新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

骨髄増殖性疾患(真性多血症)の説明(患者さん向け)

2012-05-10 20:26:00 | 医学系

こんばんは

今日も朝から移動してばかりという一日でしたが、雷雨のため急遽仕事が中止となり、昨日よりは早く帰ってきました。昨日よりは疲労度も軽いです。

本日はまずコメントをいただきました、骨髄増殖性疾患に関して書いていってみようと思います。ただし、慢性骨髄性白血病は別物として扱った方が良いと思うので、ここでは書きません。

 

これは僕がいつも骨髄増殖性疾患(今だと骨髄増殖性腫瘍になるのかな)の初診の患者さんに説明している内容です。

まずは真性多血症から

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○○さんは、このたび血液のうちの赤血球の数値が高くなっているということで、当診療科を紹介受診されました。

この2週間で血液検査、骨髄の検査などを行ってきました。

結果は骨髄増殖性疾患と言われているもののひとつである「真性多血症」という疾患です。

 

骨髄増殖性疾患は骨髄という血液を作るところで、血液をいっぱい作ってしまい人の体に不利益を起こす病気の総称です。この病気の中には先ほども述べた「真性多血症」のほかにも「慢性骨髄性白血病」「本態性血小板血症」「特発性骨髄線維症」という疾患があります。本当にまれなものも含めるともう少しありますが、これが主な疾患です。どの疾患もすべての血液の成分を多く作るのですが、主に作るものが異なってきます

 

真性多血症は赤血球を無制限に作ってしまう病気です。イメージでは赤血球のがんです。

本態性血小板血症は血小板のがんであり、慢性骨髄性白血病では全て増えるのですが、白血球の増加がほかの3つよりも著明に多いです

 

真性多血症をは先ほども言いましたが赤血球のがんです。

今回○○さんは 白血球が14000/μlと若干上昇していて、Hbという赤血球の成分が女性の割には17.0g/dlと高いです。血小板の数値は異常ではないかもしれませんが35万/μlと高めの数値です。白血球の増加した中には異常な成分、特に白血病細胞などは認められません。

 

この赤血球の成分ですが、受診されたときにも申し上げましたが他の理由でも上昇します。例えばマラソン選手が酸素の供給量を増やすために高地トレーニングをしますが、そういったものでも増えますし、喫煙でも増えます。肥満気味の人も増えたりしますし、肺の病気などでも増えます。これは酸素が不足気味なので、少しでも酸素の供給量を増やそうとする体の正常な働きによるものです。これを命令する因子にエリスロポエチンというものがあります。時折エリスロポエチンというこの因子を作り出す腫瘍(特に腎臓癌が多い)でも赤血球が増えすぎることがあります。

 

お話を聞いた限りでは、このような生活上の因子は特に認められませんでした

また、今回このエリスロポエチンをはかりましたが正常より低い状態です。正常より低い命令しかでていないにもかかわらず、赤血球の産生が増えている。これは体の中で命令に従わない部分がある、つまり腫瘍性の増殖が起きていることを示しています。

 

診断の確認ために骨髄の検査を行いました。骨髄検査では骨髄穿刺、骨髄生検の両方で赤血球を主体に全ての系列の細胞が増えていました。しかし、俗にいう白血病細胞の増加や異常な細胞は認めませんでした

特に今回は特殊検査としてJAK2という遺伝子に異常がないかを確認しましたが、異常を認めました。この真性多血症という疾患の95%に異常が存在するという遺伝子であり、最新の診断基準では診断基準に入っています。

 

以上の検査結果から「真性多血症」と診断しました。

 

今から病気の説明をしていきます。先程も申しあげましたが、この病気は赤血球が増えすぎることにより不利益を被る病気です。赤血球が増えすぎるとどうなるかというと顔が赤くなり、頭痛やめまいなどが生じやすくなります。これだけであればまだよいのですが、血液が増えすぎるということは、血液がドロドロしているということになります。よって最も怖いのは心筋梗塞や脳梗塞などの血管の病気です。

これを防ぐためにどうするかというと、治療の主体となるのは瀉血と言って「余分な血液を抜くこと」です。男性であれば血液のもう一つの数値である、ヘマトクリッと(Ht)を45%以下に、女性なら42%以下に押さえるようにします。しかし、それだと頻回になりすぎるので状況によっては45~50%くらいにしたりすることもあります。ただ、推奨されているのは先ほど申し上げた数値です。

あとは血栓症の予防として、こちらが原因であるわけではないのですが血小板という別の数値の方を抑える薬を飲んだります。アスピリンという薬ですが、死亡率に差は出ないとなっていますが、出血の増加も認められておらず、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを減らすことは判明しています。

年齢が60歳以上、できれば70歳を超えたくらいであれば飲み薬の抗癌剤を併用することがあります。ハイドロキシウレアという薬を使用することが多いのですが、これを用いて治療を行っていきます。できるだけし高齢者に用いるのは二次発癌を避けるためです。この病気は急性白血病になったりすることがもともとあるのですが、この薬を使用するとその確率が少し上昇します。飲む期間が長くなればなるほど当然リスクは増えますので、できれば若いうちは使用しないほうが良いと思います

 

ただ、高齢になると瀉血を頻回に行うことによる身体の負担も大きいです。そういったことも考えるとハイドレア(ハイドロキシウレアの商品名)を使用することでQOLも保てますし、治療効果を維持することができます

 

この病気による死亡の確率は先ほど述べました「血栓症(脳梗塞や心筋梗塞)」によるものと「悪性腫瘍」によるものが半々です。死亡率は年間100人の患者さんがいると3.7人の方がなくなると統計上はなっております。あとは長期化すると白血病のリスクが上昇すること、骨髄線維症を合併することが言われていますが、これはその時になってから考えましょう。今、そのことを気にして治療を行うことは推奨されていませんし、半分以上の人が10年以上生存する(診断年齢中央値は60歳)のに命を縮めることになりかねません

 

今はこの病気とうまく付き合うために、作りすぎた赤血球をうまく調整して脳梗塞や心筋梗塞などを起こさないように気を付けていきましょう。

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治療に関してはアスピリン+瀉血をメインにいく若い人(体力もあるし、瀉血による合併症は少ない。また、抗癌剤や原疾患による二次発癌を考えると…)、ハイドレア+瀉血の高齢者に分かれると思います

 

(2017年に新しく更新しました:僕の真性多血症の説明(患者さん向け、2017年版)

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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20 コメント

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Unknown (夏樹)
2012-05-14 16:51:58
はじめまして。現在私はPV真性多血症と診断されアスピリンと月2回の瀉血治療をしています。年齢は30代ですが、血管が細く瀉血も18ゲージ針ではなく、23等を使い行っていますが、使用できる血管が1本しかなく、そう長くは瀉血は出来ないとは言われています。重度のアレルギーもあるためハイドレアも使用できるか分からないので不安は沢山あります。でもブログを読み納得出来たことも沢山あり、感謝しています。今の担当医は大変優秀で良くして頂いているので、任せていますがその前に通院していた大学病院の先生には誤診をされ、鉄欠乏性貧血と言われて鉄剤を飲まされ、本当に辛く、誤診をされた不安と今後も不安でしたが、患者数が少ないなら少ないなりに情報が少しでも分かれば完治はしなくても安心感は出てきます。やはり地方だと大学病院の医師にかかれば大丈夫だと固定観念があるみたいで、大学病院だからとか地位があるから
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Unknown (夏樹)
2012-05-14 16:54:09
はじめまして。現在私はPV真性多血症と診断されアスピリンと月2回の瀉血治療をしています。年齢は30代ですが、血管が細く瀉血も18ゲージ針ではなく、23等を使い行っていますが、使用できる血管が1本しかなく、そう長くは瀉血は出来ないとは言われています。重度のアレルギーもあるためハイドレアも使用できるか分からないので不安は沢山あります。でもブログを読み納得出来たことも沢山あり、感謝しています。今の担当医は大変優秀で良くして頂いているので、任せていますがその前に通院していた大学病院の先生には誤診をされ、鉄欠乏性貧血と言われて鉄剤を飲まされ、本当に辛く、誤診をされた不安と今後も不安でしたが、患者数が少ないなら少ないなりに情報が少しでも分かれば完治はしなくても安心感は出てきます。やはり地方だと大学病院の医師にかかれば大丈夫だと固定観念があるみたいで、大学病院だからとか地位があるから大丈夫とか思っていたら間違いだと今の病院と担当医と出会えて感じました。今後も何かPVに関します情報があれば公開して下さい。宜しくお願い致します
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Unknown (アンフェタミン)
2012-05-16 20:45:18
>夏樹さん
こんばんは、はじめまして。コメントありがとうございます。

夏樹さんがこのBlogの記事を読んで納得できることが多かった、感謝していますと書いてくださったことに僕も感謝いたします。
そう書いていただくだけで、僕も頑張る気力がわいてきます。

当初診られていた大学病院の医師が「鉄欠乏性貧血」と診断したということですが、おそらく赤血球が無秩序に増加するのに比べて「鉄の吸収」が低かったからだと思います。
恐らく検査結果は「MCV70前後」「Fe 低値」「TIBC上昇」「フェリチン<12」で「Hbが12前後」だったのではないでしょうか。

MCVが70前後まで下がれば普通の人ならHbはかなり下がっていると思いますが、総合内科のような分野の先生であまりPV(真性多血症)の診療をしていない先生であれば間違えるかもしれません。

血液内科の医師なら間違わないと思いますが(たぶん)

今の担当医の先生とうまく信頼関係を築かれている様子で本当に良かったと思います。
また、新しい情報があればBlogにのせるようにしてみます。

応援しております

また、コメントいただければと存じます
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姉が真性多血症 (ミナママ)
2012-12-04 17:20:52
私の姉が真性多血症
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姉が真性多血症 (ミナママ)
2012-12-04 18:20:18
はじめまして
今日私の姉が真性多血症と診断 されて来ました…今62歳です。たまたま胃が痛くて内科で血液結果をしたところ赤血球が異常に高く発見されました。色々ネットで調べてみて男性に多く肥満やたばこも吸わない姉がなぜかかってしまったのか疑問です。これから抗がん剤の投与の治療が始まります。直らない病気とのことで姉も落ち込んでます。分かりにくい病気なので参考になりました。
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Unknown (アンフェタミン)
2012-12-10 20:57:51
>ミナママさん
こんばんは、コメントありがとうございます

はじめまして。真性多血症もそれほど多い疾患ではありませんですし、初めて聞かれる方も大勢いらっしゃると思います。
ただ、治らない・・・というよりも治そうとした場合、ベネフィットよりもリスクが高くなってしまうので、今はコントロールするという視点に立っています。

将来はJAK2遺伝子が原因と分かっていますので、より良い薬が出てくるようになるのではないかと思います

この記事が少しでも参考になったのであればうれしいです

また、コメントいただければと存じます
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とても参考になりました!! (つきまる)
2014-01-08 17:13:53
はじめまして。
昨日、祖母が真性多血症と診断されこの病気について調べていたところ、こちらのブログを見つけました。
非常に分かりやすく書かれていて、とても参考になりました!!耳慣れない病名で不安になっているであろう祖母を励ます為に、この病気について詳しく知ることができてとても感謝しています。
また、何か分かりましたらブログにアップしていただければ幸いです。
本当にありがとうございました。
返信する
こちらこそありがとうございます (アンフェタミン)
2014-01-08 22:19:43
>つきまるさん
こんばんは、コメントありがとうございます

医療従事者以外の方がこのような病名を聞くと、やはり不安に感じられるのではないかと思います。
今はまだ新しい情報はありませんが、機会があれば情報を更新していければと思っています。

また、コメントいただければと存じます
返信する
真性多血症と診断されました。 (けん1973)
2014-04-27 20:48:23
こんにちは

当方1973年生まれ 185cm 90kg 男 日本で生まれましたがアメリカで育ち、今はフランスに住んでます。 3日前、真性多血症と診断されました。 喫煙歴3日目です。。 苦笑。   水泳と 腹筋などの筋トレはやっています。  今回リサーチしていた所此方のブログをみつけた次第です。  自分のリサーチまた他の患者さんの為にも此方に書かせていただいた次第です。 

上記の通り3日前に診断されて何とも言い難い不安はありますが頑張ろうと思います。

分かってる限り3年前の血液検査の書類から(特に病気をしなかったのでわかりませんがずっとこんな数字だったのかなと思ってます。。 20代のころから頭痛はあったので。。)
先生の示している数値でした。 (18G・DL、50%以上) 又 頭痛、入浴後のかゆみが4-5年前からありました。  今はこれらはだいぶおさまりましたが 眩暈みたいな ー けだるさみたいなものがずっと体に残っています。 

事の発端は2013年8月に急性盲腸炎をやり血液検査をしていた時にあるお医者様がこれを疑い 紆余曲折し3日前の診断に行きついた次第です。 
又  JAK2 を指摘されますが、小生の場合はこれに該当しないようです。 ですが放射せんでの循環赤血球量の測定 ???   でこういった診断になったみたいです。  こういったこともあるのでしょうか? 抑々患者さんが少ないようなので難しいとは思いますが 何か存じてることあればご教示いただければ幸いです。
  

小生は来週から 300MLの瀉血を2週間に1回とアスピリンの毎日の服用になりました。

此方の先生は最初僕の出張などで(輸出関連企業の役員です。) 判断したのか薬を進めたのですが、 2週1回の瀉血 血液検査もちゃんとこなせるとの相互理解のもと瀉血とアスピリン出始めてみることになりました。。


直らない病気かもしれませんが、 コントロールしやすい病気だともって頑張っていきます。    このブログは大変参考になりました。 





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はじめまして (アンフェタミン)
2014-05-06 22:34:10
>けん1973さん
こんばんは、コメントありがとうございます

Htが高く、二次性(喫煙などを含め原因がある)も否定的であるために、真性多血症という診断になったのだろうと推測いたします。

185㎝ 90kgというのは体格ががっちりされているのだと思いますが、BMIでは26.3(日本だと軽度の肥満)ということになります。そういう方で睡眠時無呼吸などがあると、Htが上昇したりすることはあります。
また、若い方でも運動をよくされている喫煙者ではHt 50台は結構いらっしゃいます。

ですので、JAK2 V617F変異がなくて、白血球や血小板などのほかの血球が上昇していなければ、実は可能性は低いのではないかと思っています。

ただ、対応として間違っているかと言われると、僕も瀉血+アスピリンで行くと思います。実際に30前半で肺塞栓症になった患者さんがHt55%ということで紹介されましたが、同じように遺伝子変異もなく、その方は肥満+喫煙で睡眠時無呼吸もあったので、瀉血やアスピリンで血栓予防をしながら生活習慣改善に努めておりました。

日本とフランスでは事情が若干異なると思いますし、僕は検査結果がわかるわけではないですので、参考程度とお考えいただければ幸いです。

また、コメントいただければと存じます
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