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『平面から立体へ』 高宮紀子

2017-05-22 14:15:44 | 高宮紀子
◆高宮紀子 『Revolving two+five elements』25×13cm 再生紙.2004年制作

◆写真 2 マオリ族の立方体を作る方法。
ブレイドを作り、一周した所。

2004年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 33号に掲載した記事を改めて下記します。

民具としてのかご・作品としてのかご 19 
 『平面から立体へ』 高宮紀子

 写真は最近の私の作品でタイトルは『Revolving two+five elements』です。素材は再生紙ですが、これは普通紙に比べると、折りじわがつきにくいこと、そして柔らかく手を切らないので気に入って使っています。最初の頃は白い紙を使っていたのですが、日に焼けそうなので、今は少し黄色い色がついた紙を使っています。これだと、多少退色しても自然に見えるからです。この作品は三年前のページでも紹介したRevolvingというシリーズです。タイトルについている“two+five elements”、つまり7本の構成要素は、この作品を作っている材の本数のことです。シリーズでは本数が重要なので、そのままタイトルにしました。形はヒトデのようですが、最初は単純な星形の面を二つ合わせたもので、それに材を巻いて重ねています。一番外側の材だけは表のみ、裏のみをそれぞれ1本の材で巻いていますが、それ以外の5本は表裏を交代に周りながら巻いています。最初、スタートの時点ではあまり立体的でないので面白くありませんが、巻いていくうちにどんどん、形が変化し、そこから派生した形が現れてきます。この形の現れ方が意外性に富んでいて面白いのです。今もシリーズの制作を続けているのは、この形の現れ方が面白いからで、まだまだやってみたいことがあるので続けています。

 形が現れるというのは、具体的にいうと、ちょうどミイラに麻布を巻くようにスタートからどんどん巻いていくと、全体が厚くなって太ってきます。でもただ太るのじゃないんです。巻いている軸方向から離れて積層するのと軸に近寄って積層する箇所が出てきます。最初は予想もつかなかった部分の差というのが形になって現れるのです。例えば、材の角度や組織の穴の形、三角とか四角とか、によって積層の特徴が違う。考えてみれば、当たり前かもしれませんが、予測がつかないことが多くありました。シリーズ名のリボルビングは、ちょうど回転ドア-のように平面が回転して厚みのある形になる、そういう驚きを込めて名づけました。

 このシリーズを続けるようになって今までの私の形の生成に対する考え方が変わりました。これは形の生成に関して予想がつかない部分、つまり私の意思でコントロールできない部分があるということ、そしてそのことに納得できるということです。コントロールできない、ということは私の場合、多くが悲劇です。ただ、このシリーズの場合のみ納得がいくのは、自分の意思が最終の結果に対していいバランスで関与していると思えるからなのです。うまく言えませんが、この辺は時間がかかっても伝えたいところだと思っています。

 これまで作品を作った方法に関して書きましたが、実際にご覧頂かないと、おそらく私が何を言っているのかご想像がつかないと思います。ルールを決めた私自身、まちがえたり、わからなくなったりで、たいへんでした。こんな私もそうですが、ほとんどのバスケタリーの造形をやっている人は作品を説明する時、“こういうふうに素材を使いました”とか、“作りました” とか、方法や素材のことを話します。聞いている人にとってほとんどわからない説明になる可能性もあるのですが、作ったプロセスを話します。それを話さずにはいられないからです。

 絵画などの芸術作品の解説ですと、もっと印象的な話になると思います。例えば人間
の生死とか、運命とか話は大きい方が面白い。それに比べてバスケタリーの場合は、ほとんど個人的な体験の話しです。この素材のこういう所が気に入ったとか、コイリングしてみたがうまくいかなかったので変化させてみたけれど、これもコイリングといえるでしょうか?とくる。聞いている人は聞きたいのはこっちです、と思うかもしれません。おまけに、バスケタリーの作品のほとんどが50cm角の展示台に載るようなものばかりです。天井の高い美術館で映える大きい作品や、生死のような重いテーマに感動される方からみると趣味の世界に見えるかもしれません。

 バスケタリーの作品を作る者にとって何故、個人の体験が人に伝えたいぐらい重要かというのは、作品を制作するにあたって、まず素材と自分しかないこと、そして、物作りをする方向とか、技術というものに対する個人の考え方が作品の中に表現されているからなんです。素材と自分との関係を繋ぐのが技術ということで、これらの要素自体が大きなテーマになります。つまり最初に他のイメージを用意する必要がありません。だから構造的、視覚的な面白さをひたすら追えばいいのです。何をやってもいい、という世界ですが、自分に与えられた条件を考えて方法を練りだす、あるいは実験をして造形するのは、時間が必要ですし、自ら壁を打ち破る熱意が必要になります。

 バスケタリーというのは、編み組み全般の方法のことです。もともとこの方法は物と物を繋いだり、面を作ったり立体を作る技術だからなのです。ということは、ほとんどの人間の技術がこれから出発しているかもしれません。大きくとらえれば、組織的、構造的な物は全て含まれる。かごや編み組みで作る道具類はもちろんのこと、シンプルな建築も、果ては宇宙まで、という人もいるかもしれません。でもバスケタリーの方法というのは、ひょっとしたら、自然界の偶然の中で人間が都合よく拾いあげたものかもしれないと思います。先日、鈴木まもるさんの鳥の巣の展覧会を見ましたが、編む、コネル、築くということでは鳥が先輩のようですから。物と物を繋ぐ、面を作り立体を作る、というのは、そのまま造形の行為です。だから、作り手はいつも作品を作る際に技術をまっさらな状態にし、その場にある要素で変化させるという行為を常にやっています。それだから、そこに個性的な形の立体造形につながるチャンスがあるという思います。

 私の作品はかごの方法や技法から出発しています。でも、直接民具からヒントをもらってそのまま作るわけではありません。伝統のある民具の技術はそれ自体、技術や素材、機能、使う人との関係で成立しているものですから、それから自分の作品を作るというのは難しいし仮にできたとしても、民具と作品の距離が遠くないと落ち着かない。自分は新しい作品を作っている、またはかごからどんどん離れたように思うのですが、民具の中にはもうちゃんと存在しています。もちろん、民具は機能的、私の作品は造形的な表現であるので、全く同じではありません。民具に様々な造形アイデアがすでに含まれていると思うのです。まるで、自信に満ちた孫悟空が天空の端に行き着いたと思っても、お釈迦様の手の平を天空と間違えて飛んでいただけだった、そんな感じです。

 最近、マオリ族のニュージーランドフラックスの葉の編組品を紹介する本を見せてもらいました。ニュージーランドフラックスの葉は長く、ひじょうにしっかりしているので、組みの技法に向いています。一番有名なのでは葉を中心の柄から外すことなく、組んで袋にするものですが、他にもいろいろな物が紹介されていました。ヤシの葉でさいころのような立体を組んで作るのをハワイやインドネシアで見かけたことがあります。柔らかい若いヤシの葉を一枚、中心から縦方向に割いて使うのですが、そのままに2本に分けず、元の所まで割いて後は割かずそのままにして使う。それを使えば、元が一緒で先が2本の材になるのです。それを使って四角い形を作ります。こういう考え方は合理的だと驚くのですが、むこうでは当たり前なのかもしれません。マオリ族の本で紹介されていたのも、ハワイやバリの方法と似ていました。立方体を作る方法を紹介しますと、まず数本の材を組んで、一番外側の端の材を中心に動かしてブレイドを作るような感じで組みます。端から中心へ材を動かす時、葉を折り返さずに、同じ面を向けて進む方向を変えるので、そこだけ角度がつき、全体がカーブしてきます。それを四回やったら、スターと合わせるのです。もともとカーブになっていますから、最初と合わせやすい。そうすると立方体ができるというしかけです。一周、あるいは数周してそのまま材の端を組み目に通しいれると、立方体になります。見かけは別の方法、つまりプレイティングの角を四つ組んで斜めに立ち上がる方法と同じ結果です。この民具の中に含まれている造形アイデアが私の作品と似ています。写真の作品とはみかけは似ていませんが、立体を平面的な面の連続で作り出せる、というところは同じです。違うのは、その後の展開ですが。

 バスケタリーの作品は言ってみれば個人の体験に基いた実験的造形ですが、これに何の意味があるのかと問われれば、構造やテキスチャー、形を単純に楽しんでもらいたい、またその形の裏にその人の造形の根拠や出発点がどう全体の形と繋がっているのかを観ていただきたいと答えたいと思います。たとえ作った経験が無くても、見る人にとって素材、技術は目に映りますから、作り手に少し近づくことができる。そして作り手から言えば、自分で方法を生み出す、あるいは既存の方法の解釈を広げる、そういう面白さがあるからと答えたいです。たとえ自分がお釈迦様の手の上の孫悟空であることを発見しようと、いや、その状態を発見すること自体も楽しいのだと思います。


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