◆高宮紀子(アオツヅラフジ 45×45×18cm・1995年制作)
◆オカメザザのカゴ 直径 40cm
2001年7月1日発行のART&CRAFT FORUM 21号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご-7-
「素材の弾力と形」 高宮紀子
2001年7月1日発行のART&CRAFT FORUM 21号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご-7-
「素材の弾力と形」 高宮紀子
これまで、伝統的なかごの技術や立体方法を新しく展開して作品を作ってきた、というお話を書いてきました。歴史的順序としては、まず民具があるわけですが、実際に作品を作る時は民具の複製といった脈略でなく、一度、素材の使い方や技術などの原点に戻って、そこから考えるようにしています。だから、私としては新しい造形アイデアだと思っているのですが、実際は既に民具のかごの中に存在することが多く、改めて見直すということが時々あります。勿論、民具と作品の方向性は違うのですが。
このかごは1995年の個展で展示した作品です。素材はアオツヅラフジというツルで、静岡に住む友人を訪ねて、一緒に近くで採りました。私が住んでいる川崎にもあるのですが、比べようも無い程たくましく育ったもので、アオツヅラフジもこんなに太くなるんだなあ、と感心して採ったのを思い出します。細いツルですが、弾力がありました。
後日、針金でフレームを作り、採ってきたツルを巻いて作品を作ることにしました。フレームで形を作る方法は以前からやっていましたので、最初、同じようにフレームの外側に巻いていったのですが、うまくいかず、ツルが外側に膨れて塊を作ってくれません。そこで、フレームの内側のスペースにループのように丸めて輪を作り、素材の弾力を引き出して絡ませました。素材の弾力のおかげで、材同士の接点が少なくても、絡まった状態を保つことができ、フレームの内側いっぱいに塊ができました。以前にチョマを使って同じ方法で作品を作りましたが、この作品では素材が違うため、フレームの使い方も変わりました。普段は素材が原因で問題が起こるのですが、それは同時に別の方法を見つけるきっかけにもなると思いました。
2枚目の写真は、最近作った秩父郡吉田町の民具のかごです。現地に行って素材を採り、作り方を教えてもらいました。素材はオカメザサという細い稈の竹です。真冬に柔らかい一年ものを採って使います。吉田町は今年も積雪が多かったようですが、雪の重みにも耐えていたそうです。採った時は既に雪は無かったのですが、曲がったままの状態でした。
このかごは昔、お風呂屋さんにあった脱衣かごと編み方が同じだと思います。素材にはいろいろな笹類や竹が使われていますが、細い稈ですと、割ってヘギ材をとるより、そのまま使う方が合理的です。このかごも直径4ミリぐらいの太さの稈をそのまま使います。
昔懐かしいかごでしたから、構造的にも見慣れていたのですが、実際に作らなければ分からない体験をすることになりました。まず、びっくりしたのは、体全体を使って体力勝負の作業で編むことです。タテ材を組んで底の中心の部分を作り、その上に足を置いて立ち、前かがみになって手を伸ばし、底の部分を編んでいくのですが、体の柔らかさが勝負。次に編み材を入れて底を作るのですが、足を乗せて押えないと、稈のバネの力が強く、気を抜くと勢いよくはねてしまいます。入れる編み材の本数はわずかで、素材同士の接点はかごの大きさの割には少ないのですが、丈夫です。
次にタテ材を大きくループ状に曲げて、端を底の編んだ所に差し込みます。1周したら、それらのループを少しずつ小さくして全体が傾斜するように縮めていくのです。いわゆる、かごを立ち上げる、つまり立体にする作業がこれですが、この作業が難しい。引き方が強すぎると、かごの形が歪になってしまいます。ループの形や傾斜がかごの形を決めることになるので、ここは正念場という所です。
オカメザサのかごは、素材の弾力が無ければむつかしい形です。ツルの太い物でも作ることはできますが、同じ太さの素材を使うと同じ強度は得られないと思います。「かごは素材の弾力を利用して組織を作り立体にしたもの」、この事実はわかっていましたが、オカメザサのかごを作ることで、素材の弾力と接点の関係やバネの力の分散と調和を鮮明に体験することができました。
オカメザサのかごは、先に書いた作品と同じく、素材の弾力が重要な鍵になるわけですが、素材の性質と全体の形との関係、そして制作の方向性はそれぞれ違います。しかし、弾力と形の関係というテーマを改めて展開してみたい、と思うほどに魅力がありました。