新・本と映像の森 320 野田昌弘「ラプラスの魔」(『レモン月夜の宇宙船』創元SF文庫、2008年)
野田昌弘さんは現代日本のSF作家で同時にSF研究家・・・・だと思う。2008年(平成20年)6月6日没。
『レモン月夜の宇宙船』(創元SF文庫、2008年、407ページ、定価本体1000円)は著者の短編集。著者が主人公という作品が多いが、もちろんフィクションでSFです。
福岡育ちだが、もちろん現実の野田昌弘さんには幼馴染みの美少女・中川忍はいなかったし、彼女が天文台に勤めて火星観測をしていた兄の運河スケッチを「火星に運河はありません」と言った事実はない・・・・と思う。
ボクがいちばん好きなのは「ラプラスの魔」。テレビ局に勤める主人公がアメリカに旅行に行き、友だちの「佐渡の守」(あだな)に買ってきたヨーロッパ中世の画集に思いがけないもの・・・・いや人を発見する。
絵のなかで魔女として拷問されている若い娘が、なんとも今、日本のテレビ界で売れっ子の清純派美少女「高丘ルリ子」にそっくりなのだ。
しかもラテン語の説明書きに「1538年、スペインに現れた娘を火あぶりの刑にした。娘の所持品に「Ruriko Takaoka」と書かれていた。」とあるではないか。
友人の佐渡の守は主人公にさけぶ。
「いやあ、おそろしいことですぞ、これは。高丘ルリ子はタイム・マシンかなにかで16世紀に持っていかれる運命にあるんです。絶対そうです!」(p53~54)
それからがドタバタ喜劇なのだが、オチがものすごくおもしろくて強烈。
機会があったら他の作品も紹介したい。