AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

足底の異常知覚に、然谷・公孫の刺針が有効だった症例の考察(64歳、男性)

2019-04-23 | 下肢症状

1.主訴

足の裏が格子の上に乗っているような感覚がある 現病歴 半年前から脚のふらつき、大腿のしびれ、足底が格子の上に乗っているような感覚出現。4ヶ月前MRI検査で、第11~12胸椎部黄色靭帯骨化症と診断され、手術を受け、入院20日後に退院した。しかし上記症状は少し軽くなっただけで不満が残った。医者に質問するも、よく分からないとの回答だった。退院後3ヶ月して当院受診。


2.鍼灸治療(その1)

下背部第11~12胸椎に棘突起に沿って3㎝ほどオペ痕あり。このレベルの脊髄の障害で患者の訴える症状が出るとは考えるには無理があると思ったので、足底圧痛を調べると、足底筋膜に強い圧痛を認めたので黄色靭帯骨下化症とは無関係に足底筋膜炎と考えた。なお脚のふらつき、大腿のしびれは主訴ではないので、当面は無視することにした。

足裏の圧痛点は第一指MP関節裏の足底筋膜停止部と土踏まずの中心部にあったので、母趾背屈して足底筋膜をストレッチさせた肢位で寸3#1で単刺。足底筋膜と下腿後側筋が発生学的に類似性あることから、腓腹筋の圧痛点であった承山に刺針+円皮針を実施した。なお下腿後側膀胱経部は、ヒラメ筋のトリガーポイントが活性しやすい部であり、ときに踵部に痛み放散することがしられている。 すると治療直後から足底症状の大幅な軽減をみて、「針灸がこれほど効くとは思わなかった」と患者も話してくれた。

 

 

3.鍼灸治療(その2)

本患者は痛みに過敏であることから、できれば足底の刺針を避けたかったので、仰臥位で公孫・然谷から寸6#1で2㎝刺針して5分間置いた。また下腿は膀胱経だけでなく脾経の圧痛も調べてみようと思い、脛骨内縁を触診するとヒラメ筋等沿って強い圧痛を発見したので、地機・三陰校を中心とした脛骨内縁にも寸6#2で3本程度置針してみた。すると前述の治療よりもさらに改善した。患者は「下腿の内側に針を多く打つようになってから、さらに症状が軽くなった」と評価した。    

公孫・然谷刺針は長母趾屈筋腱・長趾屈筋腱であり、それぞれの足母趾と足第2~第5趾の屈曲作用である。またその元になる長母趾屈筋・長趾屈筋は下腿内側の脛骨骨際にある。この部への刺針が効果あることは足底筋膜炎の症状といっても、その正体は長母趾屈筋・長趾屈筋の過収縮が、長母趾屈筋腱・長趾屈筋腱の伸張を強いられた結果として、足底筋膜炎様の症状を生むのではないかと推察した。  


この考え方は、バネ指に対する長・短指屈筋刺針の類似理論となる。
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e5b5616ff27ed725e4841034d9eee012

 

 

 

 

4.針灸治療(その3)

足裏が格子の上に乗っているとの感覚が軽減したためか、「脚がふらつく」症状は治療できないかと質問された。一応頸性めまいの一種かもしれないと思い、胸鎖乳突筋圧痛もなく、足底の知覚異常もなかった。運動失調かと考え直して、開眼ロンベルグ試験をすると、数秒間も姿勢保持できないことを発見。まず坐位で上天柱深刺するもロンベルグ試験に改善はみられなかった。次に立位で左右の中殿筋(大転子と腸骨稜の中点)に深刺単刺し、また開眼ロンベルグ試験を行うと、片脚で直立できる秒数が3倍以上になった。治療効果の明確な違いをみせつけられた。


モートン病に承山・地機の運動針が有効だった症例

2017-03-05 | 下肢症状

私は「モートン病に承山の円皮針が有効だった自験例」という内容のブログを以下に書いたが、実際の患者で同種の例を経験したので、この続報という形で紹介したい。

http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=737c9e71059671ed370db49faf14f7c0&p=1&disp=50

(62才女性)

1.診断:右足第3~4指間のモートン病


2.現病歴


10ヶ月前から、朝ジョギングを5分間した後に症状出現。4ヶ月前から右第3第4指間のビリビリした痛みが出るようになった。第2第3指間の少し痛むという。近くの整形の診察を受け、モートン病だが、神経腫はないといわれた。その整形で何回か局所神経ブロック注射受け、また足の横アーチを支持する足底パッドを装着するように指導されたが歩行時の痛みは取れなかった。

悩んだ末、ネットで承山に刺針してモートン病を治すという針灸院を見つけたので、その治療を5回ほど受けてみたが効果なくウチでは治せないといわれた。自分で工夫して百均で売っている足指間をスポンジで広げるようなウレタン製パッドを装着してスニーカーを履くと痛みなく歩ける。


     
3.診察

右足の横アーチが平旦化傾向。チネルサイン陰性(症状部をタッピングしても放散する痛みはない)。自覚痛の押圧でもあまり痛みは出現しない。神経腫は触知できない。以上のことから、固有足底神経が滑液包により刺激されたものだと考えた。


本患者は、足を両サイドから覆うような靴を履くと症状が増悪するということで、足の両サイドをせばめて甲を高くするような動作で症状は再現できたが、これは隣り合う中足骨の間隔を狭めたことによるものだろう。ただし整形でつくった足横アーチを支持する足底板で足底痛が改善しなかったことは、横アーチの減少が症状形成に関わっていたのではなく、足指間を走行する固有足底神経の絞扼を免減させるような自作装具が効果があったということだろう。


4.治療


足底筋膜炎やモートン病は腓腹筋の承山あたりの刺針で改善できるとの感触から、本症例も、伏臥位で「承山」あたりの圧痛硬結をさぐってみたが明瞭な反応はなかった。今度は仰臥位で股関節やや外転、膝45度屈曲位で下腿内側の圧痛硬結を調べると、ヒラメ筋上部で「地機」と、同じ高さの腓腹筋内側頭部のあたりに強い圧痛を発見した。そこでこれらの反応点に寸6#2で置針、そのまま足関節屈伸運動を行わせ、ヒラメ筋に対する運動鍼を十秒間ほど行って抜針。ちなみに、体重負荷状態での腓腹筋反応をみるため、立位で再び「承山」あたりの反応を探すと、今度は弱いながら2カ所の圧痛硬結を発見したので寸6#2で刺針。その状態でつま先立ち運動数回実施して抜針。

これで症状の変化を聞いてみたが、歩行時に痛み感じないという。刺針部に円皮鍼を貼って治療を終えた。
この良好な状態は4日後の再来時も維持できていた。

※ヒラメ筋運動針は仰臥位膝屈曲位で刺針し、足関節屈伸運動。腓腹筋運動針は膝屈伸で刺針して足関節屈伸運動。したがって、腓腹筋運動針は結果的に立位で踵の上げ下げ運動を行うことになる。 



5.コメント


1)私の治療が著効を得たのに、自宅近くの針灸院で治せなかったのだろうか、患者に聞いてきた。そこの針灸院では下腿の反応点を探すことなく、伏臥位の状態で下腿中央あたりに置針しただけだという。いくらモートン病に「承山」が効くといっても、膝窩中央から下8寸の経穴学でいう承山の位置に反応点は必ずあるものではない。結局指先で反応点を見出さないと治療効果は得られない。基本的なことだが、要するに反応点を探して施術するということが大事なのだ。


2)今回の症例は他の針灸院で治らなかったということなので、違うことをしようと思って最初から運動針を併用した。それゆえに運動針の有無の効果の違いは明瞭になっていないという観点からは残念だった。

 


モートン病に承山の円皮針が有効だった自験例

2016-12-04 | 下肢症状

1.モートン病Morton disease の概略

足の5つの中足骨は深横中足靱帯により互いに固定され、足底の横アーチを形成している。横アーチの下には指神経(=固有底側指神経)が縦走し、足指間の知覚をつかさどっている。もし体重に耐えきれず、深横中足靱帯が緩んで横アーチが平旦化すれば、歩行時に床から繰り返し加わる上向きの力によってMP関節の関節包が炎症を興し、指神経は圧迫され、足裏の指部分にピリピリした刺激が生ずるようになる。とくに踵を上げて、MP関節を背屈してのスピードを上げた歩行ではさらに指神経圧迫の程度が増して痛みが強くなる。第3趾と第4趾の間におこることが多く、第2趾第3趾間に起こることもある。

 

 

 

 2.モートン病の自験例(63才、男性)

1)発症原因


7ヶ月前、原因不明で右半月板亜脱臼を発症。保存療法により現在はかなり改善している。しかし階段を上る時は健常者と変わりないが、下りる時右膝に不安定感が強く、この数ヶ月来、「二足一段」で自然と下りるようになった。

正しい二足一段というのは、階段を上り下りする足使いの方法をいう。階段を上る時は健側から先に出し、階段を下る時は患側から先に出すのが正しい二足一段である。私の場合、階段を上る時は健常者と変わらない(これを一足一段といい、健常者にみる普通の階段の上り下り方法)が、階段を下る時は健側を先に出すという習慣があった。左健側から下の段に下ろす際、右患側膝の四頭筋は廃用性萎縮があるので、患側四頭筋を収縮させつつ筋長を伸ばすというエキセントリック収縮を円滑に行うことができない。そのため左足は下の段に衝撃を与えて着地するような動きになり、その瞬間に左第4指と第3指裏面がビリビリ・ピリピリと痛み始めた。すなわち左足がモートン病となった。やがて平らな場所を歩く時も、足裏中足指節関節部を背屈させても、ビリッとするようになった。


※エキセントリック収縮:伸張性筋収縮のこと。すなわち筋収縮しつつ筋は長くなる収縮様式。もともとエキセントリック収縮は筋増加を目的としてハードな筋トレでよく使われる。エキセントリック収縮の対義語となるのはコンセントリック収縮で筋は収縮しつつ筋長は短くなる。これは階段を上る時の大腿四頭筋の活動などでみられる。


2)針灸治療

①筋膜性疼痛か?

 
圧痛点は湧泉から1㎝ほど踵寄りと、第2第3指中足骨間と第3第4指中足骨間にあった。強く押圧すると末梢に痛みが放散した。あるポイントを押圧して末梢に放散する場合、それは神経痛とみなすのが従来の常識なのだが、最近の筋々膜症の知見では、末梢に放散する痛みは、筋膜症によるものだとみなすことになる。上述の圧痛点にしても、筋膜症が原因なのだろう。たとえば梨状筋が殿部坐骨神経を圧迫すると下肢に坐骨神経走行に従った放散痛が生ずる。これは坐骨神経痛ではなく、梨状筋等の臀部筋緊張による下肢放散痛だと考える。というのも、知覚神経は上行性だからである。

②承山への円皮針
 
自分で足裏や足指間の局所圧痛点に刺針するのは、痛そうなのでやる気になれない。とりあえずネット検索してみると、「針灸陽気堂」の鍼灸師のツボ日記<このツボ! モートン病を疑ったら迷わず承山>の記事を発見。承山の下2㎝あたりの圧痛点にに刺針すると効果があるとの内容だった。

半信半疑ながら、早速自分の承山あたりの圧痛を調べてみると、こよくもこんな処に強い圧痛があるものだと感心するほどの処を3カ所発見した。いずれも承山穴周囲であった。夜も遅かったので、とりあえず円皮針を貼っただけで様子をみることにした。これで効果なければ、翌日に通常の針をするつもりでいた。その後はすぐに就寝。翌朝いつものように家の階段を二足一段で下りてみると、足指にビリッと来ないのを発見した。症状9割減となった。

この下腿後側の反応探索は、椅座位で膝を90度屈曲で実施した。この時下腿三頭筋は、腓腹筋弛緩しヒラメ筋緊張状態にあるので、圧痛の所在はおそらくヒラメ筋だと思った。

 

③考察


筆者(似田)は、以前<足底筋膜炎>に対しては下腿三頭筋の運動鍼が有効であることを報告した。この内容と同様に、モートン病に対しても下腿三頭筋(この場合、承山やや下方)圧痛点に刺針すると効果があった。すなわち足底筋膜炎とモートン病は同じ範疇の疾患だといえるのではないだろうか。そしてモートン病も神経痛ではなく筋膜症なのではないか。足底筋膜炎の圧痛を探るには足母趾を強く背屈して足底筋膜をピンと張った状態にするが、モートン病の場合も足の第2~第5趾MP関節を強く背屈すると症状が出やすいという共通性がある。


足底筋膜炎の針灸治療

 http://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/83c59673cb2f50c8faf765b63d8060ec


歩行時のよろめきに対する足関節キネシオテーピング

2015-11-23 | 下肢症状

1.「歩行時のよろめき」の2症例

1)自転車から下りる際のよろめきに対するテーピング治療(76才、女性) 

6ヶ月前から膝関節痛があるも、膝関節部の鍼灸治療で症状かなり改善していた。現在は、自転車から下りる際(クセでどうしても右側からになる)、よろけて転倒しやすいというのが悩みだという。
診ると右足外側関節外側部に圧痛多数あり、左慢性足関節捻挫状態になっていた。

以前、別患者で歩行時の不安定感(よろめき)に対して、股関節部をゴムベルトで巻いて改善した例が数例あったので、本症例も左右の股関節を覆うようなゴムベルトを試しに巻いてみたが、まったく改善なかった。

脳卒中のリハ訓練で、足関節装具を使うとブレずに歩きやすくなることを想いだし、本例に対して右足関節を固定するようなキネシオテーピングをして治療を終えた。1週間後の再来時、具合を聴くと、自転車を下りる時もよろけることはなくなったとのことだった。
 
2)橋本病にともなう歩行時のよろめきに対するテーピング治療(83才、女性)
 
20年程前から橋本病があり、甲状腺ホルモン剤を常用服用している。このためか易疲労や色素沈着がある。運動不足もあり、下肢は細く筋力低下もある。

 
当院来院理由は、膝痛と右肩関節痛で、膝痛と右肩関節痛は鍼灸治療により非常に改善しているが、高齢なこともあり、定期的な鍼灸受診で良い状態をどうにか維持している状態であった。

 それ以外に、歩行時のよろめきがあった。20年程前も甲状腺低下症状による歩行時のよろめきがあり、その時は交感神経緊張させる目的で項部~上背部の強刺激治療で、施術直後は症状軽減していたので、今回も同様の治療を行うも歩行時のふらつきはあまり改善しなかった。また股関節部をゴムベルトで巻いてみたが、歩行時のよろめき感は改善なかった。

そこで、足関節部に圧痛点はなかったが、先の症例と同じく、左右の足関節を固定するようなキネシオテーピングをし、直後に治療室内を歩かせてみた。すると、ふらつきを感ぜず、安定して歩けるとのことだった。

 


2.歩行時の「よろめき」と「ふらつき」の相違


 
周知のように平衡覚は回転性めまいや動揺性めまいに分類される。回転性めまいは、外界がぐるぐる回ると訴える。その代表疾患には、メニエール病や良性発作性頭位めまいがある。


動揺性めまい
は、ゆらゆらする、ふらふらすると訴える。動揺性めまいは、頸性めまいの頻度が多いが、他に中枢疾患(聴神経腫瘍、小脳脊髄変性症など)や内科疾患(貧血、起立性低血圧)も考え得る。
 
ところで上記した2症例のような歩行時の「よろめき」は、動揺性めまい症状である「ふらつき」と似ているようで、まったく違う病態だと思われる。要するに歩行できないほどの筋力低下が真因となっている。具体的には筋力低下→足関節を安定支持できない→歩行でよろめく、といった状態になる。 

 
片痲痺の歩行では、短下肢装具を使う場合がある。私が昔病院勤務の頃、
片麻痺で歩行困難な患者でも、本装具を装着すると歩行できるようになることを何度も見たことがある。大いに驚いたものだ。足関節のぐらつき防止は、歩行するために重要なのだろう。このことは登山靴やスキー靴の例でも理解できる。

立位保持は重心バランスが正常であれば、あまり筋力を使わない骨支持が主体となるが、その例外は足関節であり、足関節固定の目的で下肢の拮抗筋同士がランスをとって緊張している。つまり下腿の筋力低下は、足関節のぐらつきを生じ、歩行困難を生じやすい。これと同じことは、股関節周囲筋にもいえるので、股関節のぐらつきがあると歩行困難になるのだろう。
 

3.余談:キネシオテープの利点と欠点

  
上記2例は5㎝幅キネシオテープを30~40㎝使って一側の足関節捻挫の治療と同じような処置を行った。これは大変効果あったのだが、このようなテーピングを続けることは皮膚を痛める原因になるので長期的な治療として使うことは困難である。以前当院にキネシオテープ製造をしている日東電工の社員の人が患者として来院したことがあった。その人に、長期的に使用できるキネシオテープはないのか、と質問したことがあった。しかし粘着テープを剥がす度に、皮膚の角質層を剥がすことになるので、原理的に無理だという。もし行うのならばアンダーラップを使う他ないというのがその答えだった。結局、応急処置としてはキネシオテープでよいが、少々長く使おうと思えば、足関節サポーター以外ないようだ。足関節サポーター着用のままでは靴が履けないという大きな欠点は存在している。

 

 

 


踵脂肪褥炎のテーピング治療 Ver.1.2

2015-09-22 | 下肢症状

1.踵中央(湧泉)の痛みを訴える者

踵中央部に鈍痛を感じ、押圧すると強い圧痛がある患者を何人か診た。私自身もこの10年に2~3回そうした経験がある。この症状を成書を調べても記載がなく、不明のままでいたが、朝日新聞朝刊(H18.6.12)に踵が痛む病気として、足底筋膜炎の他に踵脂肪褥炎(しょうしぼうじょくえん)が載っていた。


2.踵脂肪褥炎とは

踵脂肪褥創炎とは、踵を包む脂肪層が減少し、弾力を失っている状態であり、痛みの直接原因は、脛骨神経分枝の内側足底神経踵骨枝の刺激による。起床時に踵接地部が痛むというのが典型的な症状であり、踵中央部に脂肪層を寄せるテーピングをするだけで、痛みはかなり改善する(矢部裕一朗 整外医師)と書いてあった。

踵脂肪褥炎は、我が国ではあまり知られていないが、ネットで海外情報を調べると、欧米ではポピュラーな疾患であることが知れた。名称も様々で、踵脂肪パッド萎縮、踵脂肪体萎縮などともよばれている。



4.踵脂肪褥瘡炎の治療

治療法は非伸縮テープを用い、踵を覆うようにテーピングする。さらに歩行時には踵部にヒールカップを入れて、体重の免減をはかったり、靴の中敷きの踵中央部に穴を開けて、刺激が加わらないようにする。

テーピングは非伸縮性タイプを使用、幅25㎜と幅38㎜の2種を使う。下の写真1は25㎜テープ(25㎝長使用)使用する。写真2は幅25㎜テープを使っているが、実際追試してみると幅38㎜テープ(30㎝使長用)の方が土踏まずがしっかりと安定することがわかった。重要なのは、写真2では足底付近したテーピングしていないが、横アーチを復活させるように足の土踏まず~足背をくるりと一周させるこようにした方が土踏まずの凹面を復活できる。テープ固定する。1と2が終了すると、踵部の脂肪が盛り上がり、押圧するとフワフワしていることが確認できる。写真3と4は幅38㎜幅テープを使って踵全体を覆うように緩めに貼るが、必ずしも必要ではない。

なお以前は100均ダイソーで売っている非伸縮テープは粘着力が弱すぎて、使い物にならなかったが、現在では改良されて実用に耐えるものとなっている。

 

 

 




5.灸治療

自体験例では、踵中央に針する気にならなかったので数日間灸治療をしたが症状に改善ないため、デルマトームを考えて八りょう穴中の圧痛点数カ所を選び、せんねん灸2壮を行ったところ2日間(2回治療)で症状消失した。これには再現性があった。ただし重症の脂肪褥炎患者に試したところ、効果がなかった。 

 
 
 
 


慢性足関節捻挫に足根洞(=丘墟)刺+腓骨筋群刺 Ver.2.1

2015-05-22 | 下肢症状

2012年6月12日に「慢性足関節捻挫に足根洞(=丘墟)刺針」と題したブログを発表したが、一部に誤りがあり、その後の知見も増えたので、上記タイトルとして書き改める。


急性足関節捻挫による靱帯損傷が治りきっていない状態というのが、狭義の慢性捻挫である。この状態で、激しい運動や足首に負担のかかる姿勢を行えば、痛みが出現する。「治りきっていない」という意味には、次の2つがある。


1.靱帯の緩みが原因となる場合 
    靱帯断裂    ※急性捻挫の痛み自体は数日~数週間で消失
        ↓
   切れた靱帯線維間が、瘢痕組織で埋まる
     ↓
   靱帯が緩む(ゴムのように伸びる訳ではない) ※「関節不安定症」状態(靱帯損傷の数%)
        ↓
    普段は痛まないが、わずかなきっかけで捻挫を繰り返しやすい
        ↓
     靱帯再建術  ※術後は9割以上が治癒するが、残り数%は本手術でも完全には回復しない。
 

2.関節とくに足根洞の固有知覚の異常が原因となる場合   


靭帯の機能不全が軽度な場合でも捻挫を繰り返すことがある。それは、主に関節の固有知覚(関節の位置や関節にかかる力を感じる=バランス感覚を担う神経群)の異常が考えられている。足部の関節の固有知覚は、靱帯や関節包などのほかに、とくに足根洞窟部は神経終末が集合しており、足部の固有知覚に重要な役割があることが知られるようになった。

 1)足根洞の構造と機能
足の外果の斜め前下方で、距骨と踵骨のつくる骨溝を足根洞(丘墟穴に相当)とよぶ。足根洞は漏斗状で、内部には骨間距踵靱帯と、下伸筋支帯から分岐した3本の線維束がある。この線維束は、伸筋の緊張が、下伸筋支帯を介して、距骨-踵骨間に一定の動きあるいは安定性を与える生体力学的な機能をもつと考えられている。

 

2)足根洞の機能異常
       
足の外果の斜め前下方で、距骨と踵骨のつくる骨溝を足根洞(≒丘墟穴)とよぶ。足根洞は漏斗状で、内部には骨間距踵靱帯と、下伸筋支帯から分岐した3本の線維束がある。足根洞内部には、神経終末が集約されており、「足の目」ともいわれるほどに地面から足に伝わる微妙な感覚を感受するセンサーがある。

 「足根洞」で捉えた足の感覚は、脊髄を上行して脳まで伝わり、脳が解析した感覚は脊髄を下行して腓骨筋に伝わる。つまり、足根洞部→反射弓→腓骨筋緊張という反射弓で制御されている。
    
もし足根部の神経終末が何らかの原因で傷を受けている場合、足はつま先が下垂し、かつ内反足傾向になるので、足先を床に引っかけやすくなるので、足関節外側捻挫を起こしやすくなる。 
  

3.慢性足関節外側捻挫の治療

1)足根洞症候群としての針灸治療
   
ペインクリニックでは、このような慢性足関節捻挫に対しては、足根部へのブロック注射が効果をあげている。針灸でも太い針で、足根洞底部に到達するような深刺を行い骨膜刺激を行うとよい。単に仰臥位で丘墟から直刺深刺してもあまり響かないので、跪座位 (両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢)、または俗にいう和式トイレ座り (足裏を地面につけてしゃがむ姿勢)にて刺針すると響くようになる。
  

 


 


2)腓骨筋群の筋力増強訓練と治療点
       
前距腓靭帯が傷ついた足首であっても、腓骨筋群(長・短腓骨筋)などが足関節をしっかりと支えているとぐらつかずに歩行できる。腓骨筋群を鍛えることが捻挫の再発を防ぐことにつながる。その訓練方法には、長座位になって両足の外側をゴムで連結し、足を外旋 (踵を支点として足母趾を遠ざける)させる方法などが知られている。
針灸治療では、長・短腓骨筋に対する刺針として、陽陵泉・懸鍾などが局所治療点となる。
   

 

 

 

3.殿部の下肢内旋筋群に対する坐骨神経ブロック点刺
    
足の内反訓練が慢性捻挫の予防につながるのであれば、話しを一歩進めて、殿部深部筋(梨状筋など)増強目的で訓練するのも良いアイデアかも知れない。殿部深部筋の収縮力低下によるものであれば、筋力を復活させるには坐骨神経ブロック点刺針(=梨状筋刺針)をすることが効果的になる可能性もある。 

 

 

 

 

 

 

 


深腓骨神経痛での太衝への刺激の与え方 

2014-05-19 | 下肢症状

1.深腓骨神経の皮膚知覚部支配である太衝 

総腓骨神経の皮膚知覚支配領域は、下腿の外側~前面から足背領域の皮膚を知覚支配している。
  総腓骨神経は陽陵泉附近で、浅・深の腓骨神経に分かれて下腿を下るが、皮膚知覚支配の大部分は浅腓骨神経であり、深腓骨神経は足第1指と足第2指の間の領域の皮膚を知覚支配するに過ぎない。この部分は、太衝穴に相当している。

 

このような解剖学的特異性は、鍼灸臨床にどのような治療指針を与えるのだろうか。これは私にとって、昔からの疑問点であった。このたび症例を通して、その疑問に一つの回答を示せたので報告する。


2.太衝部の痛みを訴える症例の太衝刺激(70才、男性) 


1)主訴
①左足底筋膜炎、②左「太衝」部分の痛み、③両側性坐骨神経痛(非根性)


仕事を引退して、現在は週3日ゴルフをしている。最近左足底の土踏まず部の歩行時痛を感じるようになったので来院。坐骨神経は慢性で、疲労時に両側殿部~下肢後枝にかけて時々痛むことがある。


2)鍼灸治療 
最大の来院理由が左足底の痛みであった。これは足底筋膜炎と病態把握し、土踏まず部の最大圧痛点に1㎝刺針、その状態で足指の底背屈自動運動を5回実施させた。太衝部分の痛みの理由は、足底筋膜炎の程度がひどいので、この部分も痛みを感じてしまうのだろうと考え、太衝にも置針5分。


3)治療経過
3日後に再来、足底部の痛みは大幅に減少した。現在の最大の痛みは、左「太衝」部であるという。これは足底筋膜炎に引きづられて出現した痛みではなく、深腓骨神経痛ではないかと考えた。
本患者は両側性の坐骨神経痛も軽度に存在するので、坐骨神経の末梢枝として深腓骨神経痛はあり得ることだろう。この太衝附近の深腓骨神経は、皮膚知覚支配であること、前回は太衝に5分間置針してもあまり効果なかったことから、皮膚刺激目的で、左太衝から2~3カ所刺絡して数滴血を絞り出した(刺絡部皮膚に細絡や発赤などの血液停滞所見はなかった)。その直後から、歩行時の太衝部の痛みは消失し、患者も不思議がっていた。
つまり太衝部の痛みは、深腓骨神経の皮膚知覚過敏であり、そのため皮膚刺激が治療的意義をもつと考えた。


足関節周囲痛に、下腿後側の運動針が有効

2012-09-18 | 下肢症状

1.針灸局所治療で治せない足関節周囲の痛み

症例(Y.F. 61才女性):全身の関節痛、筋肉痛で以前から当院来院している患者。元気があり、線維筋痛症や関節リウマチは否定されている。毎回、いろいろな症状を訴えるが、数回の針灸治療を行うと、間もなく改善していた。

今回はスクワットをして以来、両側足首が痛み、5分以上の歩行が困難とのこと。足関節を捻挫した覚えはないとのこと。
診察すると、内外の足関節裂間隙やアキレス腱の踵骨停止部など、半円周状に痛むとこことである。
とりあえず、足関節症とアレス腱付着部症の合併と考え、局所圧痛点に置針するも無効。置針を運動針に変更したり、太針に変更したりした。しかし30回ほど治療しても効果なかった。


2.下腿三頭筋放散痛としての足関節周囲痛 

そうした状況下、栗原誠先生ブログ「鍼灸師のツボ日記;捻挫とは限らない足首の痛み(2012.7.22)」の記事を発見した。本ブログでの症例は、まさしく当患者と一致していた。

 

 栗原先生の方法に従って下腿三頭筋を緩めるように、伏臥位で足首部に膝マクラを入れた姿勢をとらせ、寸6、2番針で腓腹筋→ヒラメ筋と刺針その状態で足首の底背屈自動運動を行わせた。あれだけ難治だった痛みが、治療2~3回で大幅に改善してしまった。
結局、本例の足首周囲痛は、下腿三頭筋の放散痛だったことになる。


3.下腿三頭筋の解剖学的特徴

上記治療で問題解決したのだが、下腿三頭筋は、腓腹筋とヒラメ筋を併せた名称である。どちらの筋の放散痛だったのだろうか。最終的にはアキレス腱となり、踵骨に停止する。膝関節90度屈曲状態で、足関節を底屈する作用はヒラメ筋により、膝関節伸展状態で、足関節を底屈する作用は腓腹筋による。
上記症例で、歩行姿勢は61才女性という点から考え、膝関節伸展位に近いだろうから、下腿三頭筋の放散痛というのは、腓腹筋の放散痛であろうと考えた。

なお運動針(直接法)は、置針した状態で該当筋の伸縮運動をさせる技法であるから、腓腹筋、ヒラメ筋それぞれに対する運動針は次に示すように異なるものになるだろう。

 

 

 


アキレス腱周辺疾患に対する針灸治療

2012-08-28 | 下肢症状

筆者は、2011.2.6付「組織別の最適な治療手法」と題し、筋膜、筋付着、腱鞘等の興奮症状に対する刺針法を報告した。今回はアキレス腱を中心とした各疾患について、具体的に針灸治療法を記すことにした。各疾患説明は、どの本にも書いてあるので省略した。

1.アキレス腱炎・アキレス腱周囲炎

1)下腿三頭筋が緊張し、短縮すると結果的にアキレス腱に加わる牽引力は増加する。アキレス腱炎を生じる誘因がこの下腿三頭筋緊張にあるので、下腿三頭筋へ置針し、筋緊張を緩める。

※下腿三頭筋へ運動針をするには、伏臥位で、足関節背面にマクラ等を入れ、足関節の背屈底屈が自由にできる姿勢にする。(「春日鍼灸治療院、鈴木昭彦先生HPより)

2)アキレス腱本体に知覚は鈍い。ド・ケルバン病や鵞足炎と同じように、アキレス腱炎の痛みは、皮神経の興奮による。皮神経の興奮の有無は、皮膚を摘んで調べる(=撮診)とよくわかる。この撮痛部に対し、皮膚刺激(皮内針など)が効果的である。   

※刺絡抜罐法(=刺絡して吸い玉をつける)の処置を加えることで即効的となり1~2回で治癒するという。(「はぐれ針灸学」HPより) 
皮内針より強刺激なので、この方が効果があるかもしれない。


2.アキレス腱付着部症

1)アキレス腱炎と同様に考え、下腿三頭筋刺針を行う。


2)アキレス腱の踵骨付着部を丹念に触診すると、鋭い圧痛点が数カ所発見できることが多い。この圧痛点に対し、ピンポイント的に刺針する。これは痛みに対する局所治療点であると同時に、腱紡錘を刺激することで下腿三頭筋の筋トーヌスを緩める狙いがある。


3.アキレス腱滑液包炎

1)下腿三頭筋の緊張を緩める刺針をすることはアキレス腱関連疾患に共通である。

2)腫脹改善:局所の血行を改善することで、滑膜の炎症を鎮める。それには、腫脹部と腫脹周囲部に置針(3番針以上の太さ)。
※この治療方針は抽象的過ぎるが、実際に効果があるので今なお用いられている。リウマチや膝OAの際の膝関節腫脹に一定の効果あるが、ベーカー嚢腫には効果が乏しい。 

3)滑液包の存在意義は、組織と組織がこすれあう部の摩擦軽減である。何らかの理由で 可動域が狭くなると、筋力を使って可動域をなんとか保持しようとするが、その時、滑液包の滑液量も増産して、摩擦を少なくするように動く。その結果が滑液包炎である。
治療は、可動域制限のある部分を発見し、可動域拡大を図ることが滑液包炎の治療方針になる。具体的には、足の底背屈、距骨下関節での踵骨の内反・外反などで、刺針ポイントはこれらの筋付着部になる。
上述の考え方は、徳山接骨院TOKUヤン先生HPを参考にした。実際の効果はまだ追試していないので不明だが、方法に具体性があって好ましい。


正坐からお辞儀動作時に生ずる鼠径部痛に対する髀関刺針 

2012-08-08 | 下肢症状

1.症例1 65才、男性、無職(元会社員)
1)右側のフォーハンドとバックハンドのテニス肘合併による右肘運動時痛が主訴で来院していたが、数回の少海・曲池あたりの圧痛点運動針で略治していた。ある日、ジムでトレーニングをしていて、正座して状態を前屈する動作(=お辞儀する動作)で、右鼠径部痛を生ずることに気づき、気になるようになった。
2)鼠径溝上で、どこが痛むのかを指先で押すよう患者に指示しても、私自身が押圧して調べても、これだという明瞭な圧痛硬結は見いだせなかった。やむなく関係ありそうな点である長内転筋の起始部腱、腸骨筋の起始部腱に刺針し、股関節の外転・外旋の運動針を行うも無効。また座位にて髀関穴(大腿直筋が下前腸骨棘に起始する部)に刺針しても効果なかった。

3)とにかく反応点を指先で探しあてることが先決だと考え直し、上記の維道穴、すなわち下前腸骨棘の真上から、深々と押圧してみると、深部についに筋硬結を感じとることができた。この押圧方向と同じ方向に2インチ中国針30番(和針10番相当)で3~4㎝刺入し、硬結に当てて雀啄して抜針した。
するとその直後から、正座でのお辞儀の際の鼠径部痛は消失した。以後、たまに軽く痛むことはあっても、そのつど上記刺針法で症状軽減している。


2.症例2 54才、女性、看護士
左変股症、膝OA等にて来院中の患者で、主症状は順調にコントロールされている。ある日、正座をしてお辞儀をすると左鼠径に痛みを感じるとのこと。上記症例1の経験に従って、座位で、髀関(下前腸骨棘部)あたりの筋硬結を触知し、そこに2インチ中国針30番(和針10番相当)で3~4㎝刺入し、硬結に当てて雀啄して抜針した。すると本例も治療直後から症状消失した。

3.髀関刺針を有効にするための触診技法
大腿直筋のストレッチは、スポーツトレーナー分野でよく行われている。それは、正坐した状態で、上体を後に倒して床につける動作や、立位で片側の膝を屈曲させ、その側の足首を指でつかんだりする動作になる。

今回の大腿直筋起始部痛は、そうした筋の伸張痛ではなく、同筋の収縮時痛であろうと考えた。針灸で、
この筋の起始部に刺針することで収縮痛を改善するには、独特なコツがあることがわかった。同筋の起始部は下前腸骨棘(それに寛骨臼上縁)であるが、仰臥位姿勢にてこの部を指頭で押圧しても、他の筋に邪魔され、この筋の緊張の有無は分からない。

※髀関穴位置:教科書的には上前腸骨棘の下方、縫工筋と大腿筋膜張筋の間、陥凹部である。筆者は上前腸骨棘の下方1~2寸の下前腸骨棘部を髀関としている。

正坐させて、図の×印のように下前腸骨棘を普通に触診しても。やはり緊張の有無は分からない。下図の○印のように、大腿に指をもぐり込ませ、骨盤縁に対して直角に指をあてるようにして、初めてシコリを発見できる状態になった。そしてシコリ中に針先が到達するように刺針すると、効果をあげられることを知った。


鼠径部~大腿部の診察ポイント--膝痛と腰痛の関連性

2011-08-30 | 下肢症状

膝痛で来院する患者に対して、「腰からくる」とかいう治療家がおり、妙に患者も納得してしまうのは驚きである。膝は膝できちんと診療すべきである。少数でああるが「腰からくる」ものも確かにあるが、それは病態生理学的に、どのように説明すべきだろうか。

1.鼠径部付近の局所解剖と経穴
大腿基部内側で、縫工筋、長内転筋の内側縁、鼠径靱帯で囲まれた部を、スカルパ三角(大腿三角)とよぶ。鼠径靱帯上で、スカルパ三角部の中央付近を、大腿動脈・大腿静脈が縦走(=衝門穴)し、その外方を大腿神経が縦走している。
またこの深層に腸腰筋(大腰筋・小腰筋・腸骨筋)がある。

 長内転筋は、パトリックテストの肢位をすると、隆起するので、摘むことが容易である。
長内転筋の外縁には、足五里、陰廉といった経穴が存在している。
長内転筋の内側には、薄筋・半膜様筋・半腱様筋といった大腿の内転筋群が存在する。

 2.大腿~鼠径部の診かた
1)大腿直筋起始部にある髀関  
大腿を屈曲させるのは、大腿直筋と腸腰筋の共同作用である。
大腿四頭筋は、4筋とも膝関節伸展作用はあるが、股関節屈曲作用があるのは大腿直筋のみである。具体的には大腿直筋が収縮すると、脛骨粗面(犢鼻)と腸骨の下前腸骨棘(髀関)を近づけるように作用する。
一方腸腰筋が収縮すると、大腿骨小転子と腰椎を近づけるように作用する。なお内側広筋・外側広筋・中間広筋は、大腿屈曲作用はない。
下前腸骨棘部にある髀関に圧痛あれば、大腿直筋の緊張を考える。

2)大腿直筋と腸腰筋の関係
大腿直筋は大腿屈筋なので、本筋の緊張は同じ大腿屈筋である腸腰筋の緊張がることを予測させる。腸腰筋の圧痛の有無は、スカルパ三角部を深く押圧して調べる。

3)大腿前面の膝蓋骨付近にある筋の圧痛
四頭筋のトリガーは、このあたりに集中している。この部に圧痛あれば、原疾患として膝関節症とくに大腿膝蓋関節症を考える。

4)大腿内側の恥骨付近にある筋の圧痛
大腿内転筋群のトリガーは、このあたりに集中している。この部に圧痛あれば、原疾患として膝関節症とくに鵞足炎を考える。
強く開脚すると、大腿内転筋群の一つである長内転筋が隆起する。本筋の外側縁に足五里や陰廉がある。

5)大腿外側筋の圧痛
大腿外側部にある大腿筋膜張筋、外側広筋、腸脛靱帯などに圧痛があれば、大腿外転筋の緊張を考える。この場合、同じ大腿外転筋である殿部の中殿筋の緊張を調べる必要があり、中殿筋の圧痛がれば、股関節症の可能性を疑ってみる。 

6)スカルパ三角の診察
スカルパ三角部を深く押圧した際、骨の存在が感じられない場合を「スカルパ三角の空虚」といい、先天性股関節脱臼の所見として知られている。
股関節症では、中殿筋部にある大転子周囲の圧痛と並び、スカルパ三角部に圧痛が診られることが多い。
7)大腿動脈、大腿神経、大腿外側皮神経の診察
鼠径溝にほぼ一致した鼠径靱帯は、上前腸骨棘と恥骨結合を結んでいる。鼠径靱帯のほぼ中央に大腿動脈の拍動を触知する部があり、ここに衝門をとる。衝門の拍動減弱時には、下肢閉塞性動脈硬化症を考える。
大腿神経は、大腿動脈の外方で、鼠径靱帯の外1/3ほどの処を縦走している(正穴なし)。
この部での圧痛は、大腿神経絞扼障害(大腿前面の皮膚知覚過敏や四頭筋、恥骨筋、縫工筋の緊張)を考える。
鼠径靱帯の上前腸骨縁には大腿外側皮神経があり、ここに居りょう穴をとる。居りょう穴は、大腿外側皮神経痛(大腿外側の皮膚痛)の神経絞扼ポイントになる。

 


肉離れの針灸治療

2010-09-24 | 下肢症状

1.肉離れとは
肉離れとは、遠心性収縮による羽状筋の筋腱移行部損傷(筋腱の骨付着部断裂は筋断裂)をいう。遠心性収縮とは、筋自体は収縮しつつあるのに、体重負荷で筋線維は余儀なく伸張する状態である。

2.分類
1)1型:出血
筋腱移行部に出血所見のみが認められる。数日~2週でスポーツが可能となる。
2)2型:腱膜損傷型
筋腱移行部において筋線維が腱から引き離された状態。足をひきずって歩ける程度。復帰に1~3カ月を要する。




3)3型:筋腱の骨付着部の断裂
腱断裂と診断されることが多い。歩行困難。手術的治療を検討する。
 
3.病態生理



スポーツで筋に力が加わると肉離れが起こる。その瞬間に、非常に強い痛みと衝撃を自覚する。その時には筋繊維が裂けると同時に、周りの筋肉も萎縮し、傷口が拡大する。

数週間の安静を保っていると、損傷して欠落した部分に再生細胞が増殖して瘢痕組織が形成される。瘢痕組織ができた段階で、直ちに激しい運動をすると、瘢痕組織部分または瘢痕組織と正常筋組織の移行部(境目)が損傷することがある。
     
瘢痕組織は伸展も収縮もしないので、それ以外の筋線維部分で筋収縮の代償をせざるを得ないので運動能力は低下する。

ただし最低6ヶ月間、適切な負荷でのトレーニング(ストレッチ、軽い筋トレ)を続けることで、瘢痕組織は柔軟性は増し、他の筋線維も太さを増すので、肉離れ以前と同様の運動機能にまで回復できるという。

4.針灸治療
1型と2型の肉離れに針灸は適応があり、3型は不適応である。また1型は安静を保つことで早期(数日~2週間)に治癒するので、問題となるのは2型肉離れである。

受傷後直後は、これからできる瘢痕組織の狭小化である。受傷部周囲筋に刺針し、受傷ショ  ックで短縮した筋の緊張緩和を図る。草野茜氏は、陥凹が触知できる場合、陥凹の両端にある筋線維の断端を、左右それぞれの手でつまんで互いに接触させるように加圧。加圧は断続的に5~6分間実施する。治療間隔は2~3日で、完治まで2~3回の治療(1~2週間)を要すると記している(草野茜:肉離れについての針灸治療症例報告、医道の日本H16.11)。その処置後にRISE処置を2~3日行う。
     
受傷後2~3週間が経過し、歩行時にも痛みがなくなったら、回復期としてリハ訓練を始めるが、その時の針灸の目標は、筋の伸縮力の改善であって、障害筋全体に刺針施灸して、血行促進を図る。