◆高宮紀子 竹と紙バンド (写真1)
◆写真2 竹と紙バンド (写真1の裏側)
◆写真3 りーさんのフレームバスケット
2003年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 29号に掲載した記事を改めて下記します。
民具かご、作品としてのかご 15
「フレーム バスケット」 高宮紀子
2003年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 29号に掲載した記事を改めて下記します。
民具かご、作品としてのかご 15
「フレーム バスケット」 高宮紀子
先日、イギリスからリー ダルビーさんという人が東京にやってきました。彼はバスケットメーカーですが、竹を使ったオブジェも作っていて、日本の竹工芸を見に来日しました。かごの講習を頼みたいと連絡をしたら、自分で作ったフレーム バスケットの写真を送ってくれました。
フレーム バスケットは、そのメロンのような形から、メロンシェイプ バスケットとも呼ばれます。主にヨーロッパで作られていますが、その構造に特徴があり、作り方がユニークです。まず、最初に大きな輪を二つ作り、それを直角に交差させて、二つの交点をとめます。たいてい、ゴッズアイ(神の眼)と呼ばれるダイヤ形の編み方でとめます。この交差する位置でかごの深さや手の長さが決まります。輪の一つは持ち手、一つはかごの縁になります。次に、両方のゴッズアイに何本かの枝を渡し、編み部分の構造を作ります。枝が並んでいて、あばら骨のように見えるところからリブタイプ バスケットとも呼ばれますが、このリブの間を織り編みで仕上げます。
たまたま近くにある庭園形式の植物園から、園内の植物を使ってかご作りの講習をしてほしい、と依頼があったので、リーさんにフレーム バスケットの講習を頼みました。彼がいつも使うのはヤナギですが、代用にシダレヤナギを使うことにしました。シダレヤナギは川べりに生えていたり、街路樹になっているのを昔よく見かけたものです。橋のたもとに必ずといっていいほど、植えられていたのに、最近ではめっきり少なくなってしまいました。 大木になるのですが、台風で倒れたということをしばしば聞きます。以前、知人の庭にあったシダレヤナギをよくもらいましたが、そのヤナギも台風で倒れてしまいました。イギリスでもシダレヤナギがあるのですが、どうも性質が違うようです。リーさんは日本のシダレヤナギは柔らかい、編める、と喜んでいました。
イギリスにはかごの素材になるヤナギがたくさんあります。樹皮つき、または剥いで、そのまま曲げて持ち手に、または、裂いてへぎ材にして編み材に使います。樹皮の色もいろいろなのですが、染めたものも使うようです。ヤナギはかごの素材として中心的な植物で、ヤナギ製のかご細工をさすwickerが、他の素材のかごやかごのある編み方(織り編み)を意味するwicker workという言葉に使われています。
日本にもシダレヤナギなど、ヤナギ科の植物がありますが、この仲間であれば、すべて編める柔軟性をもっているわけではありません。まっすぐに育つものでも、編めるようなものは少ないです。かごの素材として使われるのはコリヤナギですが、昔は川べりにたくさん群生していたのに、今ではあまり見かけなくなってしまいました。以前、このシリーズ4(18号)で、柳行李の生産地、豊岡を訪ねたことを書いたのですが、そこでもかごを作る人が自ら畑に植えて育てています。まっすぐな枝を得るため小枝を絶えず切り、雑草を抜いて大変な苦労をして素材を育てるわけです。
西洋を問わず、ヤナギの樹は生命力が強いことで有名です。講習の時に使ったシダレヤナギが余ったので、枝を持ち帰り、葉を落として挿しておいたのですが、新しい葉が出て、今では勢い良く新しい枝を分岐して育っています。ヤナギの種類はわかりませんが、リーさんもかごの素材のヤナギを育てる畑を借りて、挿し木をして増やしているそうです。豊岡と同じように育てる途中で、小枝を切り落としますが、より太い枝になるように育てます。
写真3はリーさんが作ったフレーム バスケットで、52x30x25cmの大きさがあります。以前フランスに行った時に、ジプシーに作り方を習ったそうです。持ち手の材は直径2cmぐらいの太さで、だいたいこの太さの柳を割って編み材を作るそうです。それほど太くない枝を割って、編み材をとるので、材の形は一方は平らではなく、いわゆるかまぼこ形です。編み材は1cmぐらいの幅があり、厚みがあるので、編むのに力がいりそうです。樹皮は全て剥いでいます。かごの縁の所で、編み材がユーターンするのですが、ほぼ毎回、1回ずつ余分に巻いています。これは隙間ができないようにするためです。ツルでも同じようなことをしますが、平らな素材には面がありますから、どの面を出して編むかということが選択できます。このかごでは、縁の手前で編み材を1回ひねっています。これはかごの中と外、それぞれに常に同じ編み材の面を出したいからなのです。樹皮をとったものだと、あまり違いはありませんが、冬に採る柳では、皮つきのへぎ材ができるので、外側がグリーン、内側が木部の白い色のかごを作るそうです。
写真1は、この方法で私が作ったかごです。竹と紙バンドを使いました。りーさんに、二回目の講習を頼んだ時に習って作りました。平たい素材ということで、紙バンドを代用したのですが、一面だけ色を塗りました。かごの長さは50cmぐらいあり、写真2がかごの外側です。
フレーム バスケットは、持ち手が編み組織に抑えられていて丈夫ですので、重い物を入れて運ぶことができます。用途にあわせて構造を変化させ、いろいろな形のかごが作られています。形が楕円になるのが多いようですが、持ち手の有無の他、口や底の形もさまざまに変えることができます。かごの中を分けるための組織や枝をつけたものもあります。素材もいろいろで、ツル、または樹のへぎ材、縄類などを入れて編んだものも見かけます。
アメリカのバスケットメーカーの作品などでは、さらにそこから発展させて、貝のようにひねらせたり、いろいろな種類や色の素材を使った、かごの形をしたオブジェをみかけます。実用というのではありませんが、形が変わっていたり、貝や骨などの飾りがついていたりして、置いて楽しむためのかごです。個性的なフォームの展開というまではいかなくても、フレーム バスケットの構造を使っていろいろなかごを作っている人がいるようです。
初めてこのかごを作ったのは、ずいぶん前になります。作り方が変わっているので気に入りました。その当時、このタイプのかごは珍しかったので友人達と一緒に行った展覧会で何個か売ったものです。手の形の変わったものや、輪をX形に交差したものなど、いろいろと作りました。そのうち、組織構造や新しい造形方法に興味が移ったので作らなくなりましたが、今でもよく考えられたかごの構造だな、と思います。