話は前後しますが,出張二日目の夜に食べたのがアグチム。会社の同僚との会食です。
「犬鍋さん,何か食べたいものありますか」
このところの出張ではサムギョプサルなど肉系を食べることが多かったので,海産物にしようと思いましたが,あいにく季節は夏。刺身やカニのおいしい時期ではない。そこで思いついたのがアグでした。
アグは鮟鱇(あんこう)のこと。日本では,海のフォワグラと言われるあん肝や,あんこう鍋にして食べることが多いけれども,こちらでの代表的な食べ方はチム。蒸した(?)アンコウを,唐がらしとニンニクたっぷりの餡掛けにしていただきます。
「久しぶりにアグチムが食べたいな」
「それならこの近くにおいしい店がありますよ。「馬山アグチム」です」
店を紹介してくれた人はあいにく所用があって行けない。インターネットで打ち出したお店のヤクド(略図=地図)をもらいました。
場所は,仁寺洞入り口のナグウォンサンガ(楽園商街)近く。楽園商街というのは楽器市場です。かつて韓国に住んでいたとき,音楽好きの娘の誕生日に,ここでフルートを買いました。ヤマハ製のものは高かったので,台湾製にしたら,穴が一つ足りなかった,という苦い思い出があります。
楽園商街を抜けると,見えてきました,アグチムの店が。それもいくつも。
「あれっ,全部「馬山アグチム」だぞ」
この一角にはアグチム屋さんがひしめいていて,看板にはたいてい「馬山アグチム」の文字が…。アグチムといえばシンサドン(新沙洞)が有名ですけれども,ここも相当なもの。同じ種類の食堂が密集しているのは韓国の(ソウルのかな?)特徴です。
その「おいしい店」というはいったいどれだろう。電話番号があったので,店に電話して場所を聞く。
やっと見つけた店は,すでに八割がた席が埋まっていて,われわれ5人が入って満席になりました。あとから一人遅れてくるので,6人で,「中」を二つ注文しました。
「辛くしてあげましょうか?」
「(…)いえ,ポトン(普通)でお願いします」
アグチムの店とか,ナクチ(タコの唐がらし炒め)の店の中には,辛ければ辛いほど偉いという勘違いをしている店があるので,要注意です。
出てきたのは楕円形の大皿に,山のように盛られたアグチム。
(はたして食べきれるだろうか)
「出されたものは残してはいけない」という日本的な強迫観念に襲われます。日本ではアンコウは高級魚だと思いますが,ここではそれほど高級ではない。これはフグにも言えます。
山盛りとはいえ,大部分はモヤシ。アンコウに,モヤシやセリを辛く炒めて餡掛けにしたものがかかっています。
酒はやはり韓国焼酎。今やチャミスルはアルコール度,18度まで下がりました。昔は25度だったのに。ただ,この日は翌日の明け方,日本にとって大事な一戦,デンマーク戦が控えているので,飲み過ぎては寝過ごす恐れがある。
ポトンにしてもらったはずなのに,相当に辛い。そして大量のニンニク。この一皿にどれだけのニンニクが刻み込まれているのでしょうか。日本では平日には決して食べることのできない一品です。
口内のほてりを抑えるには冷たいモヤシスープが有効です。
そして最後は残った餡を利用した「アグポックムパプ」(焼き飯)。韓国海苔とごま油が香ばしい。
終わってみれば,男二人,女四人であの巨大な大皿をあらかた平らげていました。アグチム,酒,ポックムパプ,しめて9万ウォンちょっと(約8千円)というのはきわめてリーズナブルです。
日本では冷麺ほど知られていませんが、氷を浮かべた豆乳の冷たいスープが清涼感をそそります。
ソウルの店は,今はどこもクーラーが効いていて,快適ですが雰囲気がなくなったなあと思います。
コングクスは店によって味の違いが大きいですね。私も好物です。
タコやアグは,辛味によって味を引き出しうる食材なのかもしれません。
一方,プルタク(火の鶏)は,そんなことないような…