沢~兎岳~岩魚止沢下降


やっぱり兎岳に行く
そう決めたのは、数日前
山行前夜に催される懇親会に誘われた時のことだった

参加は自由
会議の後、行きませんか?
そう問われて、咄嗟に「ちょっと野暮用があるので」と口をついた
会社人としてはどうかとも思ったが、そう答えていた

兎岳との出逢いは16年前
利根川を遡ったその先に佇む峰、包容とした姿が印象的だった

控えめで、飾り立てて人目を引こうとはしない態度
私は、そんな姿に惹かれたのだ

折角なら沢を繋ぐ山旅がいい
中ノ岐林道から西沢、巻倉沢を詰めて兎岳へ

不安は雪渓の状態だが、この夏に限って言えばおそらく消えているだろう
そこにはどんな景観が広がっているのか
想像して高揚する反面、未知なる旅をためらう自分もいた

そんな時に誘われた前出の懇親会
咄嗟に口をついた言葉に、もう自分は決心していたんだなと自覚した


シルバーラインのタイムトンネルをゆっくりと走り抜け、銀山平
暗闇の樹海ラインを奥只見湖に沿って走り、雨池橋にて一夜を明かす

目覚めると車窓に微かな雨
それでも雲の流れと、森から立ち昇る靄でこれから晴れることはわかった

中ノ岐林道から西沢までのアプローチに自転車を使う
登り基調の林道でザックを背負いながらのクライムサイクリングは辛いので半分以上、押し歩き
この辺りは以前の経験から想定通り

それでもナメの美しい二岐川や林道に水を落とす滝沢、遥か上から流れを落とす上カブレ沢など見所は随所にあって飽きることはない

西ノ沢橋の手前左岸に藪に埋もれた林道がある
しばらくはそれを辿り、岩魚止沢
帰り道に通るであろうこの踏み跡入り口にケルンを積んでおく

そこからさらに西沢左岸の藪を行くと自然と沢に降りる
西沢の水量は多く、想像より冷たかった

雪渓の存在も想定しながら、岸辺を辿る
時に現れるゴルジュ地形も小さく巻いたりへつって行けば困難はない

左に下り上り沢を見て、淡々と進みオキノ巻倉沢との出合
ここは水量の多い巻倉沢へ

地形図ではこの辺りから雪渓に埋もれているのだが、さすがに今年はただの河原だ

ちなみに、地形図の「雪渓」マークは国土地理院では「地図記号:万年雪」というらしい
そして万年雪の記号は、9月頃の雪の少ないときに50メートル×50メートル以上あるものを表示しているそうだ

巻倉沢はしばらく明るい河原が続き、巻倉岳への支流を見送ると次第に両岸は立ってくる
ゴルジュ状を1か所通過するが、困難はない
その後、小滝が続き水流脇を登ったり小さな巻きを繰り返す

中流部はゴーロが続く
たまに現れる小滝も小さく巻いたり、水流脇を行くことができる

左に支流を見ると、滝場が始まる
序盤は水流近くが階段状なので、どれも容易

標高1550mあたりの屈曲点で左に支流を見送ると、2段15m滝
ここは水流奥から取付いて中段で水流を跨ぐ
上段は右岸の岩草ミックスを登り、大岩下で落ち口にトラバースするがちょっと怖い
その後、10m直瀑は右岸巻き、2段10mは水流右を行く

そして巻倉沢最大と思しき、3段30m滝
下段、中段は水流右を行き、上段は右岸スラブを巻き気味に行く
草と岩が外傾しているので、念のため空身+チェーンスパイクで行き、荷揚げ
藪に入ってトラバース、草付き急傾斜を草頼りのクライムダウンで沢床に復帰

この後もいくつか滝は出てくるが、水流脇を登ることができる
次第に開ける源頭が秋の空に映えた

その後はガレが多くなる
そしてガレの間から水が湧き出しておりこれが水源となっていた
水を500ml確保し、この先は沢型を忠実に詰めていく

左に大水上山が見えるころ、小笹から背丈ほどの藪に突入
15分ほど藪を漕ぐと兎岳への登山道に出る

荷物をデポして、大水上山まで往復
奥利根の山々を指呼しながら、春の健闘を思い返す


振り返れば、兎岳
踏み出すごとに近づくそこは彩色の時が近づいていた

「よく来たね」
山標にそう記されていた
よぎるのは、あの時から山を紡いできたことへの労い
自身「よく来たな」とも思う

兎岳を後に稜線を荒沢岳方面へ向かう
道中、日が傾き風が変わった
さきほどまで爽やかだった風が急に冷たくなる

今日の宿りは、巻倉山の先の平坦地の予定
少し下れば、岩魚止沢の源頭で水も確保できる場所
彩色の中、寒さに呼応するように歩も足早になる

水を確保し、ツエルトを張り終える
今宵の友は真野鶴の純米吟醸
あとは、山上の宴で友と語り合うだけ

と、そこまでは良かった

夜半からの雨
暗闇でシュラフカバーに包まりながらも、下山を憂慮していた

朝、事態はそれ以上に身の回りを侵食していた
防水性の低いツエルト内部は雨水で水浸し、空だったはずのコッヘルには布地を伝って雨水が並並と溜まっていた
濡れたライターにコンロ、火をつけるにほとほと苦労した

朝食準備をする間にも衣服は濡れ、寒さに震えながら岩魚止沢を下降して西沢へ向かう
増水が心配であったが、水場の水量も昨日とあまり変わりはないので問題ないだろう
淡々と下っていくが、ほどほどに滝が続く

途中の大滝25m+15mは左岸を巻き下り
これらを含めて、終始クライムダウンか両岸の藪を使って巻き下りでこなす
懸垂下降は要しなかったがチェーンスパイクがあると心強い

下流部(1310m)で右俣を合わせると穏やかになって下降も捗る
最後のゴルジュ状をこなすと沢は一層穏やかとなって、見覚えのある目印に出合う

腹ごしらえをして昨日辿った西沢沿いの藪化した林道を行く
そのころには雨も途切れ途切れとなって、時折太陽も顔を出す

中ノ岐林道に出れば、あとは自転車での滑走
雨池橋まで40分ほどでたどり着くという、痛快なデプローチ
車輪は偉大だ

風切る疾走感
流れていく緑と灰色の岩峰、渓谷美
行く手に真っ赤な雨池橋と奥只見湖

今日も無事に下山できそうだ
そうして思い浮かぶのは、家で待つ妻の姿

控えめで、飾り立てて人目を引こうとはしない態度
私は、そんな姿に惹かれたのだ
あのころからだったのかもしれない
落ち着いた深みのある安らぎを好むようになったのは

奥利根と奥只見の間
中ノ岐川・巻倉沢を遡り、兎岳へ

開けた源頭が秋の空に映える
刻々と彩色の時が近づいていた


sak


 

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谷川・万太郎谷から転戦、白毛門沢へ

2023年10月12日 20時47分39秒 | 山行速報(沢)

2023/9/29 谷川・白毛門沢

土砂降りの雨
これはどうにもならないな、そんな夢で目が覚めた

そして車窓の外へ目をやると、水たまりに雨粒がいくつも輪を重ねていた

土樽パーキングの高架下で雨宿り車中泊
これはどうにもならないな、と二度寝を決め込む

降雨レーダーによると、午前8時頃には雨が上がるらしい
パートナーのENさんとその情報に一縷の望みを託す
実際、そのころに雨はあがった

なんとか気持ちを立て直して向かうは万太郎谷
井戸小屋沢を目指してのことだった

身支度を整えて入渓するも、明らかに水量は多く流れは強い
普段なら、この先の渓相に夢膨らましながら、サクサクと通過する序盤から緊張を強いられる流れなのだからどうしようもない
この時、すでに転戦先を考え始めていた


-国境の長いトンネルを抜けると-


万太郎谷を後に遡行服のまま車を走らせた
関越自動車道・湯沢インターチェンジから東京方面へ

先ほどまで燻っていた場所の上を通過し、関越トンネルに入る
そして、その先

モノクロームの世界から、総天然色の世界へ
悩むことなき、快晴
革命的な出来事にENさんと二人、気分は高揚した

時間は9時を回っており、時間的余裕もない
そして、白毛門沢へと向かうこととした

**************

白毛門登山口で再び準備を整えて出立

陽差しが眩しい
爽やかな風に口元も緩む

ハナゲの滝は中段から巻いて、東黒沢出合
ここから白毛門に向かう

序盤はナメ滝が続く
この短時間に悪天から好天の遡行へ転進した気分の高揚を体現するかのように、泳ぐ必要もない釜で泳いでみたりしながら進む
足元はヌメる場面もあるので、慎重に行く

中盤は滝が続く
直登をためらう滝にはしっかりと巻き道もあるので、安心だ

そういえば、白毛門沢にはその昔、単身で遡ったことがあった
残っている記憶といえば、ハナゲの滝下部でヌメに足を取られて転んだことと白毛門山頂へダイレクトに突き上げ、気分のいいクライマックスだったということ
中盤のF1(10m滝)やタラタラノセンの印象はなく、それはそれで新鮮な遡行を楽しめた

上部稜線が近づくと終盤のスラブ帯
傾斜は強くなるが手がかり足掛かりは豊富なのでグイグイ登れて、景観も広がる

息を切らしながらも源頭
この好天と爽やかな風
遡ってきた白毛門沢の沢筋を眺めながら小休止

ここを登ってきたのか
振り返れば、今日という一日の長さを知る
あっという間の出来事のようで、意外と長い道程だ
いずれにせよパートナーがいてこそ、山行は豊かになる
良きも悪しきも、共にしてくれたことへの感謝

最後は小笹の踏み跡を行けば、白毛門の山頂
いうまでもないが、視界を遮る物はない

あとは登山道をひたすら下る
いつもながら、膝に負担がかかる下りだ

ジジ岩、ババ岩を横目に見覚えのある場所で手を合わせる
「今日も、無事下山できそうです」
あの日のパートナーにも感謝で返す

失意の朝から、何とか立て直すことができた今日
「楽しい」と思えるのは、特別なこと
そこに特別なものはなくてもいい


sak

 

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川内・下田を巡る山谷の沢旅

2023年09月21日 21時56分44秒 | 山行速報(沢)

2023/9/7-10 川内・下田を巡る山谷の沢旅

 

川内下田・今早出沢~魚返りの大滝~青岩~東又沢~大ブナ沢~1096峰~西の沢~室谷川

 

一ノ俣沢橋の袂で夜を明かす
朝、ここで雨が降っていないのは初めて

3時間ほどの仮眠であったが、寝起きは良かった
それはもちろん、これから始まる沢旅への期待がそうさせたのだ

-川内・下田を巡る山谷の沢旅-

秘境の先へ
青の別天地
深懐の森と夜
静淵の時

山谷を繋ぎ、巡る理由

「そこに身を置いてみたい」
ただそれだけのことだった

 

2023/9/7

今日はアプローチ
一ノ俣沢橋から右岸の踏み跡に入り、一ノ俣沢を遡る
何度か辿った道なので記憶のままに遡っていったら、一ノ俣乗越に至る枝沢の手前を詰めてしまい余計なヤブコギをこなすことになってしまう
なんとか尾根に乗って獣道を北進すれば、明瞭な踏み跡の一ノ俣乗越
踏み跡を下っていくが倒木などで隠された場所もあるので、注意深く下る
窪をいくつか渡りながら右(北)へトラバース気味に下降していくとアカバ沢の流れ
この流れを下っていくとナメとともに今早出沢に合流する

今早出は水量が少なかった
この夏の猛暑と新潟の少雨が原因だろう
それでも見上げれば青空、足元には金色の流れが煌く
流れに浸りながら行くのが、実に気持ちいい

5年前に泳いだ瀞場は渇水に加えて、大岩が鎮座しており腰を濡らす程度の通過


横滝も水流少なく、容易に直登
折角だからと甌穴の中に入ったり、積極的に水と戯れ遅い夏休みを楽しむ
あとは淡々と流れを遡り、ガンガラシバナを望む右岸草地に幕を張る

ガンガラシバナ右方ルンゼは、渇水で流れが目視できない
それにしてもこの迫力
今早出を遡った者のほとんどがそれに目を奪われるだろう

ささやかな焚火で夜を過ごす
星夜を肴に今宵は「奥の松」

寝不足で闇が満ちる前から睡魔に襲われる
明日は関東地方に台風が接近するらしい
その影響もあって新潟も終日好天は望めないだろう

岩峰のシルエットに明日を思い、残りの薪を全てくべる
火勢が増し辺りの草木がオレンジ色に染まり、時に爆ぜる
迫る闇に抗っているかのようであった

 

2023/9/8


-秘境の先へ-

ガンガラシバナを横目に今早出沢の本流を行く
流れを詰めると、スラブ状にガレや大岩が堆積する
前衛の3つの滝は概ね右から小さく巻くように進んだが、3つ目の草付トラバースは一歩が悪い


魚返しの大滝

 

過去の記録では左壁からとある
クランク状に佇立する壁に滝の流れは概ね二条

当初は左水流の左を走るクラック沿いで想定
下部のバンドを右上しクラック下まで
少し登ってみたが、かなりのヌメりでちょっと怖い
一旦退く

次に取付いたのは、そこからさらに左の岩壁
傾斜はキツいが、岩は乾いている
そして途中に灌木が生え、その上も草が使えそうであった

空身の荷揚げ
荷揚げの労力とリスクを考慮し10mで一区切りとした

下部はスタンスが少ないので慎重に
灌木に手が届けば、強引に身体を上げられる
ここから右に移動し、少し安定した場所で最初の荷揚げ

そこからは左上気味に草と岩のミックスを行く
草付は土が外傾して堆積、さらに締まっているのでキックステップが切りずらい
バイルと念のため装着していたチェーンスパイクが活躍
やや被った上部岩場基部の灌木でビレイ、荷揚げ

ここからバンドを落ち口にトラバースして滝上
これにて大滝は終了、一息つく

大滝上からは大岩の間を越え、すぐにゴルジュ状
続く第二ゴルジュも含めて左から巻く

一旦河原になり右からの流れを合わせる
このころから風が強まり、雨が落ちてきた
雨具を着込んで先を急ぐ

いくつか滝を越えると、6m滝が左から落ちる
ここは少し本流を遡ってからの巻きで、この支流へと入る
狭いルンゼ状を行くと5m滝、ここは念のため空身で登り荷揚げする

滝上から窪状を詰めていくと開放的なスラブが見える
青岩(青い岩盤)だ


-青の別天地-

その昔、残雪を利してここに立った時はあったが、これほど広大な岩盤とは思い至らなかった


藪尾根に囲まれた中にあって唯一といっていい開放的な癒しの空間
異空間の佇まいであった

雨はあがったものの未だ風は強い
藪を風よけに小休止し、早々大川支流の東又沢へと下降した

東又沢は3度ほど懸垂下降を要したが、それ以外は特筆することなく下降には適していた
但し、下部では流木の堆積が膨大でまるで迷路のようだった

流木ゾーンを越えると穏やかな流れに岩魚が走る
左にぶなの森を見るようになると大ブナ沢との出合も近い
しかし、大ブナ沢に水流はなく涸沢と化していた
予想外の事態であったが、5分ほど歩くと水流は復活し安堵する

ここからは右に左に幕場を探しながら行く
深懐のぶなの森は木木が連なり沢を覆う


-深懐の森と夜-


二又ぶなの袂に居住まいを定めて宵の支度に入る
今夜だけ、この森の仲間に入れてもらう

騒めく、ぶなの木々
流れは瑞々しい音を奏で、焚火のゆらぎが空間を支配する

深懐の森の一夜はそうして更けていった


2023/9/9

朝陽の眩しい渓を行く
空は高く、秋を予感させる
晴やかな朝だった

穏やかなゴーロを行くと両岸が迫る
この20mの滝は右から、空身と荷揚げで通過する
その上の3mは右から巻く

大岩脇の8m多段滝は右岸から小さく巻き、6m柱状節理を越えて右に932コルへ詰める支沢を分け、左に水量の多い支沢を分ける
そして現れる10m滝
この時点で標高は770m
1096mピークまでは約320mの高低差だった

-葛藤と我慢-

ここで一考
10m滝はいかにも悪そうなので、右岸尾根から巻きの一択
まずは支尾根に上がりその先を偵察しようと考え、尾根に取り付く
藪はそれほど濃くなくチェーンスパイクの威力を存分に味わい快適に上がる

そしてその先、谷筋には幾筋ものスラブが山肌を走る
大きな滝が見えたわけではないし、森に入ればなんとかなるだろうとは思った

一方、すでに支尾根に上がっている自分
そしてこれから川床に下り戻ってから谷を登り直す労力
完結性より安全性を採用し、尾根を詰めることにした

今となっては「あの時、自分は妥協したのだ」という思いもある
しかしながら、後悔はない

とはいえ、そこから駒形山の北1096m峰までの道のりはヤブが次第に濃くなり苦労する
我慢の3時間半となった

1096峰からは安堵をもって取り組める
遠く、青岩が見える
あそこから歩いてきたと思えば感慨深い

西の沢下降は駒形山へと向かう途中の鞍部手前から谷筋に下る
しばらくは、ぶな林の窪を下る
いくつか窪を合わせるとナメ滝が続く
明るく気持ちのいい景観である反面、足元は非常に滑る

藪がある所は藪を手掛かりに下る
懸垂下降は4か所(計6回)
50m1本だったので、上流部の二つの大滝は2ピッチに分けた

540mあたりの河原に幕場を求めて本日の行動は終了
今日はヤブコギと足元の悪い下降でくたびれた
辺りに薪がゴロゴロしていたが、今日の焚火はなしとして早々に横になる

見上げれば、月が微笑んでいた


2023/9/10

今日は下山日
青空に口元も緩む
本音で言えば、下山したら何を食べようかなどという邪な想いもあったことを告白しておく

西の沢も中流部以降は穏やかになる
順調に下降を続け、室谷川に至る
出合の8m滝は左岸側の立ち木を使って懸垂下降

さて、ここからはこの沢旅のエピローグ
室谷川だ

 


-静淵の時-

スラブを穿がつ流れを泳ぎ下る
自然の妙なる造形に見惚れる

はぁぁぁ、ほぉぉぉ、とか言葉にならない感嘆詞が思わず口をつく
そして、日差しに揺らぎ輝く水面

流れに浸かりながら静かにゆっくりと進む
透き通った流れを手ですくって口にすれば、わずかに甘い
ザックを浮袋にラッコ泳ぎで空を見上げる

静かな時の流れに、これはもう最高の終わり方ではないか
もう、これで満足してもいいのではなかろうか
「山の納め方」を考える歳になって、そう思うこともある


人の行路は山谷にも近し


山谷を繋ぎ、巡るもう一つの理由


旅は死ぬまで終わらない
歩くのさ、この足で


sak


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足尾・神子内川手焼沢

2023年09月19日 21時48分50秒 | 山行速報(沢)

2023/9/2 足尾・神子内川手焼沢


朝発で沢登
午後の雷雨リスクも考慮して手近で軽めの沢登りを企画
初顔合わせのtakさん、skmさんと

こんな時のために「マイ沢リスト」に温存されていたのが、足尾の手焼沢
森中の涼に浸り水流を胸まで浸る場面もあって残暑に嬉しい1本

日足トンネルの足尾側出口から入渓
地蔵滝を見物して足場で組まれた通路を行くと手焼沢と長手沢の分岐
手焼沢を進むと明らかに足跡

石積み堰堤手前で先行の釣師に追いつく
竿を出しているようだったので、しばらく待機

頃合いを見計らって、声を掛け先行を申し出る
しばらく巻き気味に行くことを伝えて快諾いただく

 

ゴーロをしばらく行くとゴルジュ地形
ここからは水流を行くのが楽しい
逆くの字滝は水流左から取付くも屈曲部分がスタンス少ないナメ状のため、戻って右を巻き気味に通過

ここからは小滝を越えることに終始
涼と生と緑に見惚れながらの遡行となる

源頭は右岸の笹原をひと登りで登山道
茶ノ木平で一休み

茶ノ木平の分岐標から少し戻ったところから長手沢へ下降
早めに窪に入ってしまえば、それほどの苦労はなかった

1か所5mほどの懸垂下降を要したものの、あとは淡々と下る

左岸にピンクテープが見える
地形図を見れば、この辺りまで林道が伸びているようだった

takさんが少し足を痛めたようだったので、1150あたりからこの林道へ乗り上げる
あとは平坦で立派な林道~細尾峠の道を足尾に向けてポクポク歩く

まだまだ暑い9月
予報通り、山間に鉛色の雲が湧き始めていた


sak

 

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五頭・大荒川本谷

2023年09月15日 21時37分01秒 | 山行速報(沢)

2023/8/27 五頭・大荒川本谷

やっぱり沢は好い
そう思える一日だった

・・・・・・・・・・・・

前夜、茨城から五頭・魚止ノ滝駐車場まで
下道をノコノコと行くので流石に遠い

続く熱帯夜
途中、道の駅で寝る気になれず、登山口まで
ここまでくれば幾分過ごしやすく、幕を張って就寝

駐車場から登山道を行く
登山道が左折するところから直進する踏み跡に入る
途中草藪に埋もれているが迷うようなことはなかった

堰堤上で装備をつける
今日は久しぶりにsztさんとの沢登
気心知れたパートナーとの山は良い
数年ぶりのことであっても、あの日の奮闘は鮮明に残っている

大荒川本谷は中規模ながらゴルジュと滝が続く
途中のシャワークライミングや泳ぎが楽しい所

入渓点からいくつかの滝を問題なく超えていく
森の中なので、清涼感抜群だった

右に小倉沢を見送った先の8m滝は登れるらしいが、落ち口に流木が堆積して庇状となっているため右から小さく巻き、懸垂下降で沢床に戻る
この後も泳いだり、へつったりして楽しい

小ヤゲンは最初の滝を水流左から行く
その先はチョックストンが二段になって流れを落としていた
右壁に古いリングボルトもありトポにもあるように右壁~リッジへと抜けるのがルートだろうと見立てて取付いた

しかしながら、近くで見るとリングボルトは寂れリングが途中で欠けている
いやはや
仕方ないのでこれをスルーして右に見えるハーケンを使う
右壁のフェイスをクリアしてリッジに乗るが、ここからは支点もなく数歩が悪かった

リッジの立ち木に至れば一安心
しかしながら岩は脆いので注意が必要
30mロープで2ピッチ


【大荒川本谷へ入渓される方に”お願い”】

小ヤゲンの登りでウェアラブルカメラを落としてしまいました
滝場を登り終える直前だったので、どこまで落ちたかは不明です

落下した先を覗いてみましたが、寓話「ヘルメースときこり」のようにヘルメース神が現れることもなく
涼やかな風が吹くだけでした

もし、この付近で「GoPro7」を拾得された方がいらっしゃいましたらご一報ください

【以上、個人的なお願いでした】


終了点から川床へは藪伝いで戻れる
辺りを観察するとコル状から古いロープが下がっており、小ヤゲンは手前から大きく巻くことができるらしい

この後も小ゴルジュを飛沫を浴びながらも楽しい遡行が続く
スグノ沢手前の3mは通常巻くようだが、sztさんが細かいスタンスに乗ってクリア
後続のsakはお助けを投げてもらう

沢登りの一場面
なんかいいよね、こういうの

いくつかの支流を見送って大ヤゲン
峡谷の小滝を越えると深い釜を持った狭いチョックストンの2段滝
これは手前の右岸小尾根から巻くが、中々傾斜が強いので要注意

藪を伝って川床に戻ると8m滝上
小滝を越えて15m滝はロープを出して右の草付を行く
新タメ沢を分けて現れる2段15mは水流右
この先は沢というよりは溝のように狭まった流れを行くが、なかなか面白い

ム沢を目指したはずが、遡行図と違うナメ滝が断続的に現れる
最終的には面倒になって右岸尾根から巻き上がりそのまま松平山まで軽いヤブコギ
そして山頂にダイレクトに到達するのが、なんとも良い

暑い夏に水と戯れる
下山は山葵山を経由して魚止ノ滝登山口まで


暑い夏
いや、熱い夏はまだまだ終わらない


sak

 

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上信越・小ゼン沢~魚野川(中退)

2023年08月21日 21時30分10秒 | 山行速報(沢)

2023/8/10-11 上信越・小ゼン沢~魚野川(中退)

当日の朝
入山口へ向かう途中、尻焼温泉から見た長笹沢川は濁流と化していた
計画に暗雲が立ち込める

沖縄・九州を中心に大荒れとなった台風の影響で、おそらく前日に相当量の降雨があったのだろう
その名残もあってか、山は霧に巻かれていた

当初はガラン沢支流から上信国境を越え、小ゼン沢を下降して魚野川に至る計画だった
しかしあの濁流を見る限り、支流のガラン沢も良くないだろうと鷹巣ノ尾根を辿ることにする

白根開善学校からゲートのある林道を歩き、馬止メ
ここから鷹巣ノ尾根道に入る

霧が立ち込め、湿度が高く汗が滴る
一方、尾根上部では風が強い
流石に寒くて雨具を着込む
このコンディションで沢を目指すのは変り者の部類だな、などと自嘲する

オッタテ峠から小高山方面へ少し下ったころから小ゼン沢へと藪を漕ぐ
5分ほどのヤブコギで沢床

小ゼン沢は滝場もあるが、概ね問題なく下れる
途中、トラロープなどもあり辿る者の多さを知る
山深い魚野川上流部へのアプローチ、そして下部から遡行時のエスケープルートとして利用されているのだろう

群馬県側で酷かった霧も長野県側に入ると時に陽も射し込む空模様
下降して約2時間
ネジレセンの上から左岸のコルを越えると魚野川・燕ゼンの上部へと出る
そして、右岸に小ぶりな幕場地

初めての魚野川
その流れは美麗な中にも芯の強さ、激しさを感じさせるものだった

本来ここから上流部を詰め、南ノ沢を辿って上信国境へと至る計画
しかし、気持ちは揺らいでいた
やはり水量が多い

岩につく苔が水没しているところから察するに平水+15cmほどだろうか


逡巡を交えながらも本流を遡る
幅広の滝やオッチラシの流れにしばし見惚れる

事を決定づけたのは、庄九郎大滝
流れの左を直登とあるが、今日の水量では取付く気にはなれない

左岸ルンゼの高巻きも検討するが、このころから空は鉛色
風も吹き、遠く雷鳴
おそらくは長く続かない一時の悪化だろうと予想はついた
しかし、ここを越えると戻るのも容易ではなくなる

朝見た長笹沢川の濁流が脳裏に過る
たとえ一時の雷雨であったとしても、雨量によっては致命的だ

往路を戻り、燕ゼン上部に幕を張り、今宵の宿とする
沢人の定宿らしく、薪も少ない
紅蓮花を咲かすことなく日が暮れていく

傍らには、結ゆい
酔いも回れば、沢音に揺られながらの転寝
心地よい眠りに勝る癒しはないのかもしれない


明けて今日は「山の日」
ラジオでもそのことを盛んに伝えていた

平日派の私にとって、この日に山へ入るのは初めて
当然、山も混雑するだろうと思った
それでも自然にひっそりと身を置ける場所がいい
そして選んだのが魚野川だった

祝日の前日からこの山深き森の上流部に入る
さすれば望みは叶うのではないか、そう考えてのことだ

とはいえ、昨日は傷心の撤退
今日の遡行継続も可能ではあったが萎えた気持ちは元には戻らない
「山の日」は単なる下山日となった

小ゼン沢を遡りながら、この山旅を思い返していた

冴えない空
増水への虞
華のない夜
そして、挫折

それでも魚野川は孤独と自由にあふれていた
なんてことはない、望みは叶っていたのだ


オッタテ峠目指して水線を辿ると大したヤブコギもなく峠の道標に出た
小ゼン沢を行くなら、コルからよりもこちらの方が早いようだ

鷹巣ノ尾根を下る
一ツ石から見る上信国境には、笹原が伸びやかに広がる
そして遠く、草津の街が見えた


sak

 

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夏休み・沢遊び

2023年08月19日 19時56分10秒 | 会員日記

2023/8/3 夏休み・沢遊び

きっかけは、酔いに任せて口にした息子の一言だった

「登山、結構好きなんだよね」

以前、夏休みに登山や沢遊びへ連れて行ったものだが、
社会人となった今、「山に行きたい」など一言も言ったことはなかった
おそらくは口が滑ったのだと思う

これに呼応するかのように末娘も行きたいと言い出した
そして離れて暮らす娘も参加表明
要望からすると、沢遊びがしたいみたい

目指すのは会津

駐車場から30分ほど歩いた瀞の傍らを拠点とする
子供たちの嬌声と夏の空が融和する

それぞれに仕事や生活を持つ家族全員が集まって、夏休みの行楽
こんな機会はこれから何度あるのだろうか

夏休みの想い出

夏はやっぱり暑いほうがいい
そう思った


sak

 

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尾瀬・中ノ岐沢北岐沢~小松湿原~猿沢下降

2023年07月28日 22時23分25秒 | 山行速報(沢)

前回の沢泊敗退からひと月半

その時に痛めた踵骨腱の痛みが癒える間もなく転勤辞令を受け取り、唐突に単身赴任生活が終わる

荷づくりに引越し
すっかり埋め尽くされた自宅の私的な場所(山道具の収納場所)を確保するべく、難航する家族間交渉

そして、新たな赴任先での新たな業
皆、とかくアジェンダだのファシリテーターだのとカタカナを使いたがる
どうやら「行動計画」「司会進行役」とは一線を画すらしい
あまりに洗練が過ぎて、居心地が悪い
まぁ、いいんだけどさ

そうこうしているうちに梅雨入りし、それも明けようとしている
慌ただしい日々、心中にはあの日叶わなかった沢での一夜が常にあった

夏の日差しが降り注ぐ関東の猛暑をよそに、森に包まれた一縷の流れを目指す
そしてたどり着くのは小さな湿原

そこに惹かれるのは何故だろう
山中にある、ただの湿った草原なのに

 

2023/7/18-19 尾瀬・中ノ岐沢北岐沢~小松湿原~猿沢下降

大清水の駐車場に着いたのは午前一時
平地の熱帯夜が嘘のように過ごしやすく、星が美しい
午前四時半には起床してゆっくり身支度
一ノ瀬行の始発乗合車を見送ってから歩き出す

鳥達の囀りが心地よい奥鬼怒林道を足早に歩く
一時間半ほどで入渓点
背丈ほどの笹藪を少し漕ぎ小沢を下っていく

北岐沢はいわゆる「癒し系」
滝もほどほどに楽しめて、ナメと深い森、そして静かな湿原を巡ることができる
山行の充実度としては少々物足りないくらい
しかしながら、真価はそこではない

遡上すると小滝が小気味良く現れ、右に左に越えていく
足場を選べば、腰を濡らすことはない
途中、小動物がじゃれ合う姿に癒される

しばらく遡るとゴルジュ地形が見えてくる
ここが大滝
奥にも支流の大滝があるらしいが、滝場の入り口からは見えない

下流左岸から岩場を回り込むように越えると滝上に出る
さらに小滝を越えていくと、次第に現れるナメ

1650の二俣(1:1)を誤って左(直進)に入るも、水量の減少に疑問を感じ誤りに気付く
軌道修正して、なおも続くナメに満たされながらゆっくりと歩く

ナメの美しい場所でひと休み
妻が持たせてくれた握り飯には、好物の「たらこ」が入っていた
ほんわかした気持ちと、懐郷心が胸に広がる

1770の二俣に幕場を散見
どれもが平坦、かつ前泊者が集めたであろう薪も残置されている
物件としてはこの上なかった

が、しかし
あまりに整いすぎていて居心地が悪い
時間も午前十一時前

明日は日本海にある梅雨前線が南下するらしく曇天、午後は降雨の予報
早めの下山はもちろんだが、せめて湿原での時間は晴天であってほしい

ここで一考
野趣に杯を傾ける一夜は沢下降で求めることにして、今日は先を目指す

小松湿原はこぢんまりとした高層湿原
池塘が散らばるでもなく、花が咲き乱れるわけでもないそれに
過度な期待を胸に目指せば少々がっかりするのかもしれない

地味故の慈しさがそこにある
それは悠久の時を経て、育まれた場所
実に尊い

黒岩山への径へは藪もなくひと登り
登山道は踏み跡、目印ともにしっかりしているが倒木多く難儀する
まして陽ざしが強く沢に比べて気温が途端に上昇する
ぶな沢を下降予定だったが、たまらず猿沢へと進路変更

猿沢は、さして難場もなく窪を下れば水流が現れる
半ばまで下った右岸に丁度いい広さの台地
山椒魚の採網を見かけたので山人のよき幕場なのかもしれない

今宵はここに宿る

時刻は午後一時半
天幕を張って、薪を集めても日暮れまで時間は余りある

木漏れ日を肴に、昼下がりの一献
傍らには、天栄の廣戸川

ついつい盃は進み、斜陽に沈む
闇に揺らめく紅蓮花に酔うまでもなく、撃沈

こんな日があってもいい
薄暮の空が樹幹に揺れた

雨粒が落ちる音で目が覚めた
時間は午前四時
こんなにも早く降り始めるのかと暗澹たる思いであったが、幸いにもすぐに雨は上がった

手早く朝飯を食し、撤収
いつものことながら、沢靴下装着の儀に気合を込める

深森に、苔生す岩
脳内では国歌斉唱が繰り返されていた

一時間ほど行けば、奥鬼怒林道
あとは大清水まで気軽な林道歩き
道中、蜻蛉の群れに遊ぶ


慈愛と調和

心穏やかになれる場所がある
自分の好物を知っている人が帰りを待っている
これだけで充分、満ち足りる

 

<追伸>

まぁ、いいんだけどさ
ついでに言うならば、沢屋にとって片仮名表記は「ナメ」と「ゴルジュ」で充分
って、言いすぎか(笑)

※片仮名表記は「ナメ」と「ゴルジュ」だけでお送りしました。
 現場からは以上です


sak

 

 

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福島県天栄村 鶴沼川水系・二俣川左俣~河内川下降

2023年06月09日 14時08分12秒 | 山行速報(沢)

福島県天栄村 鶴沼川水系・二俣川左俣~河内川下降


それは歩き始めて一時間ほど経過したときのこと

-痛恨-

この一言に尽きよう
思わず天を仰いだのは言うまでもない


沢旅の起点は二岐温泉
国道から山中に分け入るように二俣川沿いの道を行くと数件の温泉宿が立ち並ぶ
開湯は969年(安和2年)といわれる古湯、秘湯だ
この先に林道が左右へ伸びており、右に二俣川源流、左に河内川へと続いている

大白森山登山口に車を止めて、二俣川の源流に向かって林道を歩く
樹幹越しの陽光に、蝉時雨が降り注ぐ
梅雨入り前の清々しい朝のひととき、足取りも軽い

 

それは歩き始めて一時間ほど経過したときのこと
御鍋神社手前の広場奥から遊歩道に入り、二俣川へと下る途中のことだった

「あっ!」

沢泊用の食料を、まるっと忘れたことに気付いた
頭の中に冷蔵庫へ入れたままのそれが映像として浮かんだ

予定では、二俣川左俣を遡行し、尾根を挟んだ隣の河内川を下降
途中、山の恵みを享受した一泊で沢旅を堪能する計画だった

この計画はこの段階で心理的に完全敗退だ
しかしここで撤退しなかったのは、この沢旅にまだ残されたものがあると感じていたからだ

使わない泊装備を背負って、日帰りとしては少々長い距離を歩く
その決断に躊躇はなかった

これは試練だ
試練無くして輝く未来はないのだ、たぶん

そう自分に言い聞かす


二俣川左俣は、ナメが断続する癒し系の渓相
途中、ゴーロと倒木がうるさい所はあるものの、滝場は容易で幕営適地も多い
静かに沢旅を楽しめる、穴場といっていいだろう

本流を詰めていけば、やがて水流は消え径形に導かれて登山道に出る
そこからは大白森山が意外と大きく、貫禄の姿
あの向こうに甲子山、そして那須へと稜線が繋がっている

この山域は「那須」と「南会津」に挟まれ、山域ブランドとしては不遇の地といえよう
所在は「福島県岩瀬郡天栄村」に位置するので、この記録をしたためるにあたっては「天栄村・二俣川」と記すこととした

その天栄村に、旧友がいた
かれこれ25年以上連絡を取っていないが、彼は今どうしているのだろう
そんなことを思いながら背丈ほどの藪を漕いで河内川へと下る

河内川の記録は少ない

中流部に「ケムシ」マークが続き、いかにもゴルジュを秘めていそうな期待を誘う
しかしその実態はナメもほどほどにゴーロが目立ち、実に冗長な流れらしい
その遡行評価が記録の少なさ(遡行者の少なさ)に繋がっている

ならば下降に使ってはどうだろう、というのが今回の計画
下部には、馬尾滝と河内川森林軌道跡といった見どころもある
沢旅のクライマックスを飾るには良いのではないか

河内川は最上部の源流から開発の痕跡が濃い
地図に記載のない伐採道が続いていたのだろうか
小型車両がひっくり返って藪に埋もれていた

その後はゴーロが続き、たまにナメ
途中で見た特異な凸岩は「虫刺され跡」のようで、山中で独りツボる

一か所滝場があり、左岸を巻き気味にトラバース
地形図で「ケムシ」のあたりはゴーロながらも両岸が切り立っており、時に支流が美しく落ちる

軌道跡はこの辺りでも見ることができた
埋まるワイヤー、崩れた石積み、鈍く輝く軌道


樹幹に白き飛沫を放つ流れを見る
そして、馬尾滝

天栄村随一の落差を誇る瀑布に見惚れるものの、現在の馬尾滝は本来の姿ではないのだそうだ

その昔、開発とともに電力確保のために発破で流れを変え、水力を発電に利用したという
自然と人の関わりを考えさせられるエピソードだが、私たちの生活はこうして成り立っているのが現実、ということか

滝下から右岸台地にひと登りすると、そこに河内川森林軌道の様々な痕跡が残っている

河内川森林軌道は、昭和二十二年営林署により開業
当初は人力であったが、後に牛力(牛車)軌道となった

昭和四十年頃、成井農林が伐採権を取得し、同時に動力が機械化
自動車のエンジンを流用した自作の機関車だったらしい
そして昭和四十六年頃、廃止

遺されているもの
風化する遺構が、鮮やかに輝く
過去は確かにそこにあった


二岐温泉にて

私は、湯あがりの放心時に思い返していた
かの旧友は今どうしているのだろうかと

携帯端末の画面に指を滑らす
過去を想えば、なんと便利な時代か

すると、その名は電話帳WEB検索に掲載されていた
住所にも見覚えがある。間違いない
正直、ちょっと驚いた

電話帳に名が載る、ということは家督を継いだのだろうなと思い巡らす
そして、悩んだ

悩んだ末、端末の画面をそのまま閉じた
突然の連絡など迷惑だろう、というのは明らかに言い訳だった

本当は怖かったのだ

風化する記憶の中、鮮やかに輝いた蒼き時
それは確かにそこにあった
せめて、鮮やかなままで残したかった

森に見た、鈍く輝く軌道のように


sak

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越後の「日本」を巡る旅③ -日本平-

2023年05月28日 22時13分32秒 | 山行速報(登山・ハイキング)

自然と歴史とエトセトラ
越後の「日本」を巡る旅③

2023/5/12 日本平

日本平は下田・大谷ダムの上流、五十嵐川右岸尾根にある
地形図に「日本平」と表記されているが三角点や標高を示すものはなく概ね標高860mくらい

登山道はないが、三条市経済部営業戦略室発行の「下田山塊・山岳地図」に踏み跡・廃道としての記載がある
ネットの記録では、3~5月の残雪を利したものが多い
おそらく融雪の早い今年は、すでに藪に埋もれていることだろう

当然、この日本平を目指すというよりはその先の中ノ又山を目指す記録が多く、その途中の山という位置づけだ

越後の「日本」を巡る旅
三座目はこの日本平で締めくくる

前夜は、道の駅・漢学の里しただ で車中泊
結構な冷え込みで午前4時に気温は1℃

大谷ダム・大江大橋先の路側場まで移動し車を置く
ここから先は通行止め
国道289号(いわゆる八十里越)は数年後、会津側への開通を目指し工事中

舗装路をしばらく歩くと、お先真っ暗なトンネル
トンネルは通過しないなずだなと思い、戻る
周りの景観に見とれながら漫然と歩いていたので、誤って新道方面へと入ってしまったらしい

気を取り直して旧道をいく
道端の草葉に霜が降りている
5月の半ばで、霜か

そうこうしながら、川クルミ沢
右岸にある観測所まで行くとその先に踏み跡が見られる
しばらく行くと目印が現れ、それを辿る

沢を二度渡ると目印も見当たらなくなり、「ルーファイを楽しんでくださいね」という意思を感じる

まずは一段上がって緩傾斜の開けた場所まで
見渡すと日本平に直登尾根とその右に尾根があり、登路の候補となる
直接尾根が正解かなとは思ったが、その途中に谷が切れ込んでいた
そちらに行くには少し戻り、渓を渡らねばならない

右の尾根もなんとか行けそうなので、そちらを詰めあがることにした
途中、岩場もあるが灌木豊富で木登りピッチ
とはいえ、滑り落ちればタダでは済まない急傾斜だ

登り切れば笹と灌木などが茂る、軽めの藪
尾根を忠実に詰めていくと、目印が復活

やはり、本来は直接尾根が正道なのだろう
帰りはこちらを辿ってみることにした

ここからは藪も背丈程度になり本格的なヤブコギ
グレードで言えばⅡ~Ⅲ級くらいだろう
目印も断続的についているので、迷うことはない
途中、少し開けた場所で背後に守門岳が見えた
さすが名山の風格漂う雄大さだ

やがて地形図上の日本平ピ-クだが、ただ藪があるだけ

目印は五平衛小屋、中ノ又山方向へついている
もちろん、山頂を示すようなものはなく、確かめるにはGPSしかない
ここを目指すなんてどんなモノ好きだよ、と言いたくなるが自分のことなので悪態もつけない

光明山、粟ケ岳、矢筈岳、青里岳
下田山塊の同定が楽しい
昨日登った日本平山へも尾根で繋いでいけるのか
縦貫したらスゲぇな

ふと、近くに目を移すと隣に緩やかな頂が見える
地形図を見れば標高は同じくらいで緩やかに繋がっている

この「日本平」の名の由来はネットで検索したが、見つからなかった
しかし、もしかしたらこの隣の峰と「二峰つながった平らな場所」というような意味なのではないか
そんな推察をしてみる

下山は目印を追っていくが、やはり途中で見失う
こんな場面もよくありがちとはいえ、やはり少しは心細くなるものだ

「お-い!」

遠く後方から、そう聞こえた
振り返るが、誰もいない
目を凝らし、耳を澄ますが再びその声を聞くことはなかった

おそらくは、動物や草木のさざめきによる悪戯
こちらの心細さ故の、聞き違いだろう
そうとは思えども、心中穏やかではない
もし妖や山神さまがいるとするならば、「気を緩めるなよ」という呼びかけか

「一声呼び」という怪異伝説もある
返事はせずに、そっとその場を後にした

しばしの彷徨もGPSでの確認を多用して、無事往路に合流
「山神さま、ありがとう」心の中で唱える

舗装路に出れば日差しは夏の如し
清々しい風に吹かれながら歩くのは実に楽しい

越後の「日本」を巡る旅
それぞれの個性を持った山を楽しむ

日本国、日本平山、日本平
そして、笹川流れ、持倉鉱山跡、越後平野
今日の怪異は気のせいだったことにしておく

自然と歴史とエトセトラ
山だけではない、日本のすばらしさを知る旅でもありました

もちろん

初日は「村上海鮮はらこめし」に「燕背油ラーメン」
二日目「下田ごんぼっ葉笹団子」
最終日に十日町で「へぎそば」を食し、この山旅を美味なるもので彩っていた次第です


sak

 

自然と歴史とエトセトラ
越後の「日本」を巡る旅①「下越・日本国」へ
越後の「日本」を巡る旅②「川内山塊・日本平山」へ


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