エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

はじめの一歩

2015-06-30 08:37:21 | アイデンティティの根源

 

 日曜礼拝に行って、聖書の御言葉を聴いてきても、礼拝から戻ってきた後は、その御言葉を、大事にしまって使わない、ということがありがちです。何故なんでしょうか?

 Young Man Luther 『青年ルター』p209の第2パラグラフの7行目途中から。

 

 

 

 

 

人は、最も深いところでの尊敬と絶望から生まれた、いろんな言葉や身振りでさえ、形ばかりのものになりがちです。すなわち、心理学的に言えば、「考えもなければ、感じることもなしに、自動化」しがち、というわけですね。しかしながら、1つの気持ちが最深欲求との繋がり続け、いつでも実感が伴うためには、ルターなら、affecionalis とか、moralisとか言いそうですが、その気持ちが圧倒的と言えるほどでなくてはならないし、その気持ちが、同様に、「ホントだなぁ」だとか、ほとんど「私だけの気持ち」だとか、感じられなくてはなりませんね。すなわち、1つの気持ちを本気で感じるのは、その気持ちは、何か特別大事なことを示し、意義深いものを示すことになります。

 

 

 

 

 最初の人が絶望から希望に至った、天にも昇るほどの悦びの体験を、言葉や身振りで示しても、その言葉や身振りが、人から人へと、繰り返し真似られている内に、最初の人が感じていた感動や、天にも昇る悦びもなくなっちゃう。ですから、大事なのは、この言葉や身振りを繰り返すことじゃぁない。その最初の人が感じていた希望と、天にも昇る悦びを日々感じることです。エリクソンは、大体そんなことを言ってるみたい。

 

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今も役立つ、幼稚園時代のテーマ

2015-06-30 06:52:08 | エリクソンの発達臨床心理

 

 創造性の源は、遊びです。

 The life cycle cpmpleted 『人生の巡り合わせ、完成版』、p51の第3パラグラフから。

 

 

 

 

 

 遊ぶ年頃のいくつものテーマは、実にいろいろありますね。自分は「ダメだァ~」と感じる気持ちから、自分の気持ちが出せなくなるというテーマ、空想をいろんなおもちゃを使って眼に見える形にするというテーマ、遊びの場を、気持ちの上でも、空間的にも、人と分かち合うというテーマ、エディプスの冒険物語のテーマはすべて、どれを考えても、もう1つの一番個人的な舞台でもあり、スクリーンでもあるものを思い出します。つまり、夢です。夢を言葉にすることと分析することから、計り知れないくらい多くのものを学んできたのですが、心理社会的な説明においては、夢を捨象しなくてはなりません。ただし、ご指摘しておきたいのは、夢は、これまで「潜在的に」隠された中身に関してまず研究してきましたが、夢の「眼に見える」体の使い方や感覚の使い方をにおいては、今後役立つかもしれない、ということです(エリクソン 1977 Toys and Reasons 『おもちゃと叡智』)。

 

 

 

 

 

 遊ぶ年代、3才~5才の子どものテーマとして、エリクソンがここに明示した4つのテーマは、どのテーマも、今の日本でも、常日頃、問題になるテーマです。30年以上前に描かれた文書なのに、今も非常に臨床的、実践的なわけですね。

 たとえば、「自分は「ダメだァ~」と感じる気持ちから、自分の気持ちが出せなくなるというテーマ」で苦しんでいる子どもたちは、抑制的 インヒビティド 愛着障害の子どもたちの課題です。 

 エリクソンのライフサイクルの理論がいかに臨床的かが分かりますね。

 

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エリクソンが教えてくれる「救い」 : ツェダカーとヘセド

2015-06-30 04:00:06 | エリクソンの発達臨床心理

 
良心の 父と母の仲が悪いと…
  フロムが語る良心は、非常に能動的ですね。フロイトが考えた良心は、文字通り両親を取り入れたもので、他の選択肢は当面ないところに受動性が垣間見えます。...
 

 

 

 エリック・エリクソン Erik H. Eriksonの著作で、私が大好きで、しかも、一番読んでいるのは、Toys and Reasons 『玩具と叡智』です。場所によっては、もう何十回も読んだでしょうか。何度読んでも新しい発見があって、いつもドキドキして読んでます。エリクソンの著作で、一番大事なものだと私は考えています。

 それと同じくらい大事なのが、The Yale Review  Spring 1981 vol.70『エール大学評論』1981春号 70巻 所収の The Galilean Saying and the Sense of " I " 「ガリラヤの言い伝えと≪私≫という感じ」です。

 これを日本語に翻訳したものは、いまだに出版されていません。2014年7月16日の「儀式化はラトレイア 礼拝なんです」から、2014年11月6日の「ガリラヤの言い伝えと「≪私≫という感じ」 最終回」に掛けて、このブログで翻訳したのが、実は本邦初なんですね。このブログの読者で、出版関係の人がおられましたら、この翻訳は是非とも出版したいと思いますから、ご連絡した戴ければと思います。ついでに言えば、みすず書房の関係者がおられましたら、Toys and Reasons の近藤邦夫さんの翻訳は、エリクソンの著作を台無しにするものですから、別の方、よろしければ、私に翻訳させてもらえたらと願っています(すでに、当ブログで翻訳済みですが)。

 前置きが、いつものように、長くなりました。このエッセイの中で、エリクソンは、「メタノイア」、「光」、「神の支配」など様々な聖書の大事な御言葉について、エリクソンが臨床で確かめたことから話を進めています。聖書からの引用もたくさん出てきます。

 キリスト教で「救い」と呼ぶと、何か難しい感じがします。私もエリクソンのこの「ガリラヤの言い伝えと≪私≫という感じ」を繰り返し読むまで、実は何十年も分からなかったんですね。キリスト教で「救い」と言ったら、「神の支配」の従うことなんですね。実際には「『神の国』、『天国』に入ること」が救い、と言われる場合が多いですがね。エリクソンも、『新約聖書』の「ルカによる福音書」第17章21節を読み解く中で、その「救い」について、述べています。この聖書箇所は、ファリサイ派の人から「神の国は何時来ますか?」と問われて、イエスが応えているところです。このファリサイ派の人たちは、お役人みたいに、ルールを何のために作ったかという精神を忘れて、ルールの文字面ばかりを大事にする、真面目人間ですが、心は不満でいっぱいの人たちです。エリクソンのエッセイのクライマックスが、この聖書箇所に触れているところに来ていると感じます。まずは、この聖書箇所をいくつかの翻訳で見て見ましょうか。

 まず岩波文庫(岩波クラシック)の塚本虎二訳

「また、『そら、ここにある』とか、『かしこにある』とかいうこともできない。神の国はあっと言う間に、あなた達の間にあらわれるのだから。」

 つぎに、山浦玄嗣さんのケセン語の翻訳です。

「それに、『ほれァ、此処さぁあっぞ!』どが、『其処さあっぞ!』って語るようなもんでねァ。ほれ、よぐ見ろ。・・・ 神様のお取り仕切りぢ(山浦玄嗣さんがケセン語を表記するために用いている文字、「ち」から横棒を取った文字に濁点を撃ったもの)ァ、其方等ァ間に今まさにあっとォ!」

 神の国は、神が支配しているところ、神様がコントロールする場面です。それが「あなたたちの間」、すなわち、「私どもの間」にある訳ですね。エリクソンは、この「間」って何? と問う訳です。この「間」は、聖書のギリシャ語では、エントス εντος です。エリクソンはこれを、2つに分けて、between youとwithin you の二重の意味があるとします。前者は「私とあなたの間」であり、後者は「私の中」「自分と本当の自分の間」「自己内対話」のことです。

 対人関係、すなわち、「私とあなた」の関係は、実は、「私の中」の「自分と本当の自分」との関係と、パラレル、比例関係なんですね。人は、「本当の自分」を大事にすればするほど、「あなた(相手の中の本当の自分)」を大事にできる訳です。この大事にする関係が、やり取りのある関係になることが、「神様の支配」であり、「救い」だというのが、エリクソンの主張です。「本当の自分」の囁きは、一見「自分が損すること」である場合が多い。その損をあえて意識的に選択する、それがツェダカー(「正義」と訳されることが多いけれども、本当の意味は「施し」「損すること」)なわけですね。しかも、それが自分を大事にすることであると同時に、相手を大事にすることになる訳ですから、ここに、ツェダカー(ギリシャ語ではディカイオスーネ)とヘセド(ギリシャ語ではアガペー)が完全に一致するのですね。

 

 私が損することから始まるやり取りのある関係、それがキリスト教で言う「救い」です。

 

 ここには、計り知れない、はじけるような喜びがあります。

 あなたもどうぞ、ご大切にね!

 

  

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