村上春樹の最新刊『色彩を…(長いので略)』の最後のほうに、JR新宿駅が「世界で最も乗降客の多い駅」としてギネスブックに載っているということが書いてありました。
じゃ、日本で最も飲み屋の多い街はどこか。
これまた新宿。歌舞伎町という一大繁華街がありますからね。ところが、二番目に多いのは意外な街。
大田区蒲田なんだそうです。友人がテレビで見たと言っていました。ネットで検索してもヒットしないので、ちゃんとした統計的裏付けがあるかどうかはわかりません。
私の生家は大田区だったので、ターミナル駅の蒲田は、子どものころから家族で外食したりしていた身近な街です。小学生のときは、蒲田が都会だと思っていました。長じて渋谷や新宿、銀座などを知るようになると、蒲田のイメージは自分の中でだんだん下がっていきました。典型的な場末街ですからね。
連休の谷間の木曜日、蒲田で兄と飲みました。翌日、いっしょに実家の母を訪ねることにしていたのです。兄はときどき蒲田で飲むといっていましたが、いきつけの店があるわけではない。それで、一度行ったことのある、もつ煮込みの店に行くことにしました。狭い店なので、席があるかどうか電話で確認。
「何人ですか」
「二人です」
「じゃ大丈夫ですよ。お待ちしています」
冒頭の情報をくれた友人に紹介され、一年ほど前に行ったことがあるのですが、場所を覚えていないので、今回は地図をプリントしてきました。
「片桐」というその店は、蒲田駅前の繁華街から住宅街に入ったところにひっそりと営業しています。飲み屋というより肉屋さんで、肉屋の隣にカウンターだけの飲み屋を開いている感じ。L字型のカウンターは10人も入ればいっぱいになります。肉屋ですから、ステーキやカルビ、ハラミなどもあるのですが、お客さんの大半はもつ煮込みを頼みます。
「前にCさんに連れられて来たんですけれど、もつ煮込みの味が忘れられなくって」
「うちのは牛もつだから、豚と違ってクセがないでしょう」
お通しに出たのが、きゅうりのぬか漬け。きゅうりの表面に、うっすらと粉末がかかっています。食べてみると、口の中に懐かしい味が広がります。
(味の素だ!)
私の母は、家に味の素を常備していて、ぬか漬けには必ず味の素がふられており、私もその味で育ったのですが、妻は味の素を嫌悪していたため、結婚後、家庭で味の素を使うことがなくなりました。
「お待ちどうさま」
もつ煮込みの登場です。大きめの深皿にたっぷりと盛られています。
「これはうまいね」
初めて食べる兄も絶賛してくれました。駅から10分以上かかるところまでわざわざ来た甲斐がありました。
店はほとんどが地元の常連さん。Cさんも、前の職場が蒲田にあったので、この店を知っていたようです。必然的に隣のお客さんと話をするようになります。地元で不動産屋をやっている方で、大田区の地理には詳しい。芸能人だとか巨人の選手の家がどこにある、なんていう会話が弾みます。
ここのママさんは二代目。お父さんが始めた肉屋兼飲み屋の後を継いでいるとのこと。
「Cさん、最近顔見ていないけど、結婚した?」
「まだですよ。でも彼女はいるみたいだけど」
「そりゃそうだよね。男前だから」
そのとき、電話が鳴り、5人のお客さんが来るらしい。私たちはもつ煮込みを食べるという目的を果たしたので、次のお客さんに席を譲ることにしました。
時間はまだ9時。蒲田東口の繁華街は、エスニックな雰囲気が濃厚です。男性に混じって中国系(?)女性の客引多い。
「前に一度行ったフィリピン料理の店があるんだけど、どこだったかな」
蒲田で深酒をして、一時間だけ飲もうと思って入った店で爆睡し、結局朝までいるはめになったとのこと。
「ここだ。たしかフィリピン料理のバイキングだったはずだけど」
行ってみると、バイキングは金土日だけで、その日はやっていませんでした。店はガランとしていて、客はフィリピン人女性一人だけでした。この店は、このあたりで働くフィリピン人の溜まり場らしく、店が賑わうのは普通のパプが店じまいしたあとの、夜中の1時すぎらしい。
レストランですが、お酒も揃っていて、おまけにカラオケまである。
ママは兄のことを覚えていました。
「あのときはずっと寝てたよね」
兄はなぜか片言のタガログ語を話す。以前、旅行会社の添乗員として何回かフィリピンに行ったことがあり、そのときに勉強したようです。
「これがうまいんだよ」
と言って兄が頼んだのが、フィリピン風もつ煮込み。豚のもつを血で煮込んだディープな料理です。もう一つは豚の耳の唐揚げ。フィリピンは豚肉料理が多いようです。
もつ煮込みのほうは、片桐の逸品と比べるべくもありませんが、これはこれ。エスニックな味わいです。
サンミゲルを空けたあと、サントリー角瓶(なつかしい!)のボトルを入れました。
ママさんは、滞日25年。私と同じくらいの歳です。20代で日本人と結婚。二児をもうけたものの、ご主人と死別。相当に苦労をしているようです。
「日本に来て、ずっと介護してたよ。最初は義理の父、そのあとは旦那」
「大変だったね」
「介護士の資格もとったんだよ」
「お子さんはいくつ?」
「上が高三、下が高一。二人とも娘。かわいいよ」
ママさんは置くからアイパッドを持ってきて、娘の写真を見せてくれます。
「この前、ダンスの大会で優勝してね」
自慢の娘のようです。
少しして5人の若者が入ってきました。歌っているのがタガログ語だったので、フィリピン人でしょう。もしかしたらハーフかもしれません。
終電の時間も気になりだしたので、引き上げることにしました。いわゆるフィリピンパブに比べれば格安で、異国情緒を味わうことができました。
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ところが、東急のガード下に食い倒れ横丁、バーボンストリートという一角がありこのところたまに寄るようになりました。
韓国料理屋、タイ料理屋のエスニック系、フィッシュ&チップスのバー系、おでん、やきとり、串揚げの居酒屋系から立飲みまで、混然としてなかなか良い感じです。
私も蒲田の猥雑な感じが好きです。
池上線のもう一方のターミナル、五反田も規模は小さいですがエスニックな一角があり、ペルー料理屋さんにときどき行きます。