水の門

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歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
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一首鑑賞(29):川本千栄「サンタ役させてもらっていたのだと」

2016年04月27日 14時38分08秒 | 一首鑑賞
サンタ役させてもらっていたのだと気づく日が来る 輝くツリー
川本千栄『樹雨降る』


 掲出歌は、子供が小学二年生の時に詠まれたものだ。
 歌集中には他にもサンタクロースを演じる自身と、それを信じる子供を歌った歌がポツポツと見られる。川本の子供はわりあい純粋だったようで、小学校中学年になるまでサンタクロースの存在を信じていたらしい。川本が粛々とサンタ役を務めていたせいもあったのかもしれない。しかし正体が見破られるのは時間の問題だ。

  ベランダにサンタの帽子を干してあり凝視する子に与う目配せ/唐梨なつ(『NHK短歌』2016年5月号より)

 ひょっとした隙に尻尾を出してしまった場面をユーモラスに描いていて好感が持てる一首だ。唐梨に起こったような状況が、川本にもあった筈である。もう少し時が下ってからの川本のサンタの一首も引いておく。

  サンタはママかと語気荒く聞く子のおりて未だわれには恩寵のごと/川本千栄

 神の恵みという意味の「恩寵」の語にハッとさせられる。歌集を通じてキリスト教的な語句が出てくるのはこの歌くらいであるため、川本が信仰を持っているのかは定かでない。だが理知的な川本のこと、「与えなさい。そうすれば、あなたがたにも与えられる」(ルカによる福音書6章38節)というイエスの言葉や、「主イエス御自身が『受けるよりは与える方が幸いである』と言われた言葉を思い出すようにと、わたしはいつも身をもって示してきました」(使徒言行録20章35節)という使徒パウロの言葉をどこかで記憶に留めていたのだろう。小学四年生になった子供がまだサンタが親であると見切っておらず、食ってかかってくることに人知れず抱いた喜びを「恩寵」と表現するのは、ごく自然なことであったと思われる。
 前に挙げたルカによる福音書6章38節「与えなさい。そうすれば、あなたがたにも与えられる」には、次の言葉が続く。「押し入れ、揺すり入れ、あふれるほどに量りをよくして、ふところに入れてもらえる。」毎年サンタクロースとして子供にプレゼントを与えることで、却って大きな喜びを受け取っていたというのは、子供の親なら経験済みではなかろうか。それは綺麗に飾られたクリスマスツリーのように鮮やかな記憶となって川本の心で輝き続けるに違いない。
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