AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

五十肩で上腕外側痛を生じる理由と治療法

2012-10-09 | 肩関節痛

1.肩関節周囲炎で上腕外側痛を訴える患者 

肩関節周囲炎の者は、肩関節部だけでなく、上腕外側(ときに前面や後面)の痛みを訴えることが珍しくない。肩関節部痛をさほど訴えず、上腕部だけ痛むという者さえ結構いる。

 


2.上腕外側痛は上外側上腕皮神経由来か? 



この上腕外側痛は、痛む部が非常に広く、押圧してもツボ反応は発見しづらい。しかし撮痛反応はしっかりと出現することから。皮膚の痛みであると判断していた。

すなわち、この皮膚知覚を支配は上外側上腕皮神経なので、この十数年来、五十肩時にみる上腕外側の痛みは、外側上腕皮神経痛だと考えていた。

 

 

実際に、五十肩患者がしばしば訴える上腕外側痛に、皮膚刺激として長針で皮下を横刺したり、点状刺絡したりすると、即効的に治療効果は得られることが多かった。
このやり方は、柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」にも、<上肢外側痛の鍼>として載っている。

しかしその持続効果は、一両日であることから、単にきわめて頑固な神経痛なのだとみなしていたのだった。

 
3.上腕外側痛は棘下筋の関連痛由来か? 

肩甲上神経は、棘上筋・棘下筋を運動性に支配し、肩関節包の上部と後部の知覚支配し、皮膚支配ない。

筆者は天宗から肩甲骨骨面にぶつけるように刺針すると、肩関節前面に針響が得られることの多いことを前から知っていたが、トラベルのトリガーポイントマニュアル図を改めて見ると、天宗あたりにトリガーポイントが発生すると、上腕外側に放散痛となるらしいことがわかった。


すなわち上腕外側痛は、肩甲上神経の興奮→棘下筋緊張→それがトリガーとなって上腕外側痛という病態進展が考えられる。ゆえに天宗へ刺針すると上腕外側痛が改善するのかもしれない。実際に上腕外側痛を訴える患者に天宗付近の圧痛硬結を探して刺針すると、上腕部に響くことが判明し、施術後は上腕外側痛は軽減する例が多々あった。
現在のところ、肩グウ水平刺に比べ、天宗刺針の方が成績がよい印象がある。


4.高い確率で肩甲上腕関節前面に響かせる方法 


なお、天宗周囲の圧痛硬結点から棘下筋に刺入すると、常に上腕外側に響く訳ではない。この部がトリガーポイントになっているという前提があるからである。


しかしながら、肩甲骨面に擦るように刺針すると、高い確率で肩関節前面に響きを与えることができるようだ。肩甲骨面に擦るように刺針するには、肩甲骨下角あたりを刺入点として、肩甲骨面に針先をぶつけ、針を刺針転向させて肩甲棘方向に刺入しつつ擦り続けるようにするとよい。


上腕外側痛に対する症状部位からの水平刺または大椎一行深刺の使い分け

2011-02-20 | 肩関節痛

1.肩関節痛に伴う上腕外側痛
このテーマは以前のブログ<肩関節痛に対する巨骨斜刺+肩前斜刺>
にも記したが繰り返し述べる。症状部の撮痛(+)であれば、腋膝神経の分枝である外側上腕皮神経の興奮とみなし、症状部に寸6#3以上の太さの鍼で、肩峰から肘部に向けて2~3本水平刺するか、刺絡すると速効がある。

ただし治療翌朝には元の痛みに戻りやすいという欠点があるので、来院ごとにこの施術を行い、併せて上腕の痛みを訴える部に、半米粒大灸をすることになる。なお腋窩ブロック点である肩貞からの深刺は、ほとんど効果がない。

2.肩関節痛のない上腕外側部痛
肩関節が正常であっても、上腕外側痛を訴えるケースがある。この場合、上腕外側部に撮痛があることもないこともあるが、前述の治療法ではあまり改善しない。

通常体格の男性で、背泳ぎの際にこのような症状を訴える81歳男性に対し、当初は腕神経叢からの分枝の傷みだろうと考えて、天鼎から腕神経叢刺を行ったが、それでも改善に乏しい。脊髄神経後枝の興奮かと考え、座位で大椎一行(正確には大椎移動穴でC7棘突起直側。標準の大椎一行では下過ぎると思う)から、2寸#4で、深部にあるシコリ目がけて刺針すると、上腕外側の症状部に響くという。数回の雀啄の後、抜針すると症状消失した。なおTh1棘突起直側からの深刺では背中側に針響が下り、C6棘突起直則では局所のみの針響に留まった。

別患者で仕事中(パソコン執筆)に同様の症状を訴える55歳女性に対し、座位にて寸6#2を大椎一行から直刺すると、しっかりと上腕外側に響くという。雀啄後抜針すると、今度は症状は少し軽くはなったが、まだ痛むというので、2寸#4に替えて同治療を再度実施。するとかなり楽にはなったが、まだ痛みが残るという。そこで針に慣れている人だったので、思い切って2吋#30(和針8番相当)中国針で、3度目のトライを実施。やっと症状消失との結果を得ることができた。

上記2症例の共通点は、大椎周囲に強い筋緊張があることだった。

3.大椎一行深刺の考察 
大椎一行にある筋肉は、浅層から順に、僧帽筋→小菱形筋→頸棘筋・多裂筋であり、これらはすべて胸髄神経後枝の神経支配を受けている。しかし上腕外側はデルマトーム的にC5C6レベルなので、治効理由を神経支配的には説明できない。一方、シコリに対する刺針という点と、刺針すると症状部に響いたという点で、トリガーポイント治療になっていると判断した。
 なお大椎一行の位置は、「治喘」(新穴)とも呼ぶことを以前から私は知っていたが、学校協会教科書では「定喘」となっていてた。改めて調べ直してみると、大椎の外方5㎜が治喘息で、大椎外方1㎝が定喘ということらしい。

大椎一行は、代田文誌も良く使った穴で、沢田流では、この位置を大杼一行と称した。著書「針灸臨床ノート第4集」には、「治喘の穴」と題して次のようなエピソードが載っている。

文誌自身が流感にかかり、咳と呼吸苦で苦しんでいた際、治喘穴から腰部方向に1.5寸刺入すると、脊柱に沿って5寸ほど響いた。治喘から直刺すると1寸の深さで、頸から咽方向に響いたとのこと。

座位での大椎一行深刺は、脊柱沿いに症状がある場合、症状部に針先を向けることで、症状部に針響を与えられることが多いのは、普段の臨床で経験していることだが、C7棘突起直側の針が上腕外側にも響くということに気づいた。無論、上腕外側に症状のない者に対する大椎一行からの深刺は、上腕外側に響かない。以前のブログ<肩部の特徴的な訴えと針灸治療2題>では、大椎一行深刺で肩関節部痛が改善したことを報告したが、同じ治療が上腕外側痛にも効果的であることを知った。 


肩部の特徴ある訴えと針灸治療2題

2010-10-27 | 肩関節痛

1.就寝時の側臥位時の肩部痛に下部頸椎一行の針 自験例(56才 男性)

1)私は眠ろうとする場合、ベッド上で側臥位になる習慣があった。半年ほど前から、左右どちらとも側臥位になると、下になった側の肩先に痛みを覚えるようになった。やむを得ず仰臥位にるが、寝つくのに苦労する状態になった。

2)おそらく、体重で肩がベッドに押しつけられるのだろうと思い、厚みのあるマクラ換えて、肩に加わる圧力の減少を試みた。すると確かに肩痛みが減ったが、仰臥位に寝返りする時は、マクラが高過ぎる感じすぎて満足できなかった。

3)いずれにしても、側臥位で寝る習慣は以前からあり、その時は特に問題がなかった。肩関節のROM正常。頸ROM正常。上肢症状(-)。肩鎖関節の問題かと思ったが、同部位に圧痛はない。肩関節周囲の撮痛もない。棘上筋や棘下筋にも圧痛は触知できない。

4)どうにかならないものかと、思っていたが、発症数ヶ月経た最近になり、側臥位にて頸椎を探ってみると、下になった側のC5~C6の一行に強い圧痛のあることを発見した。

5)その翌日、側臥位で肩部痛を出現させた状態をした状態で、助手の先生にこの部に寸6#2で2㎝直刺してもらった。すると瞬時に肩先の痛み消失した。次に反対の側臥位になり、同様の施術を受けると、やはり瞬時に肩先の痛みが消失した。要するに、肩先の痛みは、下部頸椎の高さの、項筋の関連痛だったのだろう。

6)通常、側臥位での針灸治療は、上になった側に施術をするが、今回は下側の施術となった。側臥位で下側施術をするのは、自分の手中では仙腸関節運動針のみだったが、今回新しい方法を発見したことになる。





2.「手の置き場がない」という訴えと天鼎刺針パルス  (49際 女性)          

1)以前から、ごくたまに患者が「手の置き場がない」との訴えを聴くことはあったが、どのように病態把握していいか分からなかった。しかし最近、 嫁(49歳女性)が「手の置き場がない」と言い出した。嫁は以前から肩頸コリがあり、頸神経叢刺激点として天窓や頸椎一行を使って、その都度改善していたのだが、今回はそれとは別者だという。

2)よく聴くと、以前からの僧帽筋に加え、上腕二頭筋が凝るようだ。上腕二頭筋上の経穴である天府や侠白、尺沢、曲沢らの圧痛も強い。上腕二頭筋停止部の上腕二頭筋は上腕筋、烏口筋とともに筋皮神経支配であり、筋皮神経は腕神経叢の枝である。要するに、筋皮神経の興奮が「手の置き場がない」という訴えにつながるらしい。

3)通常の患者と異なり、嫁なので実験的な治療ができる。そこで従来の施術に加え、寸6#2で仰臥位(または側臥位)で腕神経叢刺激点である天鼎刺針パルス通電10分間を追加してみると、上肢全体がリズミカルに動くのを観察。施術後には症状の改善をみた。筋肉のコリによる腕神経叢圧迫と、上記症状の関連をうかがわせた。


肩関節痛に対する巨骨斜刺+肩前斜刺

2006-03-11 | 肩関節痛

私の行う肩関節痛の鍼灸治療は、今では非常にシンプルになり、常用はつぎの3つにすぎない。しかもbとcはペアで使うことが多い。
 a.三角筋痙縮→三角筋圧痛点への運動針
 b.棘上筋炎、棘上筋部分断裂→巨骨斜刺
 c.上腕二頭筋長頭腱々炎→肩前水平刺

1.三角筋痙縮
 年齢に関係なく、肩関節部の過使用(理容師、調理師など)や打撲で生ずる。老化現象とはあまり関係がない。三角筋は機能的に前部線維(上腕屈曲)、中部線維(上腕外転)、後部線維(上腕伸展)に区分されるが、前部線維の障害が最も多く、次いで中部線維の障害が多くみられるようだ。いずれも三角筋を調べれば圧痛が明瞭なので、圧痛点に浅針し、上腕挙上の運動針を行えば直後効果は非常によい。ただし身体には「元に戻そう」とする力が働いている。経過の長いものは1~2日で元に戻ってしまうので、抜針後に円皮針をおこなったり、自宅温灸したりといった工夫が必要になるケースがある。

 三角筋と比べて地味だが、大胸筋の短縮により上腕挙上制限があることもあり、中府あたりの圧痛への運動針で急速に上腕挙上の可動域が増すこともある。

2.肩腱板の障害
 老化現象が関係する。40才以上で、三角筋部の圧痛が顕著でない場合、本疾患を疑う。痛みによる上腕の挙上制限がある。外転の自動ROM<他動ROMとなる。肩腱板ではとくに棘上筋腱が問題になる。棘上筋腱部分は血行不良になりやすいので、カリエは「危険地帯」と称した。この危険地帯に針を入れるには、肩ぐうや肩りょうから肩甲上腕関節腔内への深刺では無理で、2寸以上#5程度の針にて巨骨斜刺(肩井を刺入点とし、肩峰下へと入れる。軽く雀啄して抜針)をしなければならない。単なる巨骨直刺では棘上筋に入るだけで、治療効果は得られないのである。

 なお巨骨斜刺法は私が知ったのは、浅野周先生の「北京堂」のホームページからである。本法は非常に効果的な治療方法だが、治療持続効果はあまりないケースもあるので、肩峰~上腕外側を結ぶテーピングを併用し、棘上筋の負荷を軽減することを考える。

 巨骨斜刺は、肩腱板炎にも肩腱板部分断裂にも効果がある。自動ROM=他動ROMであり、一見して凍結していると思える例でも、効果が出ることは珍しくない。

3.上腕二頭筋長頭腱々炎
 本疾患が単独で出現することは稀であり、教科書的記述通りの臨床像はめったにない。炎症は長頭腱部だけでなく、肩甲上腕関節にまで炎症が拡大していることが多いので、巨骨斜刺が必要になる。なお単純な上腕二頭筋長頭腱々炎ならば、上腕骨結節間溝を走行する長頭腱への直接刺入(曲池方向への斜刺)しての運動針が効果ある。この部位は、肩前穴とよばれる奇穴になる。
 実際には、肩前斜刺+巨骨斜刺を一つの配穴としてとらえると、細かな診断に頭を使うことなく、迅速な治療ができる。

4.肩峰下滑液包炎、石灰沈着性腱板炎
 強い自覚痛を訴える。激しい炎症によるものなので、鎮痛剤を使って、まずは炎症を抑えることが必要になる。鍼灸はほとんど効果ない。
5.凍結肩
 完全に凍結した状況(運動時痛なく、運動制限のみあり)であれば、鍼灸は効果ない。
6.上腕外側の放散痛に対する治療
 上腕外側皮神経痛(皮膚の痛み)であり、本神経は腋窩神経の分枝である。上腕外側痛に腋窩神経ブロック点(肩貞)刺針をしても、効果に乏しく、上腕外側の疼痛部に対する局所治療が必要となる。最も効果的なのは、梅花針などの皮膚刺激である。