20年来の友人と夕食の約束。
年に2~3回、季節ごとのおいしい物を食べようとどちらからともなく
声を掛け合う。
今日は、新子食べたいね、の一言をきっかけに彼が探してくれた
西早稲田の八幡鮨に出かけました。
地下鉄の駅から出たところから話が弾みます。
あの「ジャンボ焼き鳥」の飲み屋は行ったことある?
あの路地裏に駐車場があるけど、道が狭くて車をこすっちゃうんだよね。
名古屋うどん、あ、きしめんだけど、僕は知ってるけど、名古屋系だから。
早稲田大学の同期生だけれど、在学中は知り合うことがなかったこともあり、
お互いの懐かしい話を掘り起こしては話し合うのです。
10分ほど、グランド坂という場所は明快にわかりながら、
実はこちらの八幡鮨さんを知りませんでした。
鮨といえば持ち帰りの小僧寿しくらいしか口に出来なかった学生時代、
関心が無いものは目に入らないのだということをつくづく実感します。
創業明治元年と書かれた暖簾をくぐると、
暖かい出迎えの声がかかります。
つけばに立つ職人二人の白衣には、4代目、5代目と刺繍が入っています。
そしてそれぞれの奥様と思われるお二人が、席へと案内してくれました。
席に着くとすっと落ち着く店というのはあるものです。
お絞りを渡してくれてから、しばらく何も声をかけてきません。
私たちが店をみわたし、ケースの中のネタを見て、白板のお勧めを読んで、
回りの客の様子を観察して、店に馴染むのを待ってくれているようでした。
これこそ間合いというものでしょう、
とりあえずビールを頼んで、じゃあ今日は好きなものをいただこうということに
できたのも、値段を書いたメニューはないものの、
接待というよりは長く家族と通ったり、仕事後に誘い合ったりしている様子の
リラックスしたお客さんが座っていたので、財布の厚みを求められることはないだろうと
安心できていたからです。
つまみを少し切ってもらい、すぐに握りへ。
私たちの席は、柔和な笑顔で丁寧に仕事をする5代目の担当です。
実はこの方、予約の際に「新子を食べたい」といったら、そうですね、
よろしければアジやいわしがおいしいですよ。新子は8月に入ってからでいかがですか、
今ですとうちに置ける値段じゃありません、と電話を入れた友人に正直な返事をしてくれていました。
安心でしょ!
お勧めどおりの、いわし・アジをお造りでいただき、握りはマグロの赤身にイカから始めます。
面白いのは、マグロに塩をアレンジして勧めてくれたことでしょう。
ことに、イカには二見浦の海塩、マグロにはフランスの山中の塩泉から産した塩といった具合です。
薀蓄も無く、でもおいしい。
お顔どおりに、ねたもシャリもふんわりと柔らかくあった鮨は、口の中で綺麗にほどけます。
その後もゆるりと、金目の昆布〆、アナゴなどといただくなかで、
出色の一品に出会います。
「うにのヒラメ巻き」
コクのある個性的なウニが、海苔に巻かれるのは良くあることですが、
うにとヒラメ、勧められなければ思い至ることもありません。
ひょっとすると、この握りは4代目はやらない、5代目ならではの仕事かな、
などと想像しつつ、好奇心のままに口にほおりこみました。
これがうまいの何の(マスヒロ先生、ごめんなさい)
うにが旨いのはもちろんですが、ヒラメの味が単品で口にするときより、ぐっと立ってくるのです。
旨みの質の違いが理由かもしれません。
口に溶けていく濃厚なうに味が消えるころ、まだ弾力を残すヒラメから、
しっかりした味の輪郭が現れるといった寸法、表現がうまくいきませんが、
初体験の味覚でした。
そんなこんなで、友人との四方山話は行ったりきたり、
途中で隣の席には作家のりんぼ先生もお座りになったりしながら、
まさに舌鼓を打つうちに、暖簾がおりる10時過ぎまで長居を続けた
私たちでした。