新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

骨髄増殖性疾患(骨髄線維症)の説明

2012-05-10 21:58:12 | 医学系

さて、最後に骨髄線維症の説明です

 

骨髄線維症、二次性はともかく原発性はめったに見ません。僕は自分で診断した患者はいないかも。骨髄線維症と診断してもだいたい二次性ですしね(白血病とかMDSとか)。

 

よって骨髄線維症として説明した時はないのですな、これが。

 

ですが、僕だったらこういうだろうということで(症例のイメージは研究していた時に診断されていた2人の患者さん)

---------------------------

○○さんは今回、貧血でお近くの病院を受診されて当科に紹介になりました。診察で貧血の所見と、大きな肝臓と脾臓を認めました。臍を超える大きなものでした。血液検査では白血球が5000/μl、Hbが9.3g/dl、血小板が55万/μlと貧血と若干の血小板の増加を認めました。白血球の中には骨髄芽球と呼ばれる若い細胞が散見され、赤血球には涙滴赤血球と呼ばれる変形した細胞を認めました。

 

この時点で骨髄線維症というものを疑い、骨髄穿刺と骨髄生検を行いました。骨髄穿刺ではうまく吸引ができず、Dry tapと呼ばれる状況でした。骨髄生検では骨が分厚くなり(骨梁の増加)、Azan染色やGitter染色などで著明な線維化を認めました。また、骨髄巨核球の増加も認めました。

 

骨髄線維症の原因として骨髄異形成症候群・真性多血症などの他の血液の病気があるのですが、明らかな血液疾患の合併、それを示唆する所見は認めませんでした

血液(骨髄でないという意味で)で染色体の検査を行いましたが、正常でした。しかし、遺伝子の異常でJAK2という遺伝子の異常を認めました。

以上より原発性骨髄線維症と診断しました。

 

原発性骨髄線維症は血液を作る骨髄というところが固くなり、血液が作れなくなっていく病気です。今回血小板が若干上昇していますが、これは当初血小板を産生する巨核球という細胞が増加していることが多く、それを反映していると思います。

 

この病気はまだわかっていないことも多く、経過も様々です。骨髄移植だけが完治につながる可能性がある治療ですが、高齢者に多いことや低リスク群と言われるグループでは10年以上の生存中央値が得られていることから移植をするかしないかは検討が必要です。中間リスク群や高リスク群では分類にもよりますが中央生存率は数年とされています。しかし、これは年齢や様々な検査データにより左右されるものです。○○さんのことを表しているわけではありません。

 

○○さんは

1、65歳を超えている

2、低リスク群(4つあるリスク分類のどれかで分類)

3、65歳未満、移植可能年齢の中間~高リスク群

 

1,65歳以上であり、同種骨髄移植を行うことは難しいと思われます。日本ではまだ認可されていませんが、諸外国ではサリドマイドやレナリドマイド(レナリドミド)などの免疫調整薬による治療が半数程度の患者さんに有効とされています。また、Jak1/Jak2阻害薬などというものも諸外国では有効とされていますが日本ではまだ行えません。よって、今のところは対症療法(足りないものを補う輸血など)を主体として、追加で貧血に対しダナゾールなどのタンパク同化ステロイドで治療を行っていき、できるだけうまく共存していけるように一緒に頑張っていきましょう。

 

2、低リスク群になっています。これは中央生存期間が10年以上とされており、今すぐ治療に入るのが良いかどうかは不明確なところがあります。慎重に経過を見ながら必要な時に必要な対応ができるように、一緒に歩んでいきましょう

 

3、○○さんは××歳と同種骨髄移植も治療法の検討に入れていく必要があります。

先程も述べましたが高リスク群だと数年の中央生存期間です(それぞれの分類で違うが)。それに対して我々が取れる治療は2つに分けられます。

治療のリスクは大きいが完治を目指す方法、すなわち同種骨髄移植が1つ

治療によるリスクは低いが完治は望めない、共存を狙いとした治療(上の輸血や免疫調整薬など)

 

日本国内では免疫調整薬は多発性骨髄腫以外では適応はないので、基本的に輸血を中心とした治療になります。

 

同種骨髄移植に関してこの疾患に対してまだわからないことも多い。しかし、2001年以降移植による死亡率も減少(統計学的に2001年以降のものが生存率が上昇していることがわかっている)してきており、生存率も改善してきている。

○○さんの年齢を考えると若く、同種骨髄移植を選択した方が良いのではないかと僕自身は考えます。

 

 

(この後、移植の説明までするかどうかは状況次第。すぐに動かないといけない急性白血病ではないので、一度患者さんの様子を見て間を取るかもしれない)

 

この治療法に関する決断は大きなものですので、ご家族とも一度お話をしていただいてまた来週にでももう一度お話しできればと考えています

一緒に頑張りましょう。

 

---------------------------

こんな感じになるのかな…と思います。

 

僕も骨髄線維症を研究していた時に(あぁ、あれは結局どうなったんだw)、同種骨髄移植できれいに骨髄が改善したのを見ました。不思議なものです。線維化していた骨髄が改善するのだから、体の中のバランスをうまく整える(正常にしてやる)と改善するんでしょうね

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 骨髄増殖性疾患(本態性血小... | トップ | 複数記事:カルテの話と医学... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
骨髄線維症の記事について (徳竹正人)
2015-09-12 01:45:57
娘20歳が突然骨髄増殖性疾患突発性骨髄線維症といわれました。わらをもつかむ気持ちでいっぱいです。
何か良い策を授けてください。
返信する
状況がわからないので、アドバイスしにくいです (アンフェタミン)
2015-09-12 12:40:44
>徳竹正人さん
こんにちは、コメントありがとうございます

娘さんが大きな病気の診断を受けられて、いろいろご心配だと存じます。
ただ、現状では何も良いアドバイスはできないかと存じます。

まず、原発性骨髄線維症の診断基準を満たしているかどうか(WHO分類 2008年)。
大項目
1、細網線維、コラーゲン線維化を伴った巨核球増殖と異形がある
2、他の骨髄系腫瘍の診断基準を満たさない
3、JAK2変異やMPL変異のようなクローン増殖を示す所見がある。反応性変化ではない

小項目
1、末梢血に芽球や赤芽球がある
2、LDH増加
3、貧血
4、脾腫

大項目3つを満たし、4項目中2つを満たす

現実的には大項目3の遺伝子検査は保険の関係で行いにくいので、反応性でないことを他の検査で示すことになるかと思います。

診断が正しいとして、今の線維化の程度、病気の程度はどの程度か…という話になります。

骨髄線維症の予後予測因子を用いて評価を行い、低リスクであれば経過を見るのではないかと思います。

IPSS
1、65歳以上
2、持続する症状
3、ヘモグロビン<10g/dl
4、白血球>25000/μl
5、末梢血液中の芽球 1%以上

そういった評価を行いながら治療をするべきか、治療を行うならば何をするかという対応になると思います。

今の情報だけでは何ともお答えができません。
また、個人情報が入っているようにも見えますので、削除が必要であれば削除するようにコメントを入れていただければと存じます。

また、コメントいただければと存じます
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

医学系」カテゴリの最新記事