新・本と映像の森 336 G・ガルシア・マルケス『戒厳令下チリ潜入記』岩波新書、1986年 20200705
後藤政子/訳、副題「ある映画監督の冒険」、225ページ、定価480円。
チリクーデターは1973年の9月11日に起きた。偶然の一致だがアメリカでの同時多発テロは2001年です。まったく関係はないですが。権力者の陰謀という意味でならあります。
チリクーデターで「死者4万、行方不明者2千、亡命者百万」(p218)といわれています。
映画監督ミゲル・リティンさんはクーデターで危うく銃殺を逃れ国外へ脱出、12年後の1985年に6週間チリに公然と入国、映画撮影を監督しました。
これを作家G・ガルシア・マルケスさんがインタビューしミゲル・リティンさんの語り・ドキュメントとしてまとめた極めて興味深い記録です。
ミゲル・リティンさんは「金持ちのウルグアイ人」に変わり、身近な人々も気がつかないくらい巧みな変装で祖国へ帰る。
なにしろチームの人間でヨーロッパで出会っていてもミゲル・リティンさんと気づかず、トラブルを起こしそうになったのだ。
そして偶然、サンチアゴの街頭で義母(妻の母)と至近距離ですれちがうが、ついに気づかれなかった。
全編にわたってチリの息吹に満ちているが、やはり大統領サルバドール・アジェンデと詩人パブロ・ネルーダの声や行動がつねに響いていて、胸をうちます。
モネダ宮やイスラ・ネグラはとくに。
チリでは「この本が1万5千部ほど焼かれたそうです。」(『朝日ジャーナル 1987年9月25日』p92,千本健一郎「ミゲル・リティン インタビュー」)
ボクはまだ見ていないリティンさんの映画『チリの全記録』を見たいと切に思う。