軍服を脱いだアウンサン
1945年5月、英軍はラングーンを奪還し、日本はモールメインに退却した。英国はラングーンに軍政を敷いた。
8月、日本は無条件降伏、10月になると、インドに避難していたビルマ政庁が復帰した。
英国政府は、戦後のビルマ統治の方針を立てたが、それは次のようなものだった。今後3年間は総督による直接統治を行う。その後、戦前と同じビルマ統治法による体制を復活させ、自治領化の準備をする。ビルマ独立への道筋は、あまりにもゆっくりとしたものだった。
この方針に対し、アウンサン率いるパサパラは全面反対の意思を表明し、即時独立を求めた。9月、英国は、愛国ビルマ軍の半数を植民地ビルマ軍の吸収し、アウンサンを副司令官級のポストにつけようとしたが、アウンサンはそれを断り、パサパラ議長職に専念することにした。
軍服を脱いだアウンサンは、一転して非暴力による交渉で、英国からの独立を目指すようになった。
そのような非暴力の交渉で、結果的に英国から独立の約束を取り付けることができた裏には、4つの幸運が作用していた。
一つは、当時の英国が、帝国主義的性格を残していたとはいえ、民主国家だったこと。もう一つは、1945年5月の英国総選挙で、チャーチルの保守党ではなく社会民主主義的な労働党が勝利し、アトリー政権が誕生していたこと。三つ目は、国際社会で東西冷戦が広がり、英国はビルマの独立問題がこじれて、ビルマが共産化することを恐れていたこと。最後の一つは、英国がもう一方でインド独立問題を抱えていたため、ビルマを力で抑えようにも、インド植民地軍をビルマに投入することができなかったことである。
こうした幸運が幸いし、アウンサンは、非暴力の交渉によって、独立の希望を達成した。
ビルマ政庁のドーマン総督は、即時独立を求めるアウンサンと対立し、一時は逮捕も考えたが、ビルマに対する寛容政策をとっていたアトリーはこれを阻止した。
そうしたなか、1946年5月、アウンサンは単身、総督官邸に乗り込んだ。
アウンサンは、自分の半生を振り返り、学生運動からタキン党に入り、一時期ビルマ共産党に入党していたことなど、自己の経歴を包み隠さず話したうえで、現在、自分がパサパラ内のさまざまな勢力の調整と団結の維持のために苦労していること、将来の展望に不安を持っていることなども、正直に打ち明けた。ドーマン総督に対する不満をぶつけたり、政治的な取引を持ち出すことは決してなかった。
総督は、そのときのアウンサンの誠実で率直な態度に感銘を受けた。そして、自身も総督として警察や官僚を十分に管理できない悩みをもらすなど、立場の違いを越え、リーダーとしての苦悩を互いに打ち明けたという。こうしてアウンサンとスミスは、一夜にして劇的な和解をし、それ以後、英国の対ビルマ姿勢ははっきりと変化し始めた。
スミスは翌6月に体調不良を理由に帰国、そのまま総督を解任された。後任のランスは、本国の了解のもと、行政参事会のメンバーを入れ替え、定員9名中、アウンサンはじめ6名のパサパラメンバーを入れた。
非暴力による独立交渉
47年1月、アウンサンを代表とする6人がロンドンを訪問。首相アトリーと9回の交渉を重ねた末、アウンサン=アトリー協定を締結。英国は、1年以内のビルマの完全独立ないしは英連邦内のドミニオン(自治領)としての自立を約束した。
帰国後、アウンサンは矢継ぎ早に主要少数民族の代表と政治交渉を行い、少数民族を含む英領ビルマ全域を一つの国として独立させることへの了解をとりつけた(バンロン協定)。
4月9日、総選挙でアウンサンが議長を務めるパサパラは、定数182議席のうち176議席を獲得し圧勝。選挙ではパサパラによる、無所属候補に対する強引な立候補取り下げ工作が行われ、半数近い選挙区でパサパラ候補が無投票で当選したが、英国はそれらの強引な選挙工作を黙認した。共産主義勢力の拡大を警戒する英国は、パサパラの勝利を望んでいたのである。
悲劇
政権与党となったパサパラは、5月から憲法制定の準備に入り、憲法草案を作成した。
7月19日、アウンサンの執務室で行政参事会を開かれようとしたとき、悲劇は起こった。
部屋に4人の男が乱入し、銃を乱射したのである。アウンサンは13発の銃弾を撃ち込まれ、即死した。このテロにより、行政参事会メンバー10人のうち7人、補佐役の官僚1人、守衛1人が命を落とした。
凶弾に倒れたとき、アウンサンはまだ32歳という若さだった。
アウンサンは、27歳の時に結婚したドオ・キンチーとの間に二男一女をもうけていた。暗殺当時、末っ子の女の子は二歳。のちの民主化闘士、アウンサンスーチーである。
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