三日目の夜は昔の飲み友達3人と食事をしました。
うち2人は現地会社の男性韓国人社員。もう1人は飲み屋のアガシ。私が駐在時代、女性の多い職場の中で数少ない酒の飲める男性社員を連れて飲みに行った店にいたのが件のアガシという関係です。ただ、このアガシ、今はペクス。ペクスとは漢字で「白手」、何も持っていない手、手に仕事がない、失業中という意味です。
飲み歩いていた当時は3人とも独身、私も単身赴任。男性のうちPさんのほうは、占いで2年以内に結婚しないと不幸になるという予言を真に受けて、焦っていました。もう一人のHさんは、学者肌。あまり結婚したいという気持ちはなかったようです。
アガシのSさんは結婚願望はあるものの、水商売の女は結婚できないと信じていて、半分諦めてかけていた。彼女は転々と店を変えていて、そのたびにわれわれが追いかける形になって、いろんな店で飲みました。いまではいい思い出です。
Pさんは私が帰国したあとに縁があり、結婚。まだ一年経たない新婚さんです。結婚式には私も招待状をもらいましたが、あいにく日程が合わずに参加できなかったのが残念です。それで今日は奥さんを紹介してくれるという。ただ、本人はどうしても抜けられない仕事があって、合流するのは夜9時過ぎ。われわれ三人で先に食事を済ませることにしました。
犬「何にしようか」
H「犬鍋さんに任せますよ。なんでも食べたいものを言ってください。今日はぼくがおごります」
犬「そうか。じゃ、やっぱり、韓国に来たことだし、日本では食べられない犬鍋かな」
もしここにPさんがいたならば決死的に反対したところでしょうが、HさんもSさんも犬鍋は大好きですので異論はない。
犬「サリチプに行こう」
かつてクァンギョ(光橋)にあり、今はプクチャンドン(北倉洞)に移転した犬鍋の名店。最後に行ったのは記録によれば2年以上前です(→リンク)。
実はアガシのSさんに最初に会ったのも北倉洞。Jカクテルというバーでした。その店はすでにつぶれて久しい。
犬「あのお店、再開した?」
S「アーニョ。今はサムギョプサル屋さんになってるわ」
犬鍋屋に行く途中でわざわざJカクテル跡地の前を通りました。
犬「あ、ほんとだ。前の店の面影もないね」
S「ええ、でもトイレの位置はいっしょだわ」
そんな雑談をしながらサリチプ がある通りに入ります。
犬「あれっ? このへんだったはずだけど」
S「道が一本違うんじゃない」
犬「いや、間違いない。角のLG25(便宜店=コンビニ)が目印だったから」
なんと、サリチプもつぶれてしまった…。念のため、北倉洞に詳しい友人に電話して確かめると少し前に移転して、移転先は知らないという…。
犬「どうしようか」
H「さっき、別のポシンタンの店がありましたよね」
犬「知らない店は不安だなあ。一度、犬の足がそのままの形で鍋に入ってる店があったからなあ(→リンク)」
S「私は入ったことないけど、ケンチャンタゴヘヨ(まあまあらしいわよ)」
犬「お腹も完全にポシンタンモードになってるから、そうするか」
来た道を逆戻りします。看板をたどっていくと、裏道からさらに細い路地を入る奥まったところに、その店はありました。1988年のソウルオリンピックのときに裏道に追い込まれて以来、犬鍋屋はたいていこんなところにあります。
普通の展開であれば最初にスユクを食べ、そのあとにチョンゴルまたはタンなのですが、今日は9時過ぎにPさんご夫婦に会うことになっているので、チョンゴルのみ。運ばれてきたチョンゴルの肉を見て
S「これ、冷凍の肉?」
アジュンマ「いいえ、スユクとは部位が違うだけよ。スユク用、チョンゴル用、タン用でそれぞれ別の部位を使うの」
これは初めての知識でした。鍋がぐつぐつと煮えてきたのを見計らって、肉塊を皿に運びます。ヤンニョムはエゴマの実を摩った粉とエゴマの油(トゥルッケ)、そして味噌、ごま油を混ぜたもの。懐かしい犬肉の香りです。
犬「なかなかいけるね」
箸で鍋を探ると、白いものが見えました。
犬「あれっ? 骨だ!」
H「形からするとカルビですね」
H氏が冷静に分析します。カルビというのはあばら骨。初めての経験ですが、以前食べた足よりは抵抗が少ない。箸では食べにくいので、細長い骨をもって食べます。犬の骨にしゃぶりつくというのはなかなか猟奇的です。
犬カルビはもう一本入っていましたが、SさんもHさんも手をつけない。残り汁でポックンパプを作るとき、アジュンマが
「あら、なんでここ食べないの? いちばんおいしいところなのに」
と言われて初めて、H氏が犬カルビを自分の皿にとりました。H氏はこういうときに断れない性格なのですね。
犬風味炒めご飯を平らげたとき、時間は9時を回ります。ここでP氏に電話。ちょうど仕事が終わったところだそうです。
二次会はホープ。私はディープなところが好きなのですが、Pさんの奥さんがおしゃれなところが好きかもしれないので、ちょっとこぎれいで「世界のビール」をおいている店にしました。
そこに二人が登場です。奥さんはおめかしをしている。Sさんは
「こんなことなら私も少しは化粧してくればよかった」
この辺の女心は微妙です。
「チョウムペプケッスムニダ! パンガプスムニダ」
それぞれ世界のビールで乾杯です。私はチェコのビールにしました。
P妻「噂はかねがね聞いています」
犬「悪い噂ですか?」
妻「いえいえ、そんなことは…」
P「悪いこともされました。だまされて犬食べさせられたんですよ」
犬「そんなこともあったっけ」
どうも、このときのことのようです(→リンク)。
二人は夕食を食べていなかったのでしょう。頼んだチキン(韓国風唐揚げ)をパクパク食べます。
犬「じゃ、次はウイスキーにしよう」
前日の店にジョニ黒が半分ぐらい残っていたのを思い出したのです。韓国のバーは、キープした酒が残っていれば金はとられない、という麗しいしきたりがあります。ただ、われわれは総勢5人。狭い店なので席があるかどうかが問題。念のため電話で確認します。
犬「あ、ママさん。5人だけど空いてる」
マ「あら、犬鍋さん。お友達が来てますよ。昨日いっしょに来てた人…。そこなら空いてますけど」
(えっ? 昨日のメンバー? 昨日残した酒を飲んでるのかな)
行ってみると、そこには日本の飲み友達のIさんが。
犬「昨日はどうも!」
I「いやいや、いい店を紹介してもらったのでまた来ちゃいました」
もちろんIさんは紳士ですから、昨日のお酒を勝手に飲むようなことはするはずもない。ご自分で一本入れていました。
焼酎、ビール、最後はウイスキーときて私の記憶は薄れてきていたため、この店での様子を描写することはできません。12時近くにお開きにするとき、タダで帰るのはあまりにも申し訳ないので1万ウォンだけ置いていったことだけは覚えています。
新婚の二人は深夜バスで、HさんとSさんは方向が同じなので一緒に地下鉄で帰りました。まだ独身同士のこの二人に、何かめでたい展開でもあったらいいなあ、などと酔った頭で思いつつ…。
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