◆写真 4 スカリ
◆写真2 パピルス
◆写真 1
◆写真3 イワスゲ
◆写真7. 桧枝岐の編み袋
◆写真5. ヒロロ
◆写真6. ヒロロ(乾燥したもの)
◆写真8. 焼酎ビンの覆い(シチトウイ製)
◆写真9 カンエンガヤツリの編み袋
2007年1月10日発行のART&CRAFT FORUM 43号に掲載した記事を改めて下記します。
『編む植物図鑑②: カヤツリグサ科、Cyperus, Carexなど』 高宮紀子
カヤツリグサ科といえば、身近なのがカヤツリグサ。子供の頃、その茎を結んでいたずらしたり、茎をからませ、引いて遊んだ人もいらっしゃると思います。強く、引っこ抜こうとしても根が張っていてとれない。畑の雑草でも粘り強い植物の一つです。カヤツリグサにはたくさん種類があります。ハワイ島でみかけたのは巨大なカヤツリグサ、日本でおなじみの草の“でっかいの”でした。これを組んでマットを作るそうですが、実際のマットにはお目にかかれませんでした。
カヤツリグサ科の仲間には編む植物が多いようです。最も古くから人間の歴史と関係が深いのはパピルスでしょう。茎をスライスして直角に交互に重ねて紙を作った他、縄や履物、かご、舟や建築材に使いました。日本ではカミガヤツリとも言います。写真1はそのパピルスの花を図案化したもの。ずっと前に彫金をやっていたころ私が作りました。といっても打ち出しの途中のものですが。図案は壁画の写真からとったものだと思います。子供のときからこの形が好きでしたが、これがパピルスだと知ったのはずっと後のことです。
以前バスケタリー作家のIさんの知り合いがエジプトからパピルスを持って帰られ、Iさんのお宅ですごく増えたというお話を聞き、私も分けてもらいました。高さが5メートルになる大型のパピルスとは違いますが、小型のものでかわいい。Iさんから根つきの苗をもらいましたが、葉を下にして土に埋めれば増えますよ、と言われました。根が出そうも無い葉を下にして土に植えるというのは、とても不思議に思ったのですが、後で根が出たと聞きました。今でもわが家の庭にいますが、何回か、根がまわって植木鉢を取り替え、その度に根を小さく切りましたが、それでも強く戸外でも越冬してどっこい生きています。茎を編むことができ、いつも冬前に茎を収穫しています。写真2のような緑色は乾燥するとなくなり、ベージュ色になります。写真左下は三角形の茎の断面です。
スゲというのも編み組み品の素材によく使われます。正確にはスゲ属ですが、多くの種類があります。山に入るといろいろなスゲの仲間に出会います。でもこのスゲというのは、なかなか判定がむつかしい。
以前秩父の吉田町に、スカリという編み袋(背負い袋)を習いに数回通いました。スカリはイワスゲで作られています。このイワスゲはカンスゲの仲間、ミヤマカンスゲです。秋の終わり、その時のかごクラスの生徒さんと一緒に行き、イワスゲを採るところから体験させてもらいました。
イワスゲは澤の近くやその上のがけに生えています。株の中の若い芽を引いて束ごと採ります。その後は煮たり、そのまま乾燥させて編みます。習ったのは七宝結びの袋ですが、他に捩り編みの編み方のものもあります。どちらにしても、とても長い縄、その時で250mぐらいの縦縄をなうことが必要です。写真3はその時採ってもらったイワスゲです。葉が太い方がいいだろうと思って採ると、葉の端にぎざぎざがあってうっかりすると手を切る。写真4はできあがりのスカリです。
このスゲ属で編む袋類が各地に見られます。背負い袋が多いのですが、福島や茨木、群馬、栃木などにみることができます。九州にも同じような作り方の背負い袋があります。どれも長い縄をなって縦縄にして枠を使って編むというのが共通しています。
ミヤマカンスゲについては、生えている場所として、山地の樹陰だという記述もありますが、同じ種類でも生えているところで違ってきます。葉だけで見極めるのは専門家でもむつかしい、と聞きました。
福島県の三島町ではスゲ属のヒロロという草で編み袋を編んでいます。写真5はそのヒロロです。
三島で使われるヒロロは同じ種類の秩父のイワスゲに比べて葉が細くて柔らかい。オクノカンスゲといいます。乾燥したものが写真6です。秩父のイワスゲをみせたらウバヒロロだ、と言われたと知り合いから聞きました。三島の美しい丈夫な柔らかい縄ができるのは細くて柔らかいオクノカンスゲだから、ということもあるようです。写真7は桧枝岐で作られていた編み袋。同じくスゲ属の植物で作られています。今はあまり作られていないようです。どこも後継者不足。
以前、ワラ細工の柳田さんからフトイをもらった、という話を書いたことがあります。フランスでワラ細工の実演をした時にむこうでかごを編んでいる材料を分けてもらったそうで、そのフトイをもらいました。カヤツリグサ科の茎の断面は三角になっているのですが、フトイは違います。円いのです。この仲間で太いのはトトラです。何本も4メートルぐらいの茎を束ねてボートを作ります。束を作って縄でたばね、それらを何本かあわせてまた縄でくくる、これはもうバスケタリーの方法です。
いろいろと珍しい植物を園芸店でみかけると、ついつい買って連れて帰っては失敗していますが、今も元気でいるものの中にカヤツリグサ科のものがいくつかあります。例えばシチトウイ。これも茎が強く編むことができます。畳の材料として栽培されています。この畳はイグサの畳と違って織り目が大きい。その分粗い感じがしますがうんと丈夫です。大分県ではこのシチトウイを編んで編み組み品が作られているようです。茎を半分に裂いて編んでいる、とのことでした。写真8はシチトウイ製の焼酎のビンの覆いです。
韓国に行った時にひじょうに柔らかいかごの素材があることを知りました。写真9がそのかごです。これもカヤツリグサ科の植物でカンエンガヤツリ、地元ではワングルと呼ばれています。葉、茎の皮、茎の中箕が編みに使えるそうです。漂白した素材を買ってきましたが、ひじょうに柔らかい、でもうっかりするとカビが生えやすい。日本にも仲間があるようですが、確かどこかの県で絶滅危惧種に指定さています。
カヤツリグサ科についてはまだまだ語り足りないのですが、今回はこの辺で。