AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

歯ぎしりと歯の噛みしめの針灸治療 ver.1.1

2024-12-18 | 歯科症状

1.ブラキシズム bruxism とは
 
歯ぎしりや、噛みしめはブラキシズム(口腔内悪習慣)と総称される。歯ぎしりや噛みしめは無意識で行っており、浅い睡眠中あるいは、日中ではストレスによる緊張、何かに長時間集中してる時に多い。
この状態が続くと、上下の歯の摩耗、閉口筋である咬筋の過緊張が生ずるので、顎関節症を併し、また頸肩背部や頭痛の原因になったりもする。歯のくいしばりは、歯ぎしりに比べて、噛む力は弱く噛む時間も短いので、 顎関節症の範疇とみなすこともできる。


2.睡眠相の性質


睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠の周期があり、一晩の睡眠では下図のように、睡眠相は5~6繰り返す。


1)ノンレム睡眠(徐波睡眠)  non-rapid eye movement sleep


睡眠は、まずノンレム睡眠(徐波睡眠)から始まる。
ノンレム睡眠は、睡眠の前半に多く現れる。大脳皮質休息の意義がある。大脳の休息では大脳身体抑制が外れるので、夢をみない一方、寝返りやいびき、歯ぎしりなど無目的に身体が動く。 

2)レム睡眠  


瞼の下で眼が動くので、REM(Rapid Eye Movement 急速眼球運動)睡眠とよぶ。レム睡眠の意義は身体休息で、骨格筋は弛緩して寝返りなどの動きはなが、精神は活動して夢をみる。

日中活動時は、交感神経優位状態が持続している。レム睡眠は、きつく巻かれたゼンマイを緩めるように、副交感神経優位状態にする役割がある。
レム睡眠が出現するのは入眠90分後からなので、仮に1時間睡眠を断続的に8回とって合計8時間睡眠になったとしても、レム睡眠時間は不足し、身体の疲労回復はできないので動物本能が低下(≒自律神経不安定)する。

2.ブラキシズムの針灸治療
 
ブラキシズムの針灸治療は数例の患者を経験したが、いずれも初回治療で効果があった。しばらくすると再発するが、針灸施術すると再び改善に効果があったこのことから針灸適応症だという印象である。


1)鎮静作用のある治療

  
大脳の疲労による全身的な運動筋の支配の低下なので、無意味な動きが出現する。したがっ睡眠時に生ずるブラキシズムの場合、深いレベルの睡眠に誘導、すなわちぐっすりと眠れるようにる対策が必要である。
スマホやPC操作などの操作に熱中して、ブラキシズムが生じているならば、その行為以外に、機能があまりコントロールされていないことを意味するので、休息や気分転換が必要である。

一言でいえば、大脳の疲労回復が治療目標である。より正確には大脳疲労がもたらした筋疲労復が治療目標である。

針灸では、鎮静作用をもたらす治療法が知られている。頭皮上の圧痛点、項部筋、胸鎖乳突筋圧痛を探り、置針する方法が多用される。
 
①上天柱深刺

取穴:天柱の上方で、風池(後頭骨とC1後結節間で、瘂門と乳様突起の間)の並び。
意義:深刺すると、僧帽筋→頭板状筋→頭半棘筋と通過し、大後頭直筋に至る。置針するとが多い。
  
②頭部圧痛点へ刺針
検者の指頭(指腹ではない)で、患者頭皮をゴシゴシとこすりつるように探り、陥下を探る。陥下には骨のくぼみと限局性皮下浮腫があるが、後者が反応点であり、やや強く押圧すると、患者は針で刺されたかのような強い痛みを感じる。圧痛点が治療点となる。斜刺で置針または単刺する。
   
③太陽刺針

眼裂外端と眉毛外端を結んだ中点から、外方1寸耳側を取穴する。こめかみ部。側頭筋の浅層に側頭部浅層脂肪体があり、2層の筋膜が2層になっているので、グリグリと指でよく動く。眼精疲労やコメミ痛に対し、側頭筋筋膜の緊張緩和目的で置針または単刺する。
 
2)顎関節症の治療


①咬筋緊張の改善   
強く閉口する際には閉口筋とくに咬筋に負担が加わる。大迎~頬車あたりから咬筋へ刺入る。開口制限が合併している者には、開口筋である外側翼突筋への刺激(下関深刺)を併用す


②顎二腹筋後腹の緊張の改善

顎二腹筋は咀嚼筋ではないが、本筋前腹は下顎の突き出し作用があり、本筋後腹は下顎の引きつけ作用がある。なお顎二腹筋は顔面神経支配であり、咀嚼筋は三叉神経支配になる。大きく開口する際、開口筋である外側翼突筋収縮に加え、顎二腹筋前腹が緊張して下顎の突き出し機能が働く。(鯉が口を大きく開く時、口が前に突き出るのを観察できるのと同じ理由)

 

それとは逆で、顎二腹筋後腹が収縮すると下顎骨の引きつけ力が増強する。歯ぎしりは強くかみしめた状態で下顎を側方や後方に強く引きつける動作で、そこでは顎二腹筋後腹が強く働く。その状態が続くと疲労して痛みが生じるようになる。

顎二腹筋後腹への刺針は、仰臥位で上背部にマクラを入れ、頸を過伸展肢位にする。これは顎二腹筋を伸張させた状態にするものである。この状態で顎二腹筋後腹(天容~舌骨部あたり)圧痛硬結に刺針する。

 

4.レム睡眠改善の針灸の考え方(参考)

レム睡眠は交感神経興奮状態を鎮静させる治療方針になり、背部兪穴への軽い刺激が適する。皮下筋膜を緩める目的になる。


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