2022/4/28 池ノ塔~郡界尾根~越後駒ケ岳
普段は手の出ない奥深い山巓でも残雪を利すれば、山旅の自由度は広がる。
これぞ春山の醍醐味といってもいい。
地形図を眺めれば創造の山並みが手招きをする。
マイナーな場所ほど行ってみたくなるのは、もはや病か。
否、そこは探求心だと言っておこう。
点と点を繋げばそれはもう、私にとっては壮大な計画。
いつかきっとの想いに栞を挟み、生業に縛られながらも等高線の連なりに思いを馳せるのだ。
池ノ塔は越後駒ケ岳から北西に連なる郡界尾根の中ほどに位置する尖塔。
佐梨川雪山沢を詰めた頂がそれである。
アオリとの間には、地元称「ブラック台地」といわれる平坦地がポッカリと開ける。
ここで一泊も楽しそうだと大湯から駒の湯、池ノ塔尾根を辿っての計画を立ててみたものの、初日は生憎の雨で彼の地での夜はお預け。
しからばと水無川側から残雪に埋まるセンノ沢を遡り、池ノ塔~越後駒ケ岳を日帰りで目指す。
荒山集落の先を歩き始めたのは夜明け前。
雪の残る水無川添いの道をしばらく歩く。
途中、森林公園を見送り小規模なデブリを越える。
前方にカグラ滝が轟音をたてながら落ちるのを望むとセンノ沢はもうすぐだ。
センノ沢は出合でこそ雪は割れているが、下部は概ね雪に埋まっていた。
中流で右岸側に白沫の流れを見る。
本流は谷を埋める雪渓と考えてそれを詰めるが、どうやらこちらは池ノ塔へ直接詰めあがることに途中で気付く。
これからの針路補正は相当の労力を費やさねばならぬという思いから、そのまま雪を繋いで標高1200m。
ここからは池ノ塔まで藪を漕ぐ。
久しぶりのヤブコギに少しばかり興奮しながらの登行。
とはいっても、石楠花などのヤブコギ天敵が現れ始めるとウンザリしてくる。
そして、池ノ塔西峰。
真っ白なブラック台地を見下ろして次こそはと、彼の地での一夜を想う。
西峰から池ノ塔本峰まではわずかに踏まれているようで藪は濃くない。
次の無名ピークまでは何とか歩けるが、そこから先の郡界尾根は屈強な藪と闘うことになる。
時に空中戦を強いられながらも、左には佐梨川に切れ落ちる断崖が待っている。
これは、自分との闘いといえよう。
それでも郡界尾根と越後駒に挟まれた雪のオツルミズの景観に癒され、
断崖の基に昨年歩いた鉱山道の姿を見ると感慨深いものがある。
最低鞍部の少し手前でいよいよ藪は頑強となり、もはやどうしたらいいのか途方に暮れるレベル。
このままでは今日の下山もままならなくなるので、オツルミズへと下降する。
雪渓は概ね安定しており、踏み抜きもないが越後駒側からの雪崩を警戒し常に郡界尾根寄りを歩く。
途中、雪崩の危険のない緩やかな斜面から流れる支沢で水補給。
担いだ水分はすでに底をついていたので、これは生き返った。
フキギを過ぎると越後駒へと突き上げる雄大な谷を右に見送る
この先、雪が途切れて流れが顔を出す。
右岸を少々ヤブコギしてこれをやり過ごすとオツルミズ源頭。
雨流線が谷を求めて、雪面に艶めかしい曲線を描く。
雲は流れ、世界中に羽ばたいていく。
空と白銀の狭間に、陽は小さな陰を落とす。
そして歩く。
この星の片隅を歩く。
下山はグシガハナ経由の極楽尾根。
急下降に加えて雪と夏道のミックス。
登山道とはいえ、気は抜けない。
十二平に着く頃、闇に捕まる。
闇に包まれた大デブリ帯はまるで迷路。
突然進路が激流に削られ、断崖となっていたりする。
落ちれば、雪融水に流され10分とは保たないだろう。
ここは慎重に。
白息の向こうに、星が瞬いていた。
果たせなかった場所での一夜を想う。
傍らに花陽浴の吟醸。
そうしてまた等高線の連なりに思いを馳せるのだ。
sak
↓ 山行の様子を動画で