AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

中医学のインポテンツの病理機序と病証

2010-08-06 | 古典概念の現代的解釈
1.精液は余剰の先天の精である
精子は精液中にあり、精液は腎水中にある先天の精(=腎精とよぶ)から抽出されたものである。つまり精液は先天の精の一部であると古代中国人は考察したらしい。腎精の作用で成長を続け、腎精の量が一定以上になると精液を放出し、卵子と結合することで新たな生命を生むことができるようになる。やがて老化するにつれ、腎精の量が減少するので体力がなくなり、先天の精の消滅で死に至ることになる。

2.勃起
陰茎が充血して固くなるのは、肝の作用である。肝は血の一時貯蔵庫であるが、勃起の際は、肝にある血を放出し、血液循環量を多くして陰茎を固くする。むろん、血虚の場合には、肝の血を放出しても、陰茎を固くするまの血量増加には至らない。

3.病証
1)湿熱
  内臓が湿熱(≒熱中症状態)になれば、本来の機能を果たすことができなくなる。とくに男性生殖器は、湿熱に弱いので外気に露出して、冷やされる構造になっている。要するに陰部が蒸れた状態になる。

2)命門火衰(=腎陽虚) (老化によるインポテンツ)



 命門火衰は、インポテンツを生ずる最多病証である。老人になると、新しい生命を生む力(精子の放出)がなくなるのは当然として、自分自身を健康に保つための生命力さえ不十分になりがちである。これは先天の精の量の問題に他ならない。
 上図に示すように、蒸し器を温める火力が少なくなると、腎水の温度もあまり上昇しない(=腎陽虚)。脾から新たな水を腎水に注ぎ込むと、余計に腎陽虚が進行するので、脾からの水の流入を制限せざるを得ない。しかしこの状態では腎水中に含まれる後天の精の成分が少なくなり、先天の精を滋養できなくなり、先天の精の量も不足してくる。
 このような場合、自分の生命を守るため、先天の精を漏らすわけにはいかなくなる。

3)心脾両虚(体力気力不足で生じたインポテンツ、女性では更年期障害)
食物を蒸し器に入れると、そこから出てくるのは、蒸気と血液(脾にて食物中の脂肪から製造)である。気の不足は腎水減少や命門火の衰退による蒸気力低下によるもので、血の不足は脾の機能低下(脾気虚)、すなわち食物中の脂分から血を抽出できないことによるものである。血は五臓六腑を動かす燃料として利用されるが、ことに心に血が行かなくなると、心のもつ大脳辺縁系機能(本能と情動)が異常となるり、自律神経失調症状態になる。これが心脾両虚である。血の乱れから生じた自律神経失調状態とは、現代でいう更年期障害に一致するであろう。

 ※よく夢をみる原因→心血不足
   身体の陰が陽を上回れば睡眠状態になる。したがって陰虚では寝つきが悪くなる。心が活発に働くのは覚醒時であり、夜間睡眠時には心が休息する。夜間睡眠時に、心が休息するのは、陰である血が心臓に多く行くからだが、心血不足の時は、心の陰が不足し、あたかも半覚醒状態となる。他の組織は夜間状態であるのに、心だけ覚醒状態に近くなるという意味は、夢をみるということである。
前記した心脾両虚でも、よく夢をみるという症状が出現する。

中医学にみる腎・膀胱の機能と排尿障害

2010-08-06 | 古典概念の現代的解釈



1.人体の生命力は、蒸し器の中にある水を沸騰させてできる水蒸気が根本になると古代中国人は考察した。この水は蒸発して目減りするので、新たな水の流入が必要で、この役割が脾に負わせられている。脾は、飲食物を原料として生成された腎水の元をつくる。

2.腎水は、火で熱せられて、水蒸気を生む。この水蒸気は身体各所でエネルギー源として利用されるが、余剰になった水蒸気は蒸し器の上部で冷やされ、水滴になって再び腎水に戻る。腎水は何回も使い回しされるわけだが、その過程で次第に汚れてくる。この汚水を体外に排泄するシステムが、腎-膀胱にある。

3.腎のもつ気化作用(物質変換作用)により、汚れた腎水は膀胱に送られ、尿液と名前を変える。膀胱には一定の容量があるので、ある程度膀胱中に尿液が満ちても、通常は排尿してもよい時間と場所を選ぶまで、排尿を意志力により我慢する。これを膀胱の約束作用とよぶ。約束とは、括約筋の総称で、この場合は膀胱括約筋や尿道括約筋のことをいう。

4.排尿してもよい状況になれば、膀胱の気化作用により、実際に排尿する。この場合の気化とは、尿液から尿への物質変換作用をいう。

5.病的状態
1)肺熱 =肺炎など、肺における発熱性感染症
「肺は水の上源」という言葉がある。これは腎水が熱せられ、水蒸気になって上昇する高さの限界をいう。この高さになると、水蒸気は冷やされ、水滴になる。肺に熱があれば、水蒸気は上昇しても冷やされない。その結果水滴に変化する量も減って、腎水に戻れないので、腎水の量は次第に少なくなってくる。蒸し器としては、空だきになるのを嫌って、汚れた腎水であっても膀胱に放出しようとしない。この結果として尿量減少する。

2)膀胱湿熱 =膀胱炎
膀胱に外因である湿熱の邪が侵入して、膀胱のもつ気化作用の能力低下。尿液を尿に変換できない、すなわち小便量減少する。
※湿熱=暑く湿った日は、汗がでても蒸発しにくいので、気化熱を奪えず(=気の流れが妨げられる)、体内に熱が蓄積する。この場合、膀胱が熱中症状態になり、膀胱の機能低下を起こす。

3)脾気虚 =消化機能障害
脾は、蒸し器の中に、新たな水を注ぎ込む装置である。この装置の能力が低下すると、腎水量を減らさないように、本来なら膀胱に行くべき汚水も、蒸し器内に留める。膀胱に行く水量減少により、小便量も減少する。

4)腎陽虚 =老人性前立腺肥大
腎虚には、腎陽虚と腎陰虚の区別がある。腎陰とは腎水自体をさし、腎陰虚とは、腎水量の減少をいう。腎陽とは、温まった腎水をいう。腎水を温めるのは命門火力なので、腎陽虚とはこの火力が弱くなって腎水を十分に加熱できない状態をいう。
ここでの腎陽虚とは、火力が弱まった状態で、その人の生命力が低下している状態に他ならない。ちなみにこの火が消えることは死を意味している。