AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

緊張性頭痛に対するトリガーポイント治療の整理 その2

2011-09-15 | 頭顔面症状

6.後頭下筋
後頭下筋は、頭半棘筋の下層の、最深部にある筋で、大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋の4筋からなり、前方へ移動しようとする頭部を後ろに引いて支える役割がある。
天井にペンキを塗るなど上を見る姿勢や、体幹部が前傾姿勢である時に頭を引き起こす姿勢が長時間続くと、本筋は過緊張を起こし、側頭部に放散痛を生じる。
 
頸椎全体のROM:前屈60°後屈50°回旋60°(ハイとイイエは60°と記憶する)
後頭骨-C1間ROM:前後屈のみで、前屈10°後屈25°
              すなわち後屈動作の半分は後頭骨-C1間の動き。
C1-C2間のROM :回旋のみで、左右回旋45°
             
すなわち左右回旋の大部分はC1C2椎体間の動き。
後頭下筋は、C2頸椎棘突起と下項線部の間に位置するので、上天柱・上風池・天柱・下天柱といった経穴からの深刺で治療できる。(浅刺では対応できない)


   


8.後頭前頭筋
後頭前頭筋とは、顔面神経支配の顔面症状筋の一つで、後頭筋と前頭筋の総称で、間に帽状腱膜を挟んで一体として機能している。後頭筋は後頭部痛を引き起こし、前頭筋は眼や前額部の痛みを引き起こす。
前頭筋緊張では、頭維から前額髪際方向に水平刺し、後頭筋緊張では玉枕から脳戸方向に水平刺する。


 

8.側頭筋
側頭筋は、咀嚼筋の一つで、三叉神経第Ⅲ枝が支配する運動神経である。側頭筋のトリガー活性は、上歯痛、顎関節症などで生ずる。
側頭筋部の経穴は下記のようになるが、局所治療として頭部周囲の緊張している筋に水平刺(たとえば頭維から頷厭、懸顱、懸釐に向けて水平刺置針)し、筋緊張を改善させることを目的とする。

9.総括 
1)側頭筋部に痛みがあったからといって、側頭筋が悪いとは限らない。後頭下筋・頭板状筋・頭半棘筋・胸鎖乳突筋・僧帽筋などは、どれも側頭部に痛みを放散するので、後頸部、肩甲上部・胸鎖乳突筋部を触診し、反応点を見出して刺針するべきである。

2)後頸部の筋は種類が多く、症状のみからどの筋が悪いかを推定するのことは難しいが、指頭感覚や解剖学的知識を総動員し、おおよその検討をつけることは可能であり、刺針して悪化することはまずないので、治療的診断(刺針した直後の症状の改善をみる)を行うこともできる。  

3)一応の傾向として次のことがいえるだろう。直下深部に骨性組織(頸椎部分)のある部分、例えば頭・頸半棘筋や後頭下筋には深刺し、骨性組織のない部分、例えば頭・頸板状筋や僧帽筋、胸鎖乳突筋には、骨に至るまでの深刺は行わない。


緊張性頭痛に対するトリガーポイント治療の整理 その1

2011-09-09 | 頭顔面症状

1.緊張性頭痛の基礎知識 
緊張型頭痛は、1988年までは筋収縮性頭痛と呼ばれていた。頭痛の7~8割を占める。重く締めつけられる感じの頭痛で、頭重とも表現される。発症は不明瞭で、梅雨時の雨のように何日も続く。両側性の頭痛。頭痛薬無効(薬が効いている間だけは軽快)。
精神緊張、抑鬱状態、頭頸部外傷等によるストレス→頭部の筋肉の持続的収縮→筋の循環障害→疼痛物質の発生→さらに筋収縮の惹起という悪循環。

2.緊張性頭痛の筋緊張部位
単純にいえば、後頸部筋の緊張では、頭に重石を載せられているような頭痛となり、 頭蓋周囲筋の緊張では、被帽感(きつい帽子をかぶったような感じ)となるとされる。
ただし後頸部の筋は重層的で種類が多く、また後頸部筋の筋緊張により側頭部や前頭部に放散痛を生じることも多い。とくに側頭部に放散する痛みは、もともと側頭部にある筋(側頭筋や側頭頭頂筋)の緊張と区別しにくい。幸いにして、痛みの発信源と放散痛の関係は、トラベルらにより詳細に検討されているので、既知のトリガーポイント部位と、その放散痛の関係から、一定の法則を導けないかを検討してみた。

3.僧帽筋と胸鎖乳突筋 
1)僧帽筋の肩井あたりのトリガーは放散痛を側頭部胆経の走行領域にもたらす。

2)胸鎖乳突筋僧帽筋のトリガーは、その付着部(完骨)あたりと前額部・眼の周囲に放散痛もたらす。

4.頭板状筋と頸板状筋
僧帽筋のすぐ深層にあるのが、頭板状筋と頸板状筋である。頭部板状筋は、側頸部上部において、僧帽筋と胸鎖乳突筋の間に触知できる。この筋間の後頭骨下縁に風池を取穴する。
     

1)頭板状筋
頭板状筋の関連痛は独特で、下風池付近にトリガーを生じると、頭頂周囲に痛み放散すこる。

2)頸板状筋
頸板状筋は、C3~C4頸椎棘突起の外方2寸ほどの部にトリガーを生じると、側顔面部とくに外眼角部に痛みが放散することが知られている。

5.頭半棘筋と頸半棘筋 
頭板状筋と頸板状筋の深層には頭半棘筋と頸棘筋がある。
頸半棘筋は、後頸部において最も太い筋であり、本筋が緩むと頭の重量を支持できない。本筋の放散痛は、後頸部と前頭部あたりの放散痛をもたらす。
頭半棘筋と頸棘筋の筋腹は、基本的に椎体の幅より外側にはみ出さないその刺針も棘突起から2㎝以内の距離からの深刺になる。 

  

※C1~C5棘突起外方、約1㎝の部にトリガーがある


顎関節症由来の耳鳴に対する針灸

2010-07-06 | 頭顔面症状

1.難症のⅠ型顎関節症
 
筆者は以前、顎関節症の針灸治療と題して、咬筋に対する運動針を説明した。確かに咬筋に対する運動針は効果大だが、こじれたタイプはそうはいかない。元来顎関節症の9割は自然治癒するとされるので、咬筋の運動針だけで効果があるのは軽症の部類なのだろう。

顎関節に問題があれば、閉口時に咬筋の働きが抑制される。咬筋のコリを放置し、その働きが長期間低下すると、咬筋とともに顎を持ち上げている内側翼突筋に負担がかかり、強い顎のズレが生ずる。また外側翼突筋と顎二腹筋の障害(過緊張)では、開口運動力が制限される。

要するに顎関節症に直接関与する筋は、4つの咀嚼筋(咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋)と、顎二腹筋であり、これらが複雑に絡み合って症状を呈すると考えた方がよい。臨床的に重要なのは、咬筋・外側翼突筋・顎二腹筋後腹であろう。

どういう症状の時に、どの筋を刺激するかの運動分析は、針灸臨床的にはあまり重要ではなく、要は各筋を触診あるは刺針してコリを見つけ、それらに筋緊張を緩める目的の針をすることが重要である。


2.咬筋の起始停止への運動針

患者に歯をくいしばらせた状態、つまり咬筋を働かせた状態で、咬筋の起始(頬骨弓下縁)と停止(大迎・頬車)に対して運動針を行う。


3.外側翼突筋起始に対する下関斜刺深刺
外側翼突筋の過緊張があっても、開口制限はあまりみられない。しかし自覚的には頬奥のコリを意識する。歯に直径3㎝程度のパイプを加えさせ、最大開口位状態にし外側翼突筋を伸張させておく。下関を刺入点とし、直刺深刺すると外側翼突筋の筋腹に当たるが、前上方(鼻根方向)に向けて深刺1~1.5寸すると同筋の起始に当たり、この方が効果的になる。針は咬筋→側頭筋→外側翼突筋中に入る。ある程度刺入するとコリを感じ取ることができる。10分程度の置針をする。




4.顎二腹後腹に対する天容刺針
 
顎二腹筋には前腹と後腹がある。前腹は三叉神経支配、後腹は顔面神経支配である。両者とも顎関節症に関係があるが、より直的に関係するのは後腹である。後腹の起始は側頭骨乳突切痕針、停止は舌骨外側面である。要するに乳様突起に胸鎖乳突筋が停止しているが、その乳突筋の前縁(天容穴)に触知できる筋が顎二腹筋後腹である。外側翼突筋に対する刺針と同様に開口を保持した姿勢にさせ、ここから下顎骨内部に1寸前後刺入する。外側翼突筋と顎二腹筋は、ともに開口作用をもつ筋なので、3と4は同時に行うのが普通である。

 


5.顎関節症と耳鳴りの関係
 
顎関節症に起因した耳鳴というものがある。中耳にあるあぶみ骨にあるあぶみ骨筋は、顔面神経に支配され、突然入ってくる大音響を内耳に伝達しないよう制止している。顔面神経麻痺で、あぶみ骨筋を制動できないと、聴覚過敏になりことがあるのは、その理由からである。発生学的に、あぶみ骨筋は顎二腹筋から分化したものである。

 一方、顎関節症の者の多くは、左右のどちらかの顎を動かして口を開く。顎が左右にズレながら開口する動きは顎二腹筋の左右差を生む。この顎二腹筋の動きが、あぶみ骨筋に影響を与えているという説がある(斎藤治療院HP)。要するに顎のズレが中耳性の耳鳴を生ずるという説である。
 

トラベルは咬筋にトリガーポイントが生ずると、耳鳴を起こす(難聴は起こらない)ことがあり、咬筋を押すと音程や音調が変化することがあると記している。

口腔外科領域では、1930年代に「奥歯が抜けると顎が後退し、耳の受容器を刺激して耳鳴が起こる」という報告後、顎関節症と耳鳴の関係性が指摘されていたようである。歯科専門誌をみると、「下顎頭の捻れによる関節包の侵害刺激が、三叉神経節から上オリーブ核を経由して聴覚路に影響を与える」という一文を発見した(竹村雅宏「日本顎口腔機能学会誌 vol.11 No.1 2004.11.30)。

 とすれば、耳鳴は顎関節部への刺激(=耳門)も効果的な筈である。実際の患者に試すと、従来に増して耳鳴に効果があった。従来、耳症状は局所として聴会からの深刺を使うこともあったが、あまり効果はなかった。しかし咀嚼筋に対する刺針に加え、耳門から顎関節包への刺針を追加してみると、効果はありなあらも、足踏み状態だった耳鳴(すでに6~7割改善)に対しても、8割改善まで効果が増したと患者は述べている。

総括:これまで私は、耳鳴に対して鼓室神経刺激目的で下耳痕穴深刺を行ってきた。鼓室神経は、舌咽神経の分枝である。顎関節症がある場合には、下耳痕刺激に加え、咀嚼筋(三叉神経第3枝支配)への刺激を追加併用してきた。ここにきて、顎関節関節包刺激(三叉神経支配)も意味あることを知り、耳門刺針を追加することになった。






緊張性頭痛は、後頸部と頭部の圧痛点を丹念につぶす

2006-03-22 | 頭顔面症状

1.針灸に来院するのは慢性頭痛
 頭痛を急性と慢性に区分すると、針灸に来院するのは慢性頭痛が多い。急性頭痛は、病医院で診療を受けている。頭痛に急性頭痛の中には緊急を要する頭痛もあるので、針灸師側にしても、これはありがたいことである。
 数年来の頭痛といった慢性頭痛で、危険な頭痛は考えにくいので、治療に専念できるからである。

2.片頭痛
 片頭痛は、頭蓋外を走行する外頸動脈の分枝の血管拡張が原因とされる。夕立のように発作的に起こる頭痛で、月平均2回(週1回~年数回まで)、発作的に繰り返して起こる。1回の発作持続時間は、4時間~1日くらい。頭の片側のコメカミから眼のあたりに起こるズキンズキンとした拍動性頭痛で、吐気を伴う。

 片頭痛の特殊タイプに群発性頭痛があり、これは片頭痛の1/100の発生頻度である。頭蓋内の内頸動脈や、その分枝の眼動脈の血管拡張が原因とされる。
 一度起こると、群発性地震のように、1~2ヶ月間、連日のように群発する。1回発作は1時間程度。眼や眼の上、コメカミあたりの、えぐられるような激しい頭痛で、じっとしていられない(狭義の片頭痛は、痛みをこらえるため、じっとしている)。睡眠中に起こりやすい。

 片頭痛は、よくある疾患だが、医師による薬物療法がよく効くので、実は針灸の出番はあまりない(それゆえ本疾患に対する鍼灸の効果は不明である)。片頭痛に対する治療薬には、昔は酒石酸エルゴタミン製剤(製品名カフェルゴットなど)が使われ、発作前兆期に服用しないと効果がなかなった。しかし平成12年からはトリプタン製剤(製品名イミグランなど)が使われるようになり、拍動性発作期に服用しても効果が出るようになった。


3.緊張性頭痛
1)概要
 緊張性頭痛は、1998年頃までは筋収縮性とよばれていたが、精神緊張による頭痛と筋緊張による頭痛は区別がつかないので、これらを一体化して緊張性頭痛とよぶようになった。頭痛発症は不明瞭で、梅雨時の雨のように何日も続く。頭痛の7~8割を占める。鎮痛剤は、あまり効果なく、その作用時間だけ症状軽減する。
<症状の病態生理>
 精神緊張・抑うつ状態・頭頸部外傷などによるストレス→頭頸部筋の持続的収縮→血行循環不良→疼痛物質発生→さらにこれが筋収縮を惹起、という悪循環状態となる。
 なお後頭神経痛というのは症候名であり、診断的には緊張性頭痛に含める。実際には後頭神経痛が引き金となって生じた緊張性頭痛が非常に多い。

2)緊張する筋と興奮する神経
後頸部痛(頭に重石をのせらせている感じ)
 原因:大後頭神経(C2後枝)の運動枝支配→深頸部筋
    後頭下神経(C1後枝)の純運動神経支配→後頭下筋群
頭蓋周囲痛(被帽感)
 原因:顔面神経支配→前頭後頭筋、耳介筋、側頭頭頂筋
    三叉神経支配→側頭筋
頭頂部痛
 原因:三叉神経第1枝興奮
 
3)緊張性頭痛の針灸治療
 重石がのっている感じならば後頸部筋深層に、被帽感ならば頭蓋周囲筋層に置針する。頭頂部痛ならば、頭頂に筋はないので、頭頂の皮膚知覚支配の三叉神経第1枝刺激を目的に、頭頂部圧痛点に置針する。

 なかには、頭全体が痛むと訴える者もいるが、とにかく、圧痛を一つ一つ全部針でつぶしていく気持ちで置針することを心がける。治療後も症状にあまり変化ないと訴える患者は、まだつぶしていない圧痛点が残っていることを意味するから、症状部位を中心に圧痛探索して施術すること。