ある小学校で、兄弟の心理面接をしています。守秘義務がありますから、プライバシーに渡ることを、つまびらかにすることはできません。でもね、人の心の不思議と素晴らしさを、感じますものですから、皆様にもおすそ分けしたいと思います。
お兄ちゃんと弟の2人兄弟。高学年と低学年。お兄ちゃんは、ちょっと引っ込み思案です。弟は、校則も順番も守れない、ルール破りの「困り者」です。2人とも、コラージュ(切り貼り絵遊び)療法をしています。絵本や図鑑などの中から、自分が気に入った写真や絵を切り出して、それを枠付けされた台紙に貼って遊ぶ、投影法(無意識にわたる心を映し出す)によるプレイセラピーの1つです。
その兄弟が、同じ日に、別に打ち合わせをした訳ではないのに、「蓮の花」の写真を選んで、コラージュを作りました。お兄ちゃんは、「(蓮の花が)『今日の夜は、満月になりそうだ、うれしい』と言ってる」と言います。それから、アユもどきがザリガニに、「卵が生まれたね、おめでとう」と言うと、ザリガニはアユもどきに「ありがとう」と言う、物語も話してくれます。
弟は弟で、一番大きく「蓮の花」を切り出して、台紙に貼ります。その他にも、たくさんの花々を切り出しては、台紙に貼り付けます。弟は「(たくさんの花々が)集まって、遊んでいる」と言います。私が〈この後どうなるのかなぁ?〉と訊きますとね、この弟は実にイキイキした表情で「大きくなって、種が出来て、また、新しい命が生まれる」と言います。私も思わず、〈それは素晴らしいね、素敵だね〉と応じます。
「蓮の花」と言えば、汚れた泥から清らかな花を咲かせて、仏教世界を象徴する花ですよね。お兄ちゃんが話してくれた「満月」は、闇の中で最も輝く存在です。しかも、そこでザリガニに、卵という新しい命が生まれると、それを見たアユもどきが「おめでとう」と言いに来る。
弟の方も、「蓮の花」が、台紙に一番大きな場所を占めて、汚れた泥から清らかな花を咲かせます。そしてそこから、「種が出来て、また、新しい命が生まれます」。
兄も弟も「蓮の花」、兄も弟も「新しい命」、そして、「新しい命の悦び」。2人は困難な状況を抱えいますし、特に弟の方は、「困った存在」なんですよ。その兄弟が2人して、「仏教世界」にも通じる真理を象徴する「蓮の花」を配し、「新しい命」の誕生を喜んでいる。不思議でしょ。生活に変化は「まだない」。困ったまま…。地上では、眼に見えるところでは、「何も変わらない」。だけど、根っこでは、眼に見えないところでは、「泥から花が咲く」ように、「闇に輝く満月」の如く、「新しい命」の誕生を喜んでいるんですね。
人間の心は、実に不可思議に満ちていて、宝石のように光り輝いていると感じますでしょ。