1.帯状疱疹の病態と現代医学治療
1)帯状疱疹の発病と病理
痛みと皮疹を別々にみていくと理解しやすい。
①皮疹は出てないが、チクチク痛むような感じがする。これは脊髄神経後根神経節に潜伏していたウイルスが表皮に向かっている時、ウイルスが神経を刺激する痛みである。
②皮膚所見出現。罹患皮膚が発赤→水疱→痂皮と移行。(=急性帯状疱疹痛)
それと前後して皮膚の痛みは増強する。この痛みは、侵害受容器性疼痛(よくある痛みのタイプ)であり、治療に反応しやすい。
③約2週間で、皮膚症状や疼痛は自然治癒することが多い。
ただし3週間経ても皮膚症状は改善しても痛みがなくならない場合、帯状疱疹後神経となる。この時の痛みは神経障害性疼痛によるもので、難治になる。帯状疱疹患者の2割とくに高齢者ほどが帯状疱疹後神経痛に移行しやすい。
2)帯状疱疹の治療薬と予防薬
帯状疱疹に罹患すれば、とりあえず医療機関を受診し、治療薬を投与されるという流れが普通である。肝心の治療薬であるが近来、抗ウィルス剤アクロシビルやアメナリーフが登場し、よい治療効果を発揮するようになった。帯状疱疹が1週間程度で自然治癒するのが普通である。
しかししばしば帯状疱疹後神経痛に移行し、いったっm帯状疱疹後神経痛に移行すると、治療に抵抗を示すようになる。したがって帯状疱疹後神経痛にならないようにするには、予防が一番で、効果的な予防薬としてビケンやシングリックスルが登場した。
患者が針灸を訪問するのは、医療機関での治療が効かなくなった帯状疱疹後神経痛に移行した後であることが多い。針灸でどうにかならないかと考えるからだろう。
3)肋間神経の急性帯状疱疹の針灸治療
痛み対策が中心となる。罹患部および罹患部を走行する末梢神経の脊髄神経根が痛みが発生→刺激された神経が過敏になる→血管・筋肉が緊張→結構悪化→痛みが増幅する。というのが治療機序で、深層から浅層に出てくる部(=背部一行)を施術する。8割の者は2週間程度で自然治癒するので、針灸そのものの治療効果は不明だが、針灸直後効果は良好である。急性帯状疱疹の針灸治療は、神経痛治療(=筋々膜性治療)と変わらない
2.帯状疱疹後神経痛(PHN: Post Herpetic Neuralgia)
1)帯状疱疹後神経痛の概要
帯状疱疹発症後3ヶ月経過し、皮疹が治癒した後も痛みが残存するものを帯状疱疹後神経痛とよぶ。帯状疱疹後神経痛は、「神経障害性疼痛」に分類され、一般に難治である。帯状疱疹後神経痛に移行するのは、帯状疱疹罹患者のうち、50歳以上の者で20%発症。罹患期間は半年~数年。1/3が3ヶ月以上、1/5は1年以上続く。書籍によると治癒まで2年3年を要すると書いてあったり、一生治らないこともあると書かれているものもある。この段階になると医療機関でも手の打ちようがない。
帯状疱疹に罹患後、3日以内に抗ウィルス剤を服薬したとしても、帯状疱疹の重症化を防いだり、治るまでの期間を短縮することはできても、帯状疱疹後神経痛の移行を防ぐというエビデンスは得られていない。すなわち帯状疱疹に罹患したら、その後帯状疱疹後神経痛に移行するか否かの運命はすでに決定されている。(その要因は罹患したウィルスの数によるとする見解がある)
神経障害性疼痛とは、侵害受容器以外の部位で電気的興奮が起こって発生する痛みであるが、実態は不明な部分が多い。ウィルスによる神経線維にできた瘢痕や変性神経組織によるものだという。
帯状疱疹後神経痛の治療薬に決め手は乏しいが、対症療法として、抗テンカン薬(リリカなど)、三環系抗うつ剤(トリプタノール)、オピオイド類(トラマール、トラマドール、トラムセット)が使用される。オピオイド(=麻薬系鎮痛剤)を使っても鎮痛できるとは限らない。
2)帯状疱疹後神経痛の針灸治療の試行錯誤
私の針灸院では、半年前から肋間神経帯状疱疹後神経痛の患者(76歳、男)の針灸治療を行い、現在も週1回の治療を継続中である。長期間治療することができたので、いろいろな治療を試み、その効果を確認する機会に恵まれた。半年後の現在、症状がある程度抑えられており、治療効果に一定の手応えを感じている。本患者はかつて医療機関に通院していたが、麻薬系鎮痛剤を使用したところ、意識不明となった。これに懲りてそれ以降は薬物治療を中断している。
肋間神経帯状疱疹後神経痛の針灸治療罹患神経部は、脊髄神経後根神経節から皮膚に向かう知覚神経だが、とくに皮膚に近い部位ほど神経細胞はウィルスに感染している。皮膚患部の状況に応じて、以下の2種の治療を使い分けている。
①皮膚表層の痛み
皮膚近くの痛みに対しては、皮膚を指でこすったり撮診で皮膚過敏部を確定し、そこに刺激を加える。皮膚刺激の方法としては、カッサ治療が具合がよいようで、皮膚を発赤するまで擦る。
一定領域に圧痛点は多数出現するので、圧痛点の中から施灸点を数カ所選出することは難しく、一定範囲内に灸点を10ヶ所程度置いても治療効果が上がることもない印象である。皮膚に対する面的刺激として、ハコ灸、アイロン灸を試みても手間に見合う治療効果は得られないようである。本患者に対しては皮膚刺激として妥当だと考え、症状部に対して多数の刺絡を試みたが出血せず、刺絡部に吸角もかけてみてもやはり出血しなかったので刺絡は中止した。
※アイロン灸:患部の上にタオルを2~4枚重ねにし、家庭用のアイロンをかける。アイロン温度設定は、中~高温がちょうどよい。熱いと感じたら合図させ、アイロンを離す。これを何回か繰り返す。術後、皮膚が暖かくなる。
②皮膚下浅層1㎝内外の痛み
水平刺するのは、皮膚に近い神経がウィルスに罹患しているからである。撮痛はないが、圧痛がある時の治療として、横刺+低周波50ヘルツを実施を考案した。
圧痛帯を覆うように2寸#4針の横刺を、十数カ所実施する。横針は、刺針刺激範囲を拡大するため鶏爪刺手技を併用。置針したら低周波50ヘルツを20分程度流す。治療対象は筋ではないから、筋の攣縮を求めないた、神経に対する作用としてこの周波数とした。パルス通電時間20分間は標準的なものだろう。
※鶏爪刺:鶏の足爪は3本であるこれに似せて刺す。水平刺針軽く雀啄。次に刺針転向法を用いて、先程の針に対して左30度方向に水平刺針して軽く雀啄、再び刺針転向法を用いて、右30度方向に水平刺して軽く雀啄。すなわち広い範囲の皮下に刺激を与える技法。