犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

東野圭吾『白夜行』

2024-12-29 21:34:03 | 

※ ネタばれなし

 少し前、知り合いから本を勧められました。

「『白夜行』って読んだことありますか?」

「いや。誰の作品?」

「東野圭吾です」


 東野圭吾はミステリー作家で、ミリオンセラーをいくつも出しているはず。私はミステリーの熱心な読み手ではないので、ほとんど読んだことがありません。

「とにかく、すごい作品です」

「そう? こんど読んでみるよ」

 私の家の書架には、私の蔵書以外に、妻が読んだ本、4人の娘たち(全員結婚して独立)が残していった本があります。東野圭吾の作品は5冊ほどありましたが、『白夜行』はありませんでした。

 その中で私が読んだのは『手紙』だけ。

手紙

『マスカレードホテル』は、海外出張時、機内で映画を観た記憶があるけれども、本は読んでいないはず。

 木曜日、出勤の途中、品川駅構内の書店で『白夜行』を買いました。

(うわ! 厚いな!)

 文庫本で860ページ。定価1300円(税別)

(文庫本で1300円! ま、いっか)

 その日の夜、別の知り合いと飲みました。

「今日、人に勧められてこれ買ったんですよ。まだ30ページぐらいしか読んでないけど」

 会社から待ち合わせ場所まで、小一時間の電車移動の間に読み始めたのです。

「『白夜行』か。東野圭吾のなかでトップ3に入る傑作だよ」

「よく読むんですか、東野圭吾」

「30冊ぐらい読んだかな。彼は100冊以上書いてるけど、これから全部読むつもり」

 この知り合いは、今年5月に定年退職し、趣味(ラグビー観戦、落語、クラシックコンサートなど)と、読書の日々を過ごしているそうです。

「どんでん返し系ですか?」

「どんでん返しというか…。どこまで読んだの?」

「殺人事件が起こって…、いろんな人が尋問を受けてるところですけど」

「ううう、言いたくなっちゃうなあ」

「ネタばれはやめてくださいね!」

「とにかく最後は止まらないよ。翌日に重要な仕事があったんだけど、夜11時ごろにあと100ページまで来て、結局2時半ごろに読み終わった。翌日、眠くて大変だったよ」

 その日はかなり飲んで酔っぱらったので、帰宅後は読書はせずに寝て、金曜日、土曜日の空き時間にひたすら読みまくり、読了したのは土曜日の夜11時半。

 登場人物が多く、つぎつぎに事件が起こり、期間も20年に渡る、壮大な作品です。

 ネタばれになるような内容は書かないことにして…。

 事件が起きたのは読売ジャイアンツがV9を達成し、四大公害裁判が進んでいた1973年代前半。

 事件の展開とともに、その時代その時代の世相が描写されます。

 オイルショック時のトイレットペーパー買占め、パソコンの登場、インベーダーゲーム、スーパーマリオ…。

 最後は、幼女誘拐殺人事件の犯人、宮崎勤の裁判が進んでいた1990年代前半。

 その間、19年。

 本の刊行は、1999年(単行本)、雑誌連載は1997年~。

 私は1961年生まれ。1973年は小学校6年生でした。

 巨人がV10を逃し、王貞治がホームラン王をとれなかったときは、「こんなことがあるのか!」と思いました。

 水俣病や川崎ぜんそく、イタイイタイ病などの公害病については小学校の社会で習いましたし、その裁判がテレビで報道されていたことを覚えています。

 トイレットペーパーが買い占められて出回らなかったとき、父は「うちは汲み取りだから関係ない。新聞紙で拭けばいい」などと言っていました。

 インベーダーゲームは中学生の時。最高点を出せるまではまりました。

 特に、小説の最終盤に出てくる幼女誘拐殺人事件は、犯行現場(埼玉県)が自宅近くで、4人の娘の子育て中でしたので、とても恐かった。

 1996年から11年間、私は韓国に住んでいたので、96年以降の日本の世相には疎い。

 その意味で、『白夜行』に描かれていた1973~1992年の日本の世相は、自分で経験したものが多く、30年以上前の出来事を懐かしく思い出しました。

 小説に描かれた世相は、メインの事件の背景にすぎない。でも、私の世代(東野圭吾の2学年下)にとっては、これも『白夜行』の楽しみ方の一つといえるでしょう。

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