◆写真 3 リードハウス
◆写真 1
◆写真 2
◆写真 4 チカラシバ
◆写真 5 虫かご
2007年10月10日発行のART&CRAFT FORUM 46号に掲載した記事を改めて下記します。
編む植物図鑑 ⑤『イネ科』 高宮紀子
◆イネ:イネ科イネ属
2007年10月10日発行のART&CRAFT FORUM 46号に掲載した記事を改めて下記します。
編む植物図鑑 ⑤『イネ科』 高宮紀子
◆イネ:イネ科イネ属
食料として栽培されると同時に本体も使うという有用植物です。茎を乾燥させて藁にして編みます。イネを刈り取った後、天日で乾燥させるのですが、この行程は大変手間がかかる。少しでも雨にあたるとシミやカビが生えるからです。
バケツやプラスチックの箱でも生育可能ですが、私の家では大概、苗を植えすぎて共倒れになってしまいます。今年もバケツに植えた稲が熱帯のような猛暑にもがんばって居残り、やせた実をつけています。これは注連縄の分として活躍しそうです。花が咲く前、実を取らないで刈ってしまう藁というのがあります。実とらずと呼び、注連縄などに使われます。青くきれいだし、柔らかいという性質があります。
稲にはたくさんの種類があります。改良されてどんどん背が低く、実がたくさん実る種になってきました。だから江戸時代の藁とは違うはず。一般にはモチゴメ、ウルチマイといって粘りの違いで分けています。藁細工にはモチゴメがいいとされて、その理由は繊維が柔軟だからだそうですが、稲の種類によって長さも太さも違うので、なかなか判定がむつかしい。でも昔からそう言われています。
関東のある農家では注連縄専用の種類を生育しています。このイネは長く、太いもので、他の種類とぜんぜん違います。材料としては市場には出回っていなく、注連縄などの商品になって売られます。
専門的なことはわかりませんが、イネは突然変異を起こしやすく色が出ることがあるようです。写真2は、いろいろな色の穂を研究している農家で見たもの。色は薄いグレーから赤茶、黄色いものから緑や紫のものなど、どれも日本的な美しい名前がついています。
今年の7月から25日間イギリスにいました。スコットランドで行われたイギリスと日本のかご製作者による展覧会のコンフェレンスに出席しました。日本からは美しい民具のかごから、現代的な作品を創作する竹の作家、そして私たちバスケタリーの仲間が出品しました。イギリスもヤナギのかごから現代的なアプローチの作品の出品で、素材はヤナギやカヤツリグサ科の植物などの自然素材、プラスチックや紙バンドも使われていて、中には自然素材とプラスチックを合わせた作品もありました。この展覧会ではワークショップが二つ行われ、一つはヤナギの現代的なアプローチのワークショップ、もう一つは縄ないから始まるワークショップで、私が担当しました。
どうせだったら、日本から藁を持ち込み、叩いてもらいたいと思い、日本から藁を送ることにしました。心配だったのが植物検疫。別々に送ったワークショップ3回分の藁がどのように検疫を通ったのか、わかりません。展示の一部として、あるいは注連縄のギフトで送ったことがよかったのか、とにかく無事にイギリスへ着きました。藁の輸入について、国によって厳しい規則を設けています。個人でも持っていっても輸入になります。日本では、お米を持ち帰ることは禁止、イギリスの検疫はヨーロッパ全域のルールに準じ、お米は禁止、汚れやカビなどは廃棄の対照になります。実際の判断は現場、つまり検疫官によって判断が違うことも大いにあるということです。スーパーで売っているような藁でしたら、おそらくだめだろう、そこで知人が育て、乾燥中も雨がかからなかった藁を送ってもらい、その束から注意深くお米を取り除きました。これでみかけはきれいな草状態。一枚目の写真がその藁です。向こうで伝えたかったのは、シンプルな縄ないの技術でいろいろな作品を作れること、また現地の素材に応用してイギリスの伝統的な素材や技術を見直してほしい、ということです。藁の技術は組む、捩る、織る、絡めるなどいろいろな基本動作を含んでいますが、最初は、つまり稲栽培が伝わった当初は、それまでの日本で使われてきた編みの技術が藁という新素材を得て、応用されていったと思うのです。だから藁細
工はバリエーションが深く面白いと思っています。
◆ヨシ;イネ科ヨシ属
滋賀県にいましたので、ヨシは長年見慣れていました。燃料、紙、筆の鞘、楽器、ペン、ヨシズ、屋根材など、いろいろ使われます。琵琶湖の湖岸のエリもこのヨシを使っています。何年か前、長浜で照明作品の展覧会に参加しました。作家の作品と、ヨシの茎を使った照明というテーマで、大学生の実験的な作品が展示されました。昔からいろいろな物を作ってきた植物ですが、湖の湖岸の整理でその場を失った時期もあります。現在は琵琶湖の浄化という分野からもこの植物にスポットライトが当たっています。
ヨシは茅葺き屋根の材料としても有名です。そのほか、ススキや藁、麦藁なども使われています。ヨーロッパでも茅葺き屋根の材料として使われます。
イラクにはヨシ(reed)の家があるとか。写真はイギリスのミュージアムで買った絵葉書です。(Pitt Rivers Museum,University of Oxford製)リードハウスという建物の内部ですが、どんな種類なのかは不明。でも長くて太い。琵琶湖のはせいぜい3mぐらい。一度行って見たいですが、きっと無理でしょう。ヨシズを活用している方もおられるかもしれません。東京にだって職人さんがいて無形文化財を受けています。編み台を使って編みますが、縦糸を巻くコモヅチの糸の巻き方が独特で工夫があったようです。聞いた話しでは、このヨシズ職人の巻き方を教わりにいったが、教えてくれない、そっと遠くから見ていたとのこと。コモヅチの打ち合う音が快く響く、そんないい時代があったようです。現在は機械で編む産地があります。
◆チカラシバ;イネ科チカラシバ属
今、ちょうど穂が出ています。庭に植えてみたら勢いよく伸びました。穂が出る前に葉をとって編み材にします。群生しているのを昔みかけましたが、だんだん少なくなってきた雑草の一つです。
穂が出ると硬いから、出る前に採れ、と聞きました。でも穂が出てみないとどれがチカラシバだかわからない。だいたいこの辺に去年あったからと思って探しても雑草は同じように見えます。そこで、庭で育ててみた。穂が出る前はほとんど同じイネ科の草がたくさんあります。よく見ていると、ほんの少しの違い、例えば葉の付け根に毛がないとか。葉鞘が平たい、あるいは時々色がある、などという違いがあるということがわかりました。
◆ムギ;イネ科オオムギ属
これは小麦の茎で作った虫かごモドキです。茎の長さは短いのですが、空洞だから、茎どうしを差し込んで繋ぐことができます。虫かごを編む技術はシンプルですが、繋ぐ方法が簡単だからこそできる、と思います。
◆タケ;イネ科タケ亜科
なんで竹がイネ科なのか不思議ですが、他の説もあるようです。例えばタケ科という人もいる。私は編む人だから、分類方法というより、自分とどう関わるかが問題です。それで竹縄の話を書きます。かごを編む時と同様に垂直に若い竹を割って一旦、乾燥させて水に長くつけて竹をへいで縄にないます。一気に書くと簡単なようですが、夏に刈って冬作業するたいへんな仕事です。ひじょうに丈夫で何かを縛る縄として活用しました。井戸のつるべ、藁屋根のしばり縄にも使われたそうです。このしばり縄、竹が豊富でないところは蔓、マンサクの枝などが代用されます。集めた資料によると、下駄の鼻緒にも使われた、とあります。
私の家の近くには竹かごを作って売っているお店がいくつかあります。偶然訪ねた竹かご屋さんは、造形作品を創作されている作家がやっておられた。現代的な作品を創作する作家の作品は注目を浴びていて、アメリカなどで展覧会が開かれます。私はかごの方法を使った造形を始めてから、バスケタリー展に参加していますが、数年前から現代的な造形作品を創作する竹の作家が参加しています。
そのバスケタリー展も今年で20回になります。よくも続けてこられたという気持ちと、成人式を終えたばかり、まだまだという気持ちの両方です。
(第20回バスケタリー展2007年の11月22日(木)~ 11月27日(火)墨田リバーサイドホールギャラリー、その後、伊丹市立工芸センター時:2007年12月12日(水)~2008年1月14日(月)に巡回)