1994年10月1日発行のTEXTILE FORUM NO.26に掲載した記事を改めて下記します。
今回はアロモントエ芸学校で開かれたバスケタリーのシンポジウムで行われたワークショップについてお話したいと思う。その折の実技の情報、交換は独特の方式で行われた。十余名の招聘講師は「工程や考えを提示する人」(process and idea presenter) と呼ばれ、各室に陣取って三日の会期中時間を決めて、製作実演やスライド映写をする。参加者は随時出入りして、質問したり、ちょっと試させてもらったりできる。いうなら、ショールームをのぞいて歩くような感じなので、多種のアプローチや教授法を知ることができた。私はジェイン・サワーとジョン・マックウィーンを含め8人のワークショップを急ぎ足で体験させてもらった。
ワークショップのやり方には、作家によっていろいろなケースがあるが、作家の製作理念と教授法は合呼応していて、関連づけて観察すると大変おもしろいものだ。伝統的なかご作りをしている人は、各々の独特の道具や材料を持ち込んで、それを使う手ほどきをする。サワーの様に特定の技法を専用して形象を表現する人は、イメージ 源となる風景や物体や家族生活等のスライドを見せ、自分が発開した特殊技術を事細かに開陳する。ドロシー・バーンズは野生の材料の形状にヒントを得てかたちを思いつくやり方なので、自分のヒントになったテストピース等を沢山見せてくれる。これらに対して、かご構造の再定義から製作している人達の教え方はより実験的で、技法そのものを教えない場合が多い。マックウィーンは、中でも特色ある教え方をした。
彼は三日を六コマに分けて六つのプロブレムを出した。プロブレムとは問題という程の意味で、それ程特殊な用語ではないのに彼以外の人がワークショップで使っているのを聞いた事がない。彼は問題提起する事が自分の役目だと考えて意識してこの言葉を使うのではないかと思われる。
プロブレム(Ⅰ)
-六ッ目組みで球を作る共同作業-
プロブレム(Ⅱ)<以下個人作業>
地面の上に構築物或いは何かの方法で作業の跡を残す。
プロブレム(Ⅲ)
木にのぼって同様のことをする。
プロブレム(Ⅳ)
「頭上で」同様のことをする。しかも他の「人には見えない方法で」かつ「内側・外側の概念を表わす」ようなものを作る。
プロブレム(Ⅴ)
水、火、土、風、のいづれかを取り入れたものを作る。
プロブレム(Ⅵ)
音、臭、味、触覚を含むものを作る。
私は(I)と(Ⅳ)をとった。(I)は十三年前のとほぼ同じなので詳しくは「バスケタリーの定式」を見て頂くとして、(Ⅳ)について話すことにする。私は先ず林を歩き廻って、「構造を連想させる自然の状況」を探し、それを人為的に増幅する事にした。同種の枝が枯れ落ちて逆さまにあちこちの木にひっかかっているのを集め、「やっと手の届く高さ」にある枝に絡ませながら掛けた。重みで枝はたわみひさしのようになり、その間を人が「出入りできる」ような構築物ができた。私はプロブレム(Ⅳ)を次のように利用した。形を真先に考えて行動を起こすのでもなく、技法から形を派生させるのでもなく、周囲の状況の中からある物事を選んで条件として意識し、行為を絞り込むことによって、ちょうどレンズの焦点を合わすように、漠然とした形象を明らかにする。いうなら、直接かたちを考えずに、かたちを発見する方法として私は利用した。
マックウィーン自身のプロブレム(Ⅳ)に対する答えは……三本の寄り添って立つヒマラヤスギを見つけ、その中央に登って枝を整理したり、たわめて隣の樹に絡めて樹の「構造」を顕わにしてみせるというものだった。
彼は多分日頃から、このような独創的なプロブレムを自らに課して、独学しているのだろう。恣意的に形を設計するのではなく、自分にとって何らかの意味で深いつながりのある形を発見するにはいろいろな工夫がいる。これは何を表現するかという問題ともつながっている。自分に向けて難問(プロブレム)を投げかけ続ける練習をするのは素材の知識や技術を習得するよりもっと大切かもしれない。 (了)
今回はアロモントエ芸学校で開かれたバスケタリーのシンポジウムで行われたワークショップについてお話したいと思う。その折の実技の情報、交換は独特の方式で行われた。十余名の招聘講師は「工程や考えを提示する人」(process and idea presenter) と呼ばれ、各室に陣取って三日の会期中時間を決めて、製作実演やスライド映写をする。参加者は随時出入りして、質問したり、ちょっと試させてもらったりできる。いうなら、ショールームをのぞいて歩くような感じなので、多種のアプローチや教授法を知ることができた。私はジェイン・サワーとジョン・マックウィーンを含め8人のワークショップを急ぎ足で体験させてもらった。
ワークショップのやり方には、作家によっていろいろなケースがあるが、作家の製作理念と教授法は合呼応していて、関連づけて観察すると大変おもしろいものだ。伝統的なかご作りをしている人は、各々の独特の道具や材料を持ち込んで、それを使う手ほどきをする。サワーの様に特定の技法を専用して形象を表現する人は、イメージ 源となる風景や物体や家族生活等のスライドを見せ、自分が発開した特殊技術を事細かに開陳する。ドロシー・バーンズは野生の材料の形状にヒントを得てかたちを思いつくやり方なので、自分のヒントになったテストピース等を沢山見せてくれる。これらに対して、かご構造の再定義から製作している人達の教え方はより実験的で、技法そのものを教えない場合が多い。マックウィーンは、中でも特色ある教え方をした。
彼は三日を六コマに分けて六つのプロブレムを出した。プロブレムとは問題という程の意味で、それ程特殊な用語ではないのに彼以外の人がワークショップで使っているのを聞いた事がない。彼は問題提起する事が自分の役目だと考えて意識してこの言葉を使うのではないかと思われる。
プロブレム(Ⅰ)
-六ッ目組みで球を作る共同作業-
プロブレム(Ⅱ)<以下個人作業>
地面の上に構築物或いは何かの方法で作業の跡を残す。
プロブレム(Ⅲ)
木にのぼって同様のことをする。
プロブレム(Ⅳ)
「頭上で」同様のことをする。しかも他の「人には見えない方法で」かつ「内側・外側の概念を表わす」ようなものを作る。
プロブレム(Ⅴ)
水、火、土、風、のいづれかを取り入れたものを作る。
プロブレム(Ⅵ)
音、臭、味、触覚を含むものを作る。
私は(I)と(Ⅳ)をとった。(I)は十三年前のとほぼ同じなので詳しくは「バスケタリーの定式」を見て頂くとして、(Ⅳ)について話すことにする。私は先ず林を歩き廻って、「構造を連想させる自然の状況」を探し、それを人為的に増幅する事にした。同種の枝が枯れ落ちて逆さまにあちこちの木にひっかかっているのを集め、「やっと手の届く高さ」にある枝に絡ませながら掛けた。重みで枝はたわみひさしのようになり、その間を人が「出入りできる」ような構築物ができた。私はプロブレム(Ⅳ)を次のように利用した。形を真先に考えて行動を起こすのでもなく、技法から形を派生させるのでもなく、周囲の状況の中からある物事を選んで条件として意識し、行為を絞り込むことによって、ちょうどレンズの焦点を合わすように、漠然とした形象を明らかにする。いうなら、直接かたちを考えずに、かたちを発見する方法として私は利用した。
マックウィーン自身のプロブレム(Ⅳ)に対する答えは……三本の寄り添って立つヒマラヤスギを見つけ、その中央に登って枝を整理したり、たわめて隣の樹に絡めて樹の「構造」を顕わにしてみせるというものだった。
彼は多分日頃から、このような独創的なプロブレムを自らに課して、独学しているのだろう。恣意的に形を設計するのではなく、自分にとって何らかの意味で深いつながりのある形を発見するにはいろいろな工夫がいる。これは何を表現するかという問題ともつながっている。自分に向けて難問(プロブレム)を投げかけ続ける練習をするのは素材の知識や技術を習得するよりもっと大切かもしれない。 (了)