1996年12月20日発行のART&CRAFT FORUM 6号に掲載した記事を改めて下記します。
過日港区芝公園近くの交差点で信号待ちをしていたとき、近くに「ハイテクKOBAN」という看板を見た。外観はごく普通の交番であり窓には人影があって「ああ、お巡りさんが居る」という様子だった。いったい何がハイテクなんだろうと翌日問い合せてみた。広報担当者によると「対話システム」が設置されている交番のことで、巡査が留守の場合でも通報や相談に応じられるように、テレビ電話がある、操作はきわめて簡単ということだった。価格の点で、すべての交番に設置されているわけではないが、一度是非立ち寄って見て下さいという妙な誘いを受けてしまった。
ハイテク機器は日常生活の中にどんどん入り込んでいるが、我が家ではそれを充分に使いこなしてはいない。電話のシステムにしても、組み込まれている機能の十分の一以下しか使いこなせない。たくさんあるリモコン装置も一度停電すると、インプツトのやり直しに手間取ることになる。多すぎる機能や情報は時としてやっかいなものとなる。
かって古人達は草木を煮出して何度も何度も染め重ね、手間ひまかけて染織品を作っていた。そのまだるっこさが今風に合わないのか「早く濃く染める」為の工夫がどんどん進み、媒染剤や助剤が覚えきれない程の数で出廻ることとなった。中には自然界に存在するものの仲間や、その関連物質とは程遠いものもある。媒染剤でも助剤でも染めに対する反応が著しく、定着も堅牢なもの程弊害も起き易すく、中には毒性を持つものもある。最近銅鍋やアルミ鍋のように煮炊きで変色するものについて、食器の中に浸出する成分の危険性が取り沙汰されるようになった。銅もアルミも媒染剤の中では、最も一般的なものとして定着しているお馴染みの物質である。では古人達は何を使って染めていたのかと改めて考えることになる。
文明開化以前と現在とを比べてみる☆染料は野山や平地にあるものと輸入品を少し。これは現在の草木染とあまり変らない☆媒染剤や助剤は椿灰、木灰、わら灰、石灰等の灰汁。天然の明ばん、鉄気水、鉄漿、梅酢、柚子やザクロの汁、米や雑穀のおかゆ。現在の品揃えは、とにかくすごくたくさんある。☆良質の水、よごれない大気、そして当時の絹。これは現在入手不能である。室町時代の能衣装や江戸の小袖を見た人の目に映ったあの佳麗な染織品の仕掛けは、もうごくありふれたものだった。私達は手に負えない程のハイテク品を揃えたが、基本的なものを失ってしまった。
東京テキスタイル研究所で草木染の講座を受け持つようになって10年になる。染めるものは絹だけではなく木綿も麻もウールもある。それぞれの素材によって扱い方は少しづつ違うが、基本的には同じ理屈で染まってゆく。美しく堅牢な色を求めるのは当然のことではあるが、文明開化以前の技法についても考える場を持ちたいと思っている。さらに古人達が使っていた煮出し用の鍋についても知りたいことがたくさんある。
過日港区芝公園近くの交差点で信号待ちをしていたとき、近くに「ハイテクKOBAN」という看板を見た。外観はごく普通の交番であり窓には人影があって「ああ、お巡りさんが居る」という様子だった。いったい何がハイテクなんだろうと翌日問い合せてみた。広報担当者によると「対話システム」が設置されている交番のことで、巡査が留守の場合でも通報や相談に応じられるように、テレビ電話がある、操作はきわめて簡単ということだった。価格の点で、すべての交番に設置されているわけではないが、一度是非立ち寄って見て下さいという妙な誘いを受けてしまった。
ハイテク機器は日常生活の中にどんどん入り込んでいるが、我が家ではそれを充分に使いこなしてはいない。電話のシステムにしても、組み込まれている機能の十分の一以下しか使いこなせない。たくさんあるリモコン装置も一度停電すると、インプツトのやり直しに手間取ることになる。多すぎる機能や情報は時としてやっかいなものとなる。
かって古人達は草木を煮出して何度も何度も染め重ね、手間ひまかけて染織品を作っていた。そのまだるっこさが今風に合わないのか「早く濃く染める」為の工夫がどんどん進み、媒染剤や助剤が覚えきれない程の数で出廻ることとなった。中には自然界に存在するものの仲間や、その関連物質とは程遠いものもある。媒染剤でも助剤でも染めに対する反応が著しく、定着も堅牢なもの程弊害も起き易すく、中には毒性を持つものもある。最近銅鍋やアルミ鍋のように煮炊きで変色するものについて、食器の中に浸出する成分の危険性が取り沙汰されるようになった。銅もアルミも媒染剤の中では、最も一般的なものとして定着しているお馴染みの物質である。では古人達は何を使って染めていたのかと改めて考えることになる。
文明開化以前と現在とを比べてみる☆染料は野山や平地にあるものと輸入品を少し。これは現在の草木染とあまり変らない☆媒染剤や助剤は椿灰、木灰、わら灰、石灰等の灰汁。天然の明ばん、鉄気水、鉄漿、梅酢、柚子やザクロの汁、米や雑穀のおかゆ。現在の品揃えは、とにかくすごくたくさんある。☆良質の水、よごれない大気、そして当時の絹。これは現在入手不能である。室町時代の能衣装や江戸の小袖を見た人の目に映ったあの佳麗な染織品の仕掛けは、もうごくありふれたものだった。私達は手に負えない程のハイテク品を揃えたが、基本的なものを失ってしまった。
東京テキスタイル研究所で草木染の講座を受け持つようになって10年になる。染めるものは絹だけではなく木綿も麻もウールもある。それぞれの素材によって扱い方は少しづつ違うが、基本的には同じ理屈で染まってゆく。美しく堅牢な色を求めるのは当然のことではあるが、文明開化以前の技法についても考える場を持ちたいと思っている。さらに古人達が使っていた煮出し用の鍋についても知りたいことがたくさんある。