acc-j茨城 山岳会日記

acc-j茨城
山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

川内・下田を巡る山谷の沢旅

2023年09月21日 21時56分44秒 | 山行速報(沢)

2023/9/7-10 川内・下田を巡る山谷の沢旅

 

川内下田・今早出沢~魚返りの大滝~青岩~東又沢~大ブナ沢~1096峰~西の沢~室谷川

 

一ノ俣沢橋の袂で夜を明かす
朝、ここで雨が降っていないのは初めて

3時間ほどの仮眠であったが、寝起きは良かった
それはもちろん、これから始まる沢旅への期待がそうさせたのだ

-川内・下田を巡る山谷の沢旅-

秘境の先へ
青の別天地
深懐の森と夜
静淵の時

山谷を繋ぎ、巡る理由

「そこに身を置いてみたい」
ただそれだけのことだった

 

2023/9/7

今日はアプローチ
一ノ俣沢橋から右岸の踏み跡に入り、一ノ俣沢を遡る
何度か辿った道なので記憶のままに遡っていったら、一ノ俣乗越に至る枝沢の手前を詰めてしまい余計なヤブコギをこなすことになってしまう
なんとか尾根に乗って獣道を北進すれば、明瞭な踏み跡の一ノ俣乗越
踏み跡を下っていくが倒木などで隠された場所もあるので、注意深く下る
窪をいくつか渡りながら右(北)へトラバース気味に下降していくとアカバ沢の流れ
この流れを下っていくとナメとともに今早出沢に合流する

今早出は水量が少なかった
この夏の猛暑と新潟の少雨が原因だろう
それでも見上げれば青空、足元には金色の流れが煌く
流れに浸りながら行くのが、実に気持ちいい

5年前に泳いだ瀞場は渇水に加えて、大岩が鎮座しており腰を濡らす程度の通過


横滝も水流少なく、容易に直登
折角だからと甌穴の中に入ったり、積極的に水と戯れ遅い夏休みを楽しむ
あとは淡々と流れを遡り、ガンガラシバナを望む右岸草地に幕を張る

ガンガラシバナ右方ルンゼは、渇水で流れが目視できない
それにしてもこの迫力
今早出を遡った者のほとんどがそれに目を奪われるだろう

ささやかな焚火で夜を過ごす
星夜を肴に今宵は「奥の松」

寝不足で闇が満ちる前から睡魔に襲われる
明日は関東地方に台風が接近するらしい
その影響もあって新潟も終日好天は望めないだろう

岩峰のシルエットに明日を思い、残りの薪を全てくべる
火勢が増し辺りの草木がオレンジ色に染まり、時に爆ぜる
迫る闇に抗っているかのようであった

 

2023/9/8


-秘境の先へ-

ガンガラシバナを横目に今早出沢の本流を行く
流れを詰めると、スラブ状にガレや大岩が堆積する
前衛の3つの滝は概ね右から小さく巻くように進んだが、3つ目の草付トラバースは一歩が悪い


魚返しの大滝

 

過去の記録では左壁からとある
クランク状に佇立する壁に滝の流れは概ね二条

当初は左水流の左を走るクラック沿いで想定
下部のバンドを右上しクラック下まで
少し登ってみたが、かなりのヌメりでちょっと怖い
一旦退く

次に取付いたのは、そこからさらに左の岩壁
傾斜はキツいが、岩は乾いている
そして途中に灌木が生え、その上も草が使えそうであった

空身の荷揚げ
荷揚げの労力とリスクを考慮し10mで一区切りとした

下部はスタンスが少ないので慎重に
灌木に手が届けば、強引に身体を上げられる
ここから右に移動し、少し安定した場所で最初の荷揚げ

そこからは左上気味に草と岩のミックスを行く
草付は土が外傾して堆積、さらに締まっているのでキックステップが切りずらい
バイルと念のため装着していたチェーンスパイクが活躍
やや被った上部岩場基部の灌木でビレイ、荷揚げ

ここからバンドを落ち口にトラバースして滝上
これにて大滝は終了、一息つく

大滝上からは大岩の間を越え、すぐにゴルジュ状
続く第二ゴルジュも含めて左から巻く

一旦河原になり右からの流れを合わせる
このころから風が強まり、雨が落ちてきた
雨具を着込んで先を急ぐ

いくつか滝を越えると、6m滝が左から落ちる
ここは少し本流を遡ってからの巻きで、この支流へと入る
狭いルンゼ状を行くと5m滝、ここは念のため空身で登り荷揚げする

滝上から窪状を詰めていくと開放的なスラブが見える
青岩(青い岩盤)だ


-青の別天地-

その昔、残雪を利してここに立った時はあったが、これほど広大な岩盤とは思い至らなかった


藪尾根に囲まれた中にあって唯一といっていい開放的な癒しの空間
異空間の佇まいであった

雨はあがったものの未だ風は強い
藪を風よけに小休止し、早々大川支流の東又沢へと下降した

東又沢は3度ほど懸垂下降を要したが、それ以外は特筆することなく下降には適していた
但し、下部では流木の堆積が膨大でまるで迷路のようだった

流木ゾーンを越えると穏やかな流れに岩魚が走る
左にぶなの森を見るようになると大ブナ沢との出合も近い
しかし、大ブナ沢に水流はなく涸沢と化していた
予想外の事態であったが、5分ほど歩くと水流は復活し安堵する

ここからは右に左に幕場を探しながら行く
深懐のぶなの森は木木が連なり沢を覆う


-深懐の森と夜-


二又ぶなの袂に居住まいを定めて宵の支度に入る
今夜だけ、この森の仲間に入れてもらう

騒めく、ぶなの木々
流れは瑞々しい音を奏で、焚火のゆらぎが空間を支配する

深懐の森の一夜はそうして更けていった


2023/9/9

朝陽の眩しい渓を行く
空は高く、秋を予感させる
晴やかな朝だった

穏やかなゴーロを行くと両岸が迫る
この20mの滝は右から、空身と荷揚げで通過する
その上の3mは右から巻く

大岩脇の8m多段滝は右岸から小さく巻き、6m柱状節理を越えて右に932コルへ詰める支沢を分け、左に水量の多い支沢を分ける
そして現れる10m滝
この時点で標高は770m
1096mピークまでは約320mの高低差だった

-葛藤と我慢-

ここで一考
10m滝はいかにも悪そうなので、右岸尾根から巻きの一択
まずは支尾根に上がりその先を偵察しようと考え、尾根に取り付く
藪はそれほど濃くなくチェーンスパイクの威力を存分に味わい快適に上がる

そしてその先、谷筋には幾筋ものスラブが山肌を走る
大きな滝が見えたわけではないし、森に入ればなんとかなるだろうとは思った

一方、すでに支尾根に上がっている自分
そしてこれから川床に下り戻ってから谷を登り直す労力
完結性より安全性を採用し、尾根を詰めることにした

今となっては「あの時、自分は妥協したのだ」という思いもある
しかしながら、後悔はない

とはいえ、そこから駒形山の北1096m峰までの道のりはヤブが次第に濃くなり苦労する
我慢の3時間半となった

1096峰からは安堵をもって取り組める
遠く、青岩が見える
あそこから歩いてきたと思えば感慨深い

西の沢下降は駒形山へと向かう途中の鞍部手前から谷筋に下る
しばらくは、ぶな林の窪を下る
いくつか窪を合わせるとナメ滝が続く
明るく気持ちのいい景観である反面、足元は非常に滑る

藪がある所は藪を手掛かりに下る
懸垂下降は4か所(計6回)
50m1本だったので、上流部の二つの大滝は2ピッチに分けた

540mあたりの河原に幕場を求めて本日の行動は終了
今日はヤブコギと足元の悪い下降でくたびれた
辺りに薪がゴロゴロしていたが、今日の焚火はなしとして早々に横になる

見上げれば、月が微笑んでいた


2023/9/10

今日は下山日
青空に口元も緩む
本音で言えば、下山したら何を食べようかなどという邪な想いもあったことを告白しておく

西の沢も中流部以降は穏やかになる
順調に下降を続け、室谷川に至る
出合の8m滝は左岸側の立ち木を使って懸垂下降

さて、ここからはこの沢旅のエピローグ
室谷川だ

 


-静淵の時-

スラブを穿がつ流れを泳ぎ下る
自然の妙なる造形に見惚れる

はぁぁぁ、ほぉぉぉ、とか言葉にならない感嘆詞が思わず口をつく
そして、日差しに揺らぎ輝く水面

流れに浸かりながら静かにゆっくりと進む
透き通った流れを手ですくって口にすれば、わずかに甘い
ザックを浮袋にラッコ泳ぎで空を見上げる

静かな時の流れに、これはもう最高の終わり方ではないか
もう、これで満足してもいいのではなかろうか
「山の納め方」を考える歳になって、そう思うこともある


人の行路は山谷にも近し


山谷を繋ぎ、巡るもう一つの理由


旅は死ぬまで終わらない
歩くのさ、この足で


sak


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足尾・神子内川手焼沢

2023年09月19日 21時48分50秒 | 山行速報(沢)

2023/9/2 足尾・神子内川手焼沢


朝発で沢登
午後の雷雨リスクも考慮して手近で軽めの沢登りを企画
初顔合わせのtakさん、skmさんと

こんな時のために「マイ沢リスト」に温存されていたのが、足尾の手焼沢
森中の涼に浸り水流を胸まで浸る場面もあって残暑に嬉しい1本

日足トンネルの足尾側出口から入渓
地蔵滝を見物して足場で組まれた通路を行くと手焼沢と長手沢の分岐
手焼沢を進むと明らかに足跡

石積み堰堤手前で先行の釣師に追いつく
竿を出しているようだったので、しばらく待機

頃合いを見計らって、声を掛け先行を申し出る
しばらく巻き気味に行くことを伝えて快諾いただく

 

ゴーロをしばらく行くとゴルジュ地形
ここからは水流を行くのが楽しい
逆くの字滝は水流左から取付くも屈曲部分がスタンス少ないナメ状のため、戻って右を巻き気味に通過

ここからは小滝を越えることに終始
涼と生と緑に見惚れながらの遡行となる

源頭は右岸の笹原をひと登りで登山道
茶ノ木平で一休み

茶ノ木平の分岐標から少し戻ったところから長手沢へ下降
早めに窪に入ってしまえば、それほどの苦労はなかった

1か所5mほどの懸垂下降を要したものの、あとは淡々と下る

左岸にピンクテープが見える
地形図を見れば、この辺りまで林道が伸びているようだった

takさんが少し足を痛めたようだったので、1150あたりからこの林道へ乗り上げる
あとは平坦で立派な林道~細尾峠の道を足尾に向けてポクポク歩く

まだまだ暑い9月
予報通り、山間に鉛色の雲が湧き始めていた


sak

 

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五頭・大荒川本谷

2023年09月15日 21時37分01秒 | 山行速報(沢)

2023/8/27 五頭・大荒川本谷

やっぱり沢は好い
そう思える一日だった

・・・・・・・・・・・・

前夜、茨城から五頭・魚止ノ滝駐車場まで
下道をノコノコと行くので流石に遠い

続く熱帯夜
途中、道の駅で寝る気になれず、登山口まで
ここまでくれば幾分過ごしやすく、幕を張って就寝

駐車場から登山道を行く
登山道が左折するところから直進する踏み跡に入る
途中草藪に埋もれているが迷うようなことはなかった

堰堤上で装備をつける
今日は久しぶりにsztさんとの沢登
気心知れたパートナーとの山は良い
数年ぶりのことであっても、あの日の奮闘は鮮明に残っている

大荒川本谷は中規模ながらゴルジュと滝が続く
途中のシャワークライミングや泳ぎが楽しい所

入渓点からいくつかの滝を問題なく超えていく
森の中なので、清涼感抜群だった

右に小倉沢を見送った先の8m滝は登れるらしいが、落ち口に流木が堆積して庇状となっているため右から小さく巻き、懸垂下降で沢床に戻る
この後も泳いだり、へつったりして楽しい

小ヤゲンは最初の滝を水流左から行く
その先はチョックストンが二段になって流れを落としていた
右壁に古いリングボルトもありトポにもあるように右壁~リッジへと抜けるのがルートだろうと見立てて取付いた

しかしながら、近くで見るとリングボルトは寂れリングが途中で欠けている
いやはや
仕方ないのでこれをスルーして右に見えるハーケンを使う
右壁のフェイスをクリアしてリッジに乗るが、ここからは支点もなく数歩が悪かった

リッジの立ち木に至れば一安心
しかしながら岩は脆いので注意が必要
30mロープで2ピッチ


【大荒川本谷へ入渓される方に”お願い”】

小ヤゲンの登りでウェアラブルカメラを落としてしまいました
滝場を登り終える直前だったので、どこまで落ちたかは不明です

落下した先を覗いてみましたが、寓話「ヘルメースときこり」のようにヘルメース神が現れることもなく
涼やかな風が吹くだけでした

もし、この付近で「GoPro7」を拾得された方がいらっしゃいましたらご一報ください

【以上、個人的なお願いでした】


終了点から川床へは藪伝いで戻れる
辺りを観察するとコル状から古いロープが下がっており、小ヤゲンは手前から大きく巻くことができるらしい

この後も小ゴルジュを飛沫を浴びながらも楽しい遡行が続く
スグノ沢手前の3mは通常巻くようだが、sztさんが細かいスタンスに乗ってクリア
後続のsakはお助けを投げてもらう

沢登りの一場面
なんかいいよね、こういうの

いくつかの支流を見送って大ヤゲン
峡谷の小滝を越えると深い釜を持った狭いチョックストンの2段滝
これは手前の右岸小尾根から巻くが、中々傾斜が強いので要注意

藪を伝って川床に戻ると8m滝上
小滝を越えて15m滝はロープを出して右の草付を行く
新タメ沢を分けて現れる2段15mは水流右
この先は沢というよりは溝のように狭まった流れを行くが、なかなか面白い

ム沢を目指したはずが、遡行図と違うナメ滝が断続的に現れる
最終的には面倒になって右岸尾根から巻き上がりそのまま松平山まで軽いヤブコギ
そして山頂にダイレクトに到達するのが、なんとも良い

暑い夏に水と戯れる
下山は山葵山を経由して魚止ノ滝登山口まで


暑い夏
いや、熱い夏はまだまだ終わらない


sak

 

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上信越・小ゼン沢~魚野川(中退)

2023年08月21日 21時30分10秒 | 山行速報(沢)

2023/8/10-11 上信越・小ゼン沢~魚野川(中退)

当日の朝
入山口へ向かう途中、尻焼温泉から見た長笹沢川は濁流と化していた
計画に暗雲が立ち込める

沖縄・九州を中心に大荒れとなった台風の影響で、おそらく前日に相当量の降雨があったのだろう
その名残もあってか、山は霧に巻かれていた

当初はガラン沢支流から上信国境を越え、小ゼン沢を下降して魚野川に至る計画だった
しかしあの濁流を見る限り、支流のガラン沢も良くないだろうと鷹巣ノ尾根を辿ることにする

白根開善学校からゲートのある林道を歩き、馬止メ
ここから鷹巣ノ尾根道に入る

霧が立ち込め、湿度が高く汗が滴る
一方、尾根上部では風が強い
流石に寒くて雨具を着込む
このコンディションで沢を目指すのは変り者の部類だな、などと自嘲する

オッタテ峠から小高山方面へ少し下ったころから小ゼン沢へと藪を漕ぐ
5分ほどのヤブコギで沢床

小ゼン沢は滝場もあるが、概ね問題なく下れる
途中、トラロープなどもあり辿る者の多さを知る
山深い魚野川上流部へのアプローチ、そして下部から遡行時のエスケープルートとして利用されているのだろう

群馬県側で酷かった霧も長野県側に入ると時に陽も射し込む空模様
下降して約2時間
ネジレセンの上から左岸のコルを越えると魚野川・燕ゼンの上部へと出る
そして、右岸に小ぶりな幕場地

初めての魚野川
その流れは美麗な中にも芯の強さ、激しさを感じさせるものだった

本来ここから上流部を詰め、南ノ沢を辿って上信国境へと至る計画
しかし、気持ちは揺らいでいた
やはり水量が多い

岩につく苔が水没しているところから察するに平水+15cmほどだろうか


逡巡を交えながらも本流を遡る
幅広の滝やオッチラシの流れにしばし見惚れる

事を決定づけたのは、庄九郎大滝
流れの左を直登とあるが、今日の水量では取付く気にはなれない

左岸ルンゼの高巻きも検討するが、このころから空は鉛色
風も吹き、遠く雷鳴
おそらくは長く続かない一時の悪化だろうと予想はついた
しかし、ここを越えると戻るのも容易ではなくなる

朝見た長笹沢川の濁流が脳裏に過る
たとえ一時の雷雨であったとしても、雨量によっては致命的だ

往路を戻り、燕ゼン上部に幕を張り、今宵の宿とする
沢人の定宿らしく、薪も少ない
紅蓮花を咲かすことなく日が暮れていく

傍らには、結ゆい
酔いも回れば、沢音に揺られながらの転寝
心地よい眠りに勝る癒しはないのかもしれない


明けて今日は「山の日」
ラジオでもそのことを盛んに伝えていた

平日派の私にとって、この日に山へ入るのは初めて
当然、山も混雑するだろうと思った
それでも自然にひっそりと身を置ける場所がいい
そして選んだのが魚野川だった

祝日の前日からこの山深き森の上流部に入る
さすれば望みは叶うのではないか、そう考えてのことだ

とはいえ、昨日は傷心の撤退
今日の遡行継続も可能ではあったが萎えた気持ちは元には戻らない
「山の日」は単なる下山日となった

小ゼン沢を遡りながら、この山旅を思い返していた

冴えない空
増水への虞
華のない夜
そして、挫折

それでも魚野川は孤独と自由にあふれていた
なんてことはない、望みは叶っていたのだ


オッタテ峠目指して水線を辿ると大したヤブコギもなく峠の道標に出た
小ゼン沢を行くなら、コルからよりもこちらの方が早いようだ

鷹巣ノ尾根を下る
一ツ石から見る上信国境には、笹原が伸びやかに広がる
そして遠く、草津の街が見えた


sak

 

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尾瀬・中ノ岐沢北岐沢~小松湿原~猿沢下降

2023年07月28日 22時23分25秒 | 山行速報(沢)

前回の沢泊敗退からひと月半

その時に痛めた踵骨腱の痛みが癒える間もなく転勤辞令を受け取り、唐突に単身赴任生活が終わる

荷づくりに引越し
すっかり埋め尽くされた自宅の私的な場所(山道具の収納場所)を確保するべく、難航する家族間交渉

そして、新たな赴任先での新たな業
皆、とかくアジェンダだのファシリテーターだのとカタカナを使いたがる
どうやら「行動計画」「司会進行役」とは一線を画すらしい
あまりに洗練が過ぎて、居心地が悪い
まぁ、いいんだけどさ

そうこうしているうちに梅雨入りし、それも明けようとしている
慌ただしい日々、心中にはあの日叶わなかった沢での一夜が常にあった

夏の日差しが降り注ぐ関東の猛暑をよそに、森に包まれた一縷の流れを目指す
そしてたどり着くのは小さな湿原

そこに惹かれるのは何故だろう
山中にある、ただの湿った草原なのに

 

2023/7/18-19 尾瀬・中ノ岐沢北岐沢~小松湿原~猿沢下降

大清水の駐車場に着いたのは午前一時
平地の熱帯夜が嘘のように過ごしやすく、星が美しい
午前四時半には起床してゆっくり身支度
一ノ瀬行の始発乗合車を見送ってから歩き出す

鳥達の囀りが心地よい奥鬼怒林道を足早に歩く
一時間半ほどで入渓点
背丈ほどの笹藪を少し漕ぎ小沢を下っていく

北岐沢はいわゆる「癒し系」
滝もほどほどに楽しめて、ナメと深い森、そして静かな湿原を巡ることができる
山行の充実度としては少々物足りないくらい
しかしながら、真価はそこではない

遡上すると小滝が小気味良く現れ、右に左に越えていく
足場を選べば、腰を濡らすことはない
途中、小動物がじゃれ合う姿に癒される

しばらく遡るとゴルジュ地形が見えてくる
ここが大滝
奥にも支流の大滝があるらしいが、滝場の入り口からは見えない

下流左岸から岩場を回り込むように越えると滝上に出る
さらに小滝を越えていくと、次第に現れるナメ

1650の二俣(1:1)を誤って左(直進)に入るも、水量の減少に疑問を感じ誤りに気付く
軌道修正して、なおも続くナメに満たされながらゆっくりと歩く

ナメの美しい場所でひと休み
妻が持たせてくれた握り飯には、好物の「たらこ」が入っていた
ほんわかした気持ちと、懐郷心が胸に広がる

1770の二俣に幕場を散見
どれもが平坦、かつ前泊者が集めたであろう薪も残置されている
物件としてはこの上なかった

が、しかし
あまりに整いすぎていて居心地が悪い
時間も午前十一時前

明日は日本海にある梅雨前線が南下するらしく曇天、午後は降雨の予報
早めの下山はもちろんだが、せめて湿原での時間は晴天であってほしい

ここで一考
野趣に杯を傾ける一夜は沢下降で求めることにして、今日は先を目指す

小松湿原はこぢんまりとした高層湿原
池塘が散らばるでもなく、花が咲き乱れるわけでもないそれに
過度な期待を胸に目指せば少々がっかりするのかもしれない

地味故の慈しさがそこにある
それは悠久の時を経て、育まれた場所
実に尊い

黒岩山への径へは藪もなくひと登り
登山道は踏み跡、目印ともにしっかりしているが倒木多く難儀する
まして陽ざしが強く沢に比べて気温が途端に上昇する
ぶな沢を下降予定だったが、たまらず猿沢へと進路変更

猿沢は、さして難場もなく窪を下れば水流が現れる
半ばまで下った右岸に丁度いい広さの台地
山椒魚の採網を見かけたので山人のよき幕場なのかもしれない

今宵はここに宿る

時刻は午後一時半
天幕を張って、薪を集めても日暮れまで時間は余りある

木漏れ日を肴に、昼下がりの一献
傍らには、天栄の廣戸川

ついつい盃は進み、斜陽に沈む
闇に揺らめく紅蓮花に酔うまでもなく、撃沈

こんな日があってもいい
薄暮の空が樹幹に揺れた

雨粒が落ちる音で目が覚めた
時間は午前四時
こんなにも早く降り始めるのかと暗澹たる思いであったが、幸いにもすぐに雨は上がった

手早く朝飯を食し、撤収
いつものことながら、沢靴下装着の儀に気合を込める

深森に、苔生す岩
脳内では国歌斉唱が繰り返されていた

一時間ほど行けば、奥鬼怒林道
あとは大清水まで気軽な林道歩き
道中、蜻蛉の群れに遊ぶ


慈愛と調和

心穏やかになれる場所がある
自分の好物を知っている人が帰りを待っている
これだけで充分、満ち足りる

 

<追伸>

まぁ、いいんだけどさ
ついでに言うならば、沢屋にとって片仮名表記は「ナメ」と「ゴルジュ」で充分
って、言いすぎか(笑)

※片仮名表記は「ナメ」と「ゴルジュ」だけでお送りしました。
 現場からは以上です


sak

 

 

↓動画も

 


福島県天栄村 鶴沼川水系・二俣川左俣~河内川下降

2023年06月09日 14時08分12秒 | 山行速報(沢)

福島県天栄村 鶴沼川水系・二俣川左俣~河内川下降


それは歩き始めて一時間ほど経過したときのこと

-痛恨-

この一言に尽きよう
思わず天を仰いだのは言うまでもない


沢旅の起点は二岐温泉
国道から山中に分け入るように二俣川沿いの道を行くと数件の温泉宿が立ち並ぶ
開湯は969年(安和2年)といわれる古湯、秘湯だ
この先に林道が左右へ伸びており、右に二俣川源流、左に河内川へと続いている

大白森山登山口に車を止めて、二俣川の源流に向かって林道を歩く
樹幹越しの陽光に、蝉時雨が降り注ぐ
梅雨入り前の清々しい朝のひととき、足取りも軽い

 

それは歩き始めて一時間ほど経過したときのこと
御鍋神社手前の広場奥から遊歩道に入り、二俣川へと下る途中のことだった

「あっ!」

沢泊用の食料を、まるっと忘れたことに気付いた
頭の中に冷蔵庫へ入れたままのそれが映像として浮かんだ

予定では、二俣川左俣を遡行し、尾根を挟んだ隣の河内川を下降
途中、山の恵みを享受した一泊で沢旅を堪能する計画だった

この計画はこの段階で心理的に完全敗退だ
しかしここで撤退しなかったのは、この沢旅にまだ残されたものがあると感じていたからだ

使わない泊装備を背負って、日帰りとしては少々長い距離を歩く
その決断に躊躇はなかった

これは試練だ
試練無くして輝く未来はないのだ、たぶん

そう自分に言い聞かす


二俣川左俣は、ナメが断続する癒し系の渓相
途中、ゴーロと倒木がうるさい所はあるものの、滝場は容易で幕営適地も多い
静かに沢旅を楽しめる、穴場といっていいだろう

本流を詰めていけば、やがて水流は消え径形に導かれて登山道に出る
そこからは大白森山が意外と大きく、貫禄の姿
あの向こうに甲子山、そして那須へと稜線が繋がっている

この山域は「那須」と「南会津」に挟まれ、山域ブランドとしては不遇の地といえよう
所在は「福島県岩瀬郡天栄村」に位置するので、この記録をしたためるにあたっては「天栄村・二俣川」と記すこととした

その天栄村に、旧友がいた
かれこれ25年以上連絡を取っていないが、彼は今どうしているのだろう
そんなことを思いながら背丈ほどの藪を漕いで河内川へと下る

河内川の記録は少ない

中流部に「ケムシ」マークが続き、いかにもゴルジュを秘めていそうな期待を誘う
しかしその実態はナメもほどほどにゴーロが目立ち、実に冗長な流れらしい
その遡行評価が記録の少なさ(遡行者の少なさ)に繋がっている

ならば下降に使ってはどうだろう、というのが今回の計画
下部には、馬尾滝と河内川森林軌道跡といった見どころもある
沢旅のクライマックスを飾るには良いのではないか

河内川は最上部の源流から開発の痕跡が濃い
地図に記載のない伐採道が続いていたのだろうか
小型車両がひっくり返って藪に埋もれていた

その後はゴーロが続き、たまにナメ
途中で見た特異な凸岩は「虫刺され跡」のようで、山中で独りツボる

一か所滝場があり、左岸を巻き気味にトラバース
地形図で「ケムシ」のあたりはゴーロながらも両岸が切り立っており、時に支流が美しく落ちる

軌道跡はこの辺りでも見ることができた
埋まるワイヤー、崩れた石積み、鈍く輝く軌道


樹幹に白き飛沫を放つ流れを見る
そして、馬尾滝

天栄村随一の落差を誇る瀑布に見惚れるものの、現在の馬尾滝は本来の姿ではないのだそうだ

その昔、開発とともに電力確保のために発破で流れを変え、水力を発電に利用したという
自然と人の関わりを考えさせられるエピソードだが、私たちの生活はこうして成り立っているのが現実、ということか

滝下から右岸台地にひと登りすると、そこに河内川森林軌道の様々な痕跡が残っている

河内川森林軌道は、昭和二十二年営林署により開業
当初は人力であったが、後に牛力(牛車)軌道となった

昭和四十年頃、成井農林が伐採権を取得し、同時に動力が機械化
自動車のエンジンを流用した自作の機関車だったらしい
そして昭和四十六年頃、廃止

遺されているもの
風化する遺構が、鮮やかに輝く
過去は確かにそこにあった


二岐温泉にて

私は、湯あがりの放心時に思い返していた
かの旧友は今どうしているのだろうかと

携帯端末の画面に指を滑らす
過去を想えば、なんと便利な時代か

すると、その名は電話帳WEB検索に掲載されていた
住所にも見覚えがある。間違いない
正直、ちょっと驚いた

電話帳に名が載る、ということは家督を継いだのだろうなと思い巡らす
そして、悩んだ

悩んだ末、端末の画面をそのまま閉じた
突然の連絡など迷惑だろう、というのは明らかに言い訳だった

本当は怖かったのだ

風化する記憶の中、鮮やかに輝いた蒼き時
それは確かにそこにあった
せめて、鮮やかなままで残したかった

森に見た、鈍く輝く軌道のように


sak

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裏妙義・中木川烏帽子沢左俣~烏帽子岩・赤岩

2022年11月13日 23時20分31秒 | 山行速報(沢)

2022/11/2


裏妙義・中木川烏帽子沢左俣~烏帽子岩~赤岩~丁須ノ頭


秋暮るる、ようよう寒し。
静かに御殿が輝く。

11月。
藪岩に沢を織り交ぜてみる。
自由律な山旅に心躍る。

国民宿舎裏妙義跡から籠沢沿いを歩く。
植林から次第に岩壁や岩塔に囲まれる。
紅葉の盛りはもう少し後だろうか。

木戸壁を過ぎて、「木戸」の標識から100mほど進む。
鎖場がいくつか続いた先、右岸から入る烏帽子沢。

登山道から離れ、詰めていくと最初の8mチョックストン。
これがいい目印となる。

この滝は左岸ルンゼから巻き。
川床への復帰は泥壁の灌木頼りで悪い。

妙義は上越や南会津のように灌木が手がかりとして信用ならない。
これは降雪が少なく、冬に乾燥するためだろうか。
樹に粘りがなく折れやすい上に、岩の間隙に張る根は浅い。

烏帽子沢は晩秋ともなれば水流も少なく、沢というよりはルンゼといった風情。
断続的に滝も現れるが、岩は脆く、逆層が多い。
ガイドには「初心者向」とあるが決して容易ではない。
枝沢も多く、ルーファイも含めて沢や岩の技術向上に良いかと思う。
地形図の烏帽子岩と風穴尾根の頭の中間鞍部を目指していく。

滝は直登と小さな巻きで越えていく。
前述の通り、灌木には注意が必要だ。

詰めは落葉の乗るザラついたナメを用心深く登る。
右の支尾根に上がれば登山道までは一投足。

一休みしたら、今度は藪岩モード。
以前、西大星から見た岩と藪の塔、烏帽子岩と赤岩へと向かう。

烏帽子岩の手前を右にトラバースする登山道から離れて、岩壁に向けて登っていく。
正面岩壁は取付くしまもないが、踏み跡に従って岩壁基部を右にトラバースする。
上部に行くと傾斜も増して、足元が切れ落ちてくるので少し緊張する。
立木も豊富だが、やはり腕ほどの立木が根元からポキりと折れることもあり要注意。

頂の視界は少ないが軽井沢方面がよく見える。
浅間山の頂あたりは雪で白い。

下降は往路を懸垂下降。
40mロープ1本を使って2回。
あとはクライムダウンで何とかなる。

登山道を赤岩へ向かう。
赤岩基部のトラバースはフォトジェニックな場面。

一度、赤岩を右からやり過ごし、「赤岩」という標識がある所から今度は左に回り込み戻るような形で赤岩の尾根に乗る。
踏み跡は次第に不明瞭になるが、テーピングに導かれていく。
岩はともかく、ズルズルの泥壁に気を遣う。

赤岩の主尾根に乗るとテーピングも消えるがあとは尾根を登っていけばいい。
頂の北端に上がるところは、踏み跡こそあれ、灌木も脆弱。
切れ落ちた高度感に足も竦む。

これを越えると平坦となり、南端の頂まで。
全方向とはいかないが、眺望もすばらしい。
往路を戻るが、登り以上に慎重さを要したい。

あとは丁須ノ頭を経由して籠沢を国民宿舎跡まで。

夕暮れに向かって歩く。
谷筋は思いのほか暗い。
しかし、見上げる樹幹の先に空はまだ青い。

-誰彼 我莫問 霜月 君待吾-

斜陽を受けて浮かびあがる影が、落葉の絨毯に滲んだ。


sak

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只見をめぐる沢旅(小戸沢そそろ沢~芦安沢~丸山岳)

2022年09月24日 12時57分43秒 | 山行速報(沢)

2022/9/14~17 只見をめぐる沢旅


只見に初めて訪れたのは、会津朝日から丸山岳を目指した時のことだった。
「南会津アルプス縦走路構想」が頓挫し、藪に帰りつつあるという「未開の縦走路」に興味を抱いた。

結局は猛烈な藪に歯が立たず途中敗退をするわけだが、今思えば、まるで実力と研究が足りていなかった。
しかし思い通りに行かなかった無念にこそ、価値はある。

あれから、23年。
歳月の流れの中には、苦難もあった。
それでも只見は只見であり続け、私はこの山と谷に癒しを求めた。


-只見をめぐる沢旅-


好きな場所は自分で決めていい。
素晴らしき哉、沢旅。

只見湖から小戸沢西の沢そそろ沢。山越えして洗戸川前沢下降。
芦安沢を詰めて、丸山岳。下降は葦ノ沢から大幽東ノ沢、そして黒谷。

独奏の四日間が始まる。

 

2022/9/14

起点は只見駅。
車中泊の後、只見湖尻・万代橋の右岸袂の園地へ。
田子倉ダムを見ながら小戸沢林道へと入る。

小戸沢は以前から興味があった。
黒谷川、楢戸と遡行した者なら、並び流れるそれが気にならないわけはない。
上流の「そそろ沢」というネーミングにも惹かれたし、記録も少なく琴線に触れた。

小戸沢林道終点で東と西に流れを分け、西の沢へ入る。
下流部は穏やかに流れる西の沢も中流部で峡谷となり時に胸まで浸かる。
いくつか滝場もあるが、空身+荷揚げなどを駆使すれば突破できる。

上流部に入ると10mほどの滝が現れ、巻きを模索するが結局は直登するほかなかった。
しばらくゴーロが続き、高倉沢との二俣は高倉沢のトイ状を突っ張りで越えてから、そそろ沢へとトラバースする。

そそろ沢に入ると側壁は高く角度のある草付き。
威圧感が重い。
峡谷ではあるが、沢床はゴーロが多く意外と捗る。
途中でトイ状10m滝。これは左岸のルンゼから高巻く。

そろそろ幕場を求めたいが、峡谷に安息の幕場は少ない。
雨がないとは思っても、万が一を考えると安易に物件を決められない。
左岸に突き出た大岩上に1畳ほどの台地を見つけて今宵はここに根を張る。

昨晩は1時間ほどの仮眠だったこともあり、睡魔に勝てそうもない。
食事を済ませてすぐに床に就く。
あとは、今宵の眠りに日常の悪夢が現れないことを祈るばかりだ。

 

2022/9/15

幕場からは巨石をいくつか超える。
とはいえ、突破に困難はない。
流れがS字に屈曲した所で雪渓の残骸を見る。

その少し先で洗戸川前沢に繋げるため高倉山東のコルへ向かう左岸の支流に入る。
本流にも興味はあったが、それはまた今度。
そそろ沢から長須が玉経由で東の沢へ繋げるものいいだろう。

支流は急登で高度を上げる。
懸念していた絶望的な滝はなく、直登でこなしていける。

最後は藪を強引に登りきると高倉山東のコル。
稜線の藪は濃く、石楠花やツゲなどを交えた厄介なヤブコギだ。
たまらず、降りやすそうな場所を探し、少しだけ移動したら前沢側へ下降開始。

沢筋までは灌木を繋げていくが、それでも懸垂下降を強いられる場面もある。
前沢の沢床に着くまでに4回、そこから洗戸川出合まで4回の懸垂を要した。

洗戸川と合流し2年前を思い出す。
ここからの下降、芦安沢出合までに悪場はない。
時に滝場はあるが、軽い巻きやヘツリでかわせる。
この安心感は大きい。

幕場は前回同様に芦安沢出合から少し下流の左岸、小沢出合の段丘に求めた。
このあたりには山葵があるのが嬉しい。
そうして、楽しい沢の一夜が始まるのである。

薪には炎を。
山葵には肴を。
そして月。

傍らに、国権てふ。
美味し。

 

2022/9/16

芦安沢は中流部から滝が続く。
絶望感を抱くようなものはなく、軽く巻いたり、直登も険しくもやさしさを湛える南会津らしさがそこある。

入山前夜の只見駅で、Nさんが数日前に芦安を遡ったとツイートで知った。
面識なき彼の痕跡を感じながら遡るのも、何かの縁か。
おそらくこれは偶然でないのだろう。

意外と早く水は枯れ、今宵の水を確保しておく。
沢型は続き、手入れの良くない登山道のよう。
次第に背後の視界が開けて、これまでの道程がよく見える。

深山に独り。
畏れ、和ぎ、そして胸は高鳴る。

詰めは草付きの急傾斜。
灌木目指してバイルを振るう。
丸山岳から北西の1736峰。さらに100mほど西の尾根に詰めあがる。
ここからが苦難の歩となる。

待ち受ける、密藪の刺客。
笹藪はもちろん、石楠花、栂、ナナカマド。
そして密藪に絡まる、つる性植物。

容易ならざるヤブコギに、私は23年前を思い出していた。
とかく力任せだった、あの時。
それは若さの証明でもあったか。

時を経て想うのは、それでも楽しかったと、充実した、高揚したと感じた山行後感。
思い通りに行かなかった無念にこそ、価値はあった。
それは、あのころの日常でも同じではなかったか。

今はどうだろう。
はたして、同じと言えるだろうか。
藪を漕ぎながら考える。
そして夜の帳が降りる頃、丸山岳に至る。

 

2022/9/17

朝の草原に立つ。
控えめに言って、最高だ。

山頂から葦ノ沢下降点までは時に藪を漕ぎ、草原を繋ぐ。
あたりを決めて笹藪に入ると沢型はすぐに現れる。

葦ノ沢の下降は、岩がとても滑るので要注意。
懸垂下降2回。

大幽東ノ沢はゆったりと流れる。
サブウリのゴルジュでは流木が流れをせき止めて、いくつも滝場と化している。
たしか、前回下降したのは6年前
その時の印象からずいぶん変わっている。
下降はともかく、水線遡上は困難そうだった。

只見をめぐる沢旅。
フィナーレはやはり黒谷の森だ。
この森は「歩く」のではない。
「味わう」のだ。

取水堰を通過し、水色の大幽橋をくぐればこの旅も終わる。
黒谷林道の車止めにデポしておいた自転車に跨る。

薄暮の黒谷川沿いを自転車で疾走する。
家々の窓に明かりが灯り始める。
ふんわり香る稲わらの匂いに、秋を感じる。

暗がりの国道を只見駅に向かう。
道すがら10月1日の只見線全線再開を祝う幟がはためいていた。

もう少しだ。
がんばれ、俺。
がんばれ、只見。


sak

 

 

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桧枝岐川・黒檜沢左俣~三岩岳

2022年08月31日 22時21分47秒 | 山行速報(沢)

2022/8/22 桧枝岐川・黒檜沢左俣~三岩岳


街道を北へ。
闇に浮かぶ牛丼屋の看板に目が留まる。

そういや晩飯、食ってなかった。
余事に振り回される日々。
終業際、唐突に思い立ち、ついと山へと向かったからだ。

ふふふ。
今日の牛丼並盛は一味違うぜ。

何故って?
それはこれから、本然を見に行くからだよ。

小豆温泉スノーシェッド手前。
黒檜沢にかかる橋の袂から入渓。
どこから降りるのか迷ったが、右岸側を少し入ると踏み跡がうかがえる。

下部は白い花崗岩が美しい。
ナメに小ゴルジュ、滝場が断続。
このリズム感がいい。

小ゴルジュは、へつったり泳いだり。
滝は概ね、登ることができて楽しい。

直登が困難そうな7m滝は右岸を小さく巻く。
この上で登山道(現在は通行禁止)が横切っており、小休止。

アブはなく、赤蜻蛉が群遊。
山はもう秋の装いが始まっている。

ここからはゴーロが増えて下流部のリズム感は薄れる。
反面、正面に三岩の稜線が見えてきて開放的。
1:1の二俣は左に崩落跡をみて、右へ。

奥の二俣は左に多段滝で右がゴーロ。
ここは針路を左にとる。
多段滝の下段はどこでも登れる。
中段は水流沿いのヌメを回避し右を登る。
上部は容易。

小滝の連瀑をこなして露岩に顕著なチョックストン3連滝。
小休止してから左岸巻き。

しかしながら、この巻き。
露岩に草付き、急傾斜。足場が決まらず悪い。
ここで足を滑らせば、止まらない。
スパイクをもってこればよかったと思いながら、必死にバイルを振るう。

こんなときにフラッシュバックする日常。
得てして日常は残酷だ。
日々身体はすり減らされる。
そして、唐突に思い立ち、ついと山へと向かうのだ。

ここが消失点ならば、受け入れてもいい。
それが、運命なのだろう。

しかし、ここを乗り越えたなら。
それは「今と向き合え」という啓示か。

草付きから藪を取れたら一安心。
灌木帯をトラバースして、最後は15mほど懸垂下降。

ここからも滝場は続くが、いずれも登ることができる。
最上流部は沢筋が幾重にも分岐する。
目指すは、地形図・三ツ岩のすぐ脇にある「草原マーク」。

水流は消え、沢筋が草叢に吸収される。
そしてたどり着く源頭。

三岩岳の本然はここにあった。
源頭に広がる草原。

赤蜻蛉が舞い、雲は流れる。
そして、金光花の群落が一斉に揺れる。
夏と秋の間に。
ただひとつ、私だけが異質だった。

日常の余事は、誰しも溜息モノだ。
だが、自己本然の姿はどうであったか。


行く手にはヤブコギが待っている。
うん。これだよ。
これがなきゃ、だな。

ふふふ。
今の俺は一味違うぜ。

 

sak


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実川・赤倉沢~花沼湿原~硫黄沢下降

2022年07月08日 07時13分42秒 | 山行速報(沢)

2022/6/28~29 実川・赤倉沢~花沼湿原~硫黄沢下降


今、自分に足りないのは、アレだ。
きっとそうに違いない。
確信的な思い込みから、行動に至るまでにそう時間はかからなかった。

今を生きるために、様々な人生訓や名言に納得してみたり、疑問を感じたり。
とかく日常は悩ましく、解は多様だ。

脳裏に浮かぶ南会津。
それが確信に変わる。

ひと気のない滋味溢れる場所を選ぶ。
そして独り自由を嗜むのだ。

七入から林道を行く。
実川林道は国道からすぐのところで、チェーンのゲートがある。
数年前までこのゲートに鍵はなく、車で矢櫃沢の先まで入れたようだが現在では鍵がかかっている。
広大な七入駐車場に車をおいて歩きだす。
すると、ゲートから1キロほどのところで崩落が起きていた。
鍵をつけたことに納得。

林道は途中で登り(左)、下り(右)に分かれる。
下に行くと実川に降りることができるが、その先に堰堤が見える。
それを嫌って、登りの林道へと進む。

赤安沢出合先の緩斜面から藪を漕いで入渓。
実川を遡る。
しばらくは平凡な流れ。

右岸が崩落した赤茶岩の滝から、滝とナメが現れ始める。
滝場は直登したり、小さく巻いたり。
1か所だけ泳いで水流左スラブに取り付いた。
実川の一番面白いところが、この辺りに凝縮されている。

流れが穏やかになると硫黄沢出合。
硫黄沢は水が少し白濁している。

この辺りは平坦地が多く、少しだけ硫黄沢に入った右岸台地が草原状。
近くの小沢で水もとれるので極上の幕場だ。
フカフカで気持ちの良い場所に天幕を張る。

沢旅はミニマリズム。
ザックで担ぎあげた道具たちで一夜を過ごす。
足りないものは自分で何とかするのも、また楽し。

自由時間。
あとはアレして、コレをする。

癒しの揺らぎに眠気を誘われ、うたた寝。
否、したたか酔いがまわったか。

鹿の鳴き声で目が覚めた。
すっかり闇に包まれた森の河原で意識を失ったかのように寝ているのだから、鹿も驚いたことだろう。
薪をくべ直し、寝床に潜る。

鳥のさえずりとともに起床。
昨夜、炊いた白米を雑炊にして食す。

幕装備はデポして、赤倉沢を遡る。
赤倉沢はすぐに二俣。
右俣を行くが、倒木が多くすっきりしない。
所々で水流脇を登るが、ヌメに注意が必要。

源流の雰囲気が満ちるころ、辺りは針葉樹で覆われる。
俊立する針葉樹が底知れぬ奥行きを演出する森は、まるで異界の淵。

倒木を床に幼木がひしめく。
混沌する生と死。
ゆっくりと未来が紡がれている。


硫黄沢左俣の源流を渡ると、もうすぐだ。

今、自分に足りないと確信した、アレ。
そう、湿原。
正確に表現するなら「人知れずひっそりと佇む湿原で惚ける時間」だ。
そして目指した花沼湿原。

森の只中にポッカリと開けた空間。
大きすぎない、こじんまりとしたところがまたイイ。

池に映る空が青い。
小さく、可憐な花が風に小さく揺れる。
遠くで蛙が何か言っている。
その言葉が解ったら楽しいだろうな、と思う。

水面に映る、青が沁みていく。


花沼湿原から西進。
いくつかの窪を渡って、硫黄沢本流へと下る。
赤茶けた川床。
いくつか滝場は出てくるが、クライムダウンと巻き下りでやり過ごす。
1か所、外傾した岩をクライムダウンする巻き下りが悪かった。

途中、コ字型の流程のショートカットルート(コル)を確認。
幕場まで下り、撤収を終えたら硫黄沢を登り返してショートカットに入る。
実川まで下って、対岸の実川林道終点へと登り返すが、結構な密藪。
おそらくはどこかに踏み跡もあるのだろう。
林道に出たら、あとは余韻を楽しみながら七入を目指す。


今を生きるために。
自分の足で歩く。


sak

 


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