犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

「虎に翼」に思う~韓国の孤児対策

2024-06-20 23:30:24 | 朝ドラ

写真:韓国から孤児を養子にする米国人(韓国日報)

 朝ドラ「虎に翼」で、家庭裁判所判事補になった寅子が、家庭局の同僚と孤児の多い上野の現場視察に行ったとき、小橋が浮浪児に財布をすられます。スリの親分が、やはり戦争孤児の道男。捕まった道男が小橋につっかかります。

「とっつかまえたけりゃ好きにしろよ。トラックにでも押し込んで、売っ払えばいい。またすぐ逃げ出すだけだ」

 戦争孤児などの浮浪児を捕まえて施設(孤児院)などに収容することはあっても、「売っ払う」ということはなかったはずです。

 ところが、韓国では、朝鮮戦争時に発生した戦争孤児を、政府が「売っ払って」いたらしいのです。

 日本の植民地支配からの解放後、朝鮮半島はアメリカとソ連によって分割統治されました。38度線の北がソ連、南がアメリカ。1948年には南北共に新しい国家が成立し、北朝鮮はソ連のスターリンの了解を得て、1950年6月25日、突如南侵を開始、朝鮮半島の武力統一を目指しました。備えのなかった韓国は壊滅状態で敗走し、一時は釜山(プサン)を残して北朝鮮軍に占領されました。北による統一がなったかと思われたとき、マッカーサー率いる国連軍が仁川(インチョン)に上陸。形勢は逆転し、北朝鮮軍を押し戻します。国連軍が38度線を越え、平壌(ピョンヤン)を制圧した後、今度は中国毛沢東が参戦、「義勇軍」が大挙してなだれ込み、結局は38度線をはさんで膠着状態に。1953年7月に休戦協定が結ばれました。

 戦線が朝鮮半島全体をローラーをかけるように移動した結果、韓国の被害は軍人、民間人を含め死者・行方不明(北への拉致を含む)が約100万人と言われます。そして約20万人の戦争未亡人、約12万人の戦争孤児、1千万人を超える「離散家族」を生みました。

 未亡人の中には、生きるために米軍相手の売春婦になり、米兵と売春婦の間に生まれた子どももまた捨てられて、孤児になる事例がありました。

 韓国の「海外入養(ヘウェイビャン、海外養子縁組)について、『韓国日報]の2019年6月6日付記事を訳出したことがあります。

赤い靴は海外入養の歌?

 以下は、記事の抜粋。

 朝鮮戦争が終った1953年から2019年までに、20万人の子どもが韓国から海外に養子に出された。うち11万人近くは米国へ行った。ボストン大学アリサ・H・オー准教授によれば、朝鮮戦争後、韓国から米国への養子ブームは、韓国と米国の「秘密の裏取引」によるものだった。米国は、冷戦体制の中で、道徳的優位を誇示するため「朝鮮戦争の被害で行き場を失った子どもたちを引き受け、全世界を愛で包む「良き親」というイメージを作り上げようとした」。

 また米国にとって、「非白人の子どもたち」は、米国社会の多様性を示すのに必要不可欠な存在だった。「キリスト教の理念を信奉する米国人にとって、海外入養は人種差別と共産主義を撲滅し、米国の偉大さを広く知らしめる機会だった」。

 韓国にとっての「海外入養」は、「国家産業」であると同時に「超大型の福祉政策」だった。初代大統領の李承晩(イ・スンマン)は、「GIベイビー(米軍兵士と韓国人の間の混血児)を米国にたくさん送ることが最高の福祉事業だ」と公言した。さらに、両親のある子どもたちも孤児を装って米国に送られた。国家は民間の海外入養機関とグルになって、孤児の戸籍を捏造し、身分洗浄(ロンダリング)を奨励した。貧困を子どもに受け継がせたくない親たちは、その勧めに従った。売春婦と未婚の母の親権放棄は「母親の愛と義務」という言葉で飾られた。

 朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代、国内の養子縁組が全国的に奨励されたが「根深い血統主義」のために進まなかった。米国人宣教師ハリー・ホルトが設立したホルト児童福祉会など海外入養専門機関は、「お金にならない国内より手数料を高くとれる海外入養に邁進した」。韓国政府は、極貧家庭の子どもたちを海外入養に出すことで、国家が担うべき社会福祉の責任を放棄した。

 朝鮮戦争後の韓国は、「世界最貧国」と言われ、「孤児」を保護する財政的な余裕がありませんでした。父系の血統を重視する韓国では、養子縁組と言えば、「男子血統が途絶えそうなときに親戚の男の子を養子にする」というケースはあっても、他の血筋の子どもを受け入れるという慣習はない。

 また、父親が外国人の子どもは「混血児(ホニョラ)」と呼ばれ、障害児とならんで、厳しい差別の対象になりました。

 海外入養は過去の話ではありません。韓国は現在も「児童輸出大国」なんだそうです。

 実は、海外入養が最も多かったのは、朝鮮戦争後の1950年代や60年代ではなく、1980年代なのだそうです。60年代は7275人、80年代は実に6万5321人。

在外同胞庁と海外入養

 以下は、2023年5月11日付聯合ニュースの記事(原文韓国語)の訳です。

児童輸出国世界3位汚名をそそげるか…変化する「海外養子縁組」

2020年の韓国の海外入養、コロンビア・ウクライナに次ぎ3番目に多い
入養団体「海外入養の盲点を知っているが現実的必要性がある…制度改善すべき」
入養された子ども中心・国家責任強化の法案発議「上半期国会通過を目標」


 1953年の朝鮮戦争停戦以後、昨年(2022年)まで、海外に養子縁組された韓国児童の数は16万8427人だ。国内の養子縁組(8万1532人)の2倍で、養子縁組全体の67.4%を占める。

 戦争直後、家族をなくした子供たちに新しい家庭を探すために始まった制度だが、韓国が先進国入りしたと評された今でも毎年100人を超える子供たちが海外に旅立っている。

 このため「児童輸出国」という批判と、現実的に必要だという主張が交錯する中、政府責任強化などを要求した法案が国会通過を前にし、変化を予告している。

◇国外養子縁組世界3位…中国・インドよりも多い

 毎年、全世界の国際養子縁組統計をまとめているISS(International Social Service)によると、2020年、韓国の国外養子縁組は266人。これはコロンビア(387人)とウクライナ(277人)に次ぐ3番目に多い数だ。中国(1059人)とコロンビア(597人)、インド(503人)、ウクライナ(366人)、ブルガリア(270人)、ハイチ(257人)に次いで7位(254人)だった2019年より順位が上がった。

 新型コロナウイルス感染症が拡がり、国家間の移動が制限された2020年、上位10か国の国際養子縁組は減少したが、唯一韓国だけが小幅に増えた。

 ずっと1位だった中国が2019年の1059人から2020年の250人に急減して5位に下がり、1位のコロンビアも597人から387人に減った。インドも2019年の503人から2020年には約半分の263人になった。

 ノ・チュンネ梨花女大社会福祉学科教授は10日、国会で開かれた「韓国社会の海外入養、歪んだ認識の向こうの真実」という会議で、「海外入養上位15か国中、一人当たりGDPが最も高いのが韓国で、「2021年の基準で1人当たり国民所得が韓国の7分の1のインドよりも多くの海外入養を送り出した」と話した。

 海外入養上位15か国中、出産率が最も低いのも韓国だとノ教授は指摘した。

 彼は「未婚の母・未婚の父の家庭を支援し、ベビーボックスに遺棄された子どもの実の親を探す努力を強化し、元の家庭の保護を優先にすべき」、「親・姻戚の養子縁組を拡大し、子どもが国内で保護されるようにすべきで、海外入養は最後の手段になるべきだ」と強調した。

 さらに「世界10大経済国家に成長した韓国は、児童保護体系、家族政策、特に未婚の母政策について、政府が前もって予防し、早期に介入する努力をしなければならない」と注文した。

◇海外養子縁組の盲点を知っているが…現実的な必要性を認めねば

 海外入養制度に反対する人々は、不透明な手続きと養子に行った国に適応できない子どもが多いことを根拠にする。

 しかしある養子縁組団体の関係者は「人種差別や養父母からの虐待などを訴える養子の事例がないわけではない」としつつ、海外入養を「必要悪」と表現した。

 改善すべき点はあるが、無理やり海外入養の道を遮断するのは得策ではないということだ。海外の養子縁組と国内の養子縁組は密接な関係があり、国内の養子縁組が定着すれば、海外に新家庭を求める子どもは自ずと減るということだ。

 彼は、「海外に行かなくても、すべての養子が韓国で幸せに暮らせるというのは理想論だ」、「特に2020年、生後16か月の養子チョン・イン譲が養母から虐待され、死亡した事件以来、国内の養子縁組はしぼんでいる」と主張した。

 続いて「さらに障害を持つ子どもは国内の養子縁組が難しいというのが厳しい現実」、「韓国社会の障害者が健常者と変わらない生活ができるほど福祉が整っているか、伺いたい」と批判した。

(以下略)

 韓国はハーグ条約(1995年発効)を批准していません。これは、「国家を移動する児童の人権を保護し、誘拐・人身売買防止のための国際養子縁組の手続きと要件を規定する」ためのもの。条約では、「養子縁組は児童の根本的な権利を尊重し、最善の利益を保障するためになされなければならず、家庭での保護を原則とするが、不可能な場合、国内で保護する家庭を探し、それができない場合は国際養子縁組を推進する」という内容。

 韓国は法改正をして、2025年頃にハーグ条約批准を目指すということです。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 韓国の家庭裁判所 | トップ | ユンボギの日記 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

朝ドラ」カテゴリの最新記事