結社の第一同人でいらっしゃる田村陽子さんの歌がとても素晴らしいことに三ヶ月ほど前に気付きました。
お正月で時間にゆとりもありますので、持っている結社誌を全てひっくり返して、田村さんの歌を読んでみました。
目に留まった歌を引いておきます。
・臥所(ふしど)より眺むる夫の雪に映ゆる障子の白の清しさを言ふ
・八つ頭涼しく活けて整へる店の女主人(あるじ)の肩ほつそりと
・高空に鳶が輪を描く啼きながら行くに行かれぬ我が山の上
・吾なりの一喜一憂重ねつつ団栗落とす山風を聴く
・着膨れて立ち居する時風生(あ)れて気付きし如く水仙匂ふ
・先日を会ひしばかりの女(ひと)なるに悔みの欄に終の名となる
・いたはりとも嘲笑ふとも聞えたり笑み返しつつ僻(ひが)みを隠す
・青桐の風にそよげる葉隠れに病葉(わくらば)散らしほととぎす啼く
・栗の花高く匂へる山峡に娶(めと)らぬ子と母睦みてくらす
・きらきらと日暮を告ぐる蜩(ひぐらし)の還ることなき時をひたすら
・髪を巻くロットの数の頓(とみ)に減りしみじみと聴く秋風の声
・いさぎよき秋の入り日に願はくば吾がたそがれのあつけなきをと
・チチカタタチチカタタとて此の秋も逢へて嬉しき尉鶲の声
・遥かなる母の倍をも生き来しに母に及ばぬ水茎の跡
・幾許(いくばく)の命なるらむ蟷螂(かまきり)の郵便箱に日を浴みてをり
・紅葉の日日に散りゆく満天星(だうだん)の心ならざる芯を見せつつ
・否応なく潰えゆく身のいとほしき紫菖蒲色深み咲く
・朝露の干ぬまに折り来し卯の花の土間明るめてかそかに匂ふ
・ひそやかに呼吸するらし京鹿の子一粒づつが花に膨らむ
・何も言はず心にたたみ逝きし子を今さら思ふ九年を経て
・山梔子(くちなし)の陶器の如き初花を外に出られぬ夫に手折らむ
・境内の蛍袋も野薊も刈りてしまひぬ若き寺守
・花残る紫蘇の実しごきふと思ふ面差し柔和な舅(ちち)恐かりき
・此の秋の見納めならむ紅葉をバスの窓より眼裏に移す
・酒一本兄に届けぬ故里の背戸に橡(とち)の実落つる頃ならむ
・裸枝の先の先まで冬空の青きに深くふかく突き刺す
・婚礼の甥に詠みたる忍冬匂ひくるなりはつ夏の野に
・地震(なゐ)の国悼む如くに野も山も桜一気に白無垢纏ふ
・吾が思ひ通らぬが常なまぬくき梅雨の日暮の十薬の花
・眠れなる昨夜(よべ)を補ふ快眠ゆ覚むれば清し捩摺の花
・思ひあぐね一夜寝ねずばくさひばり小心者を慰めて鳴く
・飛び石を覆ひし芝を刈り取れば石艶やかに秋の雨降る
・足萎えの夫にあきぐみ一位の実秋のみのりを手折り来て見す
・夜長には憶い出づるも粉篩(ふる)ふ桁箱の音祖父の面差し
・著莪の葉の厳しき冬に立ち向かふ刃(やいば)の如きを時に羨(とも)しむ
・ソックスの踵の破れに布当てて寒の一日を足らひてゐたり
・此の橋を渡れば故郷に繋がらむ川面を見つつ踵を返す
・雪掻きを出来ねば皆に飴と茶を持ちて出でゆく転ばぬやうに
・先代ゆ馴染みの店の閉ずるとふ金の看板夕日に映ゆる
・蟠(わだかま)り捨つる思ひに日にち掛け白山吹の花が咲きたり
・春もみぢ萌ゆる根方に著莪の花添へば窓辺に夫を誘ふ
・梅雨に濡るる擬宝珠の花の咲く見えて真綿掛けせし日を憶い出づ
・お悔みの欄に面影浮かび来ぬ暫くの間を忍びてゐたし
・虫すだき朽ちゆく寺の裏山に安らぐ日とて遠からざらむ
・傾きし古き家なれ襤褸(らんる)隠す屏風も倣ひ傾きて立つ
・一首生む苦しき夜半を冷えびえと猫が庇(ひさし)を渡り行く音
・皺深くなりしを憂ふ朝鏡存ふ事の哀しさにあり
お正月で時間にゆとりもありますので、持っている結社誌を全てひっくり返して、田村さんの歌を読んでみました。
目に留まった歌を引いておきます。
・臥所(ふしど)より眺むる夫の雪に映ゆる障子の白の清しさを言ふ
・八つ頭涼しく活けて整へる店の女主人(あるじ)の肩ほつそりと
・高空に鳶が輪を描く啼きながら行くに行かれぬ我が山の上
・吾なりの一喜一憂重ねつつ団栗落とす山風を聴く
・着膨れて立ち居する時風生(あ)れて気付きし如く水仙匂ふ
・先日を会ひしばかりの女(ひと)なるに悔みの欄に終の名となる
・いたはりとも嘲笑ふとも聞えたり笑み返しつつ僻(ひが)みを隠す
・青桐の風にそよげる葉隠れに病葉(わくらば)散らしほととぎす啼く
・栗の花高く匂へる山峡に娶(めと)らぬ子と母睦みてくらす
・きらきらと日暮を告ぐる蜩(ひぐらし)の還ることなき時をひたすら
・髪を巻くロットの数の頓(とみ)に減りしみじみと聴く秋風の声
・いさぎよき秋の入り日に願はくば吾がたそがれのあつけなきをと
・チチカタタチチカタタとて此の秋も逢へて嬉しき尉鶲の声
・遥かなる母の倍をも生き来しに母に及ばぬ水茎の跡
・幾許(いくばく)の命なるらむ蟷螂(かまきり)の郵便箱に日を浴みてをり
・紅葉の日日に散りゆく満天星(だうだん)の心ならざる芯を見せつつ
・否応なく潰えゆく身のいとほしき紫菖蒲色深み咲く
・朝露の干ぬまに折り来し卯の花の土間明るめてかそかに匂ふ
・ひそやかに呼吸するらし京鹿の子一粒づつが花に膨らむ
・何も言はず心にたたみ逝きし子を今さら思ふ九年を経て
・山梔子(くちなし)の陶器の如き初花を外に出られぬ夫に手折らむ
・境内の蛍袋も野薊も刈りてしまひぬ若き寺守
・花残る紫蘇の実しごきふと思ふ面差し柔和な舅(ちち)恐かりき
・此の秋の見納めならむ紅葉をバスの窓より眼裏に移す
・酒一本兄に届けぬ故里の背戸に橡(とち)の実落つる頃ならむ
・裸枝の先の先まで冬空の青きに深くふかく突き刺す
・婚礼の甥に詠みたる忍冬匂ひくるなりはつ夏の野に
・地震(なゐ)の国悼む如くに野も山も桜一気に白無垢纏ふ
・吾が思ひ通らぬが常なまぬくき梅雨の日暮の十薬の花
・眠れなる昨夜(よべ)を補ふ快眠ゆ覚むれば清し捩摺の花
・思ひあぐね一夜寝ねずばくさひばり小心者を慰めて鳴く
・飛び石を覆ひし芝を刈り取れば石艶やかに秋の雨降る
・足萎えの夫にあきぐみ一位の実秋のみのりを手折り来て見す
・夜長には憶い出づるも粉篩(ふる)ふ桁箱の音祖父の面差し
・著莪の葉の厳しき冬に立ち向かふ刃(やいば)の如きを時に羨(とも)しむ
・ソックスの踵の破れに布当てて寒の一日を足らひてゐたり
・此の橋を渡れば故郷に繋がらむ川面を見つつ踵を返す
・雪掻きを出来ねば皆に飴と茶を持ちて出でゆく転ばぬやうに
・先代ゆ馴染みの店の閉ずるとふ金の看板夕日に映ゆる
・蟠(わだかま)り捨つる思ひに日にち掛け白山吹の花が咲きたり
・春もみぢ萌ゆる根方に著莪の花添へば窓辺に夫を誘ふ
・梅雨に濡るる擬宝珠の花の咲く見えて真綿掛けせし日を憶い出づ
・お悔みの欄に面影浮かび来ぬ暫くの間を忍びてゐたし
・虫すだき朽ちゆく寺の裏山に安らぐ日とて遠からざらむ
・傾きし古き家なれ襤褸(らんる)隠す屏風も倣ひ傾きて立つ
・一首生む苦しき夜半を冷えびえと猫が庇(ひさし)を渡り行く音
・皺深くなりしを憂ふ朝鏡存ふ事の哀しさにあり
すっかり短歌ブログと化しています当ブログ…、しかも up-to-dateな短歌を載せることもめっきり減っているこの頃…(汗)。
でも、年始のご挨拶くらいはと、近況報告的に 新しめの短歌を賀状に添えました。
今年もよろしくお願いいたします。
でも、年始のご挨拶くらいはと、近況報告的に 新しめの短歌を賀状に添えました。
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