最近「がん難民」という言葉をよく耳にします。
とてもさみしい言葉です・・・。
「がん難民」とは?(goo辞書)
より良い癌治療を求め、医療機関や医者の間をさ迷う患者。
狭義には末期癌で医師に見放されて行き場を失った人をさすが、
情報を求める、治療方針に納得できない、求める治療が提供されないなどの理由で
複数の医療機関を訪れる人をもさす。
私の場合は、1997年に乳癌の告知を受けて、
担当医と相談しながら最良の治療方法を選択してきました。
おかげさまで、
今年4月、乳癌の最初の手術から12年。
6月には、肺癌の手術から8年になります。
2度の再発や、肺癌のこと、いろいろありましたが、
いちおう、順風満帆に過ぎた私の癌の闘病生活。
「癌の克服」といえば、素敵に聞こえますけど、
本人の私としては、複雑な思いがあります。
それは、「がん難民」の方と共通する悩みだと思います。
というのは・・・
2007年5月、乳腺外科(乳癌)の担当医は、
「10年経過しましたから、もう病院に来なくていいですよ。
よかったですね・・」
私と握手をして、喜んでくださいました。
「やったー」という気持ちになりました。
嬉しくてたまりませんでした。
同年11月、呼吸器外科(肺癌)の担当医から、
「7年目ですから、肺癌の方は大丈夫です。
再発や転移の心配はないでしょう。
もう、病院に来なくていいですよ」
そう言われたとき、
本来なら、喜ぶべきなのに、
私は全然嬉しくありませんでした。
むしろ、
「では、これからどうすればいいのですか?」と尋ねました。
病院から見放された気がしました。
「克服」の喜び以上に、今後の「不安」の方が先立ちました。
それまでは、乳腺外科を卒業しても、呼吸外科があるから、
今後の検査等は大丈夫と安心していたのです。
「あなたの場合、乳癌と肺癌の重複癌でしたから、
一般の方より、癌になりやすいため
今後も必ず検診などを受けられた方がいいと思います」
「えっ・・検診って・・
先生、最近、CTなどの検査をしていないので、
最後にもう一度、PET検査をして癌があるかどうか調べたいのですが・・・
紹介状を書いていただけますか?」
「いえ、あなたはもう良くなっていますから、PETの紹介もできません。
一般の方と同じように検診を受けてください」
「えっ・・」
「皆さんは高額の費用を払ってPETを受けておられます。
あなたも、皆さんと同じように受けてください」
冷たくあしらわれました。
私はそれ以上言葉がありませんでした。
先生の冷たい言葉に、涙が溢れそうになり、
お礼の言葉もきちんと伝えられないまま、
気まずい雰囲気の中で、診察室を出ました。
7年間もお世話になった先生の最後の診察はそういう状況でした。
診察室を出てから、会計にいく元気もなく、
病院の人気の少ない長椅子に座って、
一人で泣きました。
拭っても、拭っても、涙があふれ出ました。
H病院(総合病院)と縁が切れるとなると、
「これから癌の検診・・どうしよう・・」と不安でいっぱいでした。
泣いてる途中に、何度も、
「えっ?なんで私、泣いているんだろう?
肺癌も克服できて喜ぶべきなのに・・」と矛盾を感じました。
二人の医師から、H病院に来なくてもいいと言われ、
私が、執拗に認めたくなかった理由。
それは、
癌という病気は、風邪や怪我が治った時のように、
「そうですか、よかったです」と簡単に喜べないものがあります。
患者としては、「克服」は克服として喜び、
末長く、慣れた病院で、経過観察していただくのが理想です。
でも、病院側としては、次から次へと新しい患者さんが来院され、
特にH病院のように大きな総合病院となると、
ある程度よくなった患者は他で・・・ということになるのでしょう。
これも理解しなければならないのかなぁと思いました。
でも、こちらは癌患者です。
精神的苦痛を考えると、最後の対応をもっと考えていただきたいと思いました。
それまでの10年間のデータが全部その病院にあるのですから、
それらを記入した紹介状を書いて、
「今度はこの病院に行って検査等を続けてください」
そこまで誠意を示していただくと、
癌患者も安心して生きていくことができます。
癌患者はいつも不安がつきまとっています。
「患者のための医療」が軽視され、
「病院のための医療」の傾向になりつつあることは残念です。
あるサイトでドクターが書いておられました。
「ガンを治る病気と考えるのが間違いであって、
常に患っている慢性疾患と捉え直せばいい。
ガンになってもおしまいとは思わず、『ガンと共存する』と考える。
成長を止めて、ガンをうまく共存していけば、
死を待って苦しむだけでなく、
その後の人生も楽しみながら生きられる。
ガンに対する恐怖心も和らぐはずだし、実際に生存期間も延びてきます」
いずれにしても、癌患者は、生涯「検診」を止めることはできません。
H病院を見放された私は、
どこの医療機関に行けばいいのか、途方にくれ、
私のようなケースも「がん難民」であることを感じました。
迷っているうちに、癌検診から遠のき、
このままではいけない。
早期発見が一番!と悟っている私は気が気ではありませんでした。
昨年(2008年)9月、2年ぶりに乳癌検診を受けました。異常ありませんでした。
12月にPET-CT検査を受けて異常なし。
今年1月に胃カメラを受けて異常なし。
幸いに、今のところ、癌は見つかっていません。
乳癌患者で、再発した人の5~10%は、
10年経過しても、再発・転移のおそれがあるといわれます。
「がん難民」から脱皮すべく、私は次の病院を自分で選びました。
胃カメラの検査の時、
「前の資料があれば・・」と先生に言われました。
そうなんですよね。
今も内科はH病院にかかっているため、
H病院に行くと、「がん難民」という言葉が頭をかすめますが、
イヤなことは忘れ、前向きに生きていきたいと思います。