先日,いつものメンバーと馬場で飲みました。と言っても「高田の馬場」ではありません。ソウルのマジャンドン(마장동 馬場洞)です。
ノリャンジン水産市場がソウルの海鮮を一手に卸しているなら,馬場洞畜産市場は食肉をソウルの食卓に卸す,巨大市場です。
地下鉄5号線,馬場駅から市場方面に向かうと,こころなしか生臭い風が漂ってきます。血の臭いでしょうか。かつては隣接した敷地(現在はマンション)で屠畜も行われていたそうな。地面はけものたちから流れ出るおびただしい血によって黒く固まり,動物たちの断末魔の叫びが悲しくこだましたそうです。
夜の時間帯なので,市場の半分以上は閉まっていましたが,日本の畜産市場とはかなり趣を異にしています(たぶん。実は日本の精肉市場は行ったことない)。というのは,韓国の肉市場では肉と同じぐらい骨が重要で,まず目につくのが,肉塊よりは牛の巨大な骨。これを煮込んで,ソルロンタン(雪濃湯)はじめ多種多様な肉料理の出汁をとります。
市場のはずれに食堂街があります。ここが今日のお目当て。畜産市場の新鮮な肉を使って,各種の焼肉を提供する食堂がずらりと並んでいます。
案内役のK氏のタンゴルチプ(馴染みの店)は,その一角で一番人気。行ってみると,お客さんが店の外まで溢れていてかなり待たないといけない。
「ちょっと冒険だけど,別の店にしますか。」
センガン(생간 レバ刺し)とドゥンコル(등골 生の牛の脊髄)が無料サービスされることを確認したうえ,数軒先の店に入りました。
壁のメニューには一般の焼肉屋では見慣れないものが並んでいる。チマサル(スカート肉),サシミ,チェビチュリ(? チェビはツバメだが…),トシ…。
定番はユッケ(生肉のヤンニョム和え)なのですが,今回はあえて「サシミ」(사시미 ヤンニョムなしの牛生肉)にすることにし,焼き物のほうは「チマサル 치마살」に。チマサルとは,牛の足のほうの肉だそうです。
まずはスケダシ(つけだしの韓国式発音)として出された,一目で新鮮とわかるレバ刺しを,ごま油+塩につけて口に放りこみ,焼酎で乾杯。
カーッ!
ソウル駐在を神様に感謝する瞬間です。いっしょに出てきた生センマイもうまい。
チマサルは,すでに軽くごま油ベースのヤンニョムに和えられて出てきて,スップル(炭火)であぶる。タレは醤油ベースのタレ(醤油+酢+刻み青唐辛子)です。
サシミも新鮮でした。ユッケとは違ってまったくの生肉がスライスされて出てくる。チョコチュジャン状のタレを勧められましたが,焼肉用の醤油ベースのほうが合うような気がして,みなそっちで食べていました。
K氏の催促でやっと出てきたコルドゥンはいかに。
実はこれ,サービスで出すものじゃないようですが,入店時の約束ですから,無理に出してもらった。豆腐状の白い物体。狂牛病のもっとも危険な部位です。フグの肝臓を食べるようなスリルを感じながら口に運びます。
……。まあ,なんですな。すっごくおいしいと言うよりは,食感を味わうというか。これはこれでイケます。
チマサルを平らげたわれわれは,別の肉を追加することに。「トシ・アンチャンサル 토시・안창살 」というのを頼んでみました。アンチャンサルは横隔膜(ハラミ)ですが,トシというのは馴染みがない。
「トシって,どこの部位?」
店の、感じのいいアガシに聞くと,
「さあ?」
このプロ意識のないところが韓国です。そばにいたアジュンマも
「アンチャンサルと似たようなものだよ」
というあいまいな答え。韓国人は部位なんか気にしないんですね。
実際出てきた肉も,トシとアンチャンサルが半々のはずなんだけど,見た目ほとんど区別がつかない。
ま,いいか,うまけりゃ(これを書きながら調べたところでは,「牛の脾臓と膵臓についた肉」だそうで)。
こうして馬場の酒池肉林も佳境をすぎたころ,K氏が,
「じゃ,二次会は清涼里ということで」
(えっ! チョンニャンニ!?)
「お決まりのコースですね」
とS氏が好色な笑みを浮かべて答えます。
うーん,「飲み会のあとは買春をしたくなる」っていうのは韓国人だけじゃなかったのか。滞韓15年のK氏は感性までも韓国化したのでしょうか。
清涼里588(청량리588 チョンニャンニオーパルパル)は,ここ馬場洞から目と鼻の先。といってもソウルの寒空の下を歩いていくわけにはいかないので,男四人,ともかくタクシーに乗りこんだのでした。……
(「清涼里の酒池肉林」へつづく)
ノリャンジン水産市場がソウルの海鮮を一手に卸しているなら,馬場洞畜産市場は食肉をソウルの食卓に卸す,巨大市場です。
地下鉄5号線,馬場駅から市場方面に向かうと,こころなしか生臭い風が漂ってきます。血の臭いでしょうか。かつては隣接した敷地(現在はマンション)で屠畜も行われていたそうな。地面はけものたちから流れ出るおびただしい血によって黒く固まり,動物たちの断末魔の叫びが悲しくこだましたそうです。
夜の時間帯なので,市場の半分以上は閉まっていましたが,日本の畜産市場とはかなり趣を異にしています(たぶん。実は日本の精肉市場は行ったことない)。というのは,韓国の肉市場では肉と同じぐらい骨が重要で,まず目につくのが,肉塊よりは牛の巨大な骨。これを煮込んで,ソルロンタン(雪濃湯)はじめ多種多様な肉料理の出汁をとります。
市場のはずれに食堂街があります。ここが今日のお目当て。畜産市場の新鮮な肉を使って,各種の焼肉を提供する食堂がずらりと並んでいます。
案内役のK氏のタンゴルチプ(馴染みの店)は,その一角で一番人気。行ってみると,お客さんが店の外まで溢れていてかなり待たないといけない。
「ちょっと冒険だけど,別の店にしますか。」
センガン(생간 レバ刺し)とドゥンコル(등골 生の牛の脊髄)が無料サービスされることを確認したうえ,数軒先の店に入りました。
壁のメニューには一般の焼肉屋では見慣れないものが並んでいる。チマサル(スカート肉),サシミ,チェビチュリ(? チェビはツバメだが…),トシ…。
定番はユッケ(生肉のヤンニョム和え)なのですが,今回はあえて「サシミ」(사시미 ヤンニョムなしの牛生肉)にすることにし,焼き物のほうは「チマサル 치마살」に。チマサルとは,牛の足のほうの肉だそうです。
まずはスケダシ(つけだしの韓国式発音)として出された,一目で新鮮とわかるレバ刺しを,ごま油+塩につけて口に放りこみ,焼酎で乾杯。
カーッ!
ソウル駐在を神様に感謝する瞬間です。いっしょに出てきた生センマイもうまい。
チマサルは,すでに軽くごま油ベースのヤンニョムに和えられて出てきて,スップル(炭火)であぶる。タレは醤油ベースのタレ(醤油+酢+刻み青唐辛子)です。
サシミも新鮮でした。ユッケとは違ってまったくの生肉がスライスされて出てくる。チョコチュジャン状のタレを勧められましたが,焼肉用の醤油ベースのほうが合うような気がして,みなそっちで食べていました。
K氏の催促でやっと出てきたコルドゥンはいかに。
実はこれ,サービスで出すものじゃないようですが,入店時の約束ですから,無理に出してもらった。豆腐状の白い物体。狂牛病のもっとも危険な部位です。フグの肝臓を食べるようなスリルを感じながら口に運びます。
……。まあ,なんですな。すっごくおいしいと言うよりは,食感を味わうというか。これはこれでイケます。
チマサルを平らげたわれわれは,別の肉を追加することに。「トシ・アンチャンサル 토시・안창살 」というのを頼んでみました。アンチャンサルは横隔膜(ハラミ)ですが,トシというのは馴染みがない。
「トシって,どこの部位?」
店の、感じのいいアガシに聞くと,
「さあ?」
このプロ意識のないところが韓国です。そばにいたアジュンマも
「アンチャンサルと似たようなものだよ」
というあいまいな答え。韓国人は部位なんか気にしないんですね。
実際出てきた肉も,トシとアンチャンサルが半々のはずなんだけど,見た目ほとんど区別がつかない。
ま,いいか,うまけりゃ(これを書きながら調べたところでは,「牛の脾臓と膵臓についた肉」だそうで)。
こうして馬場の酒池肉林も佳境をすぎたころ,K氏が,
「じゃ,二次会は清涼里ということで」
(えっ! チョンニャンニ!?)
「お決まりのコースですね」
とS氏が好色な笑みを浮かべて答えます。
うーん,「飲み会のあとは買春をしたくなる」っていうのは韓国人だけじゃなかったのか。滞韓15年のK氏は感性までも韓国化したのでしょうか。
清涼里588(청량리588 チョンニャンニオーパルパル)は,ここ馬場洞から目と鼻の先。といってもソウルの寒空の下を歩いていくわけにはいかないので,男四人,ともかくタクシーに乗りこんだのでした。……
(「清涼里の酒池肉林」へつづく)
小説仕立てですが、実話です。
ソウルは奥が深い。10年住んでいても窮め尽くせません。
続きが楽しみです。^^
試験頑張ってください。
5年もソウルに住みながら、行こうと思って行けなかったのが馬場洞だったんですよねぇ。なんかすごいらしいと聞いていたので、韓国度の低い人は誘えないかなと思って躊躇してしまったのが敗因でした。心残りの一つです。
私も11年目にして初めてでした。
本当は,けものたちの「断末魔」に耳を傾けながら,というのを期待していたのですが,屠蓄場が数年前に閉鎖されてしまっていたのが,ちょっと残念。