acc-j茨城 山岳会日記

acc-j茨城
山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

南会津・大津岐川一ノ沢~下ノ沢下降~ミノコクリ沢~中門沢

2024年10月14日 15時41分47秒 | 山行速報(沢)

2024/9/24-26 南会津・・大津岐川一ノ沢~下ノ沢下降~ミノコクリ沢~中門沢

 

隣は何をする人ぞ


普段の私は「山」という趣味を身近な人たち -特に職場の人たち- に発信していない
したがって、私が休日をどのように過ごしているかなど知る人物は少ない

最も、皆から興味を持たれているわけでもなく「ねぇねぇ、休日は何してるの?」なんて聞かれることもない
プライベートに深入りするのは、お互い慎重になってしまう
まぁ、時代といえば、そういう時代でもある

おそらくはあまり面白味のない「無趣味人」
そんな風に映っているのかもしれない

転勤して約2か月
ようやく仕事にも周りの人との距離感にも慣れてきた
職場の少々希薄な人間関係をどう思うこともないのだが、ある日「独り時間が大好き」と公言する隣の席の同僚が珍しく話しかけてきた

「実は、休日に近所の店で独り昼めし食べながらビールを飲むのが好きなんです」
そういいながら、こちらに向けたスマホの画面には蕎麦と天婦羅、そしてビールが写っていた

私は「いい趣味ですねぇ。楽しいだろうなぁ」と最大限の賛辞を示し、当の本人も大層満足そうだった

これは忖度でも社交辞令でもなく本心からの言葉だった
この後、風呂にでも入ったならこれはもう天国だろうな、とも思った
危うく明日からの山行の決意が揺らぐところであった

私は私でこの時とばかりに「実は、明日から趣味の山登りに行くんです」と応じることもできたが、刹那躊躇しその言葉を飲み込んだ
そしてその代わりにもう一度、心を込めて「羨ましいなぁ」と呟いてみせた


「いつかは中門沢」

会津朝日・駒山群にあっていつかは訪れたい場所の一つであった
御神楽沢ではなく中門沢を選んだのは、その秘境成分の濃さからである
しかしながら詰めあがる中門岳から会津駒は言わずと知れた人気スポットであるが故、足が向かなかったのも事実

9月の三連休
それが明けた日からの三日間

そのタイミングなら静かな山旅を堪能できるのではないか
そうして私は中門沢に向かった


2024/9/24

前夜、大津岐発電所まで
一ノ沢の林道を歩き取水堰から入渓

一ノ沢を少し下降して白沢岳北の鞍部に至る支流に入る
いくつかの滝を直登や軽い巻きでこなして鞍部に出る
藪はそれほど濃くない

鞍部をまたいで下ノ沢へと下降する
藪を頼りに下ると視界が開けてガレ場に出た
藪とのコンタクトラインを藪伝いに下っていくとやがて窪へと落ち込む

淡々と下っていき、途中で懸垂下降を2回
いずれも捨て縄があるので、ミノコクリへのアプローチとして使われているのだろう

中流部からは穏やかな渓相となって軽快に水を蹴りながら進む
天気も良く、気持ちのいい沢下降となった

やがて下ノ沢はミノコクリと合流する
ミノコクリは想像以上に水量が多く、白波を立てうねりながら流れ下っていた

遡行するには川縁を繋ぎながら進むほかない
途中に滝場やゴルジュ地形も出てくるが困難な滝登りや泳ぎ、大高巻きはなかった
歩くたびに逃げまどう魚たちを目で追いながら今日の夜を想う

金山沢を過ぎ、ウグイ沢(地形図では「ドングリ沢」)に出合う
その少し上流の左岸に幕場を見出し、宵の準備に勤しむ


ミノコクリの夜

自由で孤独な暗闇に咲く紅蓮華
華片がひらひらと天に舞う

見上げれば無数の星が目に染みる
そして手を伸ばす

心情はビジュアルに残らない
歩いたことと、思ったことを残したい

山を歩き、言葉を繋げることが私にとっては救いであり、逃避だった
もう少し勇気を持てたなら、手の届く星もあったのだろうか


2024/9/25

ミノコクリ沢はウグイ沢出合から中門沢と名を変える
水量も落ち着き、流心を渡るにも不安はなくなる

特段の難場もなく、ただひたすらに高度を上げていく
時に現れるナメも美しいが、それこそが中門沢というものではない
むしろ美しさでいうなれば御神楽沢の方に軍配は上がるのだろう

それでも中門沢を選んだのは、そのアプローチの不便さと山深さに他ならない
何より、そのクライマックス
そう、中門岳である

クライマックスを思い描いて上流部を詰め上げる
背後には丸山岳と会津朝日岳
何度も振り返って山波を目で追ってしまうのは、これらの山々に思い入れと思い出があるからだ

やがて源流
流れも枯れて藪に入り、中門岳と2038mの鞍部に出る

少し上がると草原に出たので、ここでひと休み
中門岳へは今しばらく藪を漕ぐ必要があるけど、もう少しだけ秘境成分に浸っていたいとの思いからだった

そこから藪の斜面をひと登りで中門岳の一角に出る

中門岳は筆舌に尽くしがたい美景が広がる
先を急ぐ気持ちはあったけど、ここはそういう場所ではない
ここで先を急いだならきっと後悔するだろう

もう一日ある
本来の計画では、大津岐へ小ヨッピ沢か大沢岐沢を下ろうと思っていた
その予定を鉄塔奥只見線の巡視路下降へと変更することで時間は稼げる

誰一人いない中門岳で日本酒を一口
微かに発泡するさわやかな甘さが口に広がる
思わずもう一口

そして少しだけ昼寝をする
少し前に教えていただいた山の嗜みだ

水面は雲を映す
雲は流れて穏やかに時を刻む
そうして陽は傾いていく

傍らに寒菊の剣愛山
この山を前に独り酔いが回れば、詩人にもなる
この時が何より麗しい

会津駒ヶ岳を越えて、駒の小屋を大津岐峠方面に進む
駒の小屋周辺で人と出会うことはなかった
時間的に夕餉の準備中で皆忙しいのだろう

暗くなるまで尾根を進むこととして先を急ぐが、途中で風が強まりあたりが霧に覆われてきた
大津岐峠前後では草原がそこここに現れて飽きることなく歩くことができる

鉄塔巡視小屋付近まで行って幕としようと思っていたが、強まる風と霧を避けるため手前の1749鞍部で幕とした
普通の登山道なのだが、一人横になるスペースは確保できた
後は、食べて寝るだけ
明日は天気も回復するとラジオで報じている
それを寝袋の中でウトウトしながら聞いていた


2024/9/27

今日は下山するのみ

朝日に染まりながら歩き始める
1861m南の鉄塔と巡視小屋(利用不可)を見物したら、少し戻って鉄塔巡視路を下る

結局、山で人と会うことはなく静かな山旅となった

「いつかは」と思い描いた場所に立つ
先延ばししたことを後悔し、同時にここへ来たことに満たされる
過ぎゆく時と対峙して白秋を歩く

巡視路を下りながら、山行前日の同僚との会話を思い起こす

刹那、言葉を飲んだのは彼の満ち足りた感情に水を差すことになるのではないか、そう思ったからだ
あの会話は、彼が主役であるべきだった

さて明日、彼に会ったらどこから話そうか
今度は、私の番だ


sak



↓動画も

 


奥只見・袖沢北沢~丸山岳~メルガ股沢下降

2024年09月17日 12時10分17秒 | 山行速報(沢)

-丸山岳-

私にとって、丸山岳とは何か

「好き」だけで語るなら、もっと素敵な場所はいくらでもあるだろう
けれども、それだけではない何かがある

知る人ぞ知る名山という称号
路が無いという高揚感
そして、あの頂

山という妖に憑かれし者に宿る感情とでもいうのだろうか

 

2024/9/3-5 奥只見・袖沢北沢~丸山岳~メルガ股沢下降


一路、北へ
これからの山旅を想い、開放的な気分に浸れるひと時だ

午前二時
シルバーラインを走り抜け、トンネルを抜けるとそこは奥只見ダム
奥只見エコパークの駐車場で車中泊
実に静かで瞬時に記憶が朧気となる

五時起床
のはずが、寝袋にくるまり15分ほどウダウダと過ごす
独りの山は、こういった自由がちょっと幸せ

とはいってもあまりのんびりしていられない
手早く整え、朝食は歩きながら食べることにした

下り基調の舗装路を軽快に行く
大鳥ダムへの道を分け、奥只見ダム下で只見川を渡り最初のトンネルを抜ける



「結界を抜けて、山へ」
そんな気分にさせてくれるシチュエーションがいい

平坦な道を淡々と行けば、南沢を分ける
その先、二度目に森を行く途中で沢型が横切る
これを袖沢に向かって下ると対岸に北沢の出合

北沢は袖沢に比べれば小さな流れ
しばらくは平凡な川原を行く



途中のゴルジュは膝上程度で容易
この後に出てくる2mほどの滝は釜が大きく、右岸を巻く

3段15mは右岸を巻くが、傾斜の強い草付きをトラバースするので要注意
灌木に手が届けばあとは強引に登れる

沢床へ戻るとき50cmほどズリ落ち、左ひざを強か打ち付ける
しばらく悶絶

多少の出血があったもののテープで止血
痛みは残るが骨に異常はなく、歩行はできそう
とかく、独りの山はこういう小さなトラブルが致命的になりかねない


-自由の代償-

ここは想像的かつ自由の、美しくも厳しい輝きに満ちている
輝きと渡り合う歓び、そして代償
本能がこれこそ本物だと言っている


この先、10m以下の滝が続く
いずれも沢ヤなら一見して何処をどう行くか、見当もつくだろう
1000mあたりで幕場を求められるが、明日の行程を考慮して先を急ぐ

10m幅広滝は水流左からシャワーを浴びて中段まで
そこから右へトラバース
先ほどの教訓も含めて、空身で中段まで登り荷揚げとした
水量が多い場合は、巻きとなるだろう

生憎の曇天にシャワーを浴びてチョット寒い
今宵の献立も頭をよぎるが、体を温めるために遡行に専念する

5m前後の滝を思い思いに越えていき1435mの二俣
少し進んだ1450mの右岸イタドリ台地を整地して幕とする

このあたりまで来ると、流れも細く流木も少ない
やはり焚火のない夜は、侘しい

一杯やって食事をとったら、もはや不貞寝のごとく睡眠不足の解消を決め込む

明けて翌朝は青空が広がる
だいぶ距離を稼いでいたので、今日は余裕をもって取り組める
左膝の痛みは軽快していないが、幸い悪化もしていない
滑りも強いので不用意な転倒はしないよう意識的にゆっくりと一歩一歩踏みしめる



詰めは様々登られているようだが、本流と思われる方へ進む
視界が開けてきたと思ったら、ガスが垂れ込めてくる
山頂での景観が如何ばかりかと気も沈むが、こればかりは運だろう

やがて水流もわずかとなって源頭の草付き
右の笹と灌木を使って乗り上げると笹藪漕ぎ
ほどなく尾根に乗って尾根を緩やかに登っていく
15分ほど藪を漕げば丸山岳南東峰の草原に至る



南東峰から丸山岳へはまた少し藪を漕ぐ
そうこうしている間にガスも晴れてきて青空が広がる

山頂からは山波のうねりが広がる
その頂を指呼しながらやはり会津朝日岳へ稜線が目を引く




-辿り着いた場所-

初めて丸山岳を目指したのは25年前
当時2歳だった息子の口癖は「だっこ」「ぶぅーぶ」だったのだが、社会人となった今では「メンドクセぇ」が口癖だ
そんな現実だけど、まあ苦笑い程度で過ごせるのだからおそらく今も昔も幸せなのだと思う

あの時ここに至ることはなかったけど、季節や登路を変えて五度目の丸山岳
私にとって丸山岳とはいったい何か

想いを馳せて山谷を繋ぐ
そして辿り着いたこの場所
また来ることができるだろうか


丸山岳を後に西へ
薄い踏み後もしばらくで不明慮となる
尾根を歩いて右は大幽西ノ沢、左は北沢
会津朝日岳への稜線を右に分け、村杉岳への尾根に入ったら右へと下る
わずかの下りでメルガ股沢の沢型に出る

このあたりは、地形図だけなら不安な場面だが、GPSを使えば心理的負担も少ない
GPSといいwebの情報量といい、あの頃とは環境が違う
勿論、それらを使わないという選択肢もあるのだけれど、俗世に浸かり切った身にはもはや後戻りなどできないのも事実だ


メルガ股沢は4か所ほど懸垂下降
概ね、捨て縄が残置されている
しかし、不安なものもあるので自前の捨て縄は用意したほうがいいだろう
また滑りが強いので下降には十分注意したい

1100mほどから幕場適地が散見される
この先を急ぐという選択肢もあったのだが、痛めた膝を言い訳にして左岸台地の物件で幕とした

付近に流木も少なく、昨夜に続いて焚火なしの一夜
実を付けたミズがたくさん採れるので、宵の膳に

明るいうちから一献
ミズは油炒めとたたきにしていただく
持参したつまみも加えれば、充分満足のお品書き
そして流輝の大吟醸


-夜空の流輝-

谷を映すように流れる夜空
その流れに星が輝く
夜空の流輝で一献

幻想的な夜であった

最終日は袖沢乗越を越えて、帰路に就く
昨夜も雨はなかったし、袖沢の渡渉も問題はないだろう
ほかに難所もないので気は楽だ
このあたりは既知の情報があるというありがたさ

とはいえ、1100mから袖沢乗越の支沢までは距離もある
滑りも強いので確実に歩を進める
淡々と行けば2時間ちょっと
ゴルジュ状の先の左岸から5mほどの滝で出会う

慎重にこの滝を越えればあとは細い流れを詰めるだけ
最後は落ち葉の斜面を登り尾根に乗る

少し下った鞍部のブナに切付を見る
その昔、ここは生活の場であった証である

-袖沢乗越-

南会津に興味を持ちはじめた頃から気になっていたことがあった
それは、白戸川への尾根越えル-ト、袖沢乗越だ
日本登山大系の記録を読むにつれ、想像ばかりが広がった

想像の世界をこの目で確かめる
誰にでもあると思う
そういう思いを巡らすこと



そこからは落ち葉の急斜面を下って、沢型へと進む
すると仕入沢上部の7m滝上に出る

ルート取りによってはこの滝をうまく巻き下ることもできるようだが、捨て縄もあるので懸垂下降
よく見るとフィックスも張ってあるのだが、なんとも不安を覚えるロープなので要注意

ここから上部の滝場をクライムダウンでやり過ごし、中流部からは平凡となる
下流部に至っても細い流れに草が覆いかぶさり、終盤までボサ沢の様相
ついに流れが開けることなく袖沢に合流する

-九月の蝉-

山に想いを募らせる

地図を読み、想像する
そこへ至る自分の姿を想像する
そして何をすべきか想像する

私が初めて想像的登山に取り組んだのが丸山岳だった
「初恋の山」
それが、私にとっての丸山岳なのだと思う

時代は変わっても
自身が変わっても
あのときの胸の高鳴りは変わらない

結界を抜ければ明日が待っている

時に「初恋」を想いながら、ほろ苦い現実を生きる
嘆きながらも、存外満たされていることを知る
この先どうなるかなんて分らないけど、このくらいが丁度いいのかもしれないな、とも思うのだ

辿り着いた場所
蝉が一匹、九月の空に向かって鳴いていた

丸山岳(左)、梵天岳(右)遠望

 

sak


 


清津川・釜川右俣~ヤド沢

2024年08月30日 18時01分06秒 | 山行速報(沢)

2024/8/19 清津川・釜川右俣~ヤド沢


泳ぎのある沢に行きたい

切り出したのはazmさん
そうして実現したのが、この山行だった

行先は清津川・釜川ヤド沢
かねてよりヤド沢に興味のあったというsztさんも加えて3人での計画

前夜、大場林道ゲート前を左折した広場まで入って仮眠
4時半起床
手早く身支度を整えて5時過ぎに出発
日帰りとしては長めの行程なので早出を意識する

雲が焼けるのを見ながら、目印のある踏み後へと分け入る
踏み後は明瞭で、取水堰
お手軽なアプローチ
ここから入渓する

巨石帯は岩を縫うように進む
岩に触れ体を動かす感覚が楽しい

二俣を右に入ると淵と小滝が断続してくる
最初の泳ぎはazmさん
ロープを引いて左岸から水流左へ泳ぎ渡ってひと登り

淵の先にCSが見えるところは左岸を巻いて10m弱の懸垂下降
その先の滝は右岸を小さく巻く
続く5m滝は右岸沿いに泳いで凹角をひと登り

長い瀞は左岸の壁を伝うように泳ぐ
その先で流れは狭まり、奔流となる
右に左に両足突っ張りなど思い思いにこの流れを遡る

そして現れるのが三ツ釜
手前の湾曲したスラブは水線あたりをへつれるのだが、azmさんは積極的に泳いでいる
「攻めるねぇ」と彼のスタイルを称える

三ツ釜最初の滝を左岸から巻き、ヤド沢に出てひと休み
azmさんは、この上の程よい高さの釜に滑りこんで泳いでいる
沢登は「楽しい」が一番だ

ここからナメの美しい流れを遡る
しばらく行くと、滝が連なるゾーン

15m3段は左岸を巻いて滝上まで
スダレ状の美瀑は水線右を行けるらしいが、シャワー覚悟
おとなしく左岸巻き
20mスダレ状は左の流水溝を行くが最後のスラブが緊張させられる

8m滝は右から巻いて懸垂下降
10m滝は水流右の乾いた岩壁を登る
その先の4mはいろいろ登られているみたいだけど、手前左岸垂壁を5mくらい登って巻く
この登りはなかなか登攀的でクライミングに秀でたsztさんにリードしてもらう

3人パーティーは、とてもバランスのとれた構成
スピードはやや劣るかもしれないが、対応力や危機管理の上ではバランスがいい
こういう時、それぞれの得意分野で対応ができる
志向性が同じ向きなら、いうことはない

巻き終えて沢床に戻ると、視界の先には50m大滝
このころから雲がかかり、ガスが垂れ込め幻想的な景観

ひと休みしていると、雨が落ちてきた
雨具を身に着けて左岸巻き

急な斜面を腕力頼りで灌木を繋ぐ
昼過ぎなのに薄暗い中、雨に打たれて藪を行く
一抹の不安が過ぎる

それでも未来を信じて歩き続ける
自分と向き合うのは、こういう時だ

傾斜が緩くなったらトラバース
ほどなく滝上へと至る

最後の4段滝を慎重に登るとヤド沢の主だった滝も終了
このころには雨も上がり、気分も晴れる

この沢旅のエピローグ
ゴーロ歩きは多くなるものの、時に現れるナメが美しい

奥の二俣を右へと進み、次に現れる二俣を左に入るとやがてコンクリート構造物が見える
踏み後をひと登りで林道に出る

あとは歩きやすい林道を横一列になって行く
おしゃべりしながら1時間半も歩けば、スタート地点へと帰り着く

山行後、旅先の温泉に浸かる
そして、食事を楽しむ
自分への労いとともに、微力ながら旅先への返礼


仲間と力を合わせる
自身と向き合い、自ら労う
そうして心が蘇る

三者三様
心の様相に違いはあったとしても、この喜びは変わらない
そう、私達には明日がある

それぞれの明日にエールを送りながら、こうも思うのだ
明日、有給にしておけばよかったな、と

心の様相にチョットした違いはあったとしても、これもまた真理だろう
だが、私には乗り越えねばならない”ヤマ”もある

進め!振り返るな!


sak

 


↓動画も

 

 


奥利根・湿原を巡る沢旅

2024年08月01日 12時13分53秒 | 山行速報(沢)

2024/7/24-26 奥利根・湿原を巡る沢旅

楢俣川ススケ沢~ススケ峰湿原~下ノ田代~上ノ田代~南田代~楢俣川下降

 

雷鳴
鉛色の空から落ちる雨
水面にいくつもの輪が広がり重なり合う

胸に届く、波紋


以前、湿原を「湿った草原」と表現したことがあったがそれは誤りだ
湿地と湿原ではその時間経過がまるで違う


湿原を巡る沢旅

そこに行ってみたい
そう思ってしまった
あれは「モウセンゴケの湿原」を目指した時が始まりであったか

極めて個人的な自己満足の旅
ここを目指す人が一体どれだけいるのか、という場所
むしろ、それがいい



当初、楢俣川からススケ沢~ススケ峰湿原~裏ススケ沢を下降する計画であったが、何か物足りなさを感じていた

-地形図を眺めれば創造の山並みが手招きをする-

地形図の余白、等高線の間に何を見るのか
足りない部分を想像で補ってこそ、それは完成される
地形図にはそういう美しさがある

確保した時間は3日
ススケ峰湿原から水長沢支流の文神沢中俣の源頭にある湿原へと繋いでみる

この計画には4日欲しかった
決して足の速くない私には、3日で収めることに多少の無理というか頑張りが必要だと思った
その「頑張り」に何の根拠もないのだが、ひたすら歩くほかあるまい

それからもう一つ
この地図の余白、等高線の連なりをどう読むか
そこにどういうラインを引けるか、これが最大の楽しみなのである


1日目

前夜、奈良俣ダム先のゲートまで
僅かな仮眠で朝焼けとともに歩き出す

入渓点までは湖岸道をひたすら行く
通常3時間ほどかかるらしいが、自転車投入で時間短縮を図る

とはいえ、16インチ折り畳み自転車でザックを背負ってではわずかな登りも手押しで進んだほうが体力消耗が抑えられる
下りの滑走を楽しみに、登りは手押しでこらえる
それでも1時間程短縮できたと思う

湖尻を過ぎて楢俣川の流れを右に見るころ、自転車をデポする
少し荒れた林道を歩いていると後方からヘリが飛来する
こちらを観察するように旋回し、上流へと飛び去って行く

事故でもあったのかと思いながら歩いていくと水位観測所に2人
誰かと交信をしている
どうやら、彼らの仲間がこの先の沢で怪我をしてしまったらしい
先ほどのヘリはその救助の為だとのこと

「気を付けて楽しんでらしてください」
との言葉に手伝いできることもないのだろうと、別れを告げる

藪に隠れた踏み後を辿っていると、空に暗雲が立ち込め雷鳴
救助に向かったヘリが引き返していく
救助できたのかななどと考えているとほどなく雨がボタボタと落ち始める

この3日間「不安定な天候」は織り込み済みなのだが、初っ端からこの天候は少し滅入る
雨具を着込んでとにかく距離を稼ぐ
幸い、楢俣川へ降りるころに雨は上がっていた

本流を徒渉し対岸の踏み後へと入る
淡々と踏み後を行くが、矢種沢を渉ってから踏み後が左右に分岐する

明瞭なのは左だが明らかに尾根へと向かっており、沢へ降りるには右の薄い踏み後に入るのだろう
そう思い右へとトラバースしていく
しかし、このあと踏み後は判然としなくなり、強引に楢俣川へと下ることになる

※下山後に確認すると、ここは矢種沢を渉る前に沢へと下降するのが正解らしい

先ほどの雨もあってか、水量は多め
初めの滝は右岸を軽く巻くと幕場適地
ここで、装備を身に着けて再び川床へと戻る
若干の水位上昇はあるものの、流れの渕を行けば遡行に差支えはなかった

楢俣川の本流は岩盤の発達したナメ滝が美しい
時に緊張させられる場面もあるが慎重にいけば問題はないだろう

右に深沢を合わせ、日崎沢出合では日崎沢の水流右に垂れるロープ頼りで這い上がる
滝上から対岸へ渡って楢俣川の滝場を左岸から巻いて流れに復帰する
ここから先もナメと滝が美しい区間である

やがて流れは平凡となり淡々と遡行することになる
水流も次第に細くなり、川というよりは沢にふさわしい規模になってきたころススケ沢(横沢)出合
時間は昼過ぎ
今日はこの左岸台地で幕の予定

3日間で唯一、ゆったりと沢を楽しめる時間がとれる日であった
もちろんこれを堪能するわけだが、昨夜の睡眠不足に酒と肴、炎のゆらぎが加われば睡魔に勝てるわけもない
明るいうちから舟をこぎ、星を見る間もなく寝袋に納まる


2日目

心配した雨もなく、あたたかな夜を過ごせた
明けて中日は高曇り
まずはススケ沢を詰めてススケ峰湿原を目指す

ススケ沢はいくつかの大滝を有するが、困難はなく小さく巻くことができる
源頭は様々にルートがとれるようだけど、水流の多い流れを選び遡る
やがて草付きの急傾斜に出る

このころからは青空も覗くようになって、実に開放的
背後に、至仏山が大きい

その中腹に、ヘリが飛来している
昨日は天候急変で救助ができなかったのだろう
なんとか事なき得たのならいいのだが

草付左岸側の灌木と笹頼りに高度を上げると尾根に乗り傾斜も落ち着く
但し、ここからの藪は丈もあり、消耗する
それでも大きな針葉樹の根元を繋いでいけば、藪も幾分薄いこと事が多い

いくつか草原を散見するようになるとススケ峰湿原は近い
緩傾斜の藪を漕いでいくと、その先に広がる山上湿原


-ススケ峰湿原-

有難き充足がそこにある
今、ここにいるだけで満たされる
そんな気持ちにさせてくれる場所だった


さて、ここからは下ノ田代に落ちる沢筋まで笹薮をトラバース気味に下る
このようなルート選択ができるのもGPSのおかげ
かつてこの地を跋扈した先達に到底敵うものではない

狙い通りに窪の流れを見出すと、下方に目指す下ノ田代が望める
難場のない流れを淡々と下ると、右にぽっかりと広がる下ノ田代


-下ノ田代-

草原に近い高層湿原に腰ほどの葦が広がる
中央に湿原を分ける流れ、そして白樺の木立が印象的な空間であった

この流れ(文神沢中俣中沢)を遡って次なる場所へと向かうのだが、空模様が怪しくなり始める
みるみる空は鉛色となって、雷鳴が近づいてくる

急ぎ足で小さな流れを遡る
いくつかの小滝を越えるが、総じて容易
しかし、流れは冷たく踵にできた靴擦れに凍みる


-上ノ田代-

地形図に名も記されぬ湿原
先達の残した記録から上ノ田代と記す
藪と山谷に囲まれたこの場所は、まさに隔絶された別天地


雷鳴
鉛色の空から落ちる雨
水面にいくつもの輪が広がり重なり合う

胸に届く、波紋

晴れた彼の地が歓喜なら、雨は潤い
雨が落ちるからこそ、水辺も生まれる
静かに雨音に耳を傾ける

やがて雨は上がり、水面が森を写す
そして鳥が小さく鳴く

実に美しい時間であった


片隅に幕を張りたい衝動をこらえ、往路を戻る

さて、ここからが「頑張り」どころ
今日は日暮れまで歩く予定だ

下ノ田代に戻って、Co1600mの平坦地をトラバース、南田代を目指す

平坦地とは言ってももちろん道はなく、藪に覆われた森
しかしながら、予感はあった
湿原や草原が点在するこの辺りは動物の往来も多い
その獣道が使えるのではないか、ということだ

想像した通り、獣道がそこここに見て取れ、思いのほか歩が進む
地図の余白を読み取れたこういうときは実に嬉しい

途中、地図にはない湿原に出会う
こういう偶然もまた、山旅ならではだろう

中俣右沢に出てそれを横断しさらにトラバースを続ける
南田代から流れ出る水流があるはずだ
もちろん、地形図に水線の記載などはない

アタリを付けたら流れを遡る
このころから再び雷鳴
幕場を探しつつ遡るが、なかなかいい場所はなかった

そして、南田代

それは水芭蕉に囲まれて広がっていた
これまでの湿原と違い、一部は水面に植生が生い茂っている
これが中間湿原というのだろう

沼から低層湿原、中間湿原を経て高層湿原へ
経過には数千年もの時間が積み重ねられる
その成長過程を感じられる場所だった

雷鳴が近づき雨も落ちてきた
辺りも暗くなりつつあり、適地とは言い難いが南田代から少し上流の藪中に幕を張る
雨に打たれながらの幕場設営はツライが、今日の充実を思えばこのくらいの辛さは幸せと紙一重であるとそう思いたい

幕を張って一杯やるころ、派手な稲光とともに土砂降りの雨
笹葉に落ちる雨が心地いいBGM
明日の行程を案じながら、眠りにつく


3日目

昨夜20時頃に雨は上がった
翌朝、空は鉛色ながら雨は落ちていない
楢俣川の増水という事態は何とか回避できるだろう

今日は最終日
朝食のラーメンを作りながら、下山したら何食べようかなどと考える

ふと入山日のヘリ旋回シーンがよみがえる
いや、その前に無事の下山だろと気を引き締める

南田代から赤倉岳とススケ峰の鞍部を目指す
ここは昨日のように獣道はあまり期待できそうもない

事実、屈強な笹というか細竹の藪に分け入ることになる
時に木登り、鞍部を見定めて次なる巨木を目印として進む
それでも鞍部からの沢型まで至れば、草原がそこここにあって藪漕ぎの苦労はなかった

しかしながら稜線にのれば背丈を越える藪
より安全と思える楢俣川下降点までの約100mがなかなかの奮戦となった

楢俣川側へ下降を始めると、すぐに窪となり水が流れる
しばらくは平凡な流れで時に草原に出くわす

沢床に笹が覆い被らなくなるといくつかの滝が出てくる
1か所、10mくらいの懸垂下降
それでも下から見ればクライムダウンでも行けたようだった

あとは藪を使って小さく巻き下ることが可能で楢俣川本流(沢種沢)に至る
上流右岸には10mほどの滝が美しく流れを落としており開放的な景観だった

さすがに上流部は滝やゴルジュ状が散見されるもクライムダウンと小さな巻き下りで通過が可能
このころから陽も出てきて楽しい沢下り
大きな三角岩のオミキスズ沢出合で小休止

この3日間を振り返る

山中に独りで入る
なんの社会貢献も関りも持たない時間
いうなれば「余白」の時であった

私は余白に何を見たのか
流れを下りながら、それに想い巡らせていた

 

sak



↓動画も

 

 


剱岳・本峰南壁A2稜

2024年07月20日 23時24分42秒 | 山行速報(アルパイン)

2024/7/18(木)〜2024/7/20(土)

(1日目) 扇沢〜雷鳥沢テント場〜新室堂乗越〜剱御前小屋〜剱沢テント場

(2日目) 剱沢テント場〜前剱〜平蔵の頭〜A2取付〜剱岳山頂〜剱沢テント場

(3日目) 剱沢テント場〜剱御前小屋〜雷鳥沢テント場〜扇沢

メンバー: azm, nksさん

記録: azm

 

ACC-J茨城に昨年秋ごろ入会した2人で、剱岳の本峰南壁A2稜に行って来た。

今日まで会の皆さん、とりわけsakさんには山行を通して本当に色々なことを教えていただいた。

まだまだ未熟な我々であるが、今回の山行は自立した登山を行えるようになるためのマイルストーンとなるよう意識して励んだ。

 

南壁への取付。雪渓が想定していたよりもかなり残っていた。

平蔵のコルからは雪渓の角度が急でチェーンスパイクで下るのは無理そう。平蔵の頭から斜面を谷側に下降し、雪渓をトラバースすることにした。

トラバースも滑り出すと止まらなさそうで怖い。

ピッケルとストックを補助に使いながら、平らになっているところを足掛かりに渡っていく。

一ノ倉沢でsakさんに「雪渓はこう歩くんだよ」と教わった経験が生きた。とはいえ今回一番怖かったのは間違いなくこの雪渓横断だ。

 

(P1: azmリード)

雪渓をトラバースし、赤丸の雪の窪みの地点から岩を眺めてみる。

残置支点などはなかった。おそらく本来の取り付きは雪渓の下なのだろう。

登山大系の解説には「取り付きはA1との間のルンゼの左側の顕著なスラブ」とあったので、この時点ではルートはもう少しルンゼ側にあるのだろうと認識した。

雪渓から岩への乗り移りはなんとかできそう。

ここでハーネスを装着してロープを出し、azm先行でルンゼ側へ岩をトラバースして見に行ってみることにした。

あとから振り返ると、雪渓から岩に乗り移った先でそのまま上へ行ってしまっても良かったかもしれない。

 

(P2: nksリード)

A1との間のルンゼを認めて、A2の右端あたりに到達したところでピッチを切る。

nksさんリードで行ってもらうと残置ハーケンが見つかり、やっとルートに自信が持ててくる。

ロープをなるべく伸ばしてもらい、次のピッチへ。

 

(P3: azmリード)

フェースの残りを登っていくとどこかで聴いた光景。

「ハイマツをつかんでリッジに移る。」(登山大系)

こういう追体験は楽しい。

 

(P4: nksリード)

リッジを進んでいく。

 

(P5: azmリード)

さらにリッジを進む。左右にもルートを取れるがなるべくリッジを選んで登る。

少し難しそうな凹角を手前にピッチを区切る。

 

(P6: nksリード)

核心部をnksさんがトライ。しかし、思ったより悪いらしく1ピン目をかけた後どうにも手が進まず...消耗してしまい交代の打診。

古いハーケンが連打されていて、先人もここを嫌がったのかなあと思ったり。

 

(P6リトライ: azmリード)

核心部を交代してリトライ。左側にあるオフィズスサイズのクラックをうまく使って登ることができた。

触りながら見つけたクラック内部のホールドを使ったり、腕をスタックさせたりして楽しめた。

 

(P7: nksリード)

リッジの残り。ロープを伸ばし切りたいところだったが、重たくなってしまいもう1ピッチ。

 

(P8: azmリード)

ザレ場の手前まで。P8の終了点からコンテで少しだけ進むとロープなしでも進めそうなことが分かったので、ロープを解いて進んでいく。

ザレ場を数メートル進むと一般登山道と合流できそうなのが見えた。山頂方面へ直接登ってゴール。

 

振り返って、今回の山行は2人で出来うる限界ギリギリくらいだったように思う。

雪渓の状況などもう少し条件が悪かったら...

同じルートを辿っているけれど、山行の内容は毎日変わる。

記録や残置物だけを頼りにするのでなく、状況に応じて自分で見出したルートも組み合わせることで山行を成し遂げる。

そんな経験がちょっとだけ出来たような気がして嬉しかった。


谷川岳・一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜

2024年07月13日 22時03分45秒 | 山行速報(アルパイン)

イチノクラ
この響きは何度聞いても特別だ

いつだって山行前はナ-バスになる
心の奥底に臆病な自分がいる
その彼が何か伝えようとしている
そんな気がしてならないのだ

道の駅・水紀行館で仮眠
3:30起床
皆、無言で身支度を始める
今日への意気込みが伝わってくる

ロープウェイ駐車場に移動して装備を整え出発
一ノ倉出合を目指す

烏帽子沢奥壁・南稜は一ノ倉の人気ル-ト
快適なリッジやフェ-スの続き、乾いていれば快適の一言に尽きる

nksさんたちから「一ノ倉の南稜に行きたい」
そう聞いたとき、「まあ、そうなるよね」と思った

思い返せば自身もそうであった
アルパインクライミングの舞台として誰しも憧れる場所だろう

一方で不安もあった
3人を引率することへの不安だ
個々が最低限の自立した技術と知識は持ち合わせてほしい

一ノ倉は彼らがこれまで経験してきたクライミングルートとは一線を画す場所
タクティクスと装備は指定し、厳守とした
登れるかどうかではない
無事に下山ができるかどうかが重要だと諭した

メンバーは4人
skmさんは一度経験があるとのこと
nksさん、azmさんは一ノ倉デビュー
そしてsak

南稜は、一ノ倉の全体像を知る意味でとてもいい場所にある
所々でレクチャーを入れながら行く

一ノ倉沢出合駐車場で装備を付ける
河原をしばらく歩いて右岸の踏み後へ入る

沢へと復帰し、ゴーロを行くと前方に雪渓
幸いテールリッジまでつながっており、雪渓通しでいく
衝立沢側は降りられそうもないので本谷側を少し登ってテールリッジ末端
そこから衝立沢側に回り込んでからフィックスに導かれてリッジの上の出る
このあたりは知らないと思わぬ苦労をするだろう

テールリッジのスラブも一部濡れてはいるものの、フリクションは十分効いている

新人を連れてここを歩くのは何回目だろう
新しい仲間が増える度、先人の務めとして幾度となくこの道を歩いた
「連れて行ってあげれば」自ら学んでくれるだろうという期待もあった
しかしながら、多くはそうならなかった

「連れていってもらった」山行は、次への要望へと繋がっていく
つまりは「消費者」を増やしたに過ぎず、勿論長続きはしなかった

自立した登山者の育成には「主体的な学びの実現」が必要だと悟った

そういう経緯から今回のメンバー3人には厳しく指導した
もしそれでついてこられないというのであれば、遅かれ早かれ遠のいていくのだろう
時に厳しい言い方で指導したこともあり、本当に申し訳ないと思っている

「楽しい」だけではない
自分で作り上げる山、その先の景色を見てほしい
その一念あってのことなのだ

中央稜取付きでクライミングシューズに履き替える
烏帽子沢奥壁基部のトラバース
中央カンテ、凹状、変形チムニー、南稜フランケの取付きを指呼しながら南稜テラス

ロープを出して登攀体制
先発:skm-nks、後発:sak-azmでツルベ登攀

1P(リード)
南稜テラスから直上し右に少しトラバース
チムニー手前で切る

2P(フォロー)
チムニーを抜ける

3P(リード)
フェースを右上気味に

4P(フォロー)
草付き(笹原)を踏み後に従い歩く

5P(リード)
フェースから大岩を回りこむ
先発が大岩で切っていたので、その先(リッジの基部)まで伸ばすよう指示

6P(フォロー)
コールの声から先発は馬の背の途中で切った様子
azmさんには、先発より上(垂壁手前)まで伸ばすよう指示して送り出す
しかし、途中でロープが重かったらしく馬の背途中で切っていた

7P(リード)
馬の背リッジ後半、垂壁手前まで
最終Pはazmさんにリードしてもらうために切る

8P(フォロー)
リードのazmさん、最後のところで少し苦労したけどフリーで抜けた
sakも4年ぶりなので新鮮な気持ちで楽しめた

終了点から少し上がった場所で休憩
強烈な紫外線に皆干上がり、早々に下山にかかる

【6ルンゼ下降の備忘録】

下降は南稜終了点から6ルンゼ方向に少し歩いた懸垂支点から
6ルンゼ懸垂下降の注意点は3つ

① ピッチ切りに注意する(特に懸垂下降3ピッチ目)
② ロープの回収(特に懸垂下降1.3ピッチ目)
③ 斜め懸垂の危険個所(懸垂下降3ピッチ目)

①はハンガーボルトと鎖で構築された支点を繋ぐと無駄がない
南稜テラスへの最終ピッチは50mロープで、10mくらい足りないので、チムニーの下で切る

②は懸垂1ピッチ目の回収時にルンゼ内部へロープが入り込みやすいので「一定リズムで淀みなく」回収する
また、懸垂3ピッチ目は大岩の目線高さにある支点を使うとスタックしにくい

③は懸垂3ピッチ目の大岩手前を降りるとき、6ルンゼ側に引き込まれやすいので注意(先に降りた人は補助する)

無事に南稜テラスまで降りる
残置していた装備を回収したら、烏帽子沢奥壁基部のトラバース
基部バンドまでの下りは結構怖いので、南稜フランケの取付から50m1本で懸垂下降
変チの取付きあたりに流れるわずかな水を啜って水分補給する

中央稜取付きまで戻ってひと心地
靴を履き替え行動食を口にするが、すでに行動水はない
唾液分泌量が少なく、嚥下に苦労する

そうなるとテールリッジの先に見える雪渓の末端から流れる水を求めて下るのみ
テールリッジ末端から雪渓へ乗り移る
ここは「沢登」的な身のこなしが必要
ほかのメンバーは少し戸惑ったかもしれないけど、これが総合的な登山なんだと思う

雪渓は念のため持ってきた軽アイゼン着用でサクサクと
振り返れば、衝立岩が大きい

雪渓末端で念願の水分補給
1.5Lくらい補給しただろうか

最高に冷たくて、最高に美味い
そして皆、最高の笑顔

まだまだ、課題は少なくない
それでも今は皆の笑顔を噛みしめたい


岩壁を振り返る
いつだって登り終えた後の山は
ちょっとだけカッコよく見える
ここに来るたび今日を思うことだろう


sak




霧来沢前ケ岳南壁V字第二スラブ

2024年07月11日 15時31分45秒 | 山行速報(アルパイン)

梅雨入り前、前線が北上するらしい
この知らせをもって奥秩父・鶏冠谷から計画も北上

だいぶ前から「行きたい場所リスト」に入っていものの機を逸していた前ケ岳南壁
「やっぱり秋かなぁ」と思い描いていたものの、条件が揃ったときこそ「ベストタイミングなのだ」と言い聞かせる

- 会 越 -

会越は豪雪に磨かれたスラブと険谷に守られた未開が多く残されている
また近代交通事情から観光地化した山域とは一線を画す
その奥深さゆえの静かな山、そして自然の造形が美しい貴重な山域と言っていい


道の駅かなやまで夜を明かして霧来沢沿いの御神楽岳登山口まで移動
しばらくは登山道を歩く

本日のメンバーはskmさん、nksさん
共に会越の山は初めてとのこと
山の特性、植生などレクチャーしながらそぞろ歩く

八乙女の滝を越え鞍掛沢の手前、八丁洗板のナメ床から入渓
なかなか優雅な風情である

思いのほか素晴らしい渓相に気をよくしながら遡っていき、霧来沢本流へ
630mで右の支流へ入るとゴーロの急登
雪渓の残る崩壊地を過ぎ、滝場が出てきて左岸の小さなルンゼから巻くが藪頼りで腕力を要する

滝上からはV字スラブへと誘われていく
下部スラブを思い思いに登っていくと、広いテラス
ここでロープを繋ぐ

わずかに濡れる水流沿いを行けば容易だろうが、ここは右岸岩壁の凹角を登る
登攀は沢靴でも問題ない

この後も念のためロープで確保をしながらスラブを行く
振り返れば会越の山波に切れ込むスラブ、残った雪渓が独特の景色となっている

都合、5ピッチほどロープを出して稜線直下まで
最後のひと登りはフリーで不安なく登れる

と、ここまではよかった

この先は登山道まで藪漕ぎ
踏み後も薄く、1145峰先で少し彷徨
さすがに初夏の藪漕ぎは濃く暑い
まだ地に足がつくだけマシだろう

前半の気持ちの良いナメ歩き
乾いたスラブ登攀の記憶が、酷暑の藪漕ぎに塗りつぶされる

やはり、秋か
そんな思いを口には出さず黙々と藪を漕ぐ
これはこれで、訓練と思えばいい

会越
雪に磨かれたスラブと険谷に守られた奥深き山々
踏み後も疎らな径を行く
そういう山登りがここにはある

会越初見参のメンバーにはどう映ったのだろうか


sak



 

 


片品川水系・泙川湯之沢~広沢下降

2024年07月09日 18時14分10秒 | 山行速報(沢)

24/6/5-6 片品川水系・泙川湯之沢~広沢下降

6月になると、無性に「ひとり沢旅」に行きたくなるんです。
それは森の息吹や命の躍動に触れたくなるからだと思います。

「ひとり沢旅」ですから人気のないところを選びます。

孤独?
それは、全然気にならないですね。
心が満たされていればいいんですから。
もちろん、道義に反することはダメですよ。

 

前夜、泙川林道のゲートまで
ゲート前は車を止めると迷惑になりそうなので、少し手前の広めの路側帯に車を止めて一夜を明かす

装備を付けたら、しばらく林道歩き
自転車で行くこともできそうだけど、この道の崩落・落石具合を考慮すればあまりメリットはなさそうに思えた
もっとも青空に気をよくしながら行けば、歩きも存外楽しいものだ

平滝の手前から入渓
開けた流れにナメが美しい

堰堤を2つ左岸から越えていくつかの滝を巻き気味に通過すると湯之沢出合
湯之沢出合の滝は水量多くなかなかの迫力

左岸から龍ノ沢
大滝を見に行く

湯之沢は前半に滝が集中するが、おおむね巻くことができる
残置ロープに縋っての下降を2度こなすと流れは平凡になる
あとはとにかく河原歩きに徹すると広沢に出合う

シダの群生する左岸台地に居住まいを定めて幕を張る
宿が定まったならば、あとは周辺を徘徊
陽もまだ高いので湯之沢をしばらく詰めてみる

湯之沢は若干白濁した流れ
名の通り湯之沢上流から温泉成分が流れ出ているものかと思ったが、この白濁は鈴小屋沢からのものらしい
鈴小屋沢を分けてからは透明感あふれる流れとなった

それからは10m前後の滝がいくつか現れる
苔生した滝に清冽な流れが気持ちいい

1か所巻き気味に上がった以外は階段状
滑りに気を配れば問題ない

1420mの二俣で本流から離れ右俣へ
次の二俣も右へ進むとCo1598峰と1703峰の鞍部に出る
ここは気持ちの良い笹原となっていて、吹き抜ける風が心地よい

笹を踏む音
森のざわめき
蝉時雨

山や谷で自分だけの時間や情景に出会えた時
とても満たされるんです。

このためにここまで来たんだ!
これは運命だ!って。

ちょっと、言い過ぎですかね?(笑)


名残惜しさを残して下降を開始
尾根をまたいで広沢へ

広沢の下流は特に難場はない
幕場に着けばやることはたくさんある
そう思えば、自然と足も早まり湯之沢に合流

ここからはノンビリと、と言いたいところ
だけど余念なく沢旅の一夜を過ごすためには、ここからがなかなか忙しい

闇に咲く紅蓮花
熾火を肴に黒松仙醸

今宵、いずこに宿るかを知らず

熾火を見てると、想いは巡ります。
過去のこととか、これからのこととか。

明日があるなんて保証は何処にも無いんですけどね。
今日を生きた自信っていうのかな?
もちろん、単なる思い込みですよ。

でも、本当は不安なんです。
だから、いろいろ考える。
そして心を整える。
誰だってそういう時間が必要なんじゃないかな。

きっと明日もいい天気
樹幹から覗く星空に想いを馳せる

 

明けて見上げれば青い空
幕場に別れを告げて、往路を戻る
昨日歩いた渓も角度を変えれば違った色に見える

これからどうなるかなんてわからない
それでも未来に向かって歩き出す
一夜の余韻を背に歩く

生きていくって、選択の連続ですよね。

山でも、社会でも。

いろんな場面で、どう行動するか。

「善き行い」を選べば「偽善だ」と揶揄されるかもしれない。
「誰かの意見」に沿わなければ「自分勝手な奴だ」と批難される。

答えなんかないんです
あるとすれば、「誰のために行動するのか」ってことですよ

自分のため?
愛する人のため?
困っている人のため?
それとも、あなたを利用しようとしている人のため?

「大いなる自己満足」
それでいいんじゃないかなって。

sak



 


足尾・仁田元沢~中倉尾根

2024年07月02日 17時00分31秒 | 山行速報(沢)

2024/5/25 足尾・仁田元沢~中倉尾根


独りの沢旅というと「ナメだ」「湿原だ」と、計画段階でついつい欲張りすぎてしまう
もっともこの「創造しながら計画を練る」時間は楽しい
一方、何処に価値を見出すのかという課題に直面するときでもある

欲張りな計画は、時に本来あるべき沢旅の価値を失っているのではないか
そうして選んだのが仁田元沢だった

沢を歩く、径を行く
そこにある、輝きを見つけに


前夜、銅親水公園まで入って車中泊
5:00起床、銅親水公園の駐車場はすでに満車
林道を中倉山の登山道へ向かい、さらにその奥へとすすむ

林道は次第に荒れてきて、土砂に埋もれて踏み後だけとなる
さらに進むと自然と沢に降り立ち、堰堤が立ちはだかる
左岸から巻いて立ち木を支点に5mほどの懸垂下降
結局、ロープを出したのはここだけだった

しばらくゴーロ歩きをすると程よい小滝が出てくる
時に直登して濡れるも楽しい

遡れば遡るほどに森の若葉が幼くなってきて、季節を遡っているかのよう
鳥の囀り、若葉揺れる葉音、湧水が重なり合って奏でるせせらぎ
ここには癒しの音色が溢れている

左岸に中倉山へ突き上げる支沢の滝を見送ると平凡となるが、渓の煌めきは霞まない

次第に左岸斜面が笹原で覆われていて美しい
駆け上がっていきたい衝動に駆られるが、ここは本流筋を行く

最後は軽い藪漕ぎをしながら窪を行くと庚申山と中倉山の稜線に出る
陽射しは強いが、風は爽やかで気持ちいい

ここからは笹原に径がいくつもついていて少々迷いやすい
稜線を行くと皇海山や足尾や日光の山々を眺めが良いのでお勧めだ

オロ山まで来ると道も明瞭となり、あとは稜線漫歩
沢入山を越えると山人も多くなる
中倉尾根は近年大変な人気の山となっているらしい
かくいう私も沢歩きと稜線歩きを同時に楽しもうという魂胆

笹原の林間に蝉時雨が清々しい

比して左は荒々しい岩峰の重なり
この対比が独特の景観となっているのだが、これは過去の爪痕
足尾本来の姿ではない

 

木陰でひと休みしながら、今日の山行を振り返る

松蝉の讃歌を浴びて巡る径

自分の足で歩く
悲しみより生きる喜びを大切にしたい
その想いが未来を紡ぐ


sak

 

 

 


子持山・獅子岩南壁

2024年04月22日 14時59分08秒 | 山行速報(アルパイン)

2024/3/28 子持山・獅子岩南壁

久しぶりの獅子岩南壁
sztさんと

以前一緒に来たよね、という話題となり指折り数えてみる
そうすると、お互い4回目だった
やはり、良い岩場は何度来ても良いものなのだ

倒木があって1号橋の手前から歩く

2月はあれほど暖かかったが、3月に入ってめっきり寒い日が続いた
今日もどちらかというと、曇天模様の寒い一日
鼻をすすりながら屏風岩の基部を登っていく

左に獅子岩が見えたら踏み跡に乗ってトラバース
基部で身支度を整える
下部のルートは乾いているものの、数日前の降雨による染み出しで上部スラブを行くあたりがどうも怪しい
なんならツララが見て取れ、たまに小さな氷屑が落ちてくる

ということで、鼻をすすりつつsakからスタート

寒さに加えて、冷えた岩に指先は途端に凍える
吐息で温めながら行くが、感覚に不安

短めに切って、バトンタッチ
sztさんも指先感覚に苦労していた
フレークの所は内部が濡れていてちょっと嫌だったけど、このルートで一番楽しい(と思っている)

次のピッチで緊張させられたけど、なんか来るたびに緊張度が増しているように感じるのは、
相対的なものだろう。

ちなみにこのピッチをリードしていたsztさんが中間支点に残置されていたビナを回収
おそらく、ここから撤退したのだろう
今日は乾いていたものの、この先嫌な予感しかしない

次のピッチは直上スラブを乗り越えるか、左の藪に入るか
もちろん、左の藪に入るにはびしょ濡れトラバース&ドロドロ草付きを行かざるを得ない
直上は見る限り乾いているが、その先は見えない

結論として直上を選んだのだけれど、スラブ上は濡れていて明らかに楽しくなさそう
念のため、と渡された残置ビナでロワーダウン
あとは懸垂下降で取付きまで戻った


何かを手に入れたいとき、自分は代わりに何を差し出せるのか
それに見合うだけの価値が自分にはあるのか

同じ道標を行く仲間との時間は尊い


sak


動画も