北海道旅行の整理を仕上げて、台風一過、青空の渋谷へ出ます。
青い空、ついでに暑い。
秋風を期待してジャケットを羽織った身には、汗が似合ってしまいます。
駆け足気味で歩いていると、久しぶりに代々木公園迷い人と遭遇しました。
代々木公園西門あたり、十把一絡げに代々木公園に来て、そこをベースに目的地を探すには
広すぎますし、原宿門側ならまだ都会的目標物がいろいろあって地図と参照できるのですが、
そのとき私がいたのは代々木公園番外地の、西側沿いの道でした。ちなみに10年住んでも、
この井の頭通りと十二社通りの間をつなぐ道の呼び名がわかりません。
それはそれとして・・
代々木公園を見上げながら、「ここはどこ?私は何処へ行くの?」という顔をしている人は
たいがい青少年オリンピックセンターを探しています。
その人もそうでした。ただ、目線を落とした先が紙の地図ではなくてi-padというところが
さらに心細さを演出します。
問わず語りの目線で、私は足を止めます。
ここへ行くのはどうすればいいですか?
青空で光が差し込む道で、i-padの地図はほとんど見えません。
しかも英語表示。
一生懸命言葉を探す様子を見れば、日本人ではない東洋人のかたです。
初出社するオフィスを探していて、キーワードは代々木公園駅を降りて、
山手通り方面に歩くこと、という指示だけを受けていたようなのです。
当たるも八卦当たらぬも八卦、といいましょうか、その魔法の呪文だと、
この地を知っている人にとっては、そりゃあ混乱するわ、とすぐに思われるほど、
代々木公園駅の周囲はわかりにくい。
地下鉄前後の出口を違えたら、自分が何処にいるかなんて分かる種類のものではありません。
代々木公園駅という名前なのに、西側の出口はどこにも代々木公園がみえませんし、
東側の代々木公園が見える出口に出ると、周囲には公園以外の目標物も、
道を尋ねるべき人さえ歩いていないこともしばしば、なんてことになるのです。
南無三。この東洋人の女性は、代々木公園らしい出口にでてしまって、
だれかが通り過ぎないかと期待しながら、i-padとにらめっこをしてスコーしずつ自力で、
目指すべき彷徨とは真逆に歩を進めていました。
私と会ったのが幸か不幸か・・・さすがに大体の土地勘はあるものの、
地図が読めないことにかけては、開き直るしかない、ある種の人生本では”女性的神経構造”な私ですから。
さてそこからは、たどたどしい言葉で聞いている情報を説明する彼女と、
「自信を失ってはいけないぜ、おれ」という、土地神を始め八百万の神に念を発して、
今更ながら先週の八幡様のお祭りにでかけなかった我が身の不行き届きを反省しながら、
○○という聞いたことのないオフィスを、山手通りというキーワードだけを便りに案内する私の
珍道中と相成りました。同時的な心の成り行きと、対人関係を説明する文章は、
どうも複雑で自分で書いていてもわかりにくい・・
けれど書いてしまうのは、久しぶりに橋本 治さんの新刊小説を読んでいるから、という説明で分かるのは
橋本 治ファンだけでしょうが・・・
もとい。
道案内。
500mほど山手通りに近づくうちに聞き出したのは、その人が、2日前まではイタリアはミラノにいて、
今回は日本勤務になったということ。東京は出張で来たことがあって、渋谷には宿泊していたが、
渋谷区富ヶ谷のオフィスに来るのは初めてだと言うこと。
その会社は、日本が本社で、ファッション関係のデザイン、もしくはファッション関係の店を企画している
ということ。
そんな話をしているより、さっさと道案内をすればいいのですが、
ではあっちに歩いて、何本目をどっちに曲がって、という案内で分かってもらえるほどの場所ではありません。
せめて山手通りが見えるまで、そして山手通りまで到着すれば、
「あとはわかります」と言いながら、もちろん不安げなままの彼女の表情ですから、
もう少し近くまでと案内歩きを続けていれば、全く無言では居心地がわるくもありますので、
適当な話題を振ったり、少しは相手のことを聞いたりするのでありました。
汗が汗が、と流れ出す量は気温以上に増えた気もしますが、
なんとか15分ほど歩いて、目的のオフィスに伸びる小道の分岐点まではやってきました。
今度の「あとはわかります」は本心からの、明るい笑顔になっていたのでここでさようなら。
無事、一人のミラノからやってきた東洋人を、初出社するオフィスに送り届けました。
達成感の満足をいただいて、ラッキーな気分をいただいた私。
朝から道案内、ミッション終了が一週間のスタートとなりました。