1.ボアス圧診点は胃・十二指腸潰瘍の反応点として広く知られている。ボアス圧診点の位置は、原著によればTh10~Th12椎体の左側になっている。
上部消化器の所属デルマトームはTh5~Th9だが、圧痛点は押圧して求めるものなので、ミオトームの問題と解釈すれば、ほぼ合致していると考えるべきだろうか。
それにしてもボアス圧痛点は「椎体の左側」という漠とした説明であって、これを起立筋上すなわち背部兪穴ラインで、棘突起の外方1.5寸の処だと解釈する者は多いと思う。
2.一方、意舎は胃倉は、ボアス圧診点の外下方にある。沢田流では胃痙攣(今日でいう胆石痛)の治療点として有名な穴であり、本穴の刺針で強力な鎮痛作用をもたらすことが多い。
ボアス圧診点と意舎・胃倉に共通するのが腰方形筋である。腰方形筋は第12肋骨を起始としているので、上記部位の圧痛反応は、腰方形筋の緊張を診ているのだろうか。
すなわち、胆石痛→交感神経興奮→脊髄→交通枝→体性神経興奮→腰方形筋緊張という内臓体壁反射である。とするなら、棘突起の外方3寸が正確なのかもしれない。
※代田文雑誌は、胃倉(Th12棘突起下外方3寸)を日常繁用だとし、胃痙攣、胆石疝痛に著効があると記している。また意舎(胃倉の上方1寸)の効能も、胃倉と殆ど同様だとしている。胃痙攣(現代でいう胆石痛)'の場合の圧痛点は、この意舎よりも五分ほど内下方に寄った筋間に現れることが多いという。(「鍼灸治療基礎学」より)
3.右ボアス圧痛点
ボアス圧痛点は左側が有名だが、右にもあって、「右第9、第10胸椎横棘突起の外方3㎝をボアス胆嚢点とよび、胆道疾患で出現する」という。ただしこの資料は中川嘉志馬著、守一雄改定「触診と圧診」金原出版、1955(絶版)によるもの。「石川太刀雄著内臓体壁反射」には<Th12すぐ右側>となっている。このあたりが不明瞭だったので海外のネット検索して確かめることにした。
ちなみに書籍「触診と圧診」は絶版ながら、鍼灸師が読むべき本。古書で発見したら購入をお勧めする。私は当時、新宿の紀伊国屋書店で1700円で購入した。
4.再びボアス徴候について
LIFE IN THE FASTLIANEによれば、イスマール・イシドール・ボアス (1858 – 1938) はドイツの消化器病学者であった。
欧米でのボアス徴候は、胃十二指潰瘍よりも,、むしろ胆嚢疾患の方を中心に記載されていた。
急性胆嚢炎時のボアス徴候
Th10 ~Th12 棘突起の右側の領域にある点の圧痛領域。正中線から右に 2 ~ 3 横指の位置から横方向に、後腋窩線に向かってのびる圧痛点。
上記の「触診と圧診」の本の内容は正しく、棘突起の直側ではなく、横突起あたりがら広範囲で圧痛が出てくることを知った。なお別の海外文献によると、この背部圧痛点の斜め上方の棘突起からの脊髄神経後枝の走行上の反応であって、Th7~Th8棘突起直側(いわゆる背部一行)を刺激すると効果的なことが予想される。
胃腸潰瘍時のボアス徴候
Th10 ~ThT12 左側にある圧痛。脊椎のすぐ左側、Th 12 脊椎に近い圧痛点。
※胃潰瘍でのボアス圧痛点は、棘突起の外方3㎝くらいで起立筋の最大隆起部をとると思っていたが、これは間違いで棘突起の直側を診ることを知って驚いた。鍼灸治療ではTh10 ~ThT12棘突起直側への刺針が有効になると思われた。