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『螺旋の組織』 高宮紀子

2017-03-08 13:18:59 | 高宮紀子
◆高宮紀子 無題 紙バンド 25×40cm 2003年

◆髪どめ

2003年4月10日発行のART&CRAFT FORUM 28号に掲載した記事を改めて下記します。

民具としてのかご・作品としてのかご 14
 『螺旋の組織』 高宮紀子

 民具を売っているお店だけでなく、いろいろな場所で、造形的な面白さにあふれた物を見つけると楽しくなります。かごでなくてもいいのです。大きい物なら写真に撮ったり、買える物ならば、しばらく迷うこともありますが、たいていの場合衝動的に買ってしまいます。組織構造に興味を持つ人は、たいていこういう傾向があるのかもしれません。

 最近見つけた面白い構造は、写真の100円ショップで買った髪どめです。一見すると、どうなっているのか、わかりませんでしたが、正体はバネ性のワイヤーを螺旋状に巻いた物です。ワイヤーの端と端を繋げ、コイル状に細かく巻かれていますが、バネ性のため、長く伸ばしても元に戻ります。コイルを伸ばせば、どういう構造になっているのかがはっきりわかりますが、一見するとこの不思議な力関係が謎に思え、気になって買ってしまいました。

 この髪どめの螺旋状の輪は、1本のワイヤーによるコイルで編んだり組んだりはしていません。このような構造、つまりお互いの材同士が繋がる点が極端に少ないか、ただ接するだけということで、自立した立体を繊維で作ろうとすると、ばらばらになるか、柔らかすぎて全体の形が定まらないかになってしまいます。

 ただ、組織を螺旋状に編むことは可能です。自然に螺旋状の組織を作るのには、組織自体の力関係に歪みが必要ですが、これにはいくつかの方法があると思います。一番シンプルな方法が材をずらして編むことだと思います。延びる組織ということであれば、沖縄の玩具や南アメリカのこし器のように、斜めに組むプレイティングの民具で組織が伸びて元に戻るものがありますが、繊維による螺旋状の組織では伸ばせても、直ぐに元の形に戻るというのは難しいのでは、と思っていました。

 ところが、最近になって螺旋状の組織で面白い物を見つけました。前回に、ハワイ島に行ったお話をしましたが、その時、いろいろなレイを首にかけてもらいました。たいてい美しい花をつなげたレイが多かったのですが、植物の実や小さな貝を螺旋状につなげたレイが珍しく美しいものでした。この螺旋状のレイをリボンで編んで物がお店で売られていました。細いリボンで編んだレイで、やや平面的な組織がぐるぐると螺旋状になっています。リボンは化繊でできていて、素材自体に伸びる性質はありませんが、組織構造が螺旋状になっており、ぐんと伸ばすことができ、直ぐに元に戻ります。これは今までに見たことのない性質でした。リボンという薄い柔らかい素材、それ自身では自立しない素材でも螺旋状の立体構造になっているので、初めて見た時はこのバネはどこから来ているのか、不思議でした。

 このレイの組織構造は、折りたたんで組む組織で作られたものと同じだということがわかりました。みかけは違うのですが、材の動きは同じでした。この組織方法はあまり見ないかもしれませんが、昔から使われてきた方法です。紙などを薄い素材を使って箱を作ったり、タバコなどの空き箱で鍋敷きを作ったりする方法と同じです。

 同じ組織方法でできた物で、やはり不思議に思っていた物があります。数年前、NGOのフェアーで買ったブレスレットです。螺旋ではなく、同じ組織方法でまっすぐに編んだものですが、平べったく固い素材で折らないで組まれているため、組織の間に隙間があいています。初めて見た時は、いったいどんな組織なのかわかりませんでしたが、知っている組織方法で作られていて、素材が違うだけだと分かった時は驚きました。以後、気になっていたのですが、レイを見た時に、みかけの構造が似ていると思いました。

 レイの組織はこのブレスレットと同じ組織方法で、2本と6本の材を直角に交差させて、長方形でスタートしています。ただし、なんで螺旋状になっているかといいますと、2本の所の材だけ、毎回ずらして編んでいるのです。毎回、ずらして編むので、毎回重なっていく組織の場所がずれてはっきりとした螺旋状の組織ができています。レイのバネについては、リボンが薄くて表面が滑る性質の素材であることが、螺旋状の組織で伸び縮みする要因ではないかと思いました。

 先日、紙バンドで折りたたんで組む方法を使って何か作ってみようと思った時、ふとレイのことを思い出し、ずらして編むことを違う方法で作れないか、と考えました。そこで、4本と4本を交差してスタートし、縦、横の両方をずらしてみようと思い、作ってみたのがこの作品です。縦、横ともずらして組むので、結果は螺旋という感じは弱く、したがって組織も伸びたりはしません。がっちりしていて、動かない構造ができました。まっすぐに折りたたんで組んだ物と比べると、柔軟性があり、曲げることができます。二箇所を強く曲げて繋げました。

 民具だけでなく、面白いと思って集めておいた物が、それから長く忘れ去れても、ある時、何かのきっかけで再び互いにリンクすることがよくあります。そうすると、日頃、当たり前のように見えていた物が輝きだしたり、当たり前に思っていた方法が、一つのきっかけで、まだまだ可能性があるということに気付くこともあります。このことが楽しく、だから今まで続けてこられたんだと思います。まだまだ、地方や外国の面白い物に出会う時、へえー、こんな面白い方法があるんだ、と感激することがあります。ひょっとしたら、この作品で行った組織方法は、世界のどこかで既に民具や飾り物などを作る方法として使われているかもしれません。保存のスペースが残る限り、これからも物集めを続けることと思います。